キヴォトス D.U.近郊 シラトリ区立図書館へようこそ! 作:ぱる@鏡崎琴春夜
二十八冊目 丘の向こうには?
こんにちは、冬も始まる今日この頃皆様どうお過ごしですか? お久しぶりですね、司書のヒジリです。
図書館も世間も秋を超え冬と言うことで、イベントごとの季節、てんてこ舞いですが、そういうお話ではなく・・・・・・日常回です。
「おすすめの異世界ファンタジーですか?」
頷く白衣の生徒さん。ミレニアムの方ですね。萌え袖が可愛いです。
白い髪の毛で見え隠れする目には、期待と不安がゆらゆらと・・・・・・異世界ファンタジーというと、まぁたくさんありますからね。
指輪物語と古典的なのもいいでしょうし、王道を行くデルトラクエスト───ライトノベルで何か見繕うのもいいかもしれません。
多くの人の夢が詰まっていますから、今も昔も異世界冒険譚というものは、多く存在します。アルゴー船の冒険のような貴種流離譚や、浦島太郎に冥界探訪のような異郷訪問譚といった物語の類型と呼ばれるまでジャンルが確立されていますで、薦められる候補もいっぱいですね。
「そうですね。流石に種類が多いので、好みの方向性をお聞かせ願えますか?」
「えっと、じゃあライトノベルっぽいので・・・・・・」
ふむ、ライトノベルっぽいの、ですか。それでもいっぱいあります。所謂なろう系は異世界冒険譚がメインストリームですからね。
しかし、ライトノベルのようなものでオススメするのであれば・・・・・・狼と香辛料か、ログ・ホライズン、Re:ゼロや魔女の旅々あたりが思いつきますね。
「あっ、でもシリーズは短めが・・・・・・」
ふむ、短めですか。なら先ほど挙げた子たちは選外となりますね。じゃあ、アレにしましょうか。
「───では、オススメの一冊を持ってきますね」
「こちら、『まおゆう 魔王勇者』になります」
持ってきたのは文庫本・・・・・・では無く、単行本サイズの一冊。
こちら、YAにスッと差し出したい作品ですね。
内容はちょっとリアル寄りのファンタジー。しかし、その特異さはそのリアルよりだけではありません。
まず、キャラクターには個人名がありません。勇者なら勇者、魔王なら魔王。メイド長に女騎士、商人徒弟や冬寂王のように、役職でしか呼ばれません。また、戯曲か台本のようにキャラの会話でお話が進みます。
この形式は、作品が初掲載されたのが2ちゃんねるだったためです。
次に、その内容が特異です。勇者と魔王の一騎打ちから始まり、魔王は勇者を自分の物とするための交渉を始めます。
魔王は強くありません。ただし、頭が切れます。経済屋と名乗る通り、妥協して明日を目指す心優しい人物です。
彼女の提示する代価は、戦争を悲惨な結果では無く、また別の結末を迎えさせるという、丘の向こう側の景色。
勇者は、魔王の語る丘の向こうに惹かれ、契約を結びます。
この物語のオススメしたい点は、言葉です。
先ほどお話しした丘の向こうの景色もそうですし、私は虫では無く人間であるという人間宣言。その言葉たちに胸打たれるシーンは必ずあるはずです。
「あっ、こう言うのもいいかも・・・・・・!」
利用者様もお気に召したようです。
分かりますよ、たまに慣れ親しんだジャンルの一風変わった作品がマンネリを解消してくれるんですよね。
朗読CDもありますよ。と紹介しましたら、そちらも借りたいとなりましたので、とりあえず一巻とCDの貸出をいたしました。
心にズシッときながらも爽やかな味があるまおゆう、是非皆様も一度お試しあれ。