キヴォトス D.U.近郊 シラトリ区立図書館へようこそ! 作:ぱる@鏡崎琴春夜
おはようございます。今日も元気なヒジリです。
今日はなんだか、忙しくなりそうな気がします。
さて、皆さんも知っての通り、図書館は色々な人が来ます。子どもからお年寄りまで、男性も女性もやってきます。彼ら彼女らは各々知りたいことが異なり、それに応えるために図書館は様々な資料を収集します。
「すまない、少しいいだろうか」
「はい、なんでしょうか?」
わぁ、モデルさんみたいな生徒さんがやってきましたね。高身長で、紺色の長髪に青のインナーカラー、ちょっとメタリックなマスクも、最近のお洒落なんでしょうか。ファッション誌も定期購入して雑誌コーナーにおいてはいるんですけど、自分から読みに行くことは少なくて……。
「その、本を探しているんだ。これらが欲しいのだが……」
「お預かりしますね」
メモ用紙に書きつけられた文字列。お年寄りの方に多いんですが、新聞広告やテレビで紹介された本のタイトルをメモして持ってくる方がいらっしゃいます。学生の方がレポートを書く為に参考資料をメモして持ってこられることもあります。
これがあると調べるとき楽なので、あると嬉しいですね。
さて、リストの内容ですが……契約関係の法律や労働関係の書籍が何冊もですね。どれも難しい内容ですが……そちらの方を専門にしている方なんでしょうか。でもそれなら、自力で調べられるかな? 蔵書が貸出されてないか調べて欲しかったんですかね?
まぁ何はともあれ、案内する為に、私はカウンターを出ました。
今回案内する書架は複数あります。それは何故かと言うと労働や法律などは、何度もお話しした分類が離れているからです。
と言っても3番の社会科学ではあるんですが……。
一番多かった労働系の分類は366の労働経済・労働問題ですが、人事財務や労務管理、人間関係などの分類は336.4になります。法律を直接というなら328.6の労働法が分類の本もあります。
なんだか、ラジオの周波数みたいな感じになってきましたね。
ちなみに広告やマーケティングについては674か675になります。
分野がまたがる題材は第一次区分全部見てみる気でやった方がいいかもしれません。利用者の方が間違った場所に戻している可能性もあるので、変な場所に飛んでる図書とかありますし……
とりあえずお願いされた分の図書は探し当てて、お渡ししました。
さて、お次は返却図書を書架に戻すお仕事……なんですが、その途中で先程の生徒さんが険しい表情をして本を読んでいらっしゃるのを見かけました。マスクも外されていて、綺麗なお顔が全部見えた状態です。
けれど、そのお顔も今は眉間にしわが寄っていて、大学ノートにシャープペンシルをトントントンと打ち付けながら、分厚い本のページをめくっていらっしゃいます。
そういえば、あの顔どこかで見たことあるような……?
って、それよりも、もしかして、基礎も無く難しい本に手を出してしまったんでしょうか……?
えぇ、図書館は知識の宝庫。言い方は悪いですが、身の丈に合わない知識というのもあります。
例えば貴方が急に経済学の論文や数学の難問の証明を渡されて理解しろというのは、その専門の人でなければ難しいですよね?
知識は山みたいなものです。軽く登れるものもあれば、必要な装備を揃えて、訓練を積んでやっと挑める山だってあります。
「あの、少しよろしいですか?」
「……あっ、あぁ。何か邪魔だったのか、すまないすぐに離れる」
「いえ、そういうわけでは……その、失礼ながら先ほどから見ていたら、お顔が険しかったので、思ったのですが」
「ッ!? すまない、何か危害を加える気は無いんだ。見なかったことにしてくれ」
整ったお顔から急速に血の気が抜けていき、慌ててノートや文房具をしまおうとする生徒さん。きっとなにか思い当たる節でもあったのかもしれません。
「だ、大丈夫です! 利用者さんがどんな方であろうと、知識を求めて訪れた時から、絶対に守ります。過去に何があろうと、当館は他の利用者さんの邪魔をしない限り、拒むようなことを絶対にしません」
図書館は知識の宮殿。これを侵すものには抵抗しますが、知りたいと思って足を運んだ人を拒むようなことはまずありえません。
過去に何があろうと、現在追われる身でも、人は知る権利を持ちます。利用した事実、読んだ事実を知りたかったら令状持って来いってもんです。
本来であれば、おせっかいを焼きすぎるのはいけないことだと思いますが、今回は焼くべきだと感じたので焼きます。
「児童書コーナーに行きませんか?」
「……?」
何故? といった表情をうかべていらっしゃいますが、これには訳があります。
これは自己流で、絶対にこうしろというわけではありませんが、一番わかりやすい専門書は児童書です。
大人になって、子どもの読むものだから、幼稚なものだから、大人の内容が書いてあるわけがない。そう思ってる人いませんか? そう思っているのなら、考えを改めるべきだと思います。
子どもはいろんなことを知りたがります。なぜなぜ期とかいいますしね。そして、その質問は多岐に渡ります。ちょっとでも不思議に思えば、それを追ってしまうのが子どもです。
そして、その興味が将来に繋がるんですが、そんな子どもたちに向けた、『子どもでも分かるように書かれた本』は、どんな分野でも最初のとっかかり、入門書になりえます。
でも、法律って子どもが知りたがるのか? そんな疑問もあると思います。でも、労働は身近にあります。いつかすることでもあります。その中で不思議に思うこと、親が将来のために買ってあげることもあるでしょう。
知っていますか? 幼児向け絵本にニュートン力学や相対性理論についての絵本があるんですよ?
「労働問題の入門なら……これとこれですかね?」
「あっ、あぁ」
児童書コーナーは当館にとって力を入れる場所ですから、場所を広く取っています。
けれど、利用者さんは気まずそうに辺りを見渡しています。まぁ、ちょっと恥ずかしいと思ってしまう人が居るのも分かります。
実際、完全に分離してしまう図書館もありますし、そもそも設けない図書館もあります。犯罪を防ぐ名目でわざと入りにくくする思想もあるのですが……それは犯罪心理学とかなので、今回は省略です。
私としては知りたいために必要なら入ればいいのにと思いますよ。
幾つかの図書を渡し、テラスに出ることが出来る扉近くで、人があまり来ない机の場所に案内します。
「もし、入口から出られないようになってしまったらこちらからどうぞ。でも、貸出手続きをしてない本は持ち帰らないでくださいね。もしするなら……誰よりも先に私が貴方を捕まえますから」
「肝に銘じる。それと、ありがとう」
彼女は、そう言って頭を下げました。
「……ここは、知識を求める誰にでも分け隔てなく知識を与える場所です。この一冊一冊が、貴方のためにあります。もし、何かあれば司書にお声がけください。力になれるよう努力しますので」
誰にも、知る権利はあります。その為に私たちはいるのです。
というわけで、図書館の理念を中心にしたサオリのお話しでした。
今回は専門外の本でもあるので、細かい紹介とかはできないのですが、調べたところ『こども労働法』という本は今回のテーマに沿った本だと思います。
こんな風に、おススメできる書籍が思いつかない時は、そういうのがないお話になってしまうのですが、ご容赦ください。
図書館の理念については、『図書館の自由に関する宣言』をご覧ください。