ソードアート・オンライン〜Sonic Blader〜 作:タケノコさん
2022年12月24日土曜日
午後5時16分
第四層の攻略が始まってから数日が経過した。しかし俺は、攻略組であるにもかかわらず、第四層のフィールド攻略には一切貢献しなかった。というよりも、あれ以来ずっと第三層迷宮区でレベル上げをしていたので、一度も第四層に足を運んでいないのだ。
先日、去り際にアスナとフィールドボス戦で会う約束をしたが、それもマモレナカッタ…。いや、マモラナカッタ…。どうやら今日のお昼に討伐されたようだが、俺は行かずに寝ていた。フィールドボス戦では船上が戦場になると事前に聞いていたので、身を引くことにしたのだ。俺では溺れたら船に戻ることさえ出来ないから、足を引っ張るだけだろう。
さて、めでたく最前線で第四層のフィールドボスが討伐されたのだが、俺はどうするのか。もう取るべき行動は決まっているし、手はずも整えてある。
迷宮区でのレベル上げは基本的にこもりっきりだ。昼は安全エリアで寝袋にくるまって寝て、夜に狩りをする。そしてポーション類が切れたり、持ち物が一杯になったら『最寄りの村』で補給や換金を行っている。
だが、今俺がいるのは迷宮区から遠く離れた場所。第三層の主街区≪ズムフト≫だ。だが、ここは目的地ではない。あくまで中継地点だ。では俺はどこに向かっているのか。
俺は街の中心部にある、転移門という名の石碑の前に立つ。そしてこう叫んだ。
「転移、≪ロービア≫!」
俺の身体は光に包まれる。ズムフトの、自然に恵まれた緑と茶色の景色が、真っ白い光で埋め尽くされて消えていく。風に揺られる木々のざわめきが遠ざかり、やがては聞こえなくなる。
ホワイトアウトした視界は徐々に色を取り戻す。目の前には白色の石の建物が立ち並んでいた。その麓には透明な水がさらさらと流れていて、黄昏時の光を反射し、きらきらと輝いていた。道はネズミ色のタイルが敷き詰められていて、その上で赤、青、黄色、緑など、色とりどりの服が交じり合い、それを着るプレイヤー達はワイワイと賑やかそうにダベっている。第四層主街区≪ロービア≫の景色だ。
始めて第四層に来た時に、この層は水がメインの層だと予想していたが、まさにその通りだった。ロービアはまさに水の都という名が相応しい街だ。街中には水路が張り巡らされていて、透明な水を湛えている。その水面を木目調のゴンドラがゆっくりと滑っていく。水路には石畳みの橋がかかっていて、ゴンドラはそれらをくぐっていく。子供の頃に父の演奏会を見にベネツィアへ行ったが、その時見た景色にそっくりだ。
美しく輝く街にさらに新たな色が追加された。
「雪だ…。」
空を見上げる。そこには第五層の底、そしてどこからか白い雪が降ってきた。転移のエフェクトとはまた違った白い雪。淡く、触れるだけで消えてしまいそうな白色。SAOで四季の美しさを感じるのはこれが初めてだ。
雪を見ると、どうしてもあいつのことを思い出す。≪椎名ゆき≫。俺が交通事故の危機から救った幼馴染の名だ。あいつは事故のすぐ後に引っ越してしまい、それ以来一度も会っていない。
「今頃どうしてるんだろうな。」
懐かしい気持ちが胸に流れ込み、会いたい気持ちが湧き上がる。今すぐ会って「俺は無事だ」と伝えたい。しかしその一方で、会いたくないという気持ちも強くなる。事故以来すっかり堕落してしまって、もう合わせる顔がない。対立する二つの感情が心の中で激突し、俺の足を止めようとする。
だが、今は感傷に浸っている暇はない。俺には行くべき場所があるのだ。俺は人を待たせているのだ。これ以上待たせる訳にはいかない。俺は心の
「待たせたな!」
「遅いぞ〜!ジ〜ン!!」
待たせている人、それは筋肉ムキムキm(ry、シヴァだ。少し呆れたような顔をしてゴンドラに腰掛けている。
前述の通り水の都ロービアは、言わばゴンドラの街だ。ゴンドラはここでは主要な交通手段となっているらしい。来る前にアルゴから情報をいただいていたが、実際に目にしてその通りだなと実感した。
迷宮区に行くには川を下っていかなくてはならない。そのためにはゴンドラが要るのだが、ゴンドラはなんて代物、俺は持っていない。クエストをクリアすれば手に入るらしいが、レベル上げ大好きな俺にとってはその時間さえ惜しい。そこでゴンドラを持っているシヴァに送迎を頼み込んだのだ。
「じゃあ船長さん、迷宮区までよろしくお願いします。」
「アイアイサ〜!」
俺はゴンドラに腰掛け、筋肉船長に目的地を告げる。気前良く返事をする船長シヴァ。
ロープを外し、出港する。目指すはSAOの
しかし、劣化人間…というか人間未満の奴らは、なぜ迷宮区に来ないのだろうか?攻略組を名乗るなら、誰よりも前を行きたくなるのが
「ところでさ、キバオウやリンドは何で街に戻っちまったんだ?」
どんぶらこと揺れる船の上、俺はシヴァに問いかける。
「お前〜、知らないのか〜?」
いや、知らないから聞いているのだが…。とりあえず俺は頷く。
「今日は〜何月何日か〜、知ってるか〜?」
「12月24日だろう?あっ(察し)、クリスマスイブか!」
日付を聞かれてようやく思い出した。今宵は『
「そうさ〜!ロ〜ビアでは〜そのパ〜ティ〜が〜盛大に行われてるらし〜ぜ〜。」
なるほど。仲良しこよしのパーティーか。家畜の群れがやりそうなことだ。
「お前〜、招〜待されてね〜のか〜?」
「されてね〜よ。まぁ、仮に招待状をもらっても、あんな奴らとはつるんだりしねーよ。」
俺の命を脅かすような奴らとはつるまない。そう誓ったのは、今から3年くらい前だったか。その誓いは今も、そしてこれからも守られるだろう。まぁ、パーティー会場に憎きビーターがいたら楽しめないだろう。俺がいないことは奴らにとって好都合だろう。俺はあいつらと一緒に居たくない。あいつらも俺と一緒に居たくない。素晴らしきwin&winの関係ではないか。
「そういうシヴァはクリスマスパーティーに誘われなかったのか?」
「誘われたよ〜。」
ゴンドラを漕ぎながらも、意外なほど呑気にそう答える。
「何で断ったんだ?お前、あいつらとも仲良いだろ?」
「まぁ〜、キバオウさんや〜リンドさんとは仲良いけど〜、俺はパ〜ティ〜みたいな雰囲気が〜苦手なんだよな〜。おしゃべりしてるよりも〜身体を動かしてた方が〜楽しいと思うんだ〜。だから俺は断って〜、迷宮区で身体を動かす〜って決めたんだ〜。」
この筋肉マンが言うと、妙に説得力がある。見た目からして筋肉バカだからな。一に筋肉、二に筋トレ、三四がなくて、五にプロテイン。こんなバカみたいな言葉でさえ、こいつなら本当ではないかと思ってしまう。
「それに〜、来年もあるだろ〜からさ〜。」
来年〜がある〜さ
翌年がある〜
相変わらず呑気な奴だ。
来年か。そういえば、
最近の攻略はおよそ一週間で一層くらいのペースだ。この調子で攻略するのならば、残りの九十六層をクリアするまで九十六週間、つまり二年近くの年月がかかる。
もちろんこれはただの単純計算なので、誤差はかなりあるだろう。だけど来年のクリスマスまでにクリアというのは、予想より倍近いペースで攻略せねば実現しない。そのためにはレベル上げ期間さえも取れず、そうなればボス戦で沢山の犠牲を出すことになるだろう。そんな方法ではラスボス戦に何人立てるか分からない。これはデスゲームなんだ。
そうなれば必然的に来年のクリスマスも、この浮遊城アインクラッドで過ごすことになる。一年後のクリスマス、俺は何をしているのだろうか?今と変わらず迷宮区で経験値稼ぎを楽しんでいるのだろうか?そもそも、その時まで生きていられるのだろうか?
今は分からない。だが、一年後には答えが出る。俺はその時まで生きて、答えにたどり着きたい。そしてそれが輝かしく充実している未来であることを、俺は心の中で切に願った。
「迷宮区前〜。と〜ちゃく〜。」
巨大なタワーのお膝元。そこにある船着場に船を着けてもらう。ここには一隻も停泊していないことを考えると、どうやら俺たちが一番乗りのようだ。迷宮区のお宝や敵からもらえる金や経験値を、寡占どころか独占できるのだ!
俺が普段経験値稼ぎをするような深夜の迷宮区でも、一人きりというのは珍しく、大抵誰かいる。似たような思想を持つ人は何人もいるのだ。例えばキリトや、隣にいるこいつとかな。俺らは言ってしまえば、
「送迎ありがとう。運賃はいくらだ?300コルあたりが妥当か?」
「いや〜、運賃はいらないよ〜。そのかわり〜、一緒に迷宮区探査しよ〜ぜ!」
それは俺にとっても好都合な話だ。
「分かった。」
断る理由はない。
まだ誰も足を踏み入れていない、未開の地にこれから入るのだ。いつもこんな風に迷宮区に初めて入る時は、敵とは慎重に戦いながらデータをとるようにしている。そうなれば当然、普段の狩りよりも経験値効率が大幅に悪くなる。だけど二人で突入すればその負担が減るわけで、多少は大胆な戦い方もできる。もちろん相手が信頼できる相手であるという条件はつくが、第一層ボス戦前にペアを組んだ時の感覚で言えば、シヴァは十分にその条件を満たしている。
俺たちはゴンドラから降り、二人で迷宮区へ向かって歩き出した。
今夜は楽しい夜になりそうだ。
だがその期待はあっという間に裏切られた。
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「よっしゃ〜!!次行くぞ〜!!」
「つ、強えぇ…。」
シヴァの一撃は、第一層のボス戦前に組んだ頃から、さらにレベルアップしていた。
シヴァ自体のレベルアップの影響はもちろんのこと、筋力が上がったことや、武器が強力なものにランクアップしていることも欠かせない。どうやって手に入れたかは知らないが、第三層のボス戦で持ってた両手剣よりさらに一回り太いものになっていて、刃は白銀に鋭く輝いている。そんな装備ならそこらの雑魚敵なんてぽいぽいぽ〜いだ。
筋力を上げて物理で殴ればいい。こいつはそんな戦い方をしている。それに比べると俊敏ビルドの俺の攻撃力は非力なもので、素早く動き回って敵の気を引くことくらいしかできていない。これじゃあまるで囮だ。
問題はこれだけではない。こんな戦い方では、俺には経験値もコルも雀の涙ほどしか貰えないのだ。
経験値とコルの配分はどちらも基本的に与えたダメージに比例する。それに加えて、ラストアタックしたプレイヤーにはボーナスが上乗せされるという仕組みだ。シヴァの攻撃力が高いということは、与えるダメージが多く、ラストアタックも取りやすいということだ。そのため、経験値もコルもほとんどがシヴァに流れていく。俺はそのお零れしか貰えないのだ。
もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな。そう思えるほど頼れるパートナーだが、これでは頼れ過ぎだ。俺の出る幕が全くと言っていいほど無い。
頼れるパートナーは戦闘能力だけでなく、お宝サーチ能力も高い。
「こっちに〜宝箱がありそ〜だ。」
と言って先に進むシヴァについて行くと、その先には宝箱が。宝箱は曲がり角の壁で全く見えなかったのに、まるで見えていたかのように宝箱へと進む。一度ならまだしも、何度も繰り返されると、こいつはお宝サーチのスキルでもとってるのだろうか、と疑ってしまう。もちろんそんなスキルは今の所はない。
ちなみに、その宝箱にはコルが入っていたのだが、全部シヴァのものになった。見つけた者勝ちなんてルール、同意すべきじゃなかった。今更後悔しても遅いが。
まだまだ、シヴァの頼れる度はこの程度ではない。これらに加え、攻略ペースが圧倒的に速いのだ。
俺がソロで初見の迷宮区に潜る時、出会ったモンスターとは可能な限り戦いながら進むようにしている。これは攻略ペースよりもレベル上げを重視しているからだ。一方でキバオウ達は攻略を重視していて、モンスターをある程度無視して進むから、俺よりもずっと早いペースで進む。
俺は、マッピングや敵との戦闘の時間を含めて、大体1時間で一階くらいのペースで攻略を進めている。迷宮区は二十階建てだ。飯やその他の休憩を入れたら大体丸一日でボス部屋に辿り着く計算だが、基本的に俺は昼は寝て夜しか行動せず、活動時間は大体15時間くらいだ。そのため、一日で大体4分の3くらいのペースで進み、ボス部屋までは一日半くらいかけて辿り着く。大抵の場合は、俺よりも先に攻略組の連中が到着してしまっている。
だが今回はどうだ。現在の時刻は午前2時。泣く子も眠る丑三つ時だ。迷宮区入りしたのが大体夕方6時頃だったから、まだ8時間ほどしか経っていないことになる。それなのに、俺たちはどこにいるか。なんと!もう十九階、ボス部屋の真下まで来てしまったではないか!!
俺の攻略の倍以上のペースだ。いくら俺がレベリング重視でローペースだからって、攻略組のギルドでさえこんな超ハイペースで攻略はしない。間違いなく誰もついて来れないだろう。
なぜこんなハイペースで進めることができているのか。それはシヴァの動きに一切迷いが無いからだ。
「この先にモンスタ〜がいるぞ〜!」
「階段は〜こっちかな〜?」
「そっちは〜行き止まりだぞ〜。」
などと言って、一切迷うことなく進んでいる。宝箱があれば寄り道するので最短ルートではないが、それでも右往左往することなく効率的に攻略を進めている。
だけどシヴァは違うようだ。まるでマップが既に頭に入っているかのように、まるで階段への行き方が見えているかのように、まるで壁の向こうの構造を完璧に把握しているかのように、ズンズンどこまでも(略してズンドコ)進んでいく。もちろん当然のことだが、フロアマップが全て見えたり、壁の向こうを透けて見えたり、そんなチートスキルは存在しない。
キバオウのようにモンスターを無視しているかと言われればそうではなく、むしろ全く無視せずにここまで来ている。行く手を阻むモンスターは全てシヴァの一撃で
迷宮なのに、迷路のはずなのに、ただの道を進むが如く、何の苦戦もなく進んでいく。
ついに俺たちはボス部屋前まで到達し、休憩に入った。
「攻略ペース早すぎだろ!ひょっとして、お前はベータテスターか?」
壊れ性能を持ったシヴァ。第一層で一緒に戦った時はこんなこと微塵も疑わなかった。だが、今となってはもう確信へと変わりつつある。そうでないとこのハイペース攻略は説明できないからだ。
「いんや〜。俺はベ〜タテスタ〜じゃないぞ〜。」
なん…だと…。
シヴァからの返答は予想とは異なった。これほどの壊れ性能を持っていながらベータテスターじゃないだと!?
「何でそ〜思ったんだ〜?」
「いや…だってさ…、強いし…、マップ知ってるみたいだし…、行動に全く迷いが無いし…。」
「ふ〜ん。」
SAO経験歴2ヶ月近い俺だって、迷宮区の未開拓エリアを迷いなくズンドコ進んでいくなんてできない。それができるとしたら、そいつはフロア全体を把握できる能力を持っていないといけない。見えているところだけでなく、壁の向こうの構造まで把握する能力だ。例えば…
「お前は透視能力でも持ってんのか?」
壁をも見透かして、階段への道のりを把握できる。そんな能力を持っていたらシヴァの性能も説明できる。だが答えは勿論……。
「透視能力ぅ〜?まぁ〜、似たよ〜な能力ならあるよ〜。」
そうだよな。あるわけ……ッ!?
「今なんつった!?」
「だ〜か〜ら〜、透視〜みたいなことならできるよ〜。」
おいおい!ここは学園都市じゃねーんだぞ!
同時に俺はふと思った。現実世界で臨死体験をした俺も、きっと世界を大いに盛り上げる某団長様に歓迎されるのではないか。と。
「透視能力と言うよりも〜、空間把握能力〜?」
「空間把握能力?透視能力とどう違うんだ?」
そしてシヴァの説明フェイズが始まる……のだが、『〜』だらけで、とても分かりにくかったので、俺の独断と偏見でまとめさせていただく。
皆さんは『ホークアイ』という言葉をご存じだろうか?絶世期を迎えた一部のバスケットボールプレイヤーが持つといわれる、恐ろしくも愛すべき能力で、形成されてきたプレイスタイルと後方を見がちなプレイスタイルが混ざり合って、コート全体が見えてしまうという…、アレだ。どうやらシヴァはこのホークアイの持ち主のようだ。
『ホークアイ』を日本語で言うと『鷹の目』となる。鷹は非常に視力の良い鳥として知られ、転じて『すべてを見通す鳥』というニュアンスで用いられる。つまりホークアイとは、すべてを見通す目のことを指すのだ。
一言でホークアイといっても、こいつのそれは異常だ。効果範囲が広すぎる。こいつのホークアイはコート全体どころか、体育館全体が視えていて、さらには体育館周辺の様子まで察してしまうほどの視野があるらしい。ホークアイの能力でさえ常人の俺には想像出来ないのに、どうしてシヴァの能力を想像できようか。いや、できない。
この
バスケの試合中、コート上から客席のひったくりを見つけて、ボールをぶつけて迎撃したとかいう武勇伝も熱く語ってくれたが、はっきり言おう。
>どうでもいい
こんなインチキ効果を持つこいつには『神童』という言葉がお似合いだろう。神の恵みを受けた超人的な子供。と言っても高校生らしいが。俺も昔は音楽界の神童として期待されていたが、事故で大切なものを失って、今となっては神童と呼ばれる資格など無くなってしまった。
俺は第一層で、こんな超人からライバル宣言されたのか。負けたくは無いが、はっきり言って自信が持てない。
「さ〜て。きゅ〜け〜はこの辺にして〜、探索を再開しよ〜!」
「お、お〜。」
俺は小声の返事しか出来なかった。
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攻略完了から、まる二日かけてレベル上げをした。相変わらずシヴァに流れる経験値が多いが、ソロ以上のペースで敵を殺れるため、結局はいつもと同じくらいのペースでレベルが上がる。
そして醜い攻略の子達がボス部屋に到達したところで狩りを終了し、村へ帰還した。
そして現在、2022年12月27日午後1時43分。俺たち攻略組は、第四層のボス部屋へと続く、扉の前に集まった。
これから4度目の死闘が始まる……。
「ワイから言うことはただ一つや!!今回も勝つで!!」
「「「オーーーーー!!!」」」
いつもと同じく、戦士たちは代表者の号令によって士気を高める。そして今、決戦のフィールドへの扉が『ギィィィーー』と重い音をたてながら開かれた。
戦士たちは部屋へと足を踏み入れていく。部屋は柱の先端から発せられる光で青く不気味に照らされている。軍靴の音がその青い部屋を侵していく。ゆっくりとした歩調で、だが確実にこの部屋の静寂を蝕んでいく。
扉は再び重い音を立て、バタンと侵入者を閉じ込める。それを合図に、まるで示し合わせたかのように一斉に軍靴の音がやむ。訪れる沈黙、高まる緊張感の中、俺たちは武器を構えて開戦の刻を待った。
刹那の後、部屋の奥から轟々と低い音が聞こえてきた。まるで全てを飲み込み、跡形もなく奪い去る『濁流』のような轟音が、俺たちの腹に響く。やがてその音は一つに集い、大きな命となる。そしてそれは俺たち
「グギョォァァァ!!!」
普段の俺たちならここで突撃するところだが、今回はそうはいかなかった。
「奴の容姿が攻略本と違うな。これはヤベェんじゃないか?」
アルゴの攻略本によると、今回戦うはずだった敵は、ヒッポグリフとかいう、上半身が鷲で下半身が馬の姿をしているモンスターだという情報だった。しかし今第四層のフロアボスとして俺たちの眼の前に立ちはだかるこいつは、前半分が馬で後ろ半分が魚のような姿をしている。要するに≪シーホース≫のような姿だ。≪シーホース≫とは遊戯王において一体のリリースでアドバイス召喚できるレアで(ネタ的に)強いカードで、≪モリンフェン様≫程ではないが屑カードなのは間違いないだろう。このフロアボスの馬の前脚には
「ぐぬぅぅぅ。」
「どうした、キバオウさん。怖気付いたか?リーダー代わってやろうか?」
「んなわけないやろ!ただな、…ワイはもうあの時みたいに誰かが死ぬのを見たくないんや!」
あの時。それは第一層のコボルトロード戦でディアベルがやられたあの瞬間のことだ。誰かが死ぬのを見たくないのは俺も一緒だ。さすがの屑どもでも、油断禁物であることは分かるようだ。
「けどな、わいらには戦う義務があるんや!だから言わせてもらう。この戦い、誰も死んだらあかん。死んだら絶対に許さへんで!!」
動揺する攻略組に再びカツを入れるキバオウ。そして一息の間の後にこう叫んだ。
「ほんなら…、行くでぇぇぇ!!」
「「「オオォォォーーー!!」」」
開戦の合図とともに、死闘の舞台が幕を開いた。
今回、俺はボス戦では珍しく、六人パーティーで参加している。メンバーは俺とシヴァ、それとエギルのギルドメンバー達だ。これまでのボス戦では、キリアスペアと一緒に4人パーティーで戦ってきた。だが今回はキリトとアスナが不参加のため、俺と筋肉の二人組はエギルの四人パーティーに吸収合併されてしまったのだ。
頼れるリーダーキリト、リーダーを尻に敷くアスナ。二人がいないのは寂しいが、俺たちG隊は開始早々攻略組の主戦力になっていた。いや、もっと正確に言えば『シヴァだけが』主戦力になっていた。
G隊の役割は初っ端のアタッカーだった。A隊、B隊のタンクが攻撃を引きつけているうちに、隙をみて敵にダメージを与えるという役目だ。そして最もダメージを与えているのがシヴァだった。
迷宮区でのレベル上げの時もそうだったが、筋力ビルドのシヴァの一撃は強烈だ。たったの一撃で、ボスのHPバーを目に見えるほどごっそり削る。エギルやA隊、B隊の奴らもも負けじと攻撃を加えているが、開幕早々ということもあり、慎重だ。奴らが与えるダメージは、シヴァの両手剣には全く及んでいない。
それに対して俺はどうか。結論から言えば、ほとんど攻撃していない。俺は俊敏ビルドのため、一撃で数ドット程度しか削れない。もちろん、普段なら手数を稼いでダーメジを与えているが、今回はそうするよりもシヴァの強烈な攻撃を一発与えたほうが、圧倒的に効率がいいのだ。だから俺はボスへの攻撃は最小限にして、大振りなシヴァの隙を埋めることに全力を注いでいる。シヴァに敵の触手が迫ってきたら俺がパリィする。シヴァがソードスキルを使用した直後、即座にスイッチして前方へ飛び出して硬直するシヴァを庇う。攻撃は最小限にして、防御に努める。
こんなことしているせいかシヴァの攻撃はより大胆に、より強力になり、ボスのHPをどんどん削っていく。こいつがこの攻略組で一番のダメージディテーラーであることは疑いようもない。
「G隊、ソードスキル発動後F隊とスイッチや!」
「りょ〜かい!」
後ろからキバオウの声が聞こえてきたので、俺とシヴァは剣を構える。家畜の言いなりになるのは気に入らないが、そんな我儘を言えるほどボス攻略は甘くはない。
俺たちは剣を構える。その剣は光を発し、どんどん強くなる。そしてそれが頂点に達した時、俺たちはその力を解放した。
まずはシヴァの両手剣二連斬撃技≪イラプション≫が、敵のHPをごっそり削る。
「スイッチ!」
そして間を入れず、俺の短剣二連斬撃技≪クロスエッジ≫を叩き込む。そして後ろからF隊のモブが片手直剣二連斬撃技≪ヴァーチカルアーク≫が敵を捉え、俺たちG隊は後退する。
「お前、無茶し過ぎ。」
「お前もなぁ〜。」
「お前ら、無茶は程々にしろよ。」
パーティーリーダーのエギルからも忠告が入る。確かに俺も無茶をしているが、シヴァには「フォローに入るこっちの身にもなってみろ!」とツッコミを入れたい。だがボス戦であれだけ大胆に戦えるというのは、やはり俺のフォローを信じてくれているからだろう。今の俺にできる最善のことは、その信頼に応えることだ。色々と文句を言いたいが、こいつの活躍に免じて黙っておこう。
無茶苦茶な戦い方のおかげか、開始数分にも関わらず、ボスのHPバーの一本目を半分近く削ることができた。そのうちの50%はこいつ一人で削ったものである。俺が削ったのは1%にも満たないだろう。ちなみに残った半分はエギル達とA,B隊が削っている。つまりシヴァはたった一人で、タンク中心の2パーティー12人+エギル達アタッカー4人と同等の活躍をしているということだ。まさに化け物だ。
無茶苦茶な戦いはこちらの消費も激しい。俺たちのHPも結構もっていかれている。もちろんタンクのA,B隊が引きつけてくれるが、どうしてもいくらかの攻撃はこちらに来る。特に俺はフォローの過程で、敵の攻撃をもろに喰らったりしたので、もうイエローゾーンに入ってしまっている。次の部隊へのスイッチが指示されたのも、俺のHP減少が理由だろう。
俺たちは一旦武器を収め、腰にあるポーチからポーションを取り出し、元気はつらつな液体をグビッと一気飲みする。俺のHPバーの上にリジェネを表すアイコンが現れ、HPが回復を始める。
ちょうどグリーンゾーンに突入した頃だった。一瞬、部屋が青白い強烈な光で照らされる。光源の方を見ると、巨大な半魚獣。そしてその奥から低い音が鳴り響く。つい先ほど聞いたばかりの音だ。
今度は音源の方に視線をずらす。俺の視界に映ったもの。それは天井まで届きそうなほど高い、大津波だった。
大津波はあっという間にこちらに迫り、そして全てのプレイヤーを飲み込んだ。廻る視界、流される身体。身体と心、両者が落ち着いた時、俺がいたのは水の底だった。
キリトは言った。SAOでの水泳は現実とは体の動かし方が違うと。その原因は、VRでは現実の現象を完璧に表現できないことにある。その一例として、水中にいても呼吸できなくなることはない。何故ならVR世界では現実と違い、そもそも呼吸の必要が無いからだ。だからいつまで水に浸かっていても、窒息死することは無い。
だがキリトはこうも言った。頭まで水に沈むとHPが減り、なくなるまでに水面に出られなければ死ぬと。HPバーを見る。黄色く染まったそれのすぐ下にはリジェネを表すアイコンと、水没を表すアイコンが光っていた。秒単位で減るHP、そして数秒に一度ポーションの効果で損失を取り戻す。しかしその回復量は減少量を上回ることなく、着実に俺のHPは削られていく。三歩進んで二歩下がる。そんな風に俺は死へと近づいていく。
『死』
このワードが頭をよぎる度、俺の身体は拒絶反応を示す。トラウマとも言えるあの臨死体験を追体験することになる。嫌な脂汗が身体中から吹き出る。頭痛、めまい、息切れ、吐き気が俺を襲う。身体が意図せず震えだす。もう死ぬのは御免だと、肉体が死を拒絶する。
早く水面に浮び上がらなければ!俺はそんな焦りを胸に、必死でもがいた。しかし、やはりというか、俺は泳げなかった。震える腕や足を必死に動かすが、俺の身体を水面まで運ぶことはできなかった。
それでも俺はもがき続けた。もがいて、もがいて、もがき続け、自分が泳げないことを痛感する。だからといって死ぬわけにもいかず、早く浮び上がらなければと焦り、俺はもっともがく。
この負の連鎖が俺の精神をも死へと近づけていく。
HPバーはとうにイエローゾーンに突入し、レッドゾーンへのカウントダウンを始めていた。じわじわとレッドゾーンへと近づき、少し取り返す。だけどそれはごく僅かであり、安心する間も無く、もっとレッドゾーンに近づいていく。黄色く染まる視界の中、俺は必死にもがき続けた。
突然、俺の右腕が何者かに掴まれる。
「しっかり掴まれ〜!」
水の中、ぼやけた声が聞こえる。このうるさい声は間違いようがない。俺の相棒、シヴァだ。シヴァが俺を助けようとしている。それに気付いて、俺はある程度の冷静さを取り戻した。
俺を助けようとしてくれたのはシヴァだけではなかった。
「おい!手を伸ばせ!」
揺れる水面のその先に映ったのは、色黒肌のスキンヘッド。エギルだ。俺は左腕を伸ばそうとした。
だけど………………………ッ!
俺はエギルの手を掴むことはできなかった。
「……。合図したら引き上げるから〜!!力こめて〜!!」
だけどもういい。俺は生きたいんだ!シヴァなら一人でも俺を助けられる。今はそれを信じ、助かることだけを考えよう。
「せ〜〜〜」
自分が助かるためにできること、
「の〜〜〜」
それは左腕を伸ばすことではない。
「で〜〜〜ッ!!」
俺は右腕に目一杯の力を込めた。その瞬間、俺はミサイルのごとく急発進をし、水の天井を突き破った。
ザッパーン
大きな音が耳に突き刺さる。
ドクンドクン
荒い動悸が脳内に響く。
ゼェゼェ
荒い呼吸音が身体を震わす。
息を止めていた訳でもないのに、もう水面に浮び上がったというのに、俺の身体はまだ死を拒絶し続けていた。
「こいつに掴まれ〜!」
俺の脇に浮き輪のような物が差し込まれる。俺は必死にそれを掴んだ。もう沈む心配はない。それでも、俺の身体の震えはなかなか止まらなかった。
「おい、大丈夫か!?」
「だ……ょ…………な…。」
大丈夫じゃない。エギルにそう返そうとしたが、その台詞すら言えないほど、俺の身体は自分の意識に反して震え続けていた。
浮き輪を離せない俺の口に、シヴァがポーションを流し込む。レモン味のそれは震える身体に染み渡り、生きる力を取り戻していった。
「あ……と…。」
「礼はいいから〜後方で休んどけよ〜。」
俺はただ首を縦にふり、シヴァの誘導のもと、ボスから遠い安全地帯へと避難した。
少し休んで、HPはグリーンゾーンにまで戻った。身体の震えもある程度治まった。吐き気や頭痛はまだ治まらなかった。
「C隊、B隊とスイッチや!」
「無理だ。こっちはまだ浮き輪をしてない奴がいるんだ。早くくれ!」
「エッライ上から目線やな!この借りはきっちり返してもらうで!」
攻略組の奴らのうるさい声がガンガンと脳内に響く。だけど今の俺が「うるさい!黙れ!」ということもできず、ただただ頭痛をこらえていた。
そうして頭を押さえていた時だった。突如扉が開かれ、部屋の水が一気に流れだした。俺は抗うこともできず、部屋の外まで流された。
「おわあ!?」
「うぉ〜!?」
俺と一緒に流されてきたエギルとシヴァが叫ぶ。
腹ばいになった俺の視界に見えたもの、それは迷宮区の天井とアルゴの顔だった。
「大丈夫カ?ジン坊?」
そういって右手を差し出す。
「た゛い゛し゛ょ゛う゛ふ゛し゛ゃ゛な゛い゛。」
かすれ声しか出なかったので、俺はとりあえず首を横に振って意思表示をし、震える右手でその手を掴んだ。俺はアルゴの手を借りて立ち上がる。しかし結局足に力が入らず、ふらふらしながら壁にもたれかかり、座り込む。
「まァ、ゆっくり休むんだナ。」
はは……。エギルもシヴァも立ち上がっているのに…。俺だけ座り込むとか、情けないったらありゃしない。そう思っても、やはり俺の足はまだ震えていた。
「エギルさん、犠牲者は!?」
という声が聞こえた。そちらに目をやると、アスナがいた。その反対の扉にはキリトとエギルとシヴァが立っていた。
「安心してくれ、まだ一人も死んでねぇよ。」
俺は死にそうになったけどな。とツッコミを入れたかったが、まともに声を出せそうもない。なのでそのままエギルの話を聞いた。
「往還階段の所の浮き輪の実を、樹に生ってるぶん全部もいでストレージに溜めてた欲張りがいてな……。そいつが全員分の浮き輪を出してくれたおかげで、なんとか水死だけは免れたんだ。あとはひたすらボスの攻撃を避けながら、どうにかして扉を開けようとしたんだが、中からは絶対に開かねぇ仕組みらしいな。」
「そ、そうか……。」
会話を聞いている間に、ボス部屋を満たしていた水が全て排出されたようだ。扉の先に目を向けると、浮き輪を装着したプレイヤーたちが折り重なって倒れ、呻き声を上げていた。
「なんやジブンら、どうせ来るならもっとはよ来んかい!」
「早く上の連中を退かせてくれ、キバオウさん!どいた者から、ポーションを飲んでおけよ!」
「ま、まだやる気なんか、リンドはん。」
「当たり前だ!攻撃パターンは解ったんだ、苦労してゲージを一本削ったのに無駄にできるか!」
「エッラそうなこと言うやないか、ワイが浮き輪の実を出さへんかったら、今ごろ全員ドザエモンやぞ!」
「共有財産をガメてただけじゃないか!お前こそ偉そうなことを言えた義理か!」
≪アインクラッド解放隊≫のリーダーのキバオウと、≪ドラゴンナイツ・ブリゲード≫のリーダーのリンドがガミガミといがみ合っている。うるさいことに変わりはないが、頭痛が治まってきたおかげで、普通にうるさく聞こえるだけだった。
この場にいるのは、部屋から流された俺とシヴァとエギル、扉を開けたキリトとアスナ、俺を起こしてくれたアルゴ。それだけではなかった。壁にもたれかかる俺の目の前を4人組がつかつかと歩いていく。見慣れない顔の彼らは黒い肌をローブで隠し、ボスの部屋へと歩を進める。部屋に入ったところで先頭に立つ女性が声高に宣言した。
「人族の剣士たちよ、戦うつもりなら今すぐに立ち上がりなさい。そうでないのなら、静かにしていなさい。どちらにせよ、あの
彼女は左腰のレイピアを抜き、それを高く掲げる。
「リュースラの騎士ヨフィリスの名において命じます!立てる者は立ち、我に従いなさい!」
そう言うと剣尖から光が溢れ出す。その光は同心円状に広がり、ボス部屋の内部全てを照らし、それだけでなく通路に座り込んでいた俺の所にも届いた。その光に包まれた俺のHPバーの下には強化を示すアイコンが4つ表れていた。STR(筋力)、AGI(俊敏性)、VIT(防御力)の上昇、HPのリジェネを表すアイコン達が、そしてキズメルと名乗るエルフの剣士の言葉が、攻略組の士気を一気に引き上げる。
「俺たちも行くぞ〜!」
座り込む俺の前に差し出される手。俺はその手をしっかり握り、今度はしっかり立ち上がる。
「おう!」
俺たちは再びボスに立ち向かった。相変わらず≪ウォーター・インフロウ≫とかいう津波攻撃をしてくるが、、その度に外で待機しているアルゴが扉を開き、部屋が貯水池になる前に排水することができていた。
2022年12月27日火曜日、午後2時32分。アインクラッド第四層のフロアボス≪ウィスゲー・ザ・ヒッポカンプ≫は、一人の死者も出さずに撃破された。俺は死にかけたが…。
さて、ボス戦が終わり、アイテム分配会議が始まる。だが俺は攻略組の屑どもとは基本的に関わりたくない。毎度のことだが、俺は第五層と続く階段へと足を踏み出した。
「お〜い!俺も連れてけ〜!」
声の主は…ここまで読んだ読者ならばもうお分かりだろう。そう、シヴァだ。
「珍しいな。いつもはアイテム分配会議に参加してるのに。」
「いや〜、ちょっとな〜。とりあえず〜先進もうぜ〜!」
「あ、あぁ…。」
ちょっとってなんだ?先に進んだところで話してくれるのだろうか?そんなことを気にしながら階段を上っていく。階段を上るのは何時ものメンバー、俺、キリト、アスナ。それと臨時のメンバーシヴァだ。
そして第五層までもう少しというところまで上ったところで、シヴァが突然立ち止まった。
「ん?どったの?センセー?」
「なぁ〜、キリトとアスナは〜先に行っててくれ〜。俺はジンに話があるから〜。」
「そうか、じゃあお先に失礼するよ。」
「また第五層で会いましょう。」
俺はシヴァに足止めされて、先へと進むキリトたちの背中を見送る。そしてそれが見えなくなったところで俺は口を開いた。
「で、話ってなんだ?」
キリト達を見送って、二人きりで話すというのだから、よっぽど重要なことなのだろうか?
「ほい〜。」
シヴァは突然左手を差し出す。
「…?じゃんけん?」
俺は右手でチョキを繰り出す。これで俺の勝ちだ。
「ちげ〜よ!!握手だよ〜、あ〜く〜しゅ〜!!ほら〜。」
「あ、あぁ…。」
シヴァは左手を再び差し出す。相手の左手と握手するには、俺は左手を差し出さなければいけない訳で………。と考えているところ、シヴァの口が開いた。
「やっぱりな〜。」
そしてこう告げた。
「左腕〜、動かないんだろ〜?」
図星だった。