ソードアート・オンライン〜Sonic Blader〜 作:タケノコさん
2022年12月31日(土)
先生も忙しく走りまわるという、この師走の季節。だけど今日は年末、今年最後の日だ。今日明日くらいは、いくら忙しい先生でもゆっくり家で年を越すことだろう。
かく言う俺ら、攻略組も今日は休養をとっている人が多い。いつもフィールドや迷宮を攻略しているメンツも、今日くらいは宿に戻って年を越したいと思っている人が多いようだ。しかし、中には例外もいる。その一人が俺だ。
俺だって年末年始はゆっくりしたいと思っている。年末にはベートーヴェンの第9を聞いて、年始にはヨハン・シュトラウス1世のラデツキー行進曲を聞いて、コタツでゴロゴロしていたい。けどそれ以上にやりたいことがあるのだ。
現在時刻は23:52。現実では除夜の鐘が鳴っているだろう頃、第9を脳内再生で聴き終えた俺こと、ジンは何をしているかというと…、第一層始まりの街周辺の草原で立っていた。
ぼーっとしている訳ではない。待っているのだ。もうすぐ始めるビッグイベントを。
ニューイヤーボス討伐イベント
そうだ、蕎麦が美味しいこの時間に来年の干支となる、兎狩りに行こうというのだ。
「お前は馬鹿か!」だって?あえて言おう。馬鹿であると!年越しに兎狩りとは、頭がおかしい人がすることだ。『あったまおっかしぃんじゃないのぉ?』某ありのままの雪の女王によって作られた雪だるまが言ったセリフだ。彼も言ったような、クレイジーでインセインで基地外なマッドプレイヤーは、実は結構いる。
俺はもちろんのこと、シヴァ、キリトもいる。アスナはいない。他にもボス戦で見かけるキバオウとその仲間たちや、リンドとその仲間たちがちらほらといるが、それぞれせいぜい1パーティ分、つまり6人ほどしか来ていないようだ。だがこいつらが居ようと、俺は屑人間とは接するつもりはない。それよりも気になるのは、初めて見る人が多い。キリトと仲良さげに話している赤いバンダナをした男と、そのギルドメンバーと思われるプレイヤー達。Mobのようなどうでもいいプレイヤー達が2パーティー半ほど。そして俺を漆黒の瞳で見つめる謎のイケメンと、その横にいる…
「久しぶりね。」
銀髪カチューシャの女。攻略組のゴミ人間共と同程度、会いたくない人物だ。第一層にて訳の分からんアドバイスをした変な女だ。
「自業自得、気をつけてる?」
この電波女め!久しぶりの次のセリフ、明らかにおかしいぞ!
「何が言いたい?」
一体どんな電波を受信しているのか気になって聞いてみる。
「分からなければいいわ。とにかく気をつけなさい。」
今の気持ちを一言で表すなら、まるで意味が分からんぞ!
「知り合いか?」
「えぇ、第一層で会った人よ。」
そこに謎のイケメンの乱入。混乱中の俺を放って勝手に話が進んでいる。俺とこいつが知り合い?馬鹿な!俺の知り合いにこんなサイコ野郎はいない!それに名前も知らない!
「そういえば自己紹介がまだだったわね。あたしはハルカ。よろしく。」
「私はセティーだ。よろしく。」
ハルカ…何処かで聞いた気がするが、今はとりあえず自己紹介だ。
「ジンだ。よろしく。」
俺は電波女ハルカとイケメン青年セティーと握手を交わす。もはや恒例行事だ。
そういえばこの二人はどういう関係なんだろうか?友達?親友?恋人?夫婦?聞いてみようと思った。だが、できなかった。
セティーの漆黒の瞳が俺を見つめていたからだ。その視線はまるでレーザービームのように俺の瞳に突き刺さり、黙っていろと告げていた。俺は自己紹介とよろしく以外、何も言っていない。それ以上口にするなと、その瞳が警告していた。確かに二人の関係を聞くのは現実の話になるだろうし、マナー違反だ。
自業自得という言葉を思い出す。俺は現実の話をしたくない。「己の欲せざること人に施すこと無かれ」という言葉がある通り、ここは黙っているのが正解なのだろう。
「次行くぞ。」
「分かったわ。」
二人は握手だけして去って行く。かと思いきや、
「そうだ、ジン。あなたが今回の戦いの運命を左右すると思うわ。だからよろしくお願いするね。」
去り際に電波を受信したようだ。どこまでサイコになれば気が済むのだ。まだ戦いも始まっていないのに、何が運命を左右するだ!お前は占い師か!この
だが、謎なのはハルカだけではない。セティーという男、一体何が目的であんな女とつるんでいるのか?あの吸い込まれるような漆黒の瞳の奥で、何を考えているのか…。全く見当がつかない。
「よう。」
「よ〜!」
声をかけてきたのはキリトとシヴァだ。どっちのセリフがどっちか、言うまでもなく分かるよな?
「あいつら一体何者なんだろうな?」
あいつらというのは、先ほどまで会話していたサイココンビのことだ。俺に話しかけて来る前に、キリトとシヴァに接触していたので聞いてみた。
「分かんね〜けど〜、ギルド勧誘〜してたみたいだぞ〜。俺〜、勧誘〜されたぞ〜。」
「マジか!?キリトは?」
「俺も勧誘されたけど断った。当分はソロで活動するつもりだからな。」
ある意味衝撃的な事実だ。シヴァとキリトが勧誘されたのに、俺はされなかった。何故だ!?坊やだからか!?
謎すぎるぜ。あのサイコカップルめ。
「で、シヴァはどうしたんだ?」
「保留〜にしたよ〜。俺は強い奴と一緒のギルドになりたいから〜、一度セティ〜と手合わせをすることにしたんだ〜。」
つまるところ、あのイケメンが強ければ、こいつは入る気満々な訳だ。だが、ボス攻略で見かけないような奴が強いとは思えない。キリトの反応を見る限りでは、βテスターでもなさそうだ。そんな奴にこの暴走特急の相手が務まるとは到底思えない。
「そろそろ時間だし、パーティー組もうぜ。キリト、リーダー頼む。」
「またかよ。まぁいいけどさ。」
kiritoからパーティーに誘われました。
参加しますか?
という表示が出る。俺は⚪︎を押す。シヴァも同じくパーティーに加わる。これでボス攻略あぶれ男組の出来上がりだ。はっきり言って、華が無い。
さて今回戦うボスだが、NPCの噂では、コボルトの長でさえ倒せなかった兎だと言われている。要するに、今から現れる兎はコボルトロードと同等、またはそれ以上に強いということだ。
俺は第一層のフロアボス戦はもちろんのこと、第二層のフロアボス戦もなんだかんだ言って参戦し、第三層、第四層まできっちり参戦した。今まで皆勤(遅刻あり)でフロアボスを倒して登った俺たちのパーティーなら問題ないだろう。だがそれに一度も参加しなかった連中がこれから相見える強敵と戦えるのか不安だ。ここに来るということは準攻略組と名乗る程度のレベルはあるのだろうが、ボス戦経験が無いというのは大きなデメリットだ。いざとなったら経験豊富な俺たちがここにいるメンバーを率いていかないといけないかもしれない。だが、誰が?
俺とキリトは無理だ。初見の人が知ってるか知らないかは分からないが、ビーターとして名を馳せている俺たちがリーダーになれば、反発する者が出ることは間違いない。
じゃあシヴァ?声が通るという意味では適任だが、こいつはプレイスタイルからしてゴリ押しの戦いをする。雑魚敵ならまだしも、ボスにそんな戦法は通用しない。というわけで、シヴァも却下だ。
キバオウ?リンド?ナニソレオイシイノ?
そんな不安を抱えて年は過ぎ去った。
そして新しい年がやって来た。
それと同時に大きな兎が空から降って来た。どすん、という大きな衝撃と共に着地する。
親方!空から兎が!
冗談を言っている場合ではない。その衝撃のせいで俺たちプレイヤーは皆、スタン状態となってしまう。そして動けない俺たちに向かって、兎は獣のように吼える。
まるで兎とは思えない咆哮をするそのボスの名前は、≪ルーナ・ザ・ペスターレラビット≫。ペスターレの意味は分からないけど、なんとなく予想は出来る。こいつが餅つきに使うような杵を持っているので、おそらく餅つきに関係する意味だろう。
つまり、今回のボスは餅つき兎ということになる。お月様から「侵略でラビ!」とか言いながらアインクラッド侵略にやっきてたのかもしれない。あくまでも妄想だが。
「俺とシヴァが先行する。ジンは後方で敵の情報を収集してくれ。」
「りょ〜か〜い。」
「了解。」
キリトの指示で二人が敵前へと飛び出す。今回の戦いは、フィールドボス戦やフロアボス戦と違って、指揮官がいないし、作戦も全くない。そんな状態で果たしてどこまで立ち向かえるのだろうか。
そんなことを考えても仕方がない。少しでも生き残れるように、情報収集を怠ってはいけない。俺はウサギの動きに集中した。
≪ルーナ・ザ・ペスターレラビット≫の特徴を一言で述べるのであれば、こいつはアタッカータイプであるということだ。アタッカーに必要なものは強力な一撃と、ヒット&アウェイをこなす俊敏性だ。この二点を見る限り、こいつはかなり優秀だ。
まず、こいつの攻撃はこれまでのフロアボスに比べてかなり凶悪だ。杵の一撃はかなり重いようで、筋力一極化型ビルドのシヴァが押し負けている。さらに奴のソードスキル≪ペスターレ・インパクト≫により振り下ろす杵は、地面を揺らし、打点を中心に範囲攻撃となり、周りのプレイヤーをスタン状態にさせる。それは、ごくわずかな時間だがプレイヤーに隙ができてしまうことに等しい。そこに追撃されれば防ぐ術はない。
スタンが鬱陶しいといえば第二層のフロアボス戦を思い出すが、このウサギには果たしてトーラス王と同様に急所が存在するのだろうか?幸い、ウサギの杵攻撃にはパラライズ効果は無いようだし、攻撃間隔が空いているので追撃を免れている。
杵だけでも凶悪なこのウサギだが、オマケとばかりに尻尾攻撃がある。ちっこい尻尾を器用に使って後方まで攻撃している。
「くそっ、こいつ尻尾で攻撃してくるのか。ソードスキルを発動させない気か?」
と赤いバンダナ剣士が愚痴をこぼす。見ている限り、尻尾はソードスキルを使おうとした人を優先的に攻撃して、出鼻を挫いているようだ。後ろもちゃんと見えているのだろうか?これでは後方からのソードスキルの攻撃はできなさそうだ。第二層フロアボス戦のように、ソードスキルで敵を包囲する作戦は無理だろう。
俊敏性においても、こいつは異常な動きをみせてくる。ぴょんぴょん跳ね回り、囲まれたら高い跳躍で離脱する。飛び跳ねたら最後、我々は上空まで追撃に行けないので、包囲網から逃げられてしまう。要するに、どれだけ上手に取り囲もうと「ウサギガニゲテル!」となるわけだ。うさぎはぴょんぴょんするくせに、俺たちの心は全然ぴょんぴょんしない。
だが、こいつにも弱点はある。それは防御の手薄さだ。防具は装備していないし、盾も持っていない、さらには杵を使って防御していない。つまるところ、どこに攻撃しても確実にダメージを与えることができるということだ。その上たった5分程度の戦闘で、5段あるHPバーの1段目が空になって、2段目も半分ほど削れている状況だ。奴が逃げ回る時間も含めてだ。
以上のことから導き出される結論は、短期集中決戦を仕掛けるべきだということだ。敵に逃げる隙さえ与えず、杵を振り下ろす前にやっつけてしまおうという作戦だ。だが、これを実現させるためには、全員で一斉攻撃をする必要があり、そのためには指示を出すリーダーが必要なのだ。さて、どうしようか。
情報収集も区切りがついたし、一人で考えても拉致があかないので、二人を呼ぶことにしよう。
「一旦下がってきてくれ。」
二人は俺の指示に従い、後方へ退避してくる。
「うへ〜、あのハンマ〜重すぎ〜。」
「ハンマーじゃなくて杵だろ。」
早々にボケるシヴァと、ツッコむキリト。やはりパリィは難しそうだ。
「トーラス王と比べてどんな感じだ?」
このボスは前述の通り、第二層のフロアボスと似ているところがある。ハンマーではなく杵だが、相手をスタンさせるという点では同じだ。
「威力だけで考えたら〜同んなじくらいだ〜。パリィ〜は無理そ〜だ。」
「ただ、電撃が無いせいか、スタン効果の範囲はトーラス王に比べて狭いみたいだ。」
筋力馬鹿のシヴァでもパリィー出来ない一撃。やはり急所が存在するのか?だとしたらどこだ?とにかく今は敵の情報を共有しよう。俺は敵の情報を手短に話す。
「しかし、後ろも見えているってのはどういうことだ?」
「それはな、あいつ、尻尾でソードスキルを使おうとしてた奴を迎撃してたんだ。あれは後ろが見えてないと出来ない。」
「見えなくても〜、フツ〜に〜誰がどこにいるか〜分かるだろ〜?」
「…は?」
敵について議論する中、シヴァの口から出たトンデモ発言。それに驚くキリト。まぁ、初耳なら当然の反応だ。俺だって最初にその話を聞いた時はそういう反応をしたのだから。だけど、一緒に第四層迷宮区攻略をして確信したのだ。確かにこいつは見えない物もちゃんと見ていると。
「こいつ、ホークアイの持ち主らしいんだよ。」
「マジかよ!?すげーな!」
「いゃぁ〜、それほどでも〜。」
キリトに一応説明してやる。シヴァの恐ろしさはこの程度ではないが、一言で説明できないので今は黙っておく。
「いずれにせよ、何らかの方法で気配を感知しているということか…。」
「うさぎなのに鷹の目?」
「いや〜、うさぎといったら〜うさ耳でしょ〜!」
うさ耳…、耳…。
……音?音で後ろを判断しているのだろうか?
「あんたら、ダベってるなら出て行けや!!」
俺たちの会話に割り込む関西弁。キバオウだ。アンチβテスター派の代表格ということもあり、この場に俺たちがいることが気に食わないのだろう。
だが、俺は別の事に気が向いていた。今のキバオウの大声に反応してウサギガニゲテルのを、俺は見逃さなかった。
「分かったよ。キリト、今度は俺とシヴァが前に出る。指示を頼む。」
「あぁ。」
ここはおとなしく従う。話し合いもひと段落したのだから、問題はない。
そして俺は戦場へと向かった。