ソードアート・オンライン〜Sonic Blader〜   作:タケノコさん

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第02話 デスゲームの始まり

 光のカーテンが消えると、目の前には始まりの街の景色が広がっていた。フィールドから街にワープさせられた…ってことでいいのだろうか?周りを見渡すと、あちらこちらで同じように光の中から人が現れる。みんな同じようにワープさせられたのだろうか?

 

「早くここから出してくれ!」

「約束があるのよ!」

「運営は何してるんだ!」

 

 耳を澄ませば。いや、そんなことしなくても罵声があちこちから聞こえてくる。ログアウト不可能なのは、俺だけではないようだ。

 ログアウト不可能な状態、プレイヤーのワープ現象、これらは多分バグじゃなく、運営の仕業だ。根拠はない、ただの勘だ。

 一体運営は何をする気なんだ?サービス開始記念のセレモニーでも行うのだろうか?それならそれで、日時や場所が公開されているはずだ。ログイン前に調べた時にSAOの公式ホームページにそんな情報無かったし、周りの様子を見る限りセレモニーのことを知っている人はいないようだ。

 ゲリラセレモニーじゃなかったとしたら、謝罪会見でも開くのだろうか?いや、『ログアウト不可能の対応が遅れてごめんなさい。しばらくお待ちください。』と言ったところで、今ここにいるプレイヤー達はそう簡単に許さないだろう。そもそも強制ワープで人を集めて謝罪会見など、かえってプレイヤーを怒らせるだけだ。こんな状態で謝罪会見など、やっても無意味だ。

 それでもないとしたら…

 

「おい、あれを見ろ!」

 

 とあるプレイヤーが発したこの一言で、思考の海に溺れかけの俺の意識はこのセカイに引き戻される。彼の指さす先を見ると、そこには紅の模様が空中に張り付いていた。目を凝らして良く見てみると、文字が描かれていた。

 

 Warning

 

 警告を意味する英単語だ。一体何を警告しているのか?それはすぐに分ることになる。

 紅い警告は始まりの街の広場を覆うようにドーム状に広がる。そしてその天上からドロっとした液体が垂れてくる。まるで血のようなそれはどんどん湧き出てくる。SAOに流血表現は無いようだが、あったとしても、今起こっている現象ほど不気味ではないだろう。そして血(?)は上空でまとまって、巨大なローブの形になる。その中身は空っぽだ。

 そんな奇奇怪怪な現象が俺たちプレイヤーの不安を煽る。ただのイベントだと思いたいのに、そうは思えない。

 

「だ…誰だ、こんな悪趣味なイベントを考えたやつは!」

 

 自分に言い聞かせるために言葉にするが、それでも悪寒は止まらない。

 

 そして中身のないローブはさも当然の如く語り出す。

「プレイヤーの諸君。私の世界へようこそ。」

 

 私の世界……だと…

 

「私の名前は茅場晶彦。今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ。」

 

 な……

 空いた口が塞がらなかった。あの茅場晶彦なのか?…いや、疑うまでもない。同姓同名の人などではない。こんなことをしでかせる茅場昭彦は世界に一人しかいない。

 

「プレイヤー諸君は既にメインメニューからログアウトボタンが消滅していることに気づいていると思う。しかし、これはゲームの不具合ではない。繰り返す。不具合ではなく、ソードアート・オンライン本来の仕様である。」

 

 俺の悪い直感は的中してしまった。何故だ。何故こんな仕様にしたんだ!?

 

「諸君は自発的にログアウトすることは出来ない。また、外部の人間の手による、ナーヴギアの停止、あるいは解除もありえない。もしそれが試みられた場合、ナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが諸君の脳を破壊し、生命活動を停止させる。」

 

 生命活動の停止、それはすなわち…

 『死』

 

 そこまで考えて俺はぞっとした。3年前のあの悍ましい記憶がフラッシュバックしてきた。猛スピードで突っ込んで来たトラック、重力を失ったかの如く吹き飛んだあの浮遊感、永遠のように長く感じた一瞬、脳内を駆け巡った走馬灯。その生々しい記憶が、感覚が全身をおそった。

 足が震えるのが分かる。かくはずもない汗が止まらない。

 

 そこから先、茅場晶彦が何を言っていたのかはほとんど覚えていない。

 

 

 

 

 長い沈黙の後、誰かが「嫌ぁぁぁーー!!」と叫んであたりが一気にざわめいた。そのあたりで俺は意識を取り戻した。俺は立っていられず、足元から崩れ落ちた。

 上を見上げればもうローブはない。俺も皆みたいに、「ふざけるな!」と叫びたかったが、声すら出なかった。

 地面を見下ろせばそこには手鏡が落ちていた。覗き込むとそこには俺の顔が映っていた。当たり前かもしれないが、ここはSAO。鏡には俺の作ったかっこいいアバターが映るはずだ。

 鏡に自分が写る。つまり、ここは現実。一度死ねば生き返ることは許されない世界だ。

 

 これはゲームであっても、遊びではない。

 

 かつて茅場晶彦がインタビューでこう答えている。今ならその意味がよく分かる。

 デスゲーム。一度死ねば復活はあり得ない。遊びでは済まされない、命がけのゲームだ。

 全身が痙攣しているかのように震える。これは武者震いなどではない。死を目の前にした、過剰なまでに純粋な恐怖でしかない。

 身体に力が入らない。だがここで座ってなどいられない。さっきの話、ほとんど聞いていなかったが、これだけは覚えている。

 この世界から抜け出すには、全100層あるアインクラッドを突破すればいい。だから、こんなところで座ってなどいられない。早く、一刻も早くクリアしなければ。

 地面に手をつき立とうとするが、震える腕はすぐに体の重さに耐えられなくなる。

 

「……よ。」

 

 俺は自分の身体に鞭をうった。さっきまで思い通りだったはずの腕は、その先が無くなってしまったかのように感覚がない。歩けたはずの脚もまるで木偶の坊だ。どうした、俺。立てよ俺。

 このままここで、死ぬのを待つのか?そんなのまっぴらごめんだ。だから行かなきゃ。立たなきゃ。

手足に入りもしない力を無理やり込める。だけど途中で崩れ落ちてしまう。

 

「…てよ!」

 

 自力で立てないなんて…。

 皆が俺を見る。皆が俺を指差す。皆が俺を哀れむ。嫌なんだよ、そういうの。だから。だから。

 

「立てよぉおおお!!」

 

 渾身の力を込めてついに俺は立ち上がる。まだ足の震えは止まらないが、行かなければ。早く行かなければ!

 一歩。一歩。ふらつきながら、俺は歩を進める。ざわめく広場に背を向けて、右手を壁につきながら一歩ずつ進んでいく。

 気持ち悪い。胃の中のものをぶちまけてしまいたい。いっそ、内臓もろともぶちまけてしまいたい。だがSAOにそんなシステムはない。

 だけど止まってなどいられない。死にたくない。早くここから出たい。だから、早く、早く行かなければ!

 

 

 進んでいると、人影がふっと街中を横切った。

 

「待ってくれ」

 

 声を張り上げようとしたが、絞り出すような声しか出なかった。これじゃあ聞こえるはずもない。

 あの迷いのない動き、間違いなくβテスターだ。ついて行けば次の街まで案内してくれるはずだ。ここでその希望を失う訳にはいかない。

 足にさらに鞭をうって、走り出す。街の出口はすぐそこだ。早く行かないと見失ってしまう。込み上げてくる不快なものを飲み込むようにして、俺は走った。

 

 しかし、街の出口に着く頃には黒い影はとっくに門を抜けて草原を駆け抜けていた。まだだ。走って、背中を追えば次の街へと行ける。

 しかし俺の足は言うことを聞いてくれなかった。限界を超えてしまった俺の足は、自分の意思を無視して崩れ落ち、俺は顔面から転んだ。

 

「待てよ!」

 

 声を張り上げることはできたが、もう遅い。その声は遠くの背中には届かない。

 黒い影の先にモンスターが見えた。頼む足止めしてくれ。そう願った。だが、その願いは叶わなかった。影は黄昏の背景に一本の青白い線を描き、モンスターを一瞬にして切り裂く。ソードスキル。止まることなくそれを発動させた影は、モンスターだけでなく、俺の儚い願いさえも木っ端微塵にして遠ざかっていった。

 

「くっそぉぉおお!」

 

 もう追いかけるだけの気力は残っていなかった。悔しさのあまり地面を殴る。手が痛くなるだけで何も起こらない。ただ自分の弱さに打ちひしがれるだけだった。

 

 

 

「あんた、大丈夫か?」

 

 見上げるとヒゲ面のバンダナ剣士が声をかけてきた。周りを見渡すと、いつの間にか日は完全に沈んでいた。

 

「あんた誰だ?βテスターか?」

 

 彼に最後の希望を見出し、俺は問った。もしそうだったら次の村へ連れていってくれるかもしれない。

 

「俺はクライン。βテスターではないが、どうかしたのか?」

 

 いつもそうだ。俺の夢は叶うことなく砕け散ってしまう。どんなに頑張っても、どんなに強く願っても、どんなに才能に恵まれていても、夢は所詮ただの妄想に過ぎない。妄想と現実は違うんだ。そんな大事なこと、どうして忘れていたのだろう。

 

「なぁ、あんた俺らと一緒に組まないか?」

 

 神様などいない。人を頼ったって当てにならない。頼れるのは自分一人だけだと、そんな当たり前のことをどうして忘れていたのだろう。どうして感謝などしてしまったのだろう。

 βテスター?そんなもの知ったこっちゃねー。仲間?そんな邪魔者は要らない。要るのはただ一つ。全てを退く力だ。だったらやることは決まっている。このセカイではレベルこそが強者たるかを示すのだ。

 

「俺はジンだ。違うならいい。じゃあな。」

 

 俺はそう吐き捨ててフィールドへ走り出した。案内なんか要らない。自分の道は自分で開くしかないんだ。レベルを上げて、もっと強くなればいい。立ち塞がる敵は全て経験値にしてしまえばいい。そのためにも、行かなければ!

こうして俺は夜の闇に溶けていった。

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