ソードアート・オンライン〜Sonic Blader〜 作:タケノコさん
2022年11月13日(日)
このデスゲームが始まって一週間ほど経った。
あの後、俺は無事に第一の村、『ホルンカ』へ到着した。運が良かったとしか言いようがない。まるで何かが通った後のように、道中に敵が全くいなかった。あのβテスターと思われる影は大分先行していたので、そいつのおかげではないとは思う。だが、これは本当に偶然なのだろうか?気味が悪い。レベル1に戻って、もう一度やってみなさいと言われたら、できる気がしない。
ここに来てからは、コウモリのように、昼に寝て夜にモンスターを狩る生活を送っていた。夜の方がモンスターを倒した時にもらえる経験値やコルが多いのだ。コルと言うのはこのセカイでの通貨のことだ。夜に狩りをするということはつまり、昼間に比べてより効率的にレベルアップ&金稼ぎができるということだ。
てれってって〜
レベルアップのファンファーレが鳴り響く。これで俺のレベルは5になった。レベルアップすると強化ポイントを3獲得できる。プレイヤーはそれを筋力が俊敏に振り分けることで強化されていくのだ。それ以外のパラメータはどうするのかと思うが、どうやら装備やスキル、さらにはプレイヤーの技量によって決まるらしい。強力な武器を持てば攻撃力が上がるし、精密動作などのスキルを取れば命中率が上がる。
ビルド(プレイヤーの強化)にはいろいろなパターンがある。両者をバランスよく上げて、オールマイティにするもよし。筋力を高くして、重い装備をつけて防御特化にして、タンクになるのもよし。筋力を高くして重くて威力の高い武器を持ち、防具を軽くして攻撃に特化して、アタッカーになるのもよし。筋力を捨てて俊敏に特化し、軽い装備で回避を優先し、手数を増やしてダメージを与えるというビルドもある。
俺は最後に述べた、俊敏特化ビルドにしている。なので今回獲得した強化ポイントを、全て俊敏に注ぎ込む。
キリもいいし、空が明るくなってきたし、そろそろ帰ろう。これだけレベルアップしたのだから、いい加減次の村への移動も考えてもいいだろう。このまま向かってもいいが、今日は疲れてしまった。一度ホルンカに帰って休もう。俺の重たい足はここ最近の習慣に従い、安息の地へと向かう。しかしその道中、疲れに追い打ちをかけるようなイベントが待ち構えていた。
「そこの兄ちゃん。ここを通りたければ通行料を払いな。」
二人の男がホルンカへ向かう一本道を塞ぐかのようにして立ちふさがっていた。
はぁ、めんどくせぇ。いつかは悪人プレイヤーが現れると思っていたが、ここまで早いのは予想外だ。遠回りの道もあるのだが、そんなことより早く休みたい。
俺は50コル硬貨をオブジェクト化し、向かって右側にいる、身体が骨と皮だけでできていそうなガリガリ男に向かって投げ渡す。
「ほれ、これやるからどけ。」
50コルというと、フレイジーボア2匹狩れば手に入るくらいの金額だ。一層最初の村の通行料ならこのくらいではないだろうか?
もったいない出費ではあるが、今は早く寝たい。
SAOは仮想空間であるが、睡眠欲は実在する。食欲も実在する。それらの欲求を満たさなければいけないのだ。だから村には宿屋があるし、パンを売る屋台がある。ただし排泄欲はないし、することもない。性欲は…あるかどうか知らない。
俺の睡眠欲などどうでもいいと言わんばかりに、左のジャイア◯もどきのデブが俺の喉元に短剣を突き立てる。まったく、そっとしておいて欲しい。
「おぃ、これじゃあ足りねぇな。」
こいつら、有り金全部吐き出させるつもりだな。
今すぐ剣を抜いてこいつらを始末したい衝動に駆られるが、そういう訳にもいかない。
他プレイヤーにダメージを与えると、プレイヤーを示す緑色のアイコンが、オレンジ色に染まってしまう。犯罪者のレッテルをアイコンに貼られてしまうのだ。ちなみにアイコンがオレンジ色のプレイヤーをオレンジプレイヤーという。
そうなれば、前科があることが露呈し、他プレイヤーから目の敵にされてしまう。それだけならまだいいのだが、今の最大の目標である村に入ることが出来なくなる。
村や街は通称『圏内』と呼ばれる。正式名称は、アンチクリミナルコード有効圏内というらしい。圏内ではモンスターはポップしないし、NPCやプレイヤーなどにはダメージが通らなくなる。言ってしまえば、安全エリアだ。
そして問題なのは、オレンジプレイヤーは圏内に入れないのだ。そうなってしまったら、当分の間ベットで寝られなくなる。
だが、プレイヤーへ攻撃してもオレンジにならない方法がひとつある。かわいそうだが、今回はそれを実行させてもらう。
「あんたら、何レベル?」
「怖気づいたか。聞いて驚け。」
後ろで威張り尽くしているガリガリ君(某アイスのキャラクターではない)は、一呼吸おいてこう宣言した。
「俺たち二人とも3レベルだ。」
3レベルが2人。俺は5レベルだが、いくら格下といえど、2人を相手取るにはリスクが高い。だが、勝算はある。
オレンジになりたくないのは相手側も同じだ。俺に剣を突き立ててるやつも、そいつの眼を見てれば、俺に危害を加えるつもりがないのがなんとなく分かる。
「何コル出せばいい?」
俺は右手でメニューを操作しながら、相手の様子を伺う。
「1000コル払いな。」
1000コルあれば、ホルンカの村で新しく武器を新調できる。俺はメニューを操作し、1000コルという大金を選択する。
「どうした?早く払えよ。」
そして俺はオブジェクト化ボタンを押した。1000コル硬貨が出現し、落下運動を始める。デブの視線がコインへと移る。その瞬間、
俺は右手で喉元の刃を握った。
素手で剣の刃に触れたため、俺のHPバーが数ドットだけ減少する。それと同時、俺の目的の第一段階は達成された。相手のプレイヤーカーソルがオレンジ色に変化したのだ。ジャイ◯ンの服の色と同じだ。
プレイヤーへの攻撃はオレンジ化の対象となるが、一つだけ例外がある。それはオレンジプレイヤーに対する攻撃である。悪人プレイヤーのレッテルを貼られたプレイヤーを成敗してもお咎めなしなのだ。これで俺は犯罪者になるリスクを犯さず反撃できるようになる。
俺はすぐさま相手に足をかける。重い身体は地面に倒れる。小さい頃、柔道やっていてよかった。すぐやめてしまったが…。
相手の体制が崩れたところで俺は奴の腕の中から抜け出し、その右腕に絞め技を決める。そしてトドメに、力の抜けた右手から短剣を奪い取る。相手はアームロスト状態。つまり、装備品を外された状態になった。
アームロストには3つのパターンがある。装備品を手放した場合、装備品が壊れた場合、装備品を持てなくなる場合がある。今回のは一つ目の場合にあたる。手放した武器は俺が持っている。
ちなみにこの知識は、ホルンカの道具やで無料で配布された『アインクラッド攻略本基本編』から得た知識だ。ちなみに圏内のことや、オレンジ化のこともそこから仕入れている。情報を舐めてはいけないことを痛感した。
今度は奪った短剣を、『お前の金は俺の金』理論を述べるジ。イアンの喉元に突きつける。もちろん、既に短剣で数回斬りつけ、相手のHPを危険区域まで下げたうえ、動きを封じている。
「命が惜しければ金を払いな。」
今度はこちらが相手に通行料を請求する。目には目を、歯には歯を、金取りには金を対価として支払ってもらう。
「お、俺は何にもしてないからな!」
という捨て台詞を吐いて、骨皮君は逃げてしまった。
「どうする?お仲間さんは逃げちゃったけど。」
俺は刃の金属光沢を相手に見せつけ、脅しをかける。
「お、俺が悪かった。出来心だったんだ。もう二度とこんなことしない。だから、許してくれ。」
俺の攻略を邪魔し、都合が悪くなったら許しを乞う。こんなみっともない奴、存在する価値すらない。
「許すも何も、俺はお前と同じように通行料を請求しているだけだぜ?1000コルだろ?払えよ。」
「わ、分かった。払うから。」
「オブジェクト化はやめろよ。振り込み式で払いな。」
お金の支払い方は2通りある。振り込み払いと、現金払いだ。
振り込み払いは、お金をオブジェクト化することなく、相手に渡すことができる。渡す相手と金額を指定して、OKボタンを押せば取引成立となる。そのため、お店の支払いやプレイヤー間での取引ではこちらの方法が主流となっている。
一方、現金払いというのは、コインをオブジェクト化してそれを渡すという方法だ。正直言って必要ないと思っていたが、今回はこの方法のおかげで相手の注意を引くことができた。他にも活用方法があるかもしれない。
そうこうしていると、金額が目の前に表示される。確かに1000コルとなっている。
「それと、手数料もいただこうか。有り金全部支払いな。」
「そ、それは…」
口答えしようとするクズ男に短剣をちらつかせる。すると、そいつは素直に従った。それにより金額が1000コルから1260コルになった。
「しけてんな。本当にこれだけか?」
「ほ、本当だ。もうこれ以上はない。だから許してくれ。」
これ以上脅しをかけても金は出そうにない。こいつの言うことは本当なのだろう。
そして、俺は○ャイアンモドキの汚い顔面に蹴りを入れる。そして寝転がっている隙に、俺は落としてしまった1000コル硬化を回収する。
「この短剣は手数料としてもらっておく。」
「待ってくれ。それがないと俺は死んじまう。死にたくないんだ!」
歩き出した俺の足にすがりつくゴミ屑を振り払ってこう言ってやった。
「自業自得だ。」
自分がやられて嫌なことを相手にするから悪いのだ。私利私欲に溺れ、欲望に染まった己の愚かさを嘆こうと、俺には知ったことじゃない。たとえゴミ未満の存在が消えようと、俺には関係ない。むしろ大歓迎だ。
「随分と酷いことをするのね。」
村に向かって歩き出してすぐ、突然横から声がした。振り向くと、女性プレイヤーが立っていた。
昇り始めた太陽の光を浴びて、白銀のショートヘアが光っている。顔立ちは整っているが、ムスっとしていて、第一印象ははっきり言って良くない。なんだこの女。藪から棒に。
「なんだ、あんたも俺に通行料を請求するのか?」
正直やめてほしい。眠い。
「あたしはそんなことしないわ。ただ、一つだけ言わせて頂戴。」
そしてそいつは俺の目を睨みつけて、こう言い放った。
「あんたが言った言葉、自分に返ってこないように気をつけなさい。それだけよ。」
それだけ告げると、女はクルッと回れ右をして、フィールドに向かってスタスタと歩いて行った。
「へいへい。」ふぁあぁぁー……
俺は適当に返事を返し、欠伸をする。
俺に対する警告だろうか。出会い頭に敵対宣言とは…。あの女も所詮はゴミ屑と同類なのだろう。まぁ、でも、言われた通り一応警戒しておこう。だが、今は眠い。早く寝たい。この場で寝転がりたいが、モンスターや犯罪者に襲われたくない。ガキ大将が復讐に来るかもしれないしな。
俺は眠気MAXの脳みそを酷使し、疲弊した身体を村まで引きずっていった。