ソードアート・オンライン〜Sonic Blader〜   作:タケノコさん

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オリジナルストーリーです。


第04話 回線切断事件

2022年11月29日(火)

 

 このクソゲーが始まってから3週間が経過した。

 俺は狩場こそ変えたものの、生活習慣は変わっていない…と言うよりもむしろ悪化していた。一層最後の村である≪トールバーナ≫でポーションや食料、寝袋、さらには折れた時用の予備の剣など、必要な物全てを買い揃え、第2層へと続く塔、通称『迷宮区』に籠り続けていた。もう5日も外の空気を吸っていない。時間を見る限り、昼夜逆転の生活になっているようだが、陽の光が当たらないため、実感がない。

 迷宮区にはホルンカ周辺のフィールドよりもモンスターが強化されている。さらに、モンスター撃破で獲得する経験値やコルも高く設定されている。そのため、ホルンカ周辺よりも早く金と経験値が貯まるのだ。

 しかし、高いレベルほどレベルアップに必要な経験値は増すので、稼ぐスピードは多少なりとも上がったものの、レベルアップのペースは落ちている。ホルンカを出てから2週間経ったが、現在のレベルは8、たったの3レベルしか上がっていない。そろそろ9レベルになるはずだが、まだまだ足りないようだ。

 剣は強化もメンテナンスも全くしなかったため、ここに籠りだしてから2本ーーどちらも予備の剣だがーーを折っている。ある意味非効率だが、経験値稼ぎのためには仕方がない。

 泊まり込み修行の甲斐もあり、俺の戦闘スタイルはガラッと変わった。というのも、戦闘での手数が増えたからだ。

 6レベルになって解放された新たなスキルスロットを、俺はパリィなどの技が使える≪武器防御≫でうめた。敵の攻撃タイミングに合わせてパリィをすることで、相手の隙を作ることができるようになった。

 さらに、短剣のスキル熟練度が上昇し、新たなソードスキル、≪ラウンドアクセル≫を手に入れた。これは360度全方向に2連劇をお見舞いする超優秀スキルだ。敵の攻撃を食らって発動がキャンセルされることもないので、敵に囲まれた時にぶちかませば周りを一掃できる。非常にリスキーだが、その爽快さは癖になってやめられなくなる。

 

 時刻は午前3:00頃。泣く子も黙る丑三つ時。俺は獲物を求め、薄暗い塔の中を歩き回る。すると索敵スキルに敵反応が現れた。しかも3匹分もだ。こんなおいしいエサは逃すまいと俺は現場に直行する。

 そこにはコボルトがいた。

 俺は敵をおびき寄せる。そして近づく敵に俺の短剣にラウンドアクセルをチャージし始めた。

 

 その時、俺の視界がブラックアウトした。

 

「は?」

 

 突然の出来事に思わず声が出る。耳を澄ましてても、周りにいたコボルト達の鳴き声も、迷宮区独特の残響音も聞こえない。

 辺りの背景は黒一色。上下感覚がおかしくなりそうなこの空間に、俺は浮いていた。

 目の前には暗い背景に白い文字列が並んでいた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

通信が切断されました。

制限時間以内に再接続が無い場合、高出力マイクロウェーブがプレイヤーの脳を破壊し、生命活動を停止させます。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 この恐ろしい文章の下には残り時間と思われる数列が並んでいた。

 

59:48

 

59:47

 

59:46

 

 

 秒単位で0に向かって減り続けていくその数字は、天国へのカウントダウンだろうか。もしくは、地獄へのカウントダウンかもしれない。

 そもそも、俺はモンスターと戦闘をしていたはずだ。そんな状況で操作不能になってしまえば、相手のなすがままになってしまう。SAOのようにリアルタイムで戦闘が進行しているゲームにおいて、コントローラーが抜けてしまうのは致命的だ。デスゲームになってしまったSAOなら本当に命に関わる。すぐ繋ぎ直せれば何とかなるかもしれないが、手を頭に持っていってもそこにはデータでできた髪の毛しかない。ダイブしてしまったら、ナーヴギアをなんとも出来ないのだ。一方的にボコられてHPが0になれば、それで最後。ゲームオーバーだ。

 カウントダウンと見えないHPバー、早かれ遅かれ、どちらか一方でも0になってしまったら、俺は……。

 背中を冷たい何かが伝った。『死』というワードは、俺の脳から禁断の記憶を引きずりだす。

 

 目眩がした。

 

 またトラックに轢かれたのだろうか?身体が吹き飛ばされる感覚が蘇る。身体が地面から離れて宙に浮く。

 そうか、俺は死ぬのか。このまま地面と激突してその瞬間、激痛が身体を襲い、やがて息絶えるのだろう。

 吹き飛んだ身体がゆっくりと落下し始める。時間がゆっくりと流れているかのような錯覚がする。だけどカウンターを見れば、自分が恐ろしい速さで地獄へ落ちているのを痛感する。永遠に続く自由落下の中で俺は近づく死の一瞬に怯え続けていた。

 始まりの街でSAOをクリアーしてやると誓ったのに、100層あるうちのまだ1層目なのに、早くも俺の命は途絶えてしまうのだ。

 所詮、俺は一人のプレイヤー。ゲームシステム様に逆らうことなど、ハナからできやしないのだ。人間がいくら抗おうと、吹き飛んだ身体は重力に逆らえない。それと同じだ。

 そもそも、どうして俺はSAOをクリアーしようと思ったのだろう?どうしてシステムに抗おうとしたのだろう?どうして生きているのだろう?このクソゲー世界に生きる意味などあるのだろうか?これらの問いに対する解答は俺には無い。

 だったら、もう抗うのはやめよう。このまま死んでしまえば楽になる。死の恐怖に怯えなくても済む。ようやく俺を縛る過去から解放される。

 秒単位で減っていくはずのカウンターは、壊れてしまったかのようにものすごい速さで0に向かっていく。いや違う。壊れてしまったのはカウンターではなく、俺自身なのだろう。死を目の前にして俺の心はポッキリと折れてしまった。そしてやがて、身体も死神に奪われてしまうのだろう。

 生きるとか死ぬとか、もうどうでもいい。

 

 そしてついに、重力が浮遊する俺をとらえた。

 

 身体の後ろ半分に硬くて冷たいものが当たる。ついに死ぬのか…。

 だが、全く痛くない。そういえばいつか黒髪剣士が言っていたが、SAOでは痛みは感じないのだった。死に際まで馬鹿だな俺。そう思いながら、恐る恐る視界の左上に映る自分のHPをみる。そこは全て緑色で満ちていた。そこで気がついた。

 

「生きてる…」

 

 あたりを見渡すと、俺を狩ろうとしていたモンスターはもういない。それにこの場所、見覚えがある。俺が寝泊まりしていた場所だ。すなわちここは安全エリアだ。誰かがここまで運んだのだろうか?だが、周りに人の気配はない。

 

「目、覚めた?」

 

 突如、声が聞こえた。ボソッと発せられたその声の方向を見ると、目の前にプレイヤーがいた。

 すぐそばにいたのに全く気配がしなかった。俺の索敵スキルにも引っかからなかった。よほど隠蔽スキルをあげているのか?とりあえずそれは後にして、

 

「あんたが俺を運んでk「ユウ。」」

 俺の言葉が遮られる。

 

「あんた、じゃ…ない。」

 

 気まずい沈黙が流れる。そんな中で俺は続きの言葉をつむぐ。

 

「ユウっていうのか。俺はジンだ。運んでくれてありがとう。」

 

 とりあえず感謝の言葉を述べる。最低限の礼儀だ。

それからまた数秒の沈黙が世界を支配する。ずっと続きそうな無音空間、それを破ったのは俺だった。

 

「なぁ、ユウにはこの世界で生きる意味とかそういうのあるのか?」

 

 あまりにも哲学的な問い俺の口からポロリとこぼれた。特に何か言うつもりは無かったが、驚くほど自然にその言葉は紡がれた。そして言った後になって気がついた。初対面の人に何を聞いているんだ俺は。馬鹿じゃないのか?っていうか馬鹿だろ。

 アインクラッドに来てから、少ないといえど両手で数える程度は出会いがあったのだが、その中でも最悪のファーストインパクトを与えてしまった。出会い頭で通行料を請求したり、意味深な警告をしたりする奴らと同等かもしれない。

 だが意外にも、ユウは俺の問いかけに答えた。

 

「存在を…証明する、ため。」

 

 たった一言だったが、その言葉は重い一撃となり、俺に届いた。

 

「存在を…証明する…。」

 

 一体どういうことなんだ?と俺が問いかける前にユウは話出した。

 片言で紡がれるその言葉を要約すると、ユウは現実世界でも存在が薄かったらしい。どのくらい存在感が無いかというと、親や学校の先生にも存在を忘れれれることが多々あるほどだ。両親の目も、先生の目も節穴じゃないのかと言いたいが、話しかけられるまでユウに気がつかなかった俺に言う資格はない。

 とにかくユウの存在感の無さは尋常じゃない。そのせいでリアルでは居場所が無かったらしい。もうこんな世界は嫌だ思い、自殺さえも考えていたようだ。そんな時、テレビのCMでSAOのことを知ったようだ。仮想世界へ飛び込めるこのゲームなら、新たな世界で新しい居場所が見つかるかもしれない。そんな期待を込めてSAOを購入し、ダイブした。しかし、アインクラッドにおいても自分の存在に気づいてくれるプレイヤーはいなかった。おまけにSAOはデスゲームと化し、プレイヤーはユウのような他人に気に留める余裕が無くなってしまった。

 ユウは独りだった。

 やはりここにも居場所がないと実感したユウは、自殺を決意した。フィールドに出て、手持ちの剣で腹を斬ろうとしたのだ。デスゲームを宣告され、ざわめく広場を背にユウは死への階段を一段づつ登って行った。その時、とある女性プレイヤーに声をかけられて、急に死ぬのが怖くなったらしい。

 そしてユウはそのプレイヤーに励まされ、居場所と生きる希望を得たらしい。そして二人で次の街、ホルンカへたどり着いたらしい。その人とは、ホルンカでいくつかクエストをクリアー後に別れたようだ。そして迷宮区攻略中に、敵に囲まれている俺が気絶するのを見て、助けに入ってくれたのだ。そして今に至る。

 

「ハルカ、言ってた。誰も、僕を見てない。でも、…誰かを、助ける…ことは…できる。そしたら、そのうち…誰かが…気づいて、くれる。って。」

 

 俺はハルカというプレイヤーを知らないが、そいつの言うことは納得できる。なぜならユウは実際に俺を助け、そして俺はユウの存在に気づくことができたからだ。

 ユウの存在は、助かった俺の命が証明している。

 俺が死ぬということ。それはユウの存在を証明するものが消失することを意味する。そうなれば俺はユウから生きる意味を奪うことになる。そう、かつて一台のトラックが俺から希望を奪い去ってしまったように。そこまで考えて俺は気がついた。

 

 俺、死ねないじゃないか。

 

 他人の生きる希望を奪うことは俺にはできない。あの絶望を他人に押し付けるようなことは俺にはできない。

 

「生きる意味、ジンには…ある?」

 

 今なら俺はこの問いに対して答えることができる。

 

「さっきまでは無かった。けどユウの話を聞いて生きる意味を、希望を見つけたよ。」

 

 一拍の間をおいて俺は続けた。

 

「俺はユウが助けてくれたこの命を無駄にしない。そしてこの命わもって、俺もユウみたいに自分の存在を証明したい。ユウの存在を証明したい。そう思った。」

 

 ユウほど芯の通った理由ではない。ただ他人に流されるような意思だが、それでも俺は生きたいと思ったのだ。

 ここまで考えていて、そしてようやく俺は気づいてしまった。俺はなんて恥ずかしいことを言ってしまったんだ。今更後悔しても、もう遅い。だけどユウは笑ってこう言った。

 

「ありがとう…。」

 

 初めて見るユウの笑顔は破壊力抜群だった。もしも俺が女だったら、あるいはユウが女だったら、俺は恋に落ちていたかもしれない。だが、俺はあくまでも純愛派だ。男には興味がない。

 最近俺のようすがちょっとおかしいんだが。思いもしないことを口にしてしまったり、ユウの笑顔にドキッとしてしまったり。生死の境界線を彷徨って疲れてしまったせいかもしれない。今日くらいはトールバーナーの宿でゆっくり休もう。だけどその前に、

 

「なぁ、ユウ。フレンド登録しないか?」

 

 フレンドNo.1、ユウは嬉しそうな顔をして、首を縦に振った。

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