ソードアート・オンライン〜Sonic Blader〜 作:タケノコさん
2022年12月2日(水)
このデスゲームが始まってから一ヶ月近い時間が経過した。この一ヶ月を、『たったの一ヶ月しか経っていない』と考えるか、『もう一ヶ月も経ってしまった』と考えるか、あるいは『ようやく一ヶ月が経過してくれた』と考えるかは、個人や状況によって異なる。
『たったの一ヶ月しか経っていない』のに、2000人ものプレイヤーが命を落としてしまった。SAOは限定1万本。つまりプレイヤーは1万人しかいないので、単純計算で2割ものプレイヤーがこの世界からいなくなってしまった計算になる。言ってしまえば、2割引ということだ。だがこれは、数字が増えたら嬉しくなる、スーパーの割引シールとは訳が違う。プレイヤーが減るということは、攻略に携わる人が減ってしまうことと同義であるからだ。そうなれば、攻略スピードは落ちてしまうだろう。
死因は色々らしいが、情報屋を名乗るアルゴが言うには、戦闘による戦死と、自殺が多いらしい。ちなみに、自殺の中でも一番多いのはアインクラッドからの飛び降り自殺のようだ。はじまりの街の外れに浮遊城アインクラッドの端がある。そこから飛び降り自殺する人が今でも何人もいるらしい。
飛び降りたその先には地面への激突が待ち構えているのか、それとも無限に続く自由落下か。どちらも経験したこの身で言わせてもらえば、どちらも恐怖度合いは同じだ。思い出したくない。
『もう一ヶ月が経過してしまった』というのに、今だに第一層が攻略されていない。プレイ時間はもう700時間(睡眠時間等も含む)くらいになるのに、今だに1/100もクリア出来ていない。竜クエストとか最後の幻想とか女神が転生するゲームとか、普通のRPGならとっくにクリアしている時間だが、MMORPGとなれば話は別だ。だがしかし、いくらなんでも遅すぎる。攻略が進まないせいでクリアを諦めて、絶望して自殺するプレイヤーだっているはずだ。
そして俺が一番感じているのが、『ようやく一ヶ月が経過してくれた』ということだ。なかなか上がらないレベルを上げる、あの地獄の時間から解放される時が来たのだ。第一層ボス攻略。これが今までの成果を発揮することができる場だ。そして本日、そのための攻略会議がここ、≪トールバーナ≫で行われる。
トールバーナには噴水広場と呼ばれる、文字通り広いスペースがある。その横に結構大きなステージが設置されている。そのステージは周りを半円に並んだ客席で囲まれている。ここが本日の攻略会議の会場だ。
前方の席は既に何人かのプレイヤーで賑わっている。俺はその後ろの方に腰を下ろす。ここなら演奏会くらい出来そうだなと見積もりながら、開始時刻を待つ。
「はーい!それじゃあそろそろ始めさせてもらいまーす。」
ステージ上の青髪の剣士が会議の開始を告げる。あたりのざわめきが静まる。
「今日は俺の呼びかけに応じてくれてありがとう。俺はディアベル。職業は…気持ち的に<ナイト>やっています。」
この自己紹介に、緊張しきっていた周りの空気は随分和んだ。「SAOにジョブシステムなんかねーだろ」とツッコミを入れるものもいた。つかみはOKということか。
まぁまぁ、静かに、とディアベルが身振りをとる。するとあたりはスーッと静まり、程よい緊張感がこの空間を支配する。つかみの挨拶を含め、周りの空気を変えるのが上手い男だ。こういう人間がリーダーになっていくのだなと、感心する。高校という閉鎖的な集団の中で暮らしていると、こういった芯の通った人間に会う機会は無いに等しい。
「今日、俺たちのパーティーがボスの部屋を発見した。」
この言葉を聞いて、いよいよボス戦が近いことを実感した。緊張が高まり、俺はゴクリと生唾を飲み込む。
「俺たちはボスを倒し、第2層に進む。そして、≪はじまりの町≫で待ってる皆にこのゲームがクリアできるってことを伝えるべきなんだ。それが、ここにいる俺たちの義務なんだ。そうだろう?みんな!」
ディアベルの言う通りだ。いなくなった2000人の中には、クリアが見えない絶望のあまり飛び降り自殺に及んでしまった人だっているはずだ。そんな人をこれ以上増やさないためにも、はじまりの街で怯えている人に希望を見せてやらなければいけない。
気がつくと、俺は拍手をしていた。周りからも拍手が聞こえた。これはディアベルの発言だけでなく、その人間性を賞賛したうえでの拍手だと思う。少なくとも俺はそうだ。
「それじゃあ、そろそろ攻略会議に戻r「ちょ、待ってんか!!」」
拍手がやみ、話を再開しようとするディアベル。その声を関西弁が遮った。声がした方向を見ると、ツンツン頭のおっさんが立っていた。そいつは客席の階段をガニ股で、トントントンとリズム良く駆け下り、そしてステージに跳び乗った。
「ワイはキバオウってもんや。ボスと戦う前に言わせてもらいたいことがある。」
舞台の上でふんぞりかえっているキバオウと名乗る男は、大きく息を吸い込んで、次のように叫んだ。
「こん中に死んでいった2000人に詫び入れなあかん奴がおるはずや!」
俺は今安堵している。前に座らなくてよかったと。前に座っていたら絶対に唾とんでるよ。アレは。
「それはつまり…βテスト経験者のことかな?」
「決まっとるやろ!」
キバオウの叫びに、ディアベルはあっ(察し)状態になり、補足を入れる。キバオウはそれに肯定する。そして続けてこう言った。
「奴らはビギナーを見捨てて、うまいクエストや狩場やらを独り占めし、自分らだけポンポン強なった。そいつらに土下座させて、溜め込んだ金やアイテムを吐き出してもらわな、パーティーメンバーとして命は預けられんし、預かれん。」
馬鹿なのかこいつは?てか馬鹿じゃない?てか馬鹿。
キバオウの言い分はこうだ。βテスト経験者が見捨てたから多くの人がゲームオーバーになった。それを俺たちに謝罪賠償しろと。寝言は寝て言え!と言いたい。
まず、普通に考えれば、こんな脅しをしても誰も名乗り出ない。名乗り出れば金やアイテムを搾り取られるうえ、自分の立場が危ういものになる。そんなデメリットだらけの状態になりたいやつなど、お金とアイテム捨てたい病の患者だけだ。そんな人普通はいない。
さらに、何故あんたらに謝罪しなければならないのか、第三者の俺からしても疑問だ。ゲームオーバーになった人たちやその身内に謝罪するならまだ筋は通る。それなのに、同じように死者を無視してまでここまで来たキバオウに謝罪賠償など、誰がするものか。責任転嫁もいい加減にして欲しい。
そして、俺がキバオウを気に入らない最も大きな理由は、下心が見え見えだということだ。金とアイテムは自分で手に入れるものだ。それを他人から奪うのはドロボーがやることだ。そんなお金とアイテム欲しい病の末期患者は、ドロボーの名のもと裁きを喰らってほしい。これがもしも「とある姫の伝説」だったらNPC店員に会った瞬間、間違いなくゲームオーバーだ。
キバオウの発言にあたりはざわめく。「お前はβテスターか」とか、「ちげーよ」とか、いろいろ聞こえてくる。キバオウだけでなく、この攻略組は簡単に周りに流される馬鹿ばっかりだったのだ。
「発言いいか?」
ざわめく空気を一人の色黒スキンヘッドの大男が切り込む。遠くから見ても分かるその恐面はヤクザかと思われる。まさかキバオウのやつ、これを狙っていたのか?まずは下っ端が出しゃばり、そして後からボスが脅しをかける。恐れ慄いたテスター達は名乗り出ざるを得なくなる。
幸いにも、俺はβテスターじゃない。権利を得たものの、参加出来なかったのだ。そんな奴はβテスターではない。だよな?
だがそいつは、俺の怯えをいい意味で裏切ってくれた。
「俺の名前はエギルだ。キバオウさん。あんたが言いたいのは、βテスターがビギナーを見捨てたせいで大勢の死者が出た。それについて謝罪、賠償しろと。そう言いたいんだな?」
「せや。」
どうやら、エギルはキバオウの仲間では無かったようだ。これに俺は一安心する。この漢ならキバオウを言葉でねじ伏せそうだ。
迫り来るエギルに対して、キバオウはせやと威張っているかのように言う。だが、大男に迫られて一歩引いてしまっている。隠そうとしているのだろうが、ビビっているのが丸わかりだ。
「このガイドブックを持っているか?道具屋で無料配布されているものだ。」
エギルは懐から一冊の本を取り出した。そのタイトルは『アインクラッド攻略本第一層攻略編』だ。基本編、応用編から続き、第三版だ。この本には第一層に関する情報が様々に盛り込まれている。売っているものやクエスト情報はもちろんのこと、迷宮区への行く手を阻んでいたフィールドボスや、迷宮区最深部に身を構えるフロアボス(これから倒すボス)の情報も書かれている。まだ挑んでもいないボスの情報が書かれているということは…。
「もろたで。それがどないしたんや。」
相変わらず虚勢を張り続けるキバオウ。弱い犬ほどよく吠えるという言葉が示す通り、散々吠えまくった犬は自分より大きい相手を前にして、声が小さくなっている。
「これを配布していたのはβテスター達だ。」
「なんやて?!!」
βテスターが配布していたというのは俺の予想通りだった。それに対してキバオウは全く予想外だったらしく、衝撃的な事実を前に驚いている。驚きながらも相変わらずビビットランットオペレーションを続けるその姿はまさに笑撃的だった。
「情報は誰でも入手出来たんだ。それなのに大勢のプレイヤーが亡くなった。それを踏まえて俺たちが今後どう動くかがこの場で議論されると思ったのだがな。」
いい声でしょう?余裕の声量です。迫力が違いますよ。この中にもまともな人間がいて安心した。根の腐った野郎どもばかりでは無いようだ。
エギルの発言に対して反論出来なくなったキバオウは、「チッ」と舌打ちしてステージを降りた。感心するほどの負け犬っぷりだ。それに対してエギルは堂々と客席に降りてきた。これが格の違いって奴か…。
「それじゃあ攻略会議を再開させてもらう。」
ディアベルの仕切り直しによって、攻略会議は再開された。
「それじゃあ今から6人のパーティを組んでみてくれ。」
なんだそんなこと、簡t…あれ?俺って友達いたっけ?
俺のフレンドリストに載っている名前は、
『ユウ』
…………
………
……
…
以上。
…………
とりあえず臨時のパーティーでもいいから加えてもらわなければ!今までソロで活動していたからといって、ボス戦までソロで挑む気は無い。残機がいくらあっても足りないのに、残機0で挑むとか、狂気の沙汰だ。
気に食わないが、とにかく前のほうの人だまりに声をかけていくしかなさそうだ。
「俺を仲間に入れてくれないか?」
「だが断る。」
断られた。
「俺をここで働かせてください。」
「このパーティーは6人用なんだ。悪いけど君は…」
断られた。
「このパーティーは5人で構成されていますか?」
「残念だったな。トリックだよ。」
5人の後ろから人が出てきた。どうやらもう6人集まっていたようだ。
断られた。
「こんなパーティーメンバーで大丈夫か?」
「大丈夫だ。問題ない。」
どうやらパーティーメンバーを変更するつもりも無いようだ。
断られた。
せめて、さっきのが死亡フラグでないことを願う。
「ここはまだ全員集まってないのか?」
「まずは落ち着いて聞いて欲しい。うん、『もう』6人なんだ。謝っても許してもらおうとも思わない。」
断られた。
キバオウのパーティーは…円環の断りに導かれてしまえ。
目ぼしいパーティーはもう無いのか?俺は血眼になって探す。そして後ろの方で、黒髪の男がローブのプレイヤーを口説いているのが見えた。俺が座っていた席より後ろの方だ。人間の目は後ろについていないという当たり前のことを、今になって気がついた。
とにかく、あのグループなら入れてもらえるだろう。俺は早速声をかける。
「なぁ、あんたのパーティーにおr「俺を入れてくれ〜!!」」
誰だ!!俺の台詞をとったやつは!!主人公の台詞を奪うとか重罪だぞ。
ごほん。
メタ話はここまでにして、俺は声が聞こえた方へと振り向く。そこには台詞窃盗罪の容疑者、いや犯人がいた。脳内裁判により、判決は死刑に即決した。
「いいぜ。」
黒髪のプレイヤーはメニューを開き、操作する。
kiritoからパーティーに誘われました。
加入しますか?
と、目の前に表示される。俺は承認ボタンを押す。これで晴れてパーティーに加わることができたのだ。
まぁ、結果オーライだったので、少しは刑を軽くして、3分の2殺しぐらいにしておいてあげよう。俺って寛大。
「俺はシヴァだ〜!ヨロシクゥ〜!」
「俺はキリトだ。よろしく。」
両手剣を背中に担ぐうるさい大男シヴァと、片手剣を背負っている黒髪平凡顔のキリトが握手をする。
「ジンだ。よろしく。」
遅れて自己紹介し、流れに従って二人と握手する。
「よろしく。」
まずはキリトと握手し、
「ヨロシクゥ〜!」
シヴァとも握手…痛い。
シヴァめ、強く握り過ぎだ。こいつは間違いなくパワータイプのプレイヤーだろう。さっきは3分の2殺し程度にしようと思っていたのだが、2分の3殺しにしないと俺の気がすまない。
「よろしく。」
俺は怒りを笑顔で隠し、握手する。それより早く手を離せ!離してください!離していただけませんか?しばらく俺の右手がシヴァの両手でぶんぶん縦に振られる。
「それじゃあ、そろそろ攻略会議を再開します。」
という声によって、ようやく俺の手は解放された。
細剣を腰にかけている謎のローブプレイヤーとは、また後で挨拶すればいいや。
俺たちの攻略会議はこれからだ!
真昼間に始まった攻略会議が終了したのは太陽が沈み始めた頃だった。攻略会議が終了するやいなや、俺は宿屋に直行した。俺の夜行性的生活習慣では、攻略会議の時間は睡眠時間だ。寝る間を惜しんで攻略会議に参加したのだ。だがもう限界。
「一人部屋。一泊で。」
俺は宿屋に着くと、受付のNPCに部屋を要請した。しかし、
「現在、一人部屋は満室でございます。空いているお部屋は二人部屋が一室のみです。」
一人部屋が空いていなかったのだ。いつもなら空いているのだが…。そうだ、今日は攻略会議だった。参加していたプレイヤーが事前に寝床を確保したのだろう。今はとにかく寝たいのだ。値段が高いが、仕方がない。
「それj「ちょ〜っと待った〜!!」」
俺とNPCの会話にやかましい声が乱入してきた。シヴァだ。
シヴァは俺の横に来るなり、NPCに話しかける。
「俺と〜こいつで〜二人部屋。で〜料金は割り勘で〜。オ〜ケ〜?」
「ちょっ、待てよ」
という俺の制止を無視して、シヴァは勝手に二人部屋を申請してしまった。いや、問題はそれよりもこいつと同じ部屋になってしまうことだ。こんなやかましくてうるさくてうっとおしいくて馬鹿力な奴の隣で寝るとか嫌だ。
「いやぁ〜助かった〜。寝床確保してなかったんだよ〜。ジンに着いてきてよかった〜。マジありがと〜。」
と、こちらの気持ちも理解しないで感謝してくる。力のサジ加減を知らない奴め。マジ空気読め。バーツ…思いつかない。強いのに…。
しかしうるさい奴が隣にいるとはいえ、料金は一人部屋より安く済み、直ぐにベッドに入れる。他の宿屋を探す気力も無い。仕方なく俺は目の前に出ている確認画面の⚪︎を選択する。契約は完了し、俺の財布から、料金分だけ自動的にお金が引かれる。
安くなったからと言って、妥協はしない。宿確保に協力したので、貸し借り無しで2分の3殺しに変わりはない。
「お部屋は2階21号室です。」
「早く行こうぜ〜!」
早速階段を登り始めるシヴァ。NPCの案内を聞いていたのか疑いたくなるような早業。その高すぎるテンションを何とかして欲しい。こっちが疲れる。
部屋に入ると、そこには2つのベッドとそれに挟まれるようにして小さなテーブルが置かれていた。床はただのフローリング。安い宿屋なので絨毯など無い。
俺は武装解除し、ソッコーでベッドダイブした。
「もう寝るから静かにしててくれ。」
と、シヴァに釘をさす。
「分かった〜。」
と返して来たが、本当に分かってるのだろうか?疑わしい。
「黙って武器の手入れでもするかぁ〜。」
ボソリと呟くシヴァ。
俺は武器を磨く音を子守唄にして眠りについた。
目が覚める。メニューを開き、時計を見る。
2022年12月3日(木)
AM 04:12
普段が夜行性なせいか、お日様よりも先に起きてしまった。
テーブルの向こうにあるベッドを見ると、そこにはシヴァが寝ていた。掛け布団は蹴飛ばされ、ベッドから落ちていた。俺はそれを拾ってやって、シヴァの腹に掛けてやる。
こんな奴でも今日のボス戦ではパーティーメンバーだ。風邪をひいて、それが原因で俺の足を引っ張られては困る。そうなる要因は多少なりとも排除せねばならない。2分の3殺しにするのは攻略が終わってからだ。
さて、集合時間はAM09:00。まだ十分に時間がある。今すぐ狩りに出かけたいが、俺の言いつけを守って静かにしてくれていたこいつを置いて行く訳にもいかない。ここは大人しく武器の手入れでもしていよう。
俺はストレージからメンテナンス道具を取り出す。おっと、せっかくだから索敵スキル上げもしようか。俺は索敵スキルを発動したまま、愛剣≪ショートダガー+4≫を磨いた。
「おはよ〜。」
磨くことに夢中になっていた俺は、背後から近づいてくるもう一人の漢に気がつかなかった。シヴァだ。
「あー…起こしちまったか?」
「いんや〜。俺は早寝早起きが〜日課だから〜、慣れてんだ〜。」
何気ない朝のやりとり。リアルで妹を起こして以来だ。ソロプレイをしていた俺には懐かしい何かを感じた。
さて、こいつも起きたことだし、もういいだろう。
「さて、俺は狩りに行くが、お前はどうするよ?」
「俺も行くぜ〜!!」
即答。寝起きなのに元気な奴だ。
「40秒で支度しな。」
フィールドに出る。日の出が近いため、空は薄明るくなっている。上を見上げると、そこには第二層の岩盤が見える。第二層はどんなフィールドがあるのだろうか。
第一層のフィールドはバラエティーに富んでいた。始まりの街周辺の草原エリア、ホルンカ周辺の森エリア、フィールドボスが道を閉ざしていた山岳エリアと洞窟エリア。そしてトールバーナー周辺は荒野エリアになっている。
また、それぞれのエリアで出てくるモンスターも異なっている。草原にはイノシシやオオカミなどの獣系モンスター、森には植物系モンスター、そしてここ荒野エリアと迷宮区にはコボルト系モンスターが出現する。
第一層のボスは、イルファング・ザ・コボルトロード。要するに、コボルトの王というわけだ。迷宮区、そしてこの荒野エリアはフロアボスの下、コボルト達によって支配されているという設定だろう。
さて、敵はどこにいるかな。あたりを見回す俺に声がかけられた。
「なぁ〜、スイッチの練習しないか〜?」
「はぁ?スイッチ?ナニソレ、オイシイノ?」
スイッチとは、何かのオンオフ状態を切り替えるものであることは知っている。電化製品に多い。だが、SAOではどういう意味だろうか?
「おまっ〜、すげ〜な〜!よくそれでここまで来たな〜。」
「俺はソロなんだ。」
シヴァの言葉は恐らく皮肉だろうが、褒め言葉として受け取ろう。シヴァは「はぁ〜…」とため息をついてから、スイッチの説明をしてくれた。
「スイッチってのはな〜、合図に合わせて〜、前衛と後衛を〜入れ替えるシステム外スキルだ〜。」
「それで、何のメリットがあるんだ?」
「前衛は〜敵と真っ正面から戦うことになるから〜、HPが減るだろ〜?そこで〜スイッチによって〜前衛と後衛が入れ替えられれば〜、前衛だった人は後衛になって〜回復する余裕ができるだろ〜。それに〜前衛と後衛の武器が違えば〜、スイッチによって〜戦闘パターンが変えられるだろ〜。そうなれば〜敵は多少なりとも混乱するし〜、敵の動きに柔軟に対応できるだろ〜。」
俺の質問にも答えてくれるシヴァ。よー分からんが、色々メリットがありそうだ。連携プレイには必須テクになりそうだ。
「やって説明した方が早いや〜。俺が先行するから〜、合図したら〜スイッチしてくれ〜。」
そう言うと、シヴァは近くにいたコボルトに向かって斬り込んでいった。相変わらず向こうのペースに乗せられている気がするが、戦闘なら俺はソロでやっていただけあって、得意だ。背中の鞘から愛剣を引き抜き、主導権を奪還できる合図を待つ。
こうして後ろから見ていると、戦い方がまるで違う。俊敏特化型の俺に対して、シヴァは筋力特化型だ。回避を優先して、隙あらば連撃を食らわせる俺の戦い方に対して、シヴァは攻撃をそのどでかい両手剣で受け止め、それを押し返して隙を作り、そこに強烈な一撃をお見舞いするような戦い方をしている。なるほど、スイッチによって戦闘タイプがガラッと変われば、相手は間違いなく混乱してしまうだろう。
しかしこの男、ソードスキルを使っていないのにも関わらず、クリティカルヒットで5割近いHPを削りやがった。俺には考えられないダメージ量を誇る一撃を放つことから、筋力一極化ビルドなのだと予想がつく。
敵のHPが残り僅かになった。そろそろスイッチの合図が来るだろう。俺は意識をシヴァの動きに集中する。剣の振り方、足の踏み込み、呼吸のリズムまで、全てに注意をする。
「スイッチ〜!」
シヴァの剣が敵のもつ棍棒を弾きあげる。そしてその瞬間、重たい剣を振って硬直しているシヴァの横を通り過ぎ、俺は敵前へと飛び込んだ。まずは一撃、ガラ空きのお腹に短剣を突き立てる。すぐさま引き抜いてもう一撃。体制を立て直したコボルトは棍棒を横に一薙する。俺はそれを見切り、しゃがんで回避する。そして棍棒の空振りで隙のできたコボルトにむかって、下から思いっきり斬り上げる。それがトドメの一撃となり、敵は光の粒子になって消えた。
「ナイスタイミング〜ゥ。お前〜、ほんと〜にスイッチするの初めてか〜?」
「そうだが。これでいいんだろ?」
俺たちはその後も、集合時間ギリギリまでスイッチの練習をした。