ソードアート・オンライン〜Sonic Blader〜   作:タケノコさん

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短編のつもりが超長編になってしまいました。なので途中で一旦区切ることにしました。続きは一応完成はしているのですが、納得いかないのでもっと推敲させてもらいます。ですので、来月の投稿になります。




第二部 音楽家への道
第07話 武器強化詐欺


西暦2022年12月14日

アインクラッド 第二層

 

 現在の時刻はおよそ11時。夜の11時ではなく昼間の11時だ。夜行性の俺がこんな時間に活動しているのは珍しいが、寝る間も惜しんで経験値稼ぎをしていたらこんな時間になってしまった。

 今頃攻略組の連中はボス攻略に向かっている。だが、俺はその中にはいない。皆が必死に戦ってる最中、俺は街をぶらぶらしていた。

 何故俺がフロアボス攻略に参加しないのか、理由は二つある。

 

 一つ目は単純だ。ただあいつらと一緒にいたくないからだ。第一層のボス戦から時間が経っているので皆頭が冷えているとは思うが、やはりあのような人と会うのは抵抗がある。トラウマの一種だ。

 二つ目は、これは多少複雑な話になるが、先日俺の愛剣≪ショートダガー+6≫が粉々に砕け散ったからだ。

俺の予定では、ショートダガーをさらに強化し、ショートダガー+7にして、そいつで第三層迷宮区あたりまで突き抜けていこうと思っていた。もちろん定期的に強化を続けてだ。だが、俺の予定は愛剣と共に砕け散ってしまった。

 

 

 

そう、これは三日前の出来事である。

 

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 いつもの通り、日没頃に目を覚ます。昨日までの泊り込みの狩りでアイテムを消費してしまったので、これから買おうと街をぶらついていた時だ。見慣れないお店が通りに出来ていた。何の店かと思い、見てみると鍛冶屋だった。それもプレイヤーの営む鍛冶屋だった。

 プレイヤーによる武器の強化は、NPCのそれに比べて数値的ボーナスが得られる。つまり、お得なのだ。昨日の狩りで素材も集まったことだし、強化してしまおうと、その店に立ち寄る。

 

「武器の強化をお願いします。」

「武器をお預かりしてもよろしいですか?」

 

 俺は愛剣を差し出す。

 

「強化するパラメーターは?」

「鋭さ(シャープネス)で。素材はこれで。」

 

 次に狩りで得た大量の素材を差し出す。

 

「分かりました。成功率は90%になりますが、よろしいですか?」

「あぁ。」

 

 SAOでは鍛冶に失敗はつきものだ。けど90%ならきっと大丈夫だろう。きっと成功する。もし失敗したらまた素材を集めるだけの話だ。

 

「それでは750コルになります。」

 

 そして最後にお金を支払う。NPCの鍛冶屋と同じようなやりとりだ。ただ異なる点といえば、取引相手の名前が≪Nezha≫(ネズハかな?)になっていることぐらいだ。何ら珍しいことはない。

 必要なもの全てを受け取ったネズハは、まず素材を窯に入れる。そして火がごうごうと燃えたぎる中に剣を入れる。剣は熱で紅く光りだす。熱を帯びた剣を窯から取り出し、金床に置き、ハンマーで何度か叩く。

 

ーーーカン、カン、カン

 

 という音が辺りに響く。熱いうちに叩かれた剣は再び窯の中へと入れられる。NPCの鍛冶屋とは何ら変わらない動作。だけど、NPCよりも作業を丁寧にこなしている。作業は順調に進んでいた。

 

 そう、ここまでは。

 

 釜の中の剣を覗き込む。成功確率は90%。どうか成功してくれと、剣の成り行きを見守る。

すると突然、青い光が俺の剣を包み込み、やがて俺の愛剣はポリゴン片となってしまった。

 

「えっ?!」

 

 思わず声がこぼれる。何が起こったんだ?どういうことだ…。まるで意味が分からんぞ!わけが分からないよ!誰か説明してくれよぉ!

 

「も、申し訳ありません…。剣の強化に失敗してしまったようです。」

 

 そう言われてもやはり理解が出来なかった。アインクラッド攻略本には、鍛冶の失敗は3種類あると書いてあった。強化パラメーターが上がらない場合、強化する種類が変わってしまう場合、そして滅多に起きないのが逆に劣化してしまう場合だ。

 

「武器が壊れるなど、あり得ない!」

 

 思わず声に出る。

 

「も、申し訳ありません。しかし…、私にもどうしてこのような事態になってしまったのか…、分からないのです。」

 

 分からないだと?!ふざけるな!と言いそうになったが、何とかこらえる。

 βテストを参考にして書かれたアインクラッド攻略本に記述されていなかったということは、βテストの時には発見されなかった、あるいは正式版から追加された要素であることが推測できる。コボルトロードの武器が曲刀ではなく、刀だったのと同じだ。もしそうなら、こいつに責任は無い。

 

「お支払いいただいたコルはお返しするので、どうかお許しください。」

 

 ここまで言われてしまっては引き下がるしかない。俺は大人しくコルを受け取り、その場を立ち去った。

 今回はただ運が悪かっただけなのかもしれないが、鍛冶屋は慎重に選ぶ必要があるかもしれない。

 予備の剣(何の強化もないショートダガー)だと戦力不足だろうから、この際変えてしまおうと、そのまま武器屋に立ち寄ってブロンズダガーを購入した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 そして時は現在に戻る。

 

 

 新たなる愛剣(仮)はなかなか手に馴染まなかった。その理由はまず武器の重量にある。初期装備の≪スモールダガー≫とトールバーナーから使い続けた愛剣≪ショートダガー≫は同じ重さだった。しかし≪ブロンズダガー≫はそれらよりわずかに重い。そのせいで攻撃がほんの少し遅れ、戦闘のテンポを乱しているのだ。

 多少の重さでも影響が出てしまったという点においては、俺のビルドにも問題がある。俺はこれまでレベルアップの度に俊敏ばかり上げて、俊敏一極型ビルドにしてきた。そのせいで筋力値が他の人に比べて低く、少しの重量でも重く感じてしまうのだ。レベルを上げて筋力を上げれば解決するのだろうが、馴染まない剣で経験値を稼ぐのはなかなか骨が折れる。しかも相手は毒持ちの蜂なので、攻撃を喰らえば一定確率で毒状態になり、HPがじわじわと削られてしまう。そうならないように慎重に戦っているのだが、そのせいで戦闘に時間がかかり、なかなか捗らない。また、慎重な戦闘は精神を大きく疲弊させ、長時間の戦闘が困難となる。これもまたレベルアップ作業効率低下の原因だ。

 SAOのアバターは自分の脳が直接指令を出している。デスゲームと化したこのゲームでは、脳の疲労は文字通り命取りだ。今日も経験値稼ぎに励んで疲労が溜まってきたので、迷宮区から第二層最後の街、というか村、≪タラン≫に戻ってきた。と言うわけだ。

 

 減ってきた解毒ポーションと回復ポーションを店で補給し、休憩がてら昼飯でも食おうと、どこかいい場所は無いかと探す。村のはずれに良さげな芝生を見かけたので、その上に座り込む。太陽の光を浴びた草は微かに熱を帯び、絨毯のようだ。12月の少し冷たい風が肌を撫でる。肌を通してオーバーヒートしかけた脳がゆっくりと冷やしていく。

 昼飯はいつもと同じメニューだ攻略組のお供こと『カチカチパン』と、第二層名物の『牛乳モドキ』をアイテム欄からオブジェクト化する。

 

「いただきます。」

 

 俺はパンにかぶりつく。そして噛みちぎる。先程描写した通り、このパンはフランスパンもびっくりするほど硬い。噛むのにも一苦労なこのパンだが、実は噛めば噛む程味が出てきて、うまい!テーレッテレー。ご飯派だった俺はゲーム開始当初、このパンを嫌っていた。だけどSAOには主食がこれしかなく、仕方なくずっと食べていた。そしたらだんだんその味が癖になってきてしまい、今となっては毎食これを食べている。

 味に飽きたら、パンをミルク(仮)にディップイン!こうやってつけて…うまい!

 

「ちょっと、ジン坊!」

 

 ジン坊とは俺のことだ。こんなわけの分からんあだ名で俺を呼ぶ人物は一人しかいない。

 

「どうした?アルゴ?」

 

 口の中のミルクのようなもの付きパンを白い液体(牛乳?)で流し込み、返事をする。

 俺のことをジン坊なんて呼ぶやつは情報屋のアルゴしかいない。アインクラッド攻略本の情報提供者だ。攻略本の情報には本当に世話になった。時にはモンスターとの戦い方を教え、時には効率的なレベルアップの方法を教え、時には俺の身を守る術を教えてくれた。コボルトロードの武器が違ったり、鍛冶の失敗で武器が壊れることが書いてなかったり、問題点はあるものの、正式版の仕様変更に対応できないのは仕方がない。恨んで解決するような問題ではないのだから、恨むだけ恨み損だ。

 

「突然で悪いんだケド、ジン坊、護衛を頼まれてくれないカ?」

「護衛?」

 

 意外な要件に思わず聞き返す。アルゴが話しかけてくる時といえば、情報を売りに来るか、収集に来るかのいずれかだ。そんな奴から護衛任務を頼まれるのは始めてだ。そもそも、俺は誰かに護衛を頼まれたことはないし、クエストも含めて護衛などしたことがない。

 

「オイラとナー坊をボス部屋まで連れて行ってくれないカ?もちろん報酬は出すヨ。」

 

 アルゴが言うナー坊は、アルゴの隣で「どうも」と言いながら頭を下げる。

 

「ネズハか。」

 

 SAO初の鍛冶屋プレイヤーで、俺の愛剣を砕いた人物がそこにいた。

 

「あのぉ…、僕、『ネズハ』じゃないです。≪Nezha≫と綴って『ナタク』って読むんです。「ナタク」って言うのは、中国の《封神演義》に登場する伝説の勇者の名前なんです。あっ、でもネズハって呼んでくださってもいいですよ。」

 

 ネズハじゃなくてナタク?あぁ、成る程。それでナー坊な訳か。なんかおかしいとは思っていたが、これでスッキリだ。けど、覚え直すのも面倒なので、ネズハと呼ぼう。

 

「とにかく、事情を聞かせてくれ。」

 

 俺はアルゴに説明を要求する。

 

「実はナ、今回のフロアボスについて新たに重要な情報が入ったんダ。オレっちとしたことが、情報を集め損ねてたなんて情報屋の名が泣いちまうヨ。」

「要するに情報屋アルゴ様の名誉のために戦えと、そういうことか?」

 

 ちょっと皮肉を込めて答える。

 

「それもあるガ、それよりも情報の内容がとんでもないことなんだヨ。伝えないと死人が出るかもしれないヨ。」

 

 あるのかヨ!というツッコミは置いておいて、死人が出るかもしれないというのは聞き捨てならない。

 

「死人が出るかもしれない程の情報って一体何なんだ。」

 

 そして予言どおり、とんでもない情報がアルゴの口から出てきた。

 

「真のボスが別にいるって情報だヨ。」

「マジかよ?!それはヤバイな。」

 

 俺はフロアボス戦攻略参加経験があるからよく分かる。ボス戦では目の前の敵に集中して、そのペースに合わせる。短期決戦ならば技やアイテムを出し惜しみなく使うし、長期決戦になるのなら小出しにする。相手や作戦に合わせてペース配分は変わる。

 真ボスが登場するということは、そのペースが一気に乱れてしまう。ポーションの使用頻度を見誤れば、真のボスの目の前で回復出来ない、なんてことになりかねない。情報不足は死を招くことさえあるのだ。第一層でのディアベルのように。

 

「だから、頼むヨ!」

 

 切羽詰まった状況なのは分かった。けど俺がボス戦に行っていないのには前述の通り理由がある。一つ目の攻略組と会いたくないというのは俺が我慢すれば済むことだ。だが問題は二つ目だ。

 

「すまないが無理だ。ネズハは知ってるだろうが、先日愛剣が折れちまってよ、新しいの買ったんだが、なかなか手に馴染まなくてな。雑魚戦にも苦労してるんだ。護衛なんてできそうにない。」

 

 剣が変わってからなかなか調子が出ない。そんな俺に護衛など務まらないだろうし、フロアボス戦だって生き残れる自信がない。

 

「それなら…。」

 

 突然しゃべりだしたネズハ。メニューを操作しているようだが…何をするんだ?そして俺の目の前にこんな文字が表示された。

 

 Nezhaからプレゼントが届きました

 

 プレゼント?俺はメニューを操作してプレゼントを開く。プレゼントの中身は≪ショートダガー+7≫だった。

もしやと思い、強化ステータスの履歴を見る。ボス戦や長い狩りでも壊れないようにする『丈夫さ+2』、非力でも高いダメージを与える『鋭さ+5』。このステータス構成…。

 

「これはもしかして…。」

「はい。あなたが使っていた物です。詳しい話は後でします。これを使って僕たちをボス部屋に連れて行ってください。お願いします!」

 

 ネズハは頭を下げてそう言った。

 俺は短剣を装備して試し振りをする。よく手に馴染み、身体に染み込んだ感覚と一致する。間違いない。これは俺の剣だ。これなら行ける。久々に狩りまくりたい気分だ。

 

「よし、分かった。護衛をやる。雑魚を倒すのは俺に任せろ!」

「ありがとうございます!」

「頼んだヨ、ジン坊。」

 

「話は走りながら頼む!」

 

 俺たちはボス部屋へ向かい、走り出した。

 

 

 

 村から迷宮区までのフィールドは道幅が広いので、モンスターは一切無視して行くことができる。こちらに気がついて追って来るやつもいるが、迷宮区に入れば追って来なくなる。今はとにかく走って、迷宮区まで逃げきらなければいけない。

 俺たちの走った軌跡をなぞるように蜂の群れが追って来る。このように、モンスターを引き連れて逃げ回り、さらにそれを他人になすりつける行為を『トレイン』と言い、MMORPGではマナー違反とされている。だけど今は急がなければいけない。俺たち特急電車が走る線路の上に人がいないことを願うしかない。

 

「んで、どうして俺の愛剣は壊れずに残ってたんだ?」

 

 蜂の群れを背にしてネズハに話しかける。

 

「実はあの時、強化は失敗していなかったんです。」

 

 あの時とはネズハが俺の剣を強化しようとして、俺の愛剣が砕け散ったように見えた時だろう。この剣が+7に強化されて返ってきたということは、強化自体には成功していたはずだ。だけど俺は失敗だと勘違いしてしまった。それは、愛剣がポリゴン片となったように見えたからだ。あのポリゴン片は何だったのか?物体が壊れるエフェクトではなかったのだ。だったらあのエフェクトは何だったのか…。

 

「剣の強化が完成した瞬間、クイックチェンジで剣をアイテムストレージに収納したんです。」

 

 つまるところ、あれはクイックチェンジで剣をしまった時のエフェクトだった訳だ。窯の中で見えにくかったとはいえ、早とちりするとは…俺も馬鹿だなぁ。

 自虐はこのくらいにして、質問を続ける。

 

「何でそんなことしたんだ?」

 

 この質問の答えはもう予想できている。言いにくいことだと分かった上で質問した。ネズハという人間がどういう人なのか、この質問で試しているのだ。

 

「それは…。」

 

 少しの間が空く。どう言うべきか頭の中で整理しているのだろう。次の発言はお前の評価に関わってくる。慎重に考えろ。そしてネズハの口が開く。

 

「ごめんなさい。あなたの剣を盗もうとしたんです。ギルドのみんなの分、強い装備やお金を集めて攻略組に混ざろうと思ったんです。」

「よかったよ。お前がいいやつで。」

「えっ…?!」

 

 素直に答えたことを俺は評価する。その返答にネズハは驚いたようだった。

 

「リアルで俺の周りは心が腐った奴ばかりだったから、ネズハがそういう奴じゃないことが分かって安心したよ。」

 

 世の中にはネチネチ言い訳をして、人に迷惑をかけたり、嫌がらせをさる奴らはたくさんいる。このSAOの中でも、キバオウみたいに己の欲望を無意味に正当化しようとしたりする奴もいるし、ゴーダ君やヤセヤセ君みたいに金のためなら何でもやる奴もいた。現実世界でも、醜い心の持ち主人はたくさんいた。人を見下し、蔑んでしか生きていけないような人達だ。そういう人達とたくさん触れ合ってきた俺にとって、ネズハはずいぶんできた人間だと思った。

 

「でも…。」

 

 ネズハは納得出来ないでいた。盗みを働いていたことに怒りが全く湧かないのかと言われれば、そうではない。怒りの感情は確かにある。だけど、それよりもネズハが悪いやつじゃなくてホッとした気持ちの方が大きい。もし醜悪な心の持ち主だったら、今すぐ護衛任務をやめていただろう。

 

「お前はいい奴だよ。今はそれでいい。」

「おしゃべりもその辺にしとけヨ。もうすぐ迷宮区だヨ。」

 

 迷宮区に入れば蜂は追ってこなくなる。それまであと少し。ふと後ろを振り向くと、20匹近い蜂が後ろをついてきていた。SAOの蜂は一匹の大きさが人の顔と同じくらいのサイズなので、たった20匹といえど追われれば恐怖心に駆られる。蜂蜜大好き熊さんも逃げ出すレベルだろう。見なければよかった…。後悔を胸に、迷宮区へ走りこむ。

 

「ひえぇー、やっぱり群れになると怖ぇーな。」

 

 迷宮区に入ったので、蜂は迷宮区入り口のあたりで散り散りになり、もう追ってこなくなった。

 

「ほっとしてる暇なんてないヨ。早く行くゾ。」

「へい。」

 

 俺は依頼主様に急かされ、休む間も無くまた走り出す。

ここから先は迷宮区、狭い通路や広い部屋が続くエリアだ。これまでの平野部とは違い、モンスターから逃げているのは危険だ。狭い通路で挟み撃ちにあったら逃げる場所がなくなってしまうからだ。そうならないためにも、通路の敵を排除しつつ進んでいかなければいけない。雑魚排除役を名乗り出たからには、最前線プレイヤーの意地と誇りと名誉を賭けて戦わなければならない。

 

 索敵スキルを駆使して敵を探す。目の前にある曲がり角のその先に、早速敵がいた。≪レッサートーラス・ストライカー≫だ。上半身が人で下半身が牛という人牛型モンスターだ。しかも二体。こいつらは音を聞きつけるなり倒されるまでこちらを追ってくる、厄介者だ。もう足音を聞きつけ、こちらに突進してきている。

 

「俺が出る!」

 

 俺は剣を抜き臨戦態勢を整える。走りながらソードスキルをチャージし、すれ違うように一体目を回避、二体の間に身体を滑り込ませる。そしてすぐさま≪ラウンド・アクセル≫を発動する。一撃目、俺の放った全方位攻撃は二体を捉える。そしてもう一撃、これでトドメだ。その瞬間気づいてしまった。

 

 二体目の人牛の更に後ろ、そこに三体目が隠れていたことに。

 

 そして二撃目、これによって二体のHPを削り取る。そして襲い来る三体目。スキル使用後の硬直のせいで、全く動けない。迫る人牛を前に何も出来ない。攻撃を喰らっても一撃で死ぬ訳ではないが、手痛い一撃には違いない。人牛が持っている斧が俺を斬り裂く…

 その直前、謎の円盤が俺の横を通りすぎる。そして謎の円盤SAOに切り裂かれた≪レッサートーラス・ストライカー≫は一瞬だけ怯む。そこにアルゴが飛び出して、トドメの≪ダブル・エッジ≫が決まる。これで三体目もポリゴン片となって消えていった。

 

「大丈夫ですか?」

「ありがとう。助かった。」

「情けないナ。攻略組ソロプレイヤーの名が泣くゾ。」

 

 やはりネズハはいいやつだ。ただしアルゴ、てめぇはダメだ。

 

「所で、それは何だ?」

 

 それとは、俺を救ってくれた円盤、ネズハの右手に握られているものだ。

 

「これは、≪チャクラム≫ですよ。」

 

 チャクラム…君と響きあうRPGでヒロインの天使ちゃんが使っていたが、あんな使いにくそうな武器がSAOにもあったなんて意外だ。そしてそれを使っているプレイヤーがいることも意外だ。このソードアート・オンラインは、その名の通り剣が主流となるゲームだ。剣の亜種として槌や斧や槍などもあるが、チャクラムはさらにマイナーだ。

 

「チャクラムなんて珍しいな。剣とか斧とか、そういうメジャーな武器は使わないのか?」

 

 聞いてみる。みんなと同じが嫌なのか、オンリーワンの座を獲得したいのか、それともたまたまレア武器のチャクラムが出てそれを使っているだけなのか。俺の予想はどれも外れた。

 

「実は僕、フルダイブ不適合者なんです。」

「不適合者?」

 

 聞き覚えのない単語だ。このSAOの環境に馴染めなかったということか?

 

「FNC、ノン・コンフォーミングのことだヨ。脳との通信にラグが出だりするせいデ、五感が機能しなくなるような症状だヨ。」

 アルゴ君、解説ありがとう。

 

「僕の場合は視覚に異常が出ました。遠近感に問題があって、そのせいで奥行きが上手く掴めないんです。」

 奥行きが掴めない。つまり間合いを計れないということだ。これはSAOにおいて死活問題だ。剣や斧を使えば、必然的に敵に近付いて、近距離戦闘をせざるを得ない。そこで間合いを計れなければ命中率はガタ落ちだ。

 だからこそのチャクラムというわけだ。チャクラムのように投剣系のスキルには、距離に応じて命中率にシステム補正が入る。これならば普通の人と大差ない命中率を確保することができるし、安全圏で戦うので相手の間合いが分からなくても、範囲攻撃や長距離攻撃にさえ気をつけていればダメージを受けない。

 

「そこでチャクラムというわけか。なるほど。考えたな。」

 

 一方で俺はこの世界を走り回れるという、安易な武器選びをしてしまった。浅はかなり。

 

「視覚障害があったもSAOは助けてくれない。お前はモンスターだけでなくその障害とも負けずに闘わなければならない。絶対に負けるなよ。」

 

 この言葉は浅はかな自分への戒めだ。俺に視覚障害があるわけではないが、この世界でさ安易な選択は俺の命さえも左右してしまうだろう。短剣という選択は結果オーライだったからよかったものの、もし他の武器を選択していたら…。俺は剣を振る事もできず命を落としていたかもしれない。

 

「ジン坊にしては良いこと言うナ。」

「まるで俺が普段良いことを言わないみたいな言い方だな…。まぁ事実か。」

 

 普段から一匹狼の俺が、他人に声をかけることは滅多にない。そんな俺が良いことを言ったことがあるだろうか?他人の心を揺り動かすことを言ったことがあるだろうか?いや、無い。

 ユウの存在宣言やシヴァのライバル宣言など、俺は聞くばかりだった。今後は言う側の立場になれるのだろうか?

 

「それよりも早くボス部屋へ行きましょうよ!」

「そうだナ。」

「おぅ!」

 

 俺たちは再び走り出した。

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