この世界には、二つの種族が住んでいる。―人間と喰種。喰われる側と喰う側であり、また狩る者と狩られる者という側面を持つ、複雑な関係だ。
―この物語は、その中で藻掻き続ける一組の番いの話だ。
『大喰い』神代リゼに襲われ、瀕死の重傷を負った金木研。襲った側の臓器移植を受け、奇跡的な生還を遂げたその少年は―『隻眼の王』は、目を覚ました。
(あれ……何で”病院に居る”んだ?)
反射的に身体を起こし、病室のカレンダーの日付を見ると……自分が”
(確か僕は……)
僕は”ここ”で目覚めるまでの記憶を思い出す。喰種になり、”あんていく”の皆と出会い、紆余曲折というには激しい戦いを生き抜いて……トーカちゃんとの間に家族が生まれ、……そして、多くの人たちに囲まれて老いて死んだ。
……でも、死んだ筈の僕が目覚めると、始まりの日に逆戻りだ。
(どうなっているんだろ、これ)
ベッドの上に倒れこむと、今までの日々を思い出す。……得たものは多いが、失ったものも少なくはない。
仮にこの世界で起きたこと、そして起きることが同じだとすれば。
「今の僕にでも……出来ることはきっとある」
何をどうすべきなのかは今の自分には定かではないが……不幸中の幸いと言うべきか、考える時間はきっとある。ゆっくりと……考えよう。
―それから数日後。喰種の味覚になってしまい、酷く不味いと感じるようになってしまった病院食と何とか格闘して流し込むようにしながら、静かな日々を送っていた。
……自分がどうすべきなのか、まだ決まっていない。自分と同じように”前の世界”のことを覚えている人が居るのかどうかも分からない。
(でもきっと……)
「じっとしては居られない……だろうな」
日が傾いて、夕日の光が窓から差し込むのをじっと見ながら思考する。
―その時だった。ガラリとドアが開き、僕の担当の看護師が入ってきた。
「あれ、何か有りました?」
まだ夕食には早いはずだが……、と首を傾げる。
「金木さん、面会の方がいらっしゃってます」
「!」
(面会……?ヒデは面会に来なかったはずだけど……)
”前”は誰も面会に来た記憶は無い。”前”とは違う出来事に、心がざわつく。
どうぞー、という看護師さんの声に続いて入ってきた人物の姿に、―心臓が止まった気がした。
「すみません、面会時間過ぎてるのに無理言っちゃって」
「いいえ、大丈夫ですよ。金木さん、退屈していらっしゃると思うので。じゃあ、お帰りの際は声かけて下さいね」
「はい、ありがとうございます」
ごゆっくり、と言って退室する看護師さん。彼女を笑顔で見送った後、面会に来た人物はこちらに向き直り、ふわりと笑う。
「顔色悪いね。―無理して食う必要はないと思うけど、そういう所はクソ真面目だな、カネキ」
「トーカ、ちゃん……」
―これが、僕らの二度目の喰種としての”はじめまして”だった。
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