#二 未踏
思考が纏まらない。ぐるぐると、坩堝にはまったように頭の中に言葉が形にならずに消える。
……どれだけ、経ったかは分からないが、何とか思考を纏めて言葉を紡ぐ。その間、トーカちゃんはずっと待ってくれていた。
「どうして……」
「どうしても何も……こうして来てるんだからさ。分かるでしょ?」
……彼女に言われずとも、自分の中で答えは出ているのだ。目の前に居る霧嶋董香は、”前”の記憶を持っている。理由は分からないが、覚えていてこうして会いに来てくれたのだ。
トーカちゃんは持ってきていたカバンから白い包み紙に包んだものを取り出すと、そっと僕の手に握らせてきた。
「これは……」
「店長に無理言って作ってもらったから、入院中はこれで乗り切ってよ。退院したら、直ぐに迎えに行くから」
包み紙を開くと、入っていたのは茶色い角砂糖が十数個。……かつて、半喰種になりたての時に世話になっていたものに、懐かしさがこみ上げてきた。
トーカちゃんはじっと角砂糖を見つめる僕を眺めてニコニコしていたが、不意にその表情が曇る。
「……どうしたの?」
「……実は、迷ってた。アンタは巻き込まれた人間だ。本来は、私たち喰種の世界とは何も関りがないはずなんだよ」
「それは……」
「アンタがリゼに襲われるのも、鉄骨を落とされるのも止めようと何度も考えた。金木研は……平和な世界で生きててほしいって。だけど……」
トーカちゃんはそこで不意に言葉を詰まらせ、その瞳からは大粒の涙がいくつも零れる。
「あんていくに通い始めたアンタの顔を何度も見てたら、アンタと出会った後の想い出が蘇ってきて……思っちゃったんだ。アンタと……また一緒に居たいって。傍に、居られないのは……ッ」
泣きじゃくりながら尚も言いつのろうとするトーカちゃんを、僕はそっと抱きしめた。……きっと、僕が思い出す前からずっと思い悩んできたのだろう。僕を喰種の世界に巻き込みたくないという気持ちと、また僕と一緒に居たいという気持ちの相反した感情をずっと抱えてきたのだ。僕のことを思って苦しむ彼女の姿を見て、僕の腹は決まった。
「カネ、キ……?」
「もういい。もういいんだ……トーカちゃん」
身体をそっと離し、トーカちゃんと正面から向き合うと、涙を手でそっと拭う。
「僕も……トーカちゃんと一緒がいい。君と一緒に……精一杯足掻くよ」
「……バカ……」
トーカちゃんは涙を流しながらくしゃくしゃに笑うと、僕の肩に顔を埋める。
……結局、僕たちは面会時間の終了までずっと抱き合い続けたのだった。
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