#三 起点
それから二週間は、トーカちゃんが差し入れしてくれた角砂糖で凌ぎ、結局”前”の時と同じ日数を入院して過ごした。
退院手続きを終えて病院から出ると、私服姿のトーカちゃんが待ってくれていた。結構おめかししていて、僕に会うのを楽しみにしていたのだな、と思い自然と頬が緩む。
「……何ニヤニヤしてんの」
「い、いや別に……」
「ハア……ほら、行くよ」
そう言ってトーカちゃんが差し出してきた左手を、そっと握った。そのまま手を繋いで歩き出そうとすると、携帯電話が鳴ったのでポケットから取り出して開く。
そこにはヒデからのメールが表示されていて、内容は”前”の時と同じ『ビックガールいこーぜ!オレ様のおごりだ。』だった。今は喰種の味覚になってしまっており、食べ物を無駄にするのもどうかと思い、ここは断ろうと思っていると……
「……ビックガールゥ……?」
一緒に携帯電話の画面を覗き込んでいていたトーカちゃんの目線が鋭くなり……こちらをじろりと見やる。
「あ……アハハ……」
(し、しまった……)
”前”の時はトーカちゃんと仲良くなる前であり、キレイどころの居る場所に行くのは何の問題もないのだが……今は心を通わせたトーカちゃんと一緒だ。ビックガールの中のことはトーカちゃんも知っているはずで……今は大問題である。
「だ、大丈夫……もう行かない、というか行けないし……」
思わずしどろもどろになって言葉を並び立てていると……トーカちゃんは表情を崩して苦笑いした。
「わかってるから。……ほら、さっさと断って行くよ」
「は、はい……」
僕は「病み上がりだから今日はパス」とヒデに断りのメールを入れると、トーカちゃんに促されるまま目的地に向かった。
手を繋いだトーカちゃんに連れられ、辿り着いたのはトーカちゃんが一人暮らしをしているマンションだった。懐から鍵を取り出し、ドアを開けたトーカちゃんは、そこで手を放してこちらを向いた。
「ほら、入って」
「おじゃまします「違うでしょ」え?」
僕の言葉の途中でぶった切ったトーカちゃんは、先ほどとは違いふわりと笑う。
「場所も中も違うけどさ……ここ”も”アンタの帰る家なんだよ」
その言葉に、トーカちゃんと一花と……家族と一緒に住んでいた日々が蘇る。(また、一緒に暮らしたい)その思いのままに、言葉を紡ぐ。
「!……ただいま」
「……おかえり」
そして向かい合って座った僕たち。……そこから始まったのは、ここに至るまでのトーカちゃんの物語だ。