ホロウ=猿空間
ホロウに飲み込まれた区画。そこにとある民家があった。
一戸建て、大きくも小さくもない、ごく普通の民家。どこからどう見ても一般的である。
だが、その内部は尋常ではなかった。
「チィッ、何だってホロウになんて飲み込まれてんだよ」
見渡す限り、漫画、漫画、漫画、たまにDVD……特定の作者によって描かれた漫画が、所狭しと本棚を埋め尽くしている。
その全てが新エリー都以前に存在した、旧時代の産物だった。
部屋の主は、相当なマニアであり、情熱を注ぎ込んでいることがうかがえる。
だが、その情熱もここで終わりだ。何故なら、この家もまたエーテルに満ちている。
「あーあ、侵食が始まってもうたらしゃーないな。ワシもエーテリアスになるで」
バキッバキッと、濃縮されたエーテルが身体に生える。エーテリアス化の前兆だ。
彼は一週間以上、ホロウに呑み込まれたと知らずに暮らしていた。それは、彼のエーテル適性が高かったからである。その数値……500億。
「避難失敗。ファー眠い」
彼の身体がエーテルの結晶に包まれた。いよいよエーテリアス化が始まる。
「う あ あ あ あ」
結晶化が広がり、周囲の物全てを巻き込みながら巨大化。
漫画、雑誌、DVD、グミ、パソコン……彼が集めた全ては彼自身に回帰する。
驚異的なエーテルの奔流が家屋を吹き飛ばし、巨大化を続けるその姿はある種の繭にも似ていた。
だが、その結晶は一定の大きさまで巨大化すると、急速に収縮した。まるで、内部を圧縮し、より硬く、よりタフにするかのように。
やがてその反応すらも収束すると、丸く見える形になった結晶の表面にひびが現れた。
内部から伸びてきたのは、ゴツゴツとした手。物を掴み、道具を扱うことに特化したそれは、ボディ・ペイントでもした人間の手に見える。
バキッ、バキッ、バキッ……
結晶が全て崩壊すると同時に、まるでうずくまるような体勢から静かに立ち上がった、新たなエーテリアス。
対話不可能、和解不可能のフルコンタクト知性体殺害マシーンであるそれが最初に行ったのは、ホロウ調査員が恐怖で股を濡らす行為だった。
『我が名は尊鷹』
まるで生気のない、マネキンのような顔と屈強な肉体を持ったエーテリアスは、意味のない獣じみた咆哮などではなく、確かに言葉を発した。
『ゼンレス・ゾーン・ゼロの門を開けろ! 完全なるエーテリアスの誕生だっ』
エーテル浸食によって狂い、壊れ、打ち捨てられた知能機械が、新たなる高度侵蝕体の誕生を祝福する。
それは超越したバトルの幕開け、一寸先すらも読めぬ展開。あるいは、暗く冷たい空間からの帰還者を歓迎する声だったのかもしれない。
『この力に一番戸惑っているのは俺なんだよね、怖くない?』
ただ1つ分かることは、このエーテリアスは誕生する際に取り込んだ作品の語録しか話せないことだ。
◆この話は一体…!?