『SHINZOU YOKOSE』
死神と掃除屋。
どちらも命を弄ぶ最悪の存在であるが、最初に動いたのは死神だった。
掠っただけでも、並の人間ならその後の人生を奪いかねない高級医療器具“超侵蝕エーテル無麻酔メス”を惜しみなく投擲し、ロームルを牽制する。
心臓さえ手に入れば、医療器具など二の次三の次……沈黙の死神は行動で示す。
「んなチャチな玩具でオレを殺せると思ってんのか、あーっ」
迫りくるメスをナイフで弾き飛ばし、ロームルが死神へ肉薄する。
最上級警戒対象、最高危険度エーテリアスと呼ばれる死神医療チームだが、本体の戦闘力は恐れられているより高くはない。
従って、殺しのプロであるロームルならば、この投擲は容易に見切れる程度でしかない。
「死神とか言われるお前にも喉元を斬り裂かれる感覚を味わわせてやるよ」
ナイフが死神のエーテルコアに迫る。しかし、死神は避けない。
その時だった。死神の白衣が、風もないのに不自然に揺れる。
「チィッ」
獣の直観と言うべき反応速度で離脱するロームル。
その判断はまさに正解だったと言わざるを得ない。なぜなら、白衣の下から現れたのは……
「クロスボウ……いや、何か見覚えがあるな」
幾多にも重ねられたような、異形のクロスボウ。
ロームルが知る由もないことだったが、エーテリアスと同じ組成で作られているであろうそれは、死神達がタナトスを狩り殺し、腕を奪って創り上げた心臓収集の道具だった。
「連射できるのか、ムカつくぜ……」
凄まじい勢いでエーテル・アローを発射するタナトス・クロスに、ロームルは近づけないでいた。
しかし、有利な状況にもかかわらず死神は後退し、ロームルの狩場からの離脱を図った。
「テメェ、逃げる気かあーん?」
襲いかかってきた割には逃げ腰の死神へ、ロームルは右腕に装着されたクロスボウを発射した。
連射こそできないものの、ロームルの腕前とカスタマイズにより、高い殺傷能力を誇る。
マシンガンのように乱射される矢と、ライフルのように正確無比な一撃。
二つの殺人技巧はしかし、互いのクロスボウを撃ち落とすに終わった。
「よくも俺の武器を……やってくれたな、あーっ」
お互いに残された道は、接近戦。
剛腕によって振るわれるナイフ、そんなロームルの攻撃を避け続け隙を伺う死神。
千日手になるかと思われた時、状況が動く。
「あん?」
死神がわざと放った濃いエーテルに釣られ、ブラストスパイダーが一匹やってきた。
カサカサと移動するそれを、死神はガシッと掴む。そして、ブラストスパイダーに超侵蝕エーテル無麻酔メスを何本も突き立てる。
「テメェ、よそ見してんじゃ――」
自分という敵がいるのによそ見をする死神に、怒りを向けるロームル。しかし、その言葉は続かなかった。
死神はブラストスパイダーのエーテルコアを抜き取るでもなく、そのままブラストスパイダーをロームルへと投げた。
そして投げられたブラストスパイダーは、手榴弾ほどの威力もない小規模爆発を起こす――メスを拡散させながら。
「んだよそりゃ!」
即席の手榴弾。ただし当たれば死にはしなくとも、激しい痛みが襲い来る。
ロームルは無作為に飛び散るメスを避け、撃ち落とし、迎撃することでかすり傷一つ負うことはなかった。まさかの一手に警戒し、一旦距離を取るロームル。
だが、それが。それこそが死神の狙いだった。
ギャ ギャ ギャ
「なにっ」
戦いをを妨害するように割って入ったのは、死神医療チームの一体“奪命車”だ。
奪命車のドアが開かれ、もう一人の死神が顔を覗かせる。
『SHINZOU HA KAISYUU SHITA』
『TESSYUU DA TESSYUUSI RO』
『ISOGEッ』
「はぁ?」
そして、躊躇いなく全速力でその場を去る。
「おい、逃げんのか!?」
そうは言うが、もうすでに追いつけない距離である。
「……」
――ロームルは命を握り、そして消す感覚に酔いしれている。
つまりは、命にある種の“価値”を見出している。歪で、身勝手極まりない価値であるが。
対して死神共は何を考えているかは不明だが、その行動パターンから予測される生命に対する価値観は――“心臓が詰まった肉袋”であるとされている。
「……」
死神は、個人ではくチームだ。
そして、目的はロームルの殺害でも、彼の心臓でもない。
――ロームルの足元に転がる亡骸、それを切開することこそが真の目的だったのだ。
「……」
死神医療チームは、ロームルを一瞥もせず逃げ去った。
後に残ったのは、唖然とするロームルと、心臓のない死体のみ――
「こ、これは……!?」
「ちょ、マジでヤバいって……!」
「あぁ?」
しかし、そこへ新たな乱入者が現れる。
Now Loading......
『お……おい、あれを見ろ』『“死神医療チーム”が待機してやがる』『決着がついたらすぐに“心臓”を抜き取るために』
トップスピードで移動する奪命車を遠目で目撃したマネモブはそう呟いた。
奪命車があそこまでのスピードを出す時は、強者に出会った時か、心臓を抜き終えた時だ。
『ク…クレイジーッ!!』『ファーック』『いずれ俺たちもああなっちまうのか』
死神医療チームによって犠牲者が出たのか、犠牲者が出たから死神医療チームが嗅ぎつけたのかはマネモブには分からない。
しかし、連中が現れてはホロウ・ザ・ヒーローは中止するべきだ。
『息の根を止めるべきです』
せめて遺体は回収しようと、奪命車の
めちゃくちゃ硬いタイヤを持つ奪命車が焦って通った後は、まるで切りつけられたような跡が残ることが多い。
そうやってたどること数分、マネモブや死臭の漂う一画についた。
『なにっ』『な…なんだあっ』
そこにいたのは、リンと知らんギャル。
そして、見るからに野蛮人を超えた野蛮人みたいなシリオン。その見た目は、アート漫画の最後で唐突に出てきた凶悪犯罪者にも匹敵する。
『“虐殺のバッカー”よ…お前の前ではどんな極悪人でも可愛い天使に見える』
事実、マネモブの見立ては何も間違っていない。
友人とギャルを殺そうとしているのは、掃除屋という凶悪犯罪者なのだから。
「ヤバいって……に、逃げなきゃ……!」
「シーシィア……?」
「おうおうビビっちまって……いいねぇその顔。うまそうな獲物って感じだ。さっきの奴みたく失望させてくれんなよ?」
シリオンの目が嗜虐に歪む。
ホロウでも中々見ないレベルの極悪人に、マネモブの怒りのメーターは振り切れている。
マネモブがすぐにでも飛び出そうとする中、リンがギャルを庇うように前に出て、恐怖を押し殺しながら啖呵を切った。
「悪いけど――」
『!』
「ゆっくり味わってる暇はないよ!」
味わわせてなどやるものか。
マネモブが跳び出す。だが、それと全く同時に飛び出す者がいた。
「ここにいるのは――私達だけじゃないんだから!」
マネモブとその影は、互いを認め合うと、まるで事前に示し合わせたかのように二人を庇うように構えた。
「ナイスタイミング、ビリー! ……とマネモブ!?」
『ヴヘヘヘへ』『どうもお久しぶりです』『ゴアです』
「流星の如く煌く……スターライト・コンビだと言っておこう!」
ビリーとマネモブがそろった。
これでフルコンタクト野蛮人・ロームルとの戦闘が始まる……と思いきや。
「間に合って良かったぜ。運営の連中を連れてきたぞ!」
ビリーはルール違反を厳しく罰するため、運営の人間を呼んできたのだ。
そして、ビリーの後ろからヌッと姿を現したのは、スーツを着こなした小柄な老人だった。
『あ…あんた誰や?』
「
「パヴェルさん!?」
「これはリン様……このような場所で出会えるとは、奇跡ってあるんですね」
審判は、まさかのパヴェル。
リンは知り合いの登場にホッとしたが、同時に何でこの人またTOPS関係のところで働いてるんだよと思った。
そんな困惑をつゆ知らず、ただ真面目に働いているだけのパヴェルは毅然と言い放った。
「ロームル選手、あなたの行為はスポーツマンシップどころか法律に中指を立てていルと申します」
「んだぁ? その喋り方……」
「選手からの通報を受けたほか、データスタンド内のキャロットも回収しました。あなたの不審な行為は全て記録され、さらなる調査や証拠収集の対象となルと申します」
「“パヴェ”はどこ行ったんだよ」
パヴェルは淡々と審判の業務をこなしていた。
実は、ここへは別の人間が来る予定だったのだが、ロームルの危険性を考慮し、戦闘に長けたパヴェルが派遣されたのだ。
「ビリー選手。大会ルールの遵守にご協力いただき、ありがとうございます」
「おうっスターライトナイトとして当然のことをしたまでだぜ!」
得意げに鋼鉄の胸を張るビリー。
そんな彼らにロームルは、疑問を抱いていた。
「ホロウの外と中じゃ通信はできねぇはずだ……どうやってお膳立てを整えた?」
「プロキシ流マジックだよ」
『一時的に仮死状態にする技が
「仮死状態……うっ、心臓が……」
マネモブに心臓を止められる感覚は、慣れるものではない。
青い顔をしたリンはそれを思い出して胸をさすった。
『しかしきつい減量だったな内海』
「それほどでもなかったかな。ビリーや他の選手、それにお兄ちゃんのおかげで楽に済んだよ。まあ、もしエーテリアスカードに盗聴用のバックドアとか仕込まれてたらヤバかったかもだけど……なかったから……」
『怒らないで下さいね』『強いだけの男ってバカみたいじゃないですか』
「なに……? オレを、バカにしやがったな……?」
ロームルはマネモブの直球の愚弄にキレた。
悪知恵を働かせるタイプではなく、どちらかと言うとシンプルに暴れまくるタイプの野蛮人なロームルは、バカにされることに我慢ならなかった。
血に濡れたナイフがギラリと光を反射する。
「ひん……!」
「
パヴェルの制止も効果があるとは言い難く、ロームルの怒りは増すばかりだ。
「仕方ありませんね……私の権限をもって、ホロウ・ザ・ヒーローの大会の一時中止を宣言すルと申します。皆様、ホロウ・エクストリームスポーツ連盟からの続報をお待ちください」
やむを得ず、パヴェルは持たされた権限によって大会を一時中断した。
それによって選手達は帰還する……帰還できず、ホロウに身を埋めてしまった選手もいた。
だが、確かに束の間の平和が訪れていた……ある一通のメッセージが届くまでは。
「映像って?」
治安局の偉い人、セヴェリアンに言われるがままビデオを再生するパエトーン兄妹。
そこに映っていたのは、記憶に新しい人物だった。
俺はブラックウルフ・ロームルだあっ
まだホロウで英雄が生まれると思ってるなんてお前たちには失望したよ
テメェらだけがルールを極められると思うなよ
せめて命ぐらいかけてくれよ
そんな根性の欠片も無い君たちにいい知らせがある
“エーテルカードが破損したら失格”というルールは撤回された
銃や刃物など凶器の使用
爆薬・毒物・罠…とにかくなんでもありだ
俺が隠した景品を見つけるなら手段は選ばない
闘う時も一報を入れる必要はない
俺がかき集めた"指名手配犯"が現場で暴れているからな
「この映像は一体……!?」
ロームルは朽峰グループに腹を立て、刑務所の看守と景品を運ぶトラックの運転手を殺害し、景品を持って逃走する。
模範的な凶悪犯罪者、野蛮人を超えた野蛮人のロームルは、なんとホロウ・ザ・ヒーローに代わる新たな大会を開催してしまったのだ。
参加者は問わず誰でもOK。しかもルールは無用で殺し合いもアリ。
ハッキリ言って倫理的はクズの部類に入る。
だが、リンはそんな大会に参加することを決意した。
「リン、本当に行くのかい?」
「うん。チャンスは今しかないから、それに――」
兄としては、こんな野蛮な大会に妹を送りたくない。
しかしリンには、どうしてもフリンツ合金製の音動機が必要なのだ。それに、シーシィアを一人にすることはできなかった。
「僕とリン、シーシィア、ビリー、ライト、ルーシーがホロウ探索を支える……ある意味“最強だ”」
「そうと決まれば出発っしょ!」
若者達は、それぞれの想いを胸にホロウへ向かった。
血で血を洗う、
私はキャプテン・マッスル
このメールを見てる君は選ばれし者
5000万ディニーを掴むチャンスを与えられた強き者
単刀直入に言おう
ホロウにいるあるシリオンをぶちのめして欲しい
名はロームル
掃除屋のファイターで“ブラックウルフ”の異名を持つ男だ
もちろんめちゃくちゃ強い
しかしこの闘いには絶対守らなければならない条件はない
ロームルを倒すには徒手空拳でなくてはならないなんてこともない
銃や刃物などの武器も使用可能
なぜなら万が一にも“君たちの命”を傷つけてはならないからだ
何よりも“君たちの命”が大事なんだ
ぶっちゃけこいつの命なんてどうでもいいんだ
“君たちの命”さえ生きていればなぁ
さぁ腕に自信のある者は今すぐホロウへ行け
ロームルを失神KOさせろ
急げっ乗り遅れるな
5000万ディニーを掴むんだ
“ブラックウルフ・ラッシュ”だ
パヴェルは何となく“パヴェ”は再利用せず捨てて“ル”だけ使ってそう(偏見を超えた偏見)
サブタイトルを変更(2026年4月12日)
旧
はっはあ――っ英雄は過去に死せずと言うじゃないか コレが強いも奴はコッチも強いものよ
新
はっはあ――っ英雄は過去に死せずと言うじゃないか 未来で生きてる奴は過去でも生きてるものよ