高濃度猿侵蝕体“マネキン・モブ”   作:アースゴース

104 / 108
はっはあ――っ英雄は過去に死せずと言うじゃないか 未来で生きてる奴は過去でも生きてるものよ 3

 リンとシーシィア、ビリー、ライトとルーシーがホロウについた時には、すでに野蛮人達でごった返していた。

 右を向けば危険そうな男が武器を手に闊歩しており、左を向けば近寄りがたい女がエーテリアスの息の根を止めている。

 集団でリンチされている者は、指名手配犯だ。ロームルが集めた極悪人だが、野蛮人達には多勢に無勢。

 

 「血と鉄と硝煙の匂いしかしないのヤバくない? 火の手も上がってるし……服に匂い染みちゃったらヤなんだけどォ」

 「むせる」

 「地獄って言葉はここのためにある」

 

 ロームルのビデオで集まった野蛮人と、キャプテン・マッスルのメールで集結した野蛮人。

 いくら一つにかたまろうと、彼ら同士は味方ではない。己の分け前を奪い合うためだけに存在する敵だ。

 現に、ヒステリックに暴れ回る狂人が一行に狙いを定めた。

 

 「敵敵敵!! お前、“敵”!!!!!!!!!!」

 「何だコイツ!?」

 「生憎、お前は俺の敵ですらないな」

 

 ライトの拳が炸裂し、狂人は一発で失神KO。

 気絶した狂人はボンプによってどこかへ運ばれていった。

 

 「いやもうマジで帰りたいんですけど」

 「もう笑うしかねぇな! 先が思いやられるぜ」

 「ここにはあんな連中しかいませんの?」

 

 戦慄すべきは、金と闘いに導かれし野蛮人共の多さだ。

 未だホロウ外から野蛮人が大挙して押し寄せ、エーテリアスや別の野蛮人と争いを繰り広げている。

 その中で、数多の野蛮人を蹴散らす、目立つ者達がいた。

 

 『む、君達は!』

 「このオンボロテューポーン……まさかあの時の!?」

 

 巨大な人型機械、見るからにボロボロのテューポーン・チャレンジャー。

 かつてカリュドーン・ラッシュでハンザイ・ボンプに腕をもがれ、クローン・ラッシュでポンペイにボコボコにされた野良テューポーンだ。

 彼は論理コアに発生したバグにより自我を獲得し、それ以来ホロウをさまよう機械系の野蛮人である。

 

 「ま、また5000万ディニーに踊らされてるんですの……」

 『贅沢がしたいわけじゃないんだ、身体を整備するためには金がいるんだ。悔しいだろうが仕方ないんだ』

 「でも今回は戦わず済むよね? 目的はあくまでロームルだから」

 「いやいや、こいつらにとっては俺達どころか全員ライバルだぜ。ここでおっ始まってもおかしくねぇよ」

 

 テューポーン・ボロボロは生きるためにメンテナンス費用が必要なので、なんとしてでも5000万ディニーは欲しい。

 廃棄されたテューポーン・デストロイヤーなどのパーツを継ぎ接ぎし、何とかしのいではいるがいつ機能停止してもおかしくはない。

 

 『君達も気を付けると良い。このブラックウルフ・ラッシュにはとんでもない怪物が参加しているらしい』

 「怪物?」

 「それって自我を持ったテューポーンよりヤバいのか?」

 『私も詳しくは分からないんだが、どうやら被害者は全員死んでいるらしい。正直なところ、被害だけで見ればあのロームルという輩よりも上だと考えられる』

 「殺人鬼より上だなんて、軽々しく言ってくれますわね」

 

 曰く、超ド級の野蛮人が紛れ込んでいる可能性が高いと言う。

 忠告を残したテューポーン・ボロボロは、ロームルを探してその場を後にした。

 

 「あーしらも行くべきじゃね?」

 「けど、肝心のルートが割り出せないや……」

 

 裂け目は多くある。

 その中で、ロームルが通った裂け目を探そうとするのは至難の技だ。

 しかしそんな時、救いの手が差し伸べられる。

 

 「フェッフェッフェ。難儀しておるようだの、若人よ」

 「あ、あなたは?」

 

 一行の前に突如として現れたのは、背中が曲がり、一部が突起したせむしの老人。

 ライト、そしてビリーをしてまるで気配を掴めなかった謎の人物に、二人の警戒の度合いが静かに跳ね上がる。

 

 「ワシは土竜刃五郎。物好きな老いぼれとでも思ってくれ、フェッフェッフェ」

 「は、はあ……」

 

 土竜刃五郎と名乗った老人は、周りの野蛮人とは違い非常に穏やかな気配を出していた。まるで蜃気楼を前にしているようにも、自然と対話しているようにも感じられる。

 ルーシーは、さりげなくリンを庇うように前へと出た。

 

 「それで? ご老人は私達に何の御用なのかしら?」

 「フェッフェッフェ、ここは人生の先達らしく若人にアドバイスをやろうと思ってな」

 「ふぅん、アドバイス……いきなり会ったばかりの相手を信用しろというのも難しい話ではなくて? それとも対価が高くつくのかしら?」

 「フェッフェッフェ、信じるも信じぬもお主ら次第よ。それに……()()はすでに貰っとるわい」

 「? すでに貰ってる?」

 「ああ、お主らには以前、世話になったのよ……フェッフェッフェ」

 

 世話になったと語る土竜。

 しかし、一行に思い当たる節はない。

 だが、土竜はニコニコと人の好さそうな笑いを浮かべている。すると土竜は、おもむろに何かを取り出した。

 

 「アドバイスとはこれじゃ。受け取れい」

 「うわわ、ケース?」

 

 リンが受け取ったのは、何の変哲もないジュラルミンケース。

 

 「これは何が入ってるの?」

 「フェッフェッフェ、実を言うと中身はさほど重要ではない。これはのう、あのロームルが最期まで持っていたケースなんじゃ」

 「ろ、ロームルが持ってたケース!?」

 

 そう、このジュラルミンケースは、景品をバラまくロームルが最後の方まで持っていた鞄なのである。

 つまり、ロームルの匂いも染みついているということだ。匂いが染みついているということは、シーシィアが匂いを辿れるということ。

 

 「もう一つアドバイスじゃ。お主の探している音動機は、ロームルを追えば自ずと見つかるじゃろう」

 「えっ」

 

 リンはドキッとした。

 自身の不調を解消するため、フリンツ合金製の音動機が必要であると言うことを、今会ったばかりの謎の老人が知っているのだから。

 

 「ど、どうしてそれを……」

 「フェッフェッフェ、知りたければ灘神影流の宗主を訪ねるがいい。それでは、さらばじゃ。フェッフェッフェ」

 

 土竜は木陰へと消えて行った。

 そして、老人が姿を消した木からは、鷹が飛び立つ。

 もう、誰の気配も残されていなかった。

 

 「土竜とか名乗ってたのに鷹になったな……」

 「そうだね……けど、どこか信頼できるような人だった」

 「店長がそう言うんならそうなんだろうな」

 

 残されたのは、ジュラルミンケースのみ。

 一行は、それを調べることにした。

 

 「シーシィア、何か匂う?」

 「ちょい待ち……うわ、くっさぁ……けどこれと同じ匂いが続いてる道があるんだよね」

 「辿れそう?」

 「よゆーよゆー!」

 

 シーシィアの鼻も問題なく機能している。

 これでロームルの行方を追えそうではある。

 

 「で、肝心の中身は何が入ってるのかしら?」

 「俺が開けよう」

 

 ビリーがジュラルミンケースを受け取る。

 生身の人間よりは頑丈で死ににくいビリーが、万が一これが罠だった場合に備え、名乗りを上げた。

 そっと、ビリーがケースを開く。そこには――

 

 「えっ」

 「なにっ」

 「な……なんだあっ」

 

 余すところなく詰め込まれた、紙幣。

 その総額……5000万ディニー也。

 

 「やべっ」

 

 それを見たビリーは慌ててケースを閉じた。

 しかし、時すでに遅し――周囲の野蛮人達の眼光が突き刺さる。

 

 「……」

 

 まるで獣、あるいはそれ以下の畜生。

 5000万ディニーを力ずくで奪う思考を隠しもせず、剣呑に過ぎる……殺気を孕んだ気配を漂わせる。

 

 「合図したら、ロームルに続く裂け目に飛び込め」

 「おう……」

 

 じりじりと、大勢の野蛮人が一行へ迫る。

 目的は5000万ディニー。それ以外は些事。

 やがて、争奪戦の火蓋が切って落とされる。

 

 「今だ!!」

 「多勢に無勢だいっけぇっ」

 

 ライトが裂け目へ続く道を塞いでいた邪魔な野蛮人を殴り飛ばし、全員で裂け目へ飛び込む。

 もちろん野蛮人達はそれを追い、壮絶なチェイスが繰り広げられた。

 

 「一体何人いやがるんだ!?」

 「あ、あのオンボロクソ機械! さりげなく野蛮人共に混ざってますわ!!」

 

 彼らを追いかける一団には、もちろんテューポーン・ボロボロもいる。

 5000万という金額は、かくも人を狂わせるものなのか。

 

 「店長! そのケース捨てろ!」

 「え、皆は良いの?」

 「どうせロームルをやっちまえば5000万は手に入るんだ、プラマイ0だ!」

 「あの野蛮人共を相手にすることに比べたら5000万なんてはした金ですわ!!」

 「金に釣られる獣の相手をしたいとは思わんな」

 

 いまなお増え続けている野蛮人共。

 一行の答えも一致している。ならばやることは一つ。

 

 「ほらっ、受け取って!」

 

 ケースが野蛮人の海へ投げ込まれる。

 巨額の金が封じられたケースが野蛮人と衝突した直後――殴り合いが開始された。

 

 「5000万ディニーは俺のものだ!」

 「野郎、ぶっ殺してやる」

 『我が手に5000万ディニーを!』

 

 醜い、あまりにも醜い。

 一行はその争いから目を背け、ロームルを追ってその場を後にした。

 

 

 

 Now Loading......

 

 

 

 野蛮人共の死闘は熾烈を極めた。

 拳による殴り合い、刃物、爆発物……ありとあらゆる武器、猛威が血と破壊の嵐を作り出した。

 だが、中でも最もアドバンテージを持ち、最も5000万ディニーに近づいたのは、テューポーン・ボロボロだと言えよう。

 

 『おおおお5000万ディニーッ!』

 

 経年劣化が激しいと言えど、元々が強固なテューポーンの装甲は、ありとあらゆる野蛮人の猛攻を受け切ってなお、大したダメージを負っていなかった。

 また、その巨体と製造コンセプトに基づいたハード・パンチは、野蛮人の意識をまとめて闇へと沈めるほどの威力を持つのだ。

 

 『獲った――』

 

 ゆえに5000万ディニーを勝ち取るのは当然の成り行きと言えよう。

 しかし、その時だった。ガァン、という激しい銃声が鳴り響いたのは。

 

 『なにっ』

 

 ボロボロの腕に火花が散る。

 これは元々のテューポーン・チャレンジャーの腕ではなく、テューポーン・デストロイヤーの腕だったことが幸いし、ダメージはなかった。

 しかし、いきなりの銃声に少なくない動揺が走る。

 

 『お前達、伏せろ!!』

 

 ズダン、ズダンと断続的に聞こえる銃声と、ボロボロから上がる火花。

 恐らくは拳銃やライフルではなく、ショットガンのもの。

 

 ボロボロは咄嗟に野蛮人達を庇うように腕を広げ、伏せるように促した。

 これは、彼が“生きたい”という意志を持つと同時に、人間を守るという使命を帯びているからでもある。

 

 『くっ、上かっ』

 

 何者かが空中から落下してくる。

 小さな影から放たれるのは、やはり躊躇いの無い発砲。

 だが、ただやられっぱなしのボロボロではない。彼は落下する人影に向かい、拳を振るう。

 

 『なにっ、レンチ!?』

 

 しかし、その拳はレンチによって防がれた。

 凄まじい膂力によってボロボロの腕が弾かれ、激しい火花が散る。

 やがてその人影が地上に降り立つと、自ずとその正体を理解することができた。

 

 『しかしきつい依頼だな内海』

 「はい。けどこのチャンスをものにして5000万ディニーを掴むんですけど」

 

 虚空に話しかける、ショットガンを構えた少女。

 相当疲れているのか、目が死んでいる。

 

 『誰に話しかけているんだ……?』

 『しかし認識されていないのは辛いな内海』

 「なら嫌でも存在を刻みつけてやれば良いだけなんですけど」

 『野蛮すぎないか内海』

 「ストレス発散なんですけど」

 

 内海と別に名乗ってもいない少女は、ショットガンをボロボロへと向ける。

 彼女の目的も5000万ディニー。一獲千金、人生を変える額がそこにはあるのだ。

 周囲の野蛮人が束になっても敵わなさそうな強者が睨み合う中、あえてその中へ飛び込む者もいた・。

 

 「横入りどぉもぉ~、ってお前はボロボロじゃねぇか」

 『お前は、いつぞやの原始人……』

 

 上半身半裸の、原始人風の男。

 

 「ここまでたどり着くのも楽じゃねぇんだよ」

 『あいつプロキシどころかボンプも連れてないぞ内海』

 「キャロット使えばいいだけなんですけど原始人さん」

 

 誰が見ても原始人と呼ばれる彼も、5000万ディニーを求めてやってきた。

 

 『邪魔立てするなら容赦はしないぞ』

 『乱戦は厄介だな内海』

 「誰が相手でもぶち抜くだけなんですけど。機械でも原始人でも関係ないんですけど」

 「コイツ、また……!!」

 

 一触即発の雰囲気。

 だが、そこへ更なる火種が注ぎ込まれる……

 

 

 

 俺はキャプテン・マッスルだぁっ

 まだホロウにいるなんてお前達の状況には戦慄したよ

 5000万ディニーなんてはした金と大切な命で釣り合うと思うなよ

 せめて命ぐらい大事にしてくれよ

 単刀直入に言おう、ホロウから逃げて欲しい 

 “ブラックウルフ・ラッシュ”という依頼は撤回された

 今回かかった費用

 医療費・抗侵蝕薬・武器…とにかく何でも補填だ

 お前達の命さえ無事なら言うことはない

 ただし逃げ遅れたなら一報入れろ

 もたもたしてると“奴”が現場に急行するからな

 

 

 

 「んだぁ? このメール……」

 

 全ての野蛮人達に届いたメール。

 あるいはそれは火種ではなく、水を差す行いだったのかもしれない。しかし、過熱した欲望はすでに危険な領域へと突入し、消すことはできない。

 

 『逃げろ内海』

 「5000万ディニーを前に逃げるなんてできないんですけど」

 『いいから逃げろ内海』

 

 しかし、キャプマスのメールを見て逃げる野蛮人は全体の三分の一程度。

 手厚い保証から人望のあるキャプマスだが、多くの野蛮人は5000万ディニーの魔力には抗えなかった。

 だからこそ彼らは感じ取ってしまう――周囲を支配する、異様な気配を。

 

 『センサーに反応あり……わ、私は知っている……この人物を知っている!!』

 

 レーダーによって“それ”を察知したボロボロが驚愕する。

 来る、来てしまう。いや、もうすぐそこまで来ているのだ。

 

 裂け目から、ゆっくりと姿を現す。

 その正体とは――

 

 

 




その頃の黒枝
「ダイアリン殿、大変だ! 5000万ディニーを掴むチャンスを与えられたんだっ」
「何を言ってるんですかこのコアを金玉に置換されたライオン機械人は?」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。