はい。最初はキモいと思ってたのが申し訳なくなってきたんですけど
スカモールホロウ、ロスカリファの真下にて。
マネモブ、ツイッギー、ゴリラ・ボンプ、ロックスプリングの三人と一匹は何やら怪しげな行動をしていた。
「向こうで遺書まで書いた手前くどいようだけど、本当やるのね?」
『やりますねぇ』
マネモブを思ったより小さかったオブスキュラに押し込みながらツイッギーが言った。
その光景はさながら、死体にビンタするどころかぶん殴るような非常識な行動に見える。しかしマネモブは死人ではなく、死人のように生きているクズである。
「これホントにオブスキュラなの? 絶対設計ミスってるじゃない……!」
『恐らく原材料の不足から小型化せざるを得なかったと考えられる』
始まりの主の器の残骸から持ち出されたフリンツ合金は、大きなオブスキュラを作るにはあまりにも少なかった。
幸いだったのは、マネモブが人間的な体格の上、ボーン・コントロールや変水を使えるので、何とか小さな棺桶にも入ることができたことだろう。
「にしてもあのでっかいボンプは何なのかしらね。ロックスプリング、何か知ってない? ロスカリファ住みだったんでしょ?」
『さあね……ただ空中浮遊を可能としている通りロスカリファの技術力が高いのは確かだ』
ホロウに発生する無数の稲妻に照らされた、巨大なボンプ。
これはノルムー・ホローウェルが製作した“ボンプ・ザ・ジャイアント”なのだが、不慮の事故でホロウに落ちて以来、引き上げられずそのまま放置されている。
大分前にロスカリファを去ったロックスプリングはそのことを知らなかった。
「ふんっ、ふんっ……よし、入ったわ」
『あざーす』
マネモブが棺桶っぽいオブスキュラに入り込んだのを確認すると、黒鉄の巨人たるロボットへ乗り込んだロックスプリングが拳を握り込む。
その横では、機甲の霊長であるゴリラ・ボンプがナックル・ウォークで待機していた。
『師匠はホロウの外に出ても死なないんスよね?』
『そうですけど何か?』『…と思う』
『オブスキュラが本当に棺桶にならないことを祈ばかりだね』
ホロウ外で生存できるかはマネモブ自身でさえも五分五分。
だからこそホロウから近いエネルギー区、それも遊離エーテルの多い場所で試す必要があるのだ。
「じゃあ作戦通りに……ロックスプリングが私を、ゴリラがマネモブを抱えてホロウの外まで飛ぶ。これでいいのね?」
『方向もバッチリだ。最新のキャロットを買って良かったよ』
『ホ ギ ャ ア ア ア ア』
二人とも準備万端である。
ゴリラ・ボンプはマネモブが入ったオブスキュラを掴み、ロックスプリングはツイッギーを優しく抱えた。
ツイッギーは生身に見えるが、これでも体の比率は機械の方が多いくらいなので、多少は問題ない。
『カッ飛ぶから注意してね……5、4、3、2、1――発射』
ロックスプリングとゴリラ・ボンプのジェットパックが火を噴き、ホロウの上空へと飛び立った。
そのあまりにも高い推進力を見たスカモールホロウのエーテリアス達は何事かとざわめき、圧倒的な速度の金属塊を唖然と見上げるしかなかった。
『もうすぐホロウを抜ける……本当にいいんだね?』
『おうっ』『おうっ』『おうっ』
「ホントに大丈夫かしら」
オブスキュラの内部はホロウと同じ環境が保たれている。
マネモブがホロウ外に行くとなると、安全面でかなり不安があった。
皆からの扱いは雑だが、なんやかんやで心配はしてくれているのだ。
『ホロウ突破5秒前、4、3、2、1――』
『ホ ギ ャ ア ア ア ア』
二つの巨体がホロウを突破した。
そして目の前に広がるのは、天空都市ロスカリファを支える浮遊機能の要。
突破してからは急いで巨体のボンプでも腰を落ち着けることができ、なおかつ警邏に発見されない場所に潜り込んだ。
「マネモブ、生きてる?」
ロックスプリングから降りたツイッギーが、オブスキュラを叩きながら言う。
果たして生きているのか、消滅か。オブスキュラの内部からは――
『うげっ』『うげ――っ』『うげェーっ』
「……大丈夫そうね」
『エーテリアスでも吐くんスかね?』
『マネモブはルール無用でしょ』
本当に乗り物酔いなのかふざけているのかイマイチ分かりにくいマネモブだが、消滅はしていないようだった。
「取りあえず何とかなったわね」
『で、これからどうするんだい?』
『そのラミルだかレミエールだかをブッ飛ばすんスよね。でも町中に入らないと意味なくないスか』
「そこで私の出番よ」
ツイッギーはその場で着換え始めた。
『えっ』
『あの……一応自分ら男性人格なんスよ。いいんスかこれ……』
「あーん? あなた達なんて弟みたいなもんよ。なに一丁前に気まずいアピールしてるわけ?」
『稼働期間的には大先輩なのに……こ、こんなの納得できない』
着替えが終わる。
今回ツイッギーが着ることになったのは、シルバー小隊の制服に似たパンツスーツである。
デザインはレトロな雰囲気が漂っているものの、アンビー自身のスタイルによってかなり似合っていた。
「ロスカリファじゃ皆こういうファッションなのね?」
『間違いない。僕が新エリー都に行く前は皆そんな感じだったよ』
少なくとも、ロックスプリングの記憶ではそうだった。
「じゃあ私は行ってくるわね……見つかってバレても文句言わないでよ」
『どないする? まあ(元々師匠の突飛な思いつきだし)まあええやろ』
『気を付けてね、ロスカリファの警備は優秀だ。ダメそうなら一報入れてね、迎えに行くよ』
「お願いね」
ツイッギーは壁をよじ登り、去って行った。
彼女が目指すのは町中であり、そこでレミエールの情報収集を行う手筈となっている。
しかし、このあまりにもガバガバで行き当たりばったりな作戦が成功する確率はあるのだろうか。
『……姐さんも行っちまったし、この棺桶も開けるっスか』
『そうだね。ここは遊離エーテルが豊富だ。エーテリアスだって活動できる……濃度の関係で、活動能力は低下するかもしれないけどね』
ロックスプリングがオブスキュラを開けた。
中からは、マネモブがゆっくりと上体を起こして伸びをした。
『おいっ。ジャワティー買ってきてくれ』
『お客さん、ここはホテルじゃないんだよ。永眠が必要ならいくらでも火力をお見舞いしますよ』
『あっもう結構ですはいありがとうございました』
スッと立ち上がったマネモブは、隠れ家となった場所から地上を見る。
そして、かねてより言いたかったセリフを吐いた。
『下を見てください』『今日もバカが湧いてきてますね』
『絶対言うと思ったよ……』
『地上の人々を見下す天人……こいつクソっスね忌憚のない意見ってやつっス』
マネモブはロスカリファから下を見た時に、これを言うことを心に決めていたのだ。
残す目標はレミエールとの対決だけ。あとはツイッギーが情報を集めてくれるのを待つだけである。
『姐さんが町につくまではまだ時間がありそうというか、つくかどうかも分からないんで周囲の探索でもしといたらどうスか? 自分達はここら辺に仮拠点を作って、別の良さそうな場所を探しておくっス』
『あざーす』
こうしてホロウに近いエネルギー区とはいえ、ロスカリファへとマネモブが解き放たれた。
奇妙なエーテリアスが天空の都に与える影響はいかほどのものなのか……それは計り知ることができない。
しかし……嵐は確実に近づいていた。エーテルを含んだ強烈な嵐が。
次回『ツイッギー』
ロスカリファに潜入することができたとして、その先は一体どうするのか!?
全然進んでなくてごめんなあっ