どっちも空に浮かぶハイテク都市なんや
何とかエーテリアスや監視の目を潜り抜け、ロスカリファに潜入を果たしたツイッギー。しかし……彼女はある問題に直面していた。
「……」
右を見る。
歩く若者の服装は、新エリー都とあまり変わらないものだ。
スマホを持って誰かと電話している。
「……」
左を見る。
歩く老人の服装も、新エリー都で見られるものに近い。
同じく妻と思われる女性と、談笑しながら歩いていた。
「……」
一方のツイッギーはと言うと。
色こそシルバー小隊の制服と合わせてはいるものの、デザインとしては古かった。
そのレトロさたるや、道行くボンプが着ているものより古い。
つまるところ、ツイッギーは若干周りから浮いていた。
(ロックスプリング!! あなたこの服装で大丈夫って言ったわよね!!)
(も、申し訳ない。僕のいた時代が時代だから、ちょっとズレてるかな……)
ボンプ二人と会話するための小型通信機で、ツイッギーは小声で怒鳴った。
ロックスプリングがロスカリファを去ったのはかなり前だ。そのため、ファッションはもちろんその他の情勢が現状と噛み合わないのだ。
決してロックスプリングが海底都市が出てくるゲームの続編の天空都市が出てくるゲームのNPCを見て適当に服装を選んだわけではない。
(まあ、正直こんなことだろうと思ったわ……)
ツイッギーは中折れ帽を深く被りなおした。まるで呆れた表情を隠すように。
彼女はファッションも変わっているだろうと、ロックスプリングが提示した中では割と新し目のものを用意したつもりだった。
仮にも女性なので、流行から外れて奇異の目で見られるのは辛い……ということはなかった。
ツイッギーは灘・真・神影流で姉妹達を統率することでメンタルを鍛え上げている。たかが流行に乗り遅れた人扱いされたくらいなら、逆に愚弄が飛んでくるだろう。
「怪しまれないかが心配ね……」
戦闘用ボンプは論理コアまで筋肉が詰まっているのか。呆れから来るため息を吐きながら街を歩く。
ボンプ用の着替えマシーンで着替えさしてもらえと考えていると、あるものが目についた。それは……
「手配書?」
その手配書には、ピンクの髪をした女の写真が載っている。名は――
「レミエール・ダン! マネモブが探してた……ホントにここにいたのね。罪状は……ミス・サンブリンガーの暗殺未遂!?」
ツイッギーはそのあまりにもヤバい罪状に、口を押えて驚愕した。
残った目をこれでもかと見開く驚愕の声は、もちろんボンプ二人にも聞こえていた。
(えっなにっなっなんだあっ)
(う、嘘だろう……こんなことが……こ、こんなことが許されていいのか)
(許されなかったから指名手配なんでしょうが、あーっ)
特にロックスプリングの驚愕は大きかった。
彼はミス・サンブリンガー直々に作られた戦闘用ボンプ。彼女への愛も深かった。
(写真は送ったわ。マネモブに確認させてちょうだい)
(今確認したっス。『焦るなよ今殺してやっから』とのことっス)
(物騒ね)
(あっ)
(どうしたのよ?)
(……多分そっち、どこだったっスか?)
(ブーアストラムだよ)
(師匠がいきなり走り始めて、ブーアストラム方面に向かってるっぽいっス)
(あー?)
自分が絶対入れないであろう場所に赴くこのエーテリアスの目的は……!?
Now Loading......
『焦るなよ今殺してやっから』
襲い来る見知らぬエーテリアス達――それはクルッルと呼ばれている――をあの世に送りながら、マネモブはエネルギー区を駆けていた。
目指すは居住区ブーアストラム。本来マネモブはホロウ外に出られないが、今回はある秘密兵器を持ってきており、すでに身に着けている。それによって街を練り歩くことができるかは未知数だが、やってみなければバカが廃る。
『もちろん非公式ですけどみんな瞬殺です』
その長い爪で相手を一撃で昏倒させる、武の極致、ワンパン魔と言われるほどのエーテリアスであるクルッルが、何もできずに消滅していく。
ここにいるのは武術の達人。入神の領域へ達したエーテリアスの格闘家である。
腕が振られる前に踏み込み、気づいた時にはすでにエーテルコアを叩き割っている。
数に囲まれようとも、虚狩りにすら追従する異次元のスピードは到底とらえきれるものではなかった。
『どけどけ緊急事態なんだよ馬鹿野郎』
今のマネモブは対レミエール戦が近い(と思い込んでいる)こともあって絶好調だ。
周りに遊離エーテルしかないとしても、その勢いは衰えることを知らなかった。これは、マネモブのエーテルコアが休止状態に近い低活性であることも要因の一つだ。
だからこそ、マネモブは水銀級エーテリアスに認定されている一方、かなりエーテル濃度の低い場所でも活動できる。
『なにっ』
そんなマネモブは、途中である空間を見つけた。
空間に入った亀裂。見るからに危険な匂いを感じさせる。
これはエネルギー区で見られる特異な領域“シンギュラ・リーク”への入り口である。
簡単に説明すれば……一応は現実空間ではあるが、実質ホロウ、という空間なのである。もちろんエーテリアスも出てくる。
『修復ゥ…なにそれ』
もちろんマネモブがこの空間を塞ぐ術を知るわけがない。
しかし、こんな危険な領域に、マネモブは躊躇いなく足を突っ込んだ。
全てはレミエール・ダンを討ち取り、仲間達の仇を取るために――
Now Loading......
「うぅ~ん……」
ツイッギーが手配書を見ながら唸っていると、背後から何者かが近づいてきた。
大方、手配書を見に来た住民だと思ったが……その予想は外れ、明後日の方向へ飛んで行った。
「え、もしかしてツイッギー!?」
「でーッ!? て、店長さん達にビリーさん!? ……と知らない人と知らない人其の弐」
「誰が知らない人だっての! あーしにはシーシィアって名前があんの。お分かり?」
「強制的にノルムーが其の弐にされたみたいでムカつくのだ」
ツイッギーはまさかの出会いに驚愕した。
まさか、パエトーンツインズどころかビリーまでロスカリファにいるとは夢にも思わなかったのである。
完全なる不意打ちを喰らい、衝撃で脳ミソが機能不全を起こした。
「知り合いなのだ? ってことは新エリー都の……え? じゃあどっから来たのだ??」
「地獄から来たのよ」
「……不法侵入者!? ウッソだろお前なのだ!? この完璧なセキュリティを誇るロスカリファにどうやって入ったのだ!!」
「それを話すのには今のロスカリファの状況を説明する必要があるわ。少し長くなるわよ」
「目的はなんなのだ! まさかテロってわけじゃないのだ?」
「残念だがボンプを傷つける」
「それはダメなのだ」
ガシッと手を掴まれたところで、ツイッギーの脳は回復した。
「あざーす……って何言わすのよ!」
「貴様が勝手に呟いてただけなのだ!? 貴様らノルムーを助けるのだ、こいつ怖いのだ!!」
「まあ落ち着いて。彼女も疲れてるだけだから……で、結局どうしてここに?」
「実は――」
ツイッギーは経緯を(ゴリラ・ボンプとロックスプリングのことはぼかして)話した。
「なるほど、指名手配者を追うバウンティ・ハンターってことか!」
「あの時のことまーだ恨んでるの? え、あーしらよりあーしらのこと思ってくれてるワケ? もしかしてマネモブって情に厚いタイプ?」
「当たり前のことを抜かすな! ……というのはさておき、すぐ感動するくらいには情の塊だぜ」
ビリーとシーシィアはマネモブの情を再確認し。
「つまりは……このロスカリファにFOEが放たれたということなのだ!?」
「や、ヤバいよ。これ新エリー都でも何かしらの罪状に抵触してるよ」
「私に関して毎回、というか何か怪物に変身しても最終的には心臓狙われてるんだよね怖くない?」
リンとアキラ、ノルムーはマネモブが練り歩いていることに戦慄した。
「で、私の処遇は? 捕まるっていうなら逃げるけど……」
「逆にどうして捕まらないと思ってるのだ?」
「いいのかしら? 暴走したマネモブを止められるのは私だけよ」
ツイッギーの発言は誇張でも命乞いでも何でもない。
姉妹達の長姉であるツイッギーももちろん姉妹の一人なので、マネモブのゲロ甘対応が適応されるのだ。
「嘘なのだ?」
「本当です」
「……」
マネモブと言えば、ロスカリファまでその名が轟くエーテリアスである。
蓋世不抜、不羈奔放。武の道を究めんとする求道者。しかし人に友好的であるというのはロスカリファでも有名な話であり、遭遇した際のマニュアルにも極力刺激しないことが記載されていた。
そんな奴がロスカリファに確実に入り込んでいる。ノルムーは気が遠くなりそうだった。
「…………………………そのふてぶてしさと稀有な技能を鑑みて、い・ま・の・と・こ・ろ・は! 取りあえず特別に客人扱いしてやるのだ。ただしマネモブが現れたら一報入れるのだ。空域巡警局のシグリッドが現場に急行するのだ」
「感謝するわ」
こうして特別に客扱いされたツイッギーは、アンバー・ホールで居候することになる……
「しっかしその服のデザイン古いのだ。どんだけ昔なのだ?」
「………」
やっぱり服変えようかなと思うツイッギーであった。