『ンナ、ンナグワ(紹介しよう、“預言者様”だ)』
『あの……どっかのバス停で小学生と傘さしながら立ってそうな見た目なんスけど……いいんスかこれ』
預言者と呼ばれたのは、大型ボンプよりもなお大きいボンプだった。
しかし、身体から苔やツタが生えたその森の主めいた見た目が、ただのボンプではないことを物語っている。
『ンナ、ンナナ(はじめまして、地上から来た子よ。ワシは預言者と呼ばれておる者だ)』
『ジブンはモンキー・ボンプっス。嫌でもよろしくお願いしますよククク』
モンキー・ボンプはRandom_Playのビデオで見たことあるなと思いつつ挨拶を返した。
そんな彼の姿を、預言者はまじまじと見つめた。値踏みのようないやらしい視線ではなく、ボンプへの慈しみを備えた視線だ。
『ンナ、ンナンナ(ふむ、見たことのない型式のボンプだ。地上で作られたのかい?)』
『そうっスよ。どこで作られたかは知らない知ってても言わない』
『ンナ? ンナナ(言いたくないのだろう? そこまで聞くつもりはないさ)』
『あざーす』
モンキー・ボンプはどこで製造されたのかを、頑なに語ろうとしない。
知っているのはマネモブとツイッギー、ロックスプリング、そして灘・真・神影流に統合されたそれぞれの流派の長達くらいである。
その知っている者でさえ、話題には出さない。
『ンナナ、ンナンナ?(地上の子よ、君はどんな理由でロスカリファへ?)』
『怒らないで聞いてくださいね? マネモブっていうエーテリアスを密輸したんスよ』
『ンナ!? ンナグワ!?(モンキーお前何を言ってるのか分かってるのか)』
『ン、ンナ……ンナナ……(お、おお……エーテリアスの密輸か……)』
モンキー・ボンプのまさかの所業にドン引きするンナ・ギャング達。
まさかこの地上から来たボンプが、自分達のしている活動が可愛く見える狂った行いをしているとは夢にも思わなかった。
『ンナ? ンナグワ?(だが待てよ? マネモブってのは、ボンプや人間に友好的で、武術の達人っていうあのエーテリアスか?)』
『そうですけど何か? まあ勝手に指定外来種を解き放ったのは悪いと思ってるっスけど、ボンプとかに危害を加えたりはしないんで大丈夫っス。むしろ出会ったら何かと助けてもらえるかもしれないスね』
『ンナ、ンナナ……(噂通りのお人好しってならいいんだがな……)』
グリフはため息をついた。
彼はボンプとロスカリファ、そしてミス・サンブリンガーのことを案じている。
目の前の猿の如きボンプは悪人には見えないが、かと言って完全に信用できるとも思っていない。
『ンナナ?(ならばワシは、あの方に会わせてみてはどうかと思う)』
『ンナグワ!?(お嬢に!?)』
『あの方? お嬢?』
『ンナナ、グワ!(最近ここに来たんだ。俺が案内する、ついてこい!)』
言われるがままにグリフの後をついていくモンキー・ボンプ。
やがて短い足が止まったのは、コンテナをそのまま使用して作ったような道と、その先にある部屋だった。
『風情があるっスね』
『ンナ、ンナグワ!(褒めても何も出んぞ、それよりお嬢に粗相のないようにな!)』
そう言うと、グリフは帽子とスカーフを整え、軽く咳払いをしてから声を上げた。
『ンナ、ンナグワ、ンナナ……ンナグワ(お嬢、地上から来たっていう猿のボンプを連れてきた。なんでもマネモブってエーテリアスをロスカリファに放ったらしく……とにかく、どう始末をつけるかご判断を)』
「マネモブをロスカリファに? ……ふぅん……えぇ……」
扉の先から聞こえてきたのは女の声。
どうやらモンキー・ボンプに対して呆れているようだ。
「取りあえず話を聞こうか。入りなよ」
『ンナグワ! ンナナ!(よし、お前が先に入れ! 俺はお前を見張っておくからな!)』
『ウッス』
部屋に通されたモンキー・ボンプ。
そこで目にしたのは――ミス・サンブリンガー暗殺未遂の指名手配犯にして、マネモブが追っている古の虚狩り、レミエール・ダンであった。
『なにっ、な……なんだあっ』
「どうしたの? 私の顔に何かついてる?」
『顔についてると言うより、町の壁にあんたの顔がついてるっスね“WANTED”の文字と一緒に』
「へぇ、君もあのポスター見たんだ。良く撮れてると思わない?」
『確かに良く撮れてたけど実物の方が美人っスね、忌憚のない意見ってやつっス』
「……もしかして口説いてる?」
『いいや事実ということになっている……というのは半分くらい建前で、師匠が迷惑かけてる詫びっス』
「師匠……もしかしてマネモブのこと?」
軽い
『申し遅れたっス。ジブンは灘・真・神影流が最高師範、モンキー・ボンプっス』
「君そんな偉かったんだ……こっちこそ自己紹介が遅れたね。レミエール・ダンだよ、よろしくね」
表面上は穏やかだが、互いに腹を探り合っている。
モンキー・ボンプはもちろん、レミエールにとってもお互いは仮想敵なのだ。
それにはとある理由があった。
『師匠からは知り合いを停止させて音動機を盗んだメスブタって聞かされたっスけど、こうして対面すると案外そんなことなさそうっスね』
「エーテリアスが運営する道場なんてどんなカルトかと思ったら、意外と話が通じるんだね。でも女の人をメスブタなんて呼ぶのはいただけないかな」
『お言葉ですが女性をメスブタ呼びしてるのは師匠だけっスよ』
「それはそれでどうかと思うけど……」
『……』
「……」
お互い、人格破綻者の異常犯罪者ではないのかと警戒していたのだ。
そして今、話が通じることが徐々に分かってきていた。
「どうしてマネモブを連れてくることになったの?」
『師匠が音動機を奪われたことへの報復……いや、師匠はそれはどうでも良いとか言いそうっス。恐らく、あんたが師匠の知り合いに手を出したからと思われるが』
「その件については悪かったと思ってるよ。でも、深くは言えないけど私にも事情があるんだ」
『まあそうだろうな。それに師匠は知らないと思うっスけど、件の音動機はリンちゃんに返したんスよね?』
「うん。もう私には必要なくなったから」
『……』
「……」
『フゥーッ……』
「はぁ……」
二人の間に流れる剣呑な雰囲気は消え、和やかとまでは行かないものの、穏やかな空気となった。
『やっぱり、初代虚狩りからしたら師匠は信じられないっスか?』
「そうだね。最初会った時はビックリしたよ。エーテリアスが喋って、しかも人を襲わないだなんて」
『まあそうだろうな。でも師匠だけが特別なワケじゃないっス。師匠を中心として人を襲わないエーテリアスも何人かいるんスよ』
「マネモブ以外にも? ホントに驚かされるね……」
レミエールは、マネモブを非常に強く警戒していた。
彼女はかつて、友人であるベリオラを“結使化”という最悪な形で失っている。
加えて、虚狩りである自身と張り合える実力、異常に低いエーテル活性、高い知能……彼女はそれらの要素から、マネモブを始まりの主の使途“結使”ではないかと疑っていた。
また、灘・真・神影流をマネモブを崇める、讃頌会的なカルトだと思っていたのである。
そう、レミエールはマネモブ=結使説の提唱者だったのだ。
QED、学会追放。
『気になるならタフ・ホロウに来ればいいっス。招待状も書くっス。師匠以外は歓迎してくれると思われるが……』
「ありがたく受け取っておくね」
この会話により、灘とレミエールは一応の和解をした。
マネモブがレミエールを襲うのは、灘の総意ではなく私怨からという話が成立するためだ。
『気を付けるっスよ、師匠は今もしつこく襲ってくるはずっス。まあ……再起不能とか殺されるとかは無いっスから、それに関してはありがたく受け入れてくださいっス』
「ありがたくは受け入れたくないな」
これにて、レミエールとモンキー・ボンプの認識は改められることとなった。
ンナ・ギャングのボスであるグリフより偉い預言者より偉いレミエールに受け入れられたモンキー・ボンプは、しばらく還流区へ身を寄せることにした。
そして、リンがイアスの姿で還流区に来たのは、それから数時間後のことだった。
彼女達がシンギュラ・リークへ足を踏み入れるその時、事態は加速的に動き出す――もちろんのこと、マネモブも同時に。
ミアズマ製(始まりの主関係のやつ)エーテリアス
ミアズマ・フィーンド、ワンダリングハンター、光と闇の司祭、イゾルデ大佐
もしかしてこんなにミアズマ系を抱えてるマネモブは結使なんじゃないスか?