高濃度猿侵蝕体“マネキン・モブ”   作:アースゴース

15 / 108
語録の見過ぎで地の文にも“猿”が滲んできているような気がする、それが僕です


バレエ・ツインズに一発目の飛行船を投下だあっ 三発目

 謎のバレリーナを撃退し、NHMをブチのめした一行は、反乱軍の男から驚くべき事実を耳にした。

 なんと、レインを誘拐した犯人は反乱軍で、バレエツインズB棟の屋上で何かを企んでいるというのだ。男は下っ端であるために、そこまで有用な情報を持っているわけではなかったが、NHM1匹以外に大した兵器は所持していないことなどを教えてくれた。

 

 そして、今はレイン救出のためにバレエツインズ内の反乱軍を叩きのめしているところである。

 ヴィクトリア家政の能力、男からもたらされた情報、エーテリアスであるマネモブにかかれば、時間はかからなかった。

 

 「ねえ、こんなのあったけど」

 『これは……司法府の専用飛行船!?』

 『寒い雪の日の朝!?』

 「時間、ルート、フライトスケジュール、そして総合制御システムのハードウェア構成まで……」

 

 散乱する反乱軍の物資から、そんなデータが見つかった。

 一体誰が何のために……と、彼らが思考しているところで、ボンプであるイアスの通信機能に反応があった。

 

 『マスター、ビリーから通信です。繋ぎます』

 『ビリーから?』

 『寒い雪の日の朝!?』

 

 通信が繋がれると、ビリーの焦った声が聞こえてきた。

 

 『た、大変だあっ』

 『落ち着けケンゴ!』

 『店長! じゃねえマネモブじゃねえか! 店長にも繋いでくれ!』

 『ビリー落ち着いて! 何があったの!?』

 『乗員が……乗員全員が眠ったあっ』

 

 ビリーの話では、パールマンの開けたスーツケースから煙が噴き出し、ビリー以外の全員が眠ってしまったという。

 その上、飛行船の自動操縦はバレエツインズに改ざんされている。

 

 『まさか本当にレインの仕業だったとはね……』

 『まさかゲイってわけじゃないでしょ?』

 『ううん、どういうことだ。何でレインがここで出てくるんだ?』

 「反乱軍は、誘拐したレイン様を利用し、飛行船をハッキングしたのです」

 『えっ』

 

 そう、反乱軍の真の目的は、飛行船をホロウに突っ込ませること。

 恐らくはパールマンの口封じ。一行は、それを阻止するべく、レインを救出するべく動く――

 

 『待てよ。物語はここから面白くなるんだぜ』

 『な、なんだマネモブ? まだ何かあるのか?』

 『D‐51が本気になればウイルスのスピードで大量殺人する』

 『は、はぁ? ウイルス?』

 「……まさか!? ビリー様! 急いで機内に持ち込まれた荷物を調べてください!」

 『え、何でだ?』

 『さっき、反乱軍がNHMを生物兵器として使ってたの! ビリーなら知ってるでしょ? NHM!』

 『ま、まさか!? ウソだろおいマジかよ!!!』

 

 ビリーの足音が聞こえる。

 荷物をひっくり返すような音が聞こえて数分、ビリーが口を開いた。

 

 『俺の目の前にデケぇカプセルみたいなのがあるんだが、まさかとは思うけどよ……』

 「我々の見立てでは恐らくそれは――」

 『――あっダメだH4Q1って書いてある』

 

 最悪の予想は外れてはくれなかった。

 反乱軍のスポンサーは、乗員を確実に殺すために驚異的な致死性のウイルスまで持ち込んだのだ。

 

 「端的に言って……狂っています」

 『どこまで外道なんだてめぇは』

 

 ヴィクトリア家政も、マネモブも怒りを抱いている。

 このような外道を働く輩は、人として許さずにはいられない。

 

 「ビリー様、我々がレイン様を救い出し、飛行船を止めてみせます」

 『レインは絶対助ける! 飛行船もウイルスも止める! 安心してビリー!』

 『俺たち三人が熹一を支える。ある意味“最強”だ』

 

 彼らは今この時、反乱軍を冷徹非情にブチのめす野蛮人になる。

 

 

 

 Now Loading......

 

 

 

 「お前は知るべきではないことに深入りしすぎたんだ。悔しいだろうが仕方ないんだ」

 「んー!!! んんんー!!!」

 「足手まといにもなるしなっ」

 

 反乱軍の隊長が、レインを大穴に落とそうとしていた。

 よほど運が良かったり、そもそも強かったりしない限りは死ぬだろう。だが運良く生きていても重症、すぐにエーテリアスの餌になるか、侵食によって化け物になるか。どちらにせよ生き残る可能性はゼロに等しい。

 

 「じゃあな天才。俺達に誘拐されただけの凡夫」

 「んーーーー!!!!!!」

 

 手が離された。

 その天才的なハッキングの腕以外は普通の少女と変わらない。

 哀れ、天才は短命の宿命なのかと思われたその時。

 

 「しゃあっ」

 「なにっ」

 

 一筋の冷気、ライカンがレインを救う。

 超優秀な執事たるライカンにかかれば、少女の窮地を救うなど容易いこと。

 

 「ぬおおおおあの腐れシリオンめ、ブチ殺して――」

 「えいっ」

 「あががっ」

 

 レインを捨てて逃げようとした反乱軍は、カリン、リナ、エレンによって叩きのめされた。

 

 「クソッ、おい、逃げるぞ」

 

 残った反乱軍の連中は、その光景を見るや否や脱兎のごとく逃げようとする。

 しかし、彼らの敵はヴィクトリア家政だけではない。この空間はホロウ、誰よりもホロウを知り尽くす者がいることを忘れてはならない。

 

 『逃げるんかいっこの人殺し!』

 「な、なんだあっ」

 

 現れたのは、屈強な肉体を持ったエーテリアス。

 顔はマネキン、身体は格闘家、脳ミソは重度ミーム汚染されているそのエーテリアスの名は……

 

 「マネキン・モブッ!? 何でこんなところに!?」

 

 高濃度猿侵蝕体マネキン・モブ。

 協会の情報では、人を襲うことはないが、ホロウ内でホロウレイダー崩れや野良ボンプを集めて、何やら怪しげな武術を教えているという。

 そして、何度かの討伐作戦が組まれたが、その高い実力によって返り討ちにされ、尽くが失敗していた。次は“虚狩り”の投入も視野に入れられているという。

 

 つまり、今の少数では勝てない相手だ。

 

 『幻魔拳ッ』

 「はうっ」

 

 目で追えないスピード、目の前にいるのに、まるで瞬間移動じみた速度だった。

 タナトスとは違い、特殊な能力などではない。鍛え上げられた肉体と、高い武の技術が成せる技だった。

 

 反乱軍は次々にヘルメット越しに拳を寸止めされ、気を失っていった。

 傍から見たら、寸止めで人が倒れていくという滑稽な光景だ。

 

 『よしっ、マフマドベコフを殺ってやったぜ』

 「お見事ですマネモブ様。逃げようとした方々をこうもあっさりと」

 『感謝します』ガシッ

 

 反乱軍は倒れ、レインも救助成功。

 もはや障害物などなくなったと思われたその時……

 

 ド ワ オ

 

 『なっ…』

 「んっ…」

 『だぁ!?』

 

 突如として爆発音が鳴り響く。

 何事かと周囲を警戒すると、Fairyが新たな情報をもたらした。

 

 『警告、今の爆発によってホロウの構造が変化。ルートを再構築します』

 『なにっ』

 「しまりました……彼らの仕業でしょう」

 

 悔しげな声を聞いたのか、反乱軍の1人が笑い声を上げる。

 

 「クーククク……これで飛行船は終わりだ」

 「あなた方の目的は、一体何なのです?」

 

 治安局ほど反乱軍の人命を軽視している輩はいない。社会への裏切りは殺されるだけではすまされない。

 四肢を切断、首を斬り、歩道橋に吊るす。女子供の隊員だって腹を裂いて内臓を出す。反乱軍に恐怖を植えつける目的もあるが、その残虐性は群を抜いている。

 

 己の命運が尽きたことを悟り、隊長は饒舌に語りだした。

 もしかしたら、恐怖でおかしくなってしまったのかもしれない。

 

 「ククク……俺達の目的は――飛行船を積まれたウイルスごとバレエツインズに突っ込ませ、その勢いでルミナスクエア……ひいては新エリー都中にウイルスをばら撒くことが目的よ」

 『なにを言ってるこのバカは?』

 『あー、何言ってるかわかんねぇよ』

 「本当に分からないのはルールで禁止されているはずですが……」

 『ヤクザはルール無用だろ』

 「やはり恐ろしいですねヤクザは」

 

 頭のおかしすぎる目的に理解が追いつかない彼らは、取りあえずもう一度反乱軍をボコボコに気絶させてから屋上へ向かうことにした。

 

 

 

 Now Loading......

 

 

 

 『ついた! 出口はあそこだよ!』

 

 反乱軍もエーテリアスも見かけた連中は容赦なくブチのめし、ホロウの裂け目を経由して屋上の手前までやってきた一行。

 だがそこは、侵蝕によってエーテル物質が乱立し、扉への道を阻んでいる。しかし、この程度の障害ならば、彼らにとって突破することは容易いことである。

 

 「突破の準備を!」

 「ええ!」

 「はーい」

 「はい!」

 『何でも良いですよ』

 

 だがその時、またしても照明が点滅する。

 原因の反乱軍はいない。では誰が、と思うよりも早く、音楽が響いてきた。

 そう、レインの音楽プレーヤーから鳴り響く、あの音楽だ。

 

 「この音楽って、ま……まさか」

 

 天井の照明が1つずつ消える。

 最後に正面を照らす、スポットライトのごとき灯りが消えた。

 そして、再び灯された光と共に現れたのは、奴。

 

 「あれはアトリウムにいた!?」

 

 バレリーナのような動き。

 細く先端のとがった爪先はまるでコンパスのようだが、秘められた殺傷能力は比にもならない。

 まさに戦うためにデザインされたバトル・ダンサー。

 

 「まだご満足いただけていないご様子……えっ」

 

 たった一人の孤独なダンス。こちらは多勢に無勢のコマンド・サンボ。しかも一度戦った相手だ、今度も問題なく勝てる。

 だが今は違う。

 

 バレリーナの背後から……バレリーナが現れた。

 

 「「「「『なにっ』」」」」

 

 そう、バレエツインズの都市伝説の通り、バレエ・ダンサーは双子の姉妹だったのだ。

 

 「“姉妹”とは……」

 『変態兄弟ハリケーン・ツインズ』

 『あの噂って本当だったの!? で、でももう時間が……』

 

 飛行船が墜落まであとわずか。

 それまでに目の前のバレエツインズを突破し、飛行船に向かわなくてはならない。

 できなかったら、新エリー都は滅ぶ。

 

 「プロキシ様、ご安心を。ヴィクトリア家政には十分すぎるほどの時間です」

 「私達の使命ですもの」

 『でも……』

 

 パエトーンはヴィクトリア家政を信じている。

 しかし、どうにも不安が拭えなかった。もし、デッドエンド・ブッチャー戦でビッグ・ハンドが出てきたような不測の事態があれば、負けはせずとも間に合わないのではないか。

 

 『また変な邪魔が入ったら』

 『ああ、どうということはない』『この大胸筋でなんぼでも受け止めたる。ワシめっちゃタフやし』

 『マネモブ……』

 「今はマネモブ様もおられます。万が一にも失敗することはあり得ない、それが今の状況です」

 

 舞踏家VS武道家&家政。

 バレエツインズでの決戦が今始まる。

 

 『ゴングを鳴らせっ、戦闘開始だっ』

 

 双子が動き出した瞬間、一行も同時に動き出す。

 一番槍を務めるのはタフさは超級なエーテリアスのマネモブ。

 その戦闘勘が、双子を一緒にして戦うのは不味いと告げている。なので、まずは分断することにしたのだ。

 

 「マネモブ様! そちらの方はお願いします! 我々はこちらの方を!」

 『灘神影流“霞突き”速すぎて敵は殴られたこともわからないまま失神する!! 鬼龍が最も得意とする打撃の技だ!!』

 

 マネモブに返事をする余裕はない。

 以前よりも高速回転の速度が増している。拳を傷つけずに刃の隙間を狙うには、集中が必要だった。

 相手取るのは、背後から現れた黒い方のバレリーナ……ブラックベールである。

 

 『全身刃物人間かよッ』

 

 双子のスカートには、フリルの代わりに回転する刃が取り付けられている。そのリーチが意外と長く、マネモブの拳が本体まで届きにくいのだ。

 

 『しゃあっ』

 

 時折繰り出される、鋭い脚での攻撃は打ち払うことで防ぐ。

 パワーそのものはブッチャーやビッグ・ハンドよりも下のようで、防ぐことは難しくはない。

 しかし、その分スピードとテクニックは上回っており、トリッキーな動きが予測の邪魔をする。

 

 『確かにスピードはあるが威力が足りない』『消えろ』

 『Haaaa……!』

 『えっ』

 

 歌うような声と共に、ブラックベールが消える。

 次に現れたのはマネモブの背後。マネモブはそれを避けつつ反撃するが、それこそバレリーナの罠だった。

 

 『うわああっなんだあ』『さらに超高速回転になってるぅぅ』

 

 目にもとまらぬ回転刃が、マネモブの腕を削り取る。

 マネモブは、それを両腕でガードし防ぐ。しかし、やがて限界は訪れた。

 

 『あかんやん』『あかんやん』『あかんやん』『あかんやん』『あかんやん』

 

 目に見えてマネモブの腕にダメージが入っているのが分かる。

 マネモブは、強引に左腕を押し込み、ブラックベールをのけぞらせることで脱出した。

 だが、その代償は高くつく。

 

 『あっ』『一発で折れたッ』

 「マネモブ様!?」

 『マネモブ!?』

 

 マネモブの左腕が、あらぬ方向を向いている。人間でいうなら骨折、戦闘不能の状態だ。

 頼りになる戦力の離脱。それは、冷静沈着なヴィクトリア家政にすら少なくない動揺を生んだ。

 

 『熹一さんあきらめないで、い…今ひきあげますから…』

 「マネモブ様! 無理なさらず! 我々が引き受けます!」

 『殺法すなわち活法なり』

 「!!!」

 

 折れた腕でもなお、マネモブはブラックベールを相手取っている。

 そんな姿に、ライカンは心打たれた。必ずやグレイベールを迅速に倒し、マネモブに加勢すると。

 

 『灘神影流“鷹鎌脚”』

 

 そして、マネモブにはまだ脚がある。

 身体をひねり、まるで鎌のような鋭さで蹴りをお見舞いする。

 広範囲を巻き込むそれは、着実にダメージを与えている。

 

 「はっ!」

 『Aaaaa……』

 

 ちょうどその頃、ライカン達がグレイベールを倒した。

 周囲には氷柱が乱立し、極寒の冷気が漂っている。強い冷気使いが2人もいれば、その属性が濃くなるのは当然のこと。

 そして、こんな強敵相手でも流石に4人もいれば、それだけ早く仕留めることができる。会心の手ごたえにライカンは満足し、マネモブへの加勢に向かおうとしたその時だった。

 

 『Haaaa……!』

 『消えろ』『えっ』

 「なにっ」

 「なっ……」

 「なんだあっ」

 

 ブラックベールが戦闘不能のグレイベールの周りで踊ると、なんとグレイベールが復活してしまった。

 そう、この双子は同時に倒さなくてはならない大魔王の両手。ザオラルすら使えない貧弱な顔など最初から存在しない。

 

 『“悪霊戦士”が四人おったなんて卑怯すぎるやろあーっ』

 「ま、まさか復活してくるなんて……」

 『いい加減笑いを通り越してムカついてきたぜ』『折れた腕が痛いのはわかるが…』

 「……!!!」

 

 状況は絶望的。

 チマチマ倒している時間は無いが、1人だけ倒したところで復活する。

 そして、火力の高いマネモブは負傷。ヴィクトリア家政でも流石に焦りを見せるような状況だが、ライカンに電流走る。

 

 「マネモブ様、周りをご覧ください。私とエレンの氷……つまり冷気で満たされております」

 『なにっ』

 「これは逆転の一手になり得るかもしれません」

 

 そう、周りが冷気だらけなら、マネモブはあの技が使える。

 

 『冷気の靄を利用し映像を送り、左右の目の視差によって発生する立体感覚』

 

 マネモブが靄のように消え失せる。

 そう、錯視による虚像の投影。ライカンは、自身に使われたこの初見殺しを覚えていた。

 この技とマネモブのステルスが合わされば、いつどのタイミングでも奇襲ができる。

 

 『灘神影流“鷹鎌脚”』

 『Haaaa!?』

 『Aaaaa!?』

 『効いてる…効いてるぞっ』

 

 このマリオネット・ツインズはその奇襲に対応することもできず、マネモブの蹴りを受け続けた。

 彼女らは舞踏家……武道家ではない。戦闘のプロであるヴィクトリア家政やマネモブには、体力や殺傷力はともかく純粋な戦闘能力は劣る。

 

 「氷が!?」

 「いけません! エレン! 私と冷気を作り続けるのです!」

 「はーいっ」

 

 だが、双子は戦う者ではないが決してバカではない。

 消える手品の根幹たる氷を、ツープラトンの回転で破砕する。

 このままではライカンとエレンの体力がジリ貧。そこで、マネモブは賭けに出ることにした。

 

 『灘神影流“鷹鎌脚”』

 「マネモブ様、何を……これは!?」

 

 狙ったのは双子ではなく、氷。

 その表面を薄く削り取ることで、表面はピカピカに磨かれた鏡のようになる。

 それは1つだけではない。複数存在することで、合わせ鏡のように互いを映し合う。

 

 『多勢に無勢だいっけぇ』

 「なるほどそういうことですか! ヴィクトリア家政、参ります!」

 

 その意図を高速で理解したヴィクトリア家政は、一斉に双子へと躍りかかる。

 氷の表面がヴィクトリア家政の姿を反射し、あたかも4人以上存在するかのように錯覚させる。

 

 「はぁっ!」

 

 エレンのハサミが一気に双子を削り取る。

 同時に冷気が噴出され、周囲の氷と合わさって光を乱反射した。

 

 「これはどうかしら」

 『これがマネモブの電撃』

 『マネモブ! マネモブ!』

 

 ドリシラとアナステラが宙を舞い、氷の隙間を縫って双子に電撃を与える。

 冷気と電撃のダブル・パンチは、双子にさらなるダメージを与える混沌現象引き起こす。

 

 「か、回転ではカリンに分があります!」

 

 カリンによるチェーンソー、あるいは禁断の混沌二度打ち。

 怪力と感情な刃が、双子の回転に負けず劣らずの螺旋を生んだ。

 

 「しゃあっ“偽・鷹鎌脚”」

 

 ライカンが繰り出したのは、見様見真似の鷹鎌脚。

 冷気をまとい、擬似的な刃を作り出したそれは、容赦なく双子を襲う。

 そして、その技の脅威を散々味わった双子の意識を、一瞬だけとはいえ完全にライカンに向けることに成功した。

 その一瞬は永遠となる。

 

 『“死地に陥れて然る後に生く”』

 

 エーテリアスとしての超反応によって反撃しようとしたマリオネット・ツインズ。

 しかしその目論見は、わずか数ミリ身体をずらしたマネモブによって回避された。

 

 『菩薩の顕現』『それは波動が肉体の奥深く浸透した証』『そこには苦痛も憎悪もなく己も相手も“無の境地”になる』

 

 以前は特異な形に両手を組んでいた。しかし、今は両手でそれを放とうとしている。

 マネモブ自身、己の知識の中にすら存在せず、考えもしなかった未知の領域。それがある種の境地へと達する。

 

 『これぞ灘神影流秘中の秘“菩薩拳”なりっ』

 『Haaaa!?』

 『Aaaaa!?』

 

 マリオネット・ツインズの腹部に、拳が炸裂した。

 あまりの衝撃に一気にのけ反った彼女らの腹部には、それぞれ座禅を組む者の姿が見えた。

 

 「あれは……」

 「菩薩だ」

 『双子・菩薩』

 

 現れたのは、双子の菩薩……

 

 『……』

 『……』

 

 その拳を受けた双子はしばしの間、菩薩を見つめる。

 やがて菩薩が薄く、消え去ったのを見ると、彼女らは一礼し、姿を消した。

 

 「やった! 行ってくれました!」

 『よしっ、マフマドベコフを殺ってやったぜ』

 「任務続行! 上へ!」

 

 バレエダンサーを退けたとて、まだ任務は終わっていない。

 エレンが足場となり、カリンが扉を破壊した。

 

 「行きましょう」

 『しかし…』

 「……そうでした。時折忘れてしまいますが、マネモブ様はエーテリアス。そして、この先はホロウの出口です」

 

 マネモブはエーテリアス。

 ホロウから出ると即座に消滅する。ゆえに、この先の任務を手伝うことはできない。

 

 「マネモブ様、この場でお礼ができないことを深くお詫び申し上げます。この埋め合わせはどうか後日……」

 『いいんだ、Mはそれが許される』

 

 ヴィクトリア家政に背を向け、歩き出すマネモブ。

 折れた左腕も相まって、その姿には哀愁が漂っていた。

 

 『熹一!』

 「は、いかがなされましたか」

 

 マネモブが発したのは全く別人の名前だが、それはライカン及びヴィクトリア家政に向けられたものであると、何となく理解できた。

 

 『申し訳ないことをしたと恥じている。その苦しみは今も心の奥底で澱のようにたまっている』

 「差別発言のことでしょうか? それとも私との戦いの? ですがあなたが謝る必要などございません。お礼をするべきは我々の方なのですから」

 

 少しの間、マネモブが黙る。

 

 『お前ならわかってくれると思ったよ。じゃあな』

 

 マネモブは右手を上げ、照明の点滅と共に消えた。

 まだ残存する冷気との合わせ技で、ヴィクトリア家政は消える気配すら掴むことができなかった。

 それを見届けた彼らが、屋上へ行こうとした時だった。

 

 「あ! 見てください!」

 

 カリンが何かを発見する。

 そこには、透明に揺らめく人型の何か。そこには誰もいないのに、気配のみがそこに存在する。

 

 「これは……」

 「残気です!」

 

 残されたのは、マネモブの残気……!

 

 

 

 Now Loading......

 

 

 

 一行は屋上まできた。

 空には飛行船。激突まであとわずかしかない。

 

 『お兄ちゃん聞こえる!? 飛行船がビルに迫ってきている』

 

 通信するパエトーン。

 その姿を、飛行船に乗っているビリーが見つけ出す。

 

 「店長!? おーい店長!!! 俺はここだぁぁぁぁ!!!」

 『ビリー!!!』

 『飛行船の目標位置到着まで、あと30秒』

 

 もはや残された時間は無い。

 そこで、ライカンはある場所に目を付けた。

 天を貫く摩天楼……その頂点へ続く足場とも言えぬただの柱へ。

 

 「ぬぅぅぅぅおぉぉぉぉっ!!!」

 

 ライカンが我武者羅に上る。

 脚のみならず爪まで使うその姿はまさに獣。

 人狼が届くはずもない月へと手を伸ばすしているようだ。

 

 「へあっ!!!」

 

 全力での跳躍。

 飛行船までは届かないが、ビリーが手を伸ばせばギリギリ届く――

 

 「――ダメだ! 飛距離が足りねえ!!!」

 

 度重なる戦闘のダメージか、酷使したメカ・フットの故障か、その両方か。

 ともかく、わずか数センチ、飛距離が足りない。ビリーのセンサーと計算機は、それを一瞬で計算した。

 

 「この船があとちょっと傾けば、重りがあれば……?」

 

 重り。

 ビリーはそれに当てがあった。

 かつてデッドエンド・ホロウで見た技の極致、不可視の飛ぶ打撃。その直前の踏み込みによる小さなクレーターは、ビリーの記憶メモリに深く刻み込まれている。

 友の雄姿として、あるいは“好敵手”の切り札として。

 

 ビリーはこっそり研究を続けていた。

 だからこそ、ぶっつけ本番でその技を発動できたのだ。

 

 「ぞ、“ゾウカイ”! ……うわわっ!?」

 

 ビリーがそう叫ぶ。

 見よう見まねだ。あの奥義には遠く及ばないだろう。

 だが、それでもわずかにビリーの体重を増加させ、飛行船を傾けることに成功した。

 

 「やった!」

 

 ビリーは、ライカンの手を掴んだ。

 

 「……またもや、マネモブ様には助けられてしまいましたね」

 「ま、そのおかげで全員助かったんだからバランスは取れてるんだけどな。でもマネモブは礼なんていらねえと思うぜ」

 

 ライカンを引き上げる。

 そしてすぐさまコックピットへ向かう。だが、今は話をする余裕があった。

 

 「マネモブみたいに、無償で人助けする奴のことを何て呼ぶのか知ってるか?」

 「……安直ですが、ヒーロー、ですか?」

 「そうともいう! だが、もっとピッタリな呼び方がある」

 

 ビリーはニヤリと笑いながら言った。

 

 「マネモブみたいな奴のこと、“タフ”って呼ぶんだぜ」

 「“タフ”ですか……ええ、彼に相応しい響きです」

 

 ヴィクトリア家政、パエトーン、ビリー、マネモブの尽力により、新エリー都の危機は解決した。

 

 

 

 そしてパールマンは逃亡した。

 

 

 




ウム、やりたい放題なんだなァ
というかバレエ・ツインズ編でやりたいこと全部詰め込んだんだなァ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。