高濃度猿侵蝕体“マネキン・モブ”   作:アースゴース

16 / 109
前話がバトル系だったから今回はバトル無しなんだァ
ジェーン姉貴のカッコいいシーンが見たい人には許してもらおうかァ


ラーメン・ジェーン

 ジェーン・ドゥ。凶悪武装集団『山獅子組』に属する新顔の参謀。

 人面獣心のクソ女郎というのは表の顔。その実体は、様々な犯罪組織に潜入し内部から壊滅させる治安局の犯罪行動学外部顧問である。

 

 そんな彼女は、山獅子組のアジトから離れてバレエツインズを探索していた。

 理由は、ここらには山獅子組壊滅作戦と人質救出に必要な物資があるという情報を手に入れたからである。

 

 「ここらへんだって情報だけど……あら? この匂いは……」

 

 ジェーンは探索の最中に謎の匂いを感知する。

 香ばしく、温かい、出汁のきいた匂い。嗅いだだけで腹が空いてくる。

 

 「まさか……だってここホロウよ?」

 

 ジェーンは、いや、誰もがこの匂いに覚えがあるだろう。

 しかし、これは決してホロウで匂ってくるものではない。

 

 「……」

 

 自然と足が進む。

 歩みは速足に、速足は走りになる。

 そして、ようやくたどり着いた匂いの元は……

 

 「何ここ? “ラーメン・ジョー”?」

 

 そこにあったのは、明らかにラーメン屋。

 それも屋台ではなく、シンプルにちょっと大きめの店舗。

 バレエツインズという金持ちが道楽で建てたみたいな建物内部に、ラーメン屋が現れた。

 

 「ううん、どういうことよ」

 

 ビルの内部にさらに木造建築は普通に狂っているとしか言いようがない。

 しかも意外と後から増築したのが丸わかり。明らかに外部の手が加えられている。

 

 そして、外にあるメニューにはおすすめの品が書かれており、特に850ディニーの“タフ麺~漢~”というのが目玉のようだ。

 その下には、金髪で屈強な青年が『超極細麺で元気をすすりつくすんや!』と言っている絵が描かれている。

 

 「……入ってみようかしら」

 

 好奇心は猫をも殺すというが、生憎ジェーンはネズミ。

 特に危険な気配――ある意味危険ではありそうだが――な気配はしなかったので、入店してみることにした。

 

 「あら」

 

 内部は意外と綺麗であり、なかなり繁盛しているようでほとんど満席だ。

 なぜバレエツインズの、それもホロウ内部、しかも山獅子組のアジトの近くにこんなに人がいるのかは不明だが。

 裏の人間が利用する店だったりするのかと、耳を澄ませてみる。

 

 「私思ったんだけど、エビ以外も飼ってみたいわ」

 「ついにきたか。着実にアクア沼に嵌ってるな」

 「いい傾向だ。熱帯魚を飼うのは楽しいぞ」

 

 近くにいて最初に目に入った、登山家らしき男性2人と、全身真っ白な人外じみた美少女の客。

 彼らはアクアリウムについて談義したりしている。かなりミスマッチな組み合わせだが、別に何もおかしい話ではなかった。

 

 「……普通のお店みたいね」

 

 他にもおかしい話をしている者は特にいなかったが、何がおかしいと言われたらこの状況こそがおかしいと言わざるを得ない。

 そして、ジェーンも小腹が空いてきたので、何か頼むことにした。空いている席は、両隣に客がいるカウンター席。

 自然な形で話しかけたら、何か情報が得られるかもしれないと思い、ジェーンは座ることにした。

 

 「ここ、いいかしら?」

 「いいよ……」

 

 メニューを手に取る。

 日常的なその動作も、危険な雰囲気の美女であるジェーンが行うと様になる。

 だが、そんなことを気にする者はここにはいない。何故なら、ここはラーメン屋だからだ。

 

 (……このタフ麺はナシね、ちょっとこってりしてそうだし。もっとあっさり系の……これとかいいかしら)

 

 メニューのあっさり系が載っているページを開き、良さそうなものに決めた。

 どれも美味しそうだったが、あまり食べすぎると万が一の時に動きにくい。

 

 「……この“ラーメン・ジョーおすすめファントム・ラーメン”の小盛にしようかしら」

 「あいよっ」

 「えっ」

 

 いつの間にか目の前のカウンターに来ていた店主が、一瞬にしてラーメンを完成させた。

 目にもとまらぬ早業であり、目で追える部分も相当洗練された無駄のない動きだった。

 

 「これが俺のおすすめ“ファントム・ラーメン”だ」

 「こ、これが“ファントム・ラーメン”……」

 

 ギラギラとしたド派手な新エリー都には珍しい、まるで心が洗われるような幽玄の美をまとった塩ラーメン。

 野菜やチャーシュー、メンマなどのトッピングも程よく、麺は超極細だ。どうやら、タフ麺のものをそのまま使っているらしい。

 この超極細麺に相当な自信があるのだろうか。

 

 「いただくわ」

 

 崩すのを躊躇われる見た目だが、まずは麺を箸で掴んで食べる……ことはなく、自然な動きで何気なく匂いを嗅ぐ。

 薬品の匂いはしない。変な物は入っていないようだ。もしかしたら無味無臭のものが……などというのは杞憂か、考えても仕方ない。

 

 麺をすする。その瞬間、口内に広がる出汁の味わい。変な味はしない……それどころか、全て天然素材で作られていることが分かる。

 そして、細麺のためか溶けるような口溶け。噛んでいたのに、いつの間にか(ファントム)のように消え去っている。ファントム・ラーメンの名に偽りなしだ。

 

 普通盛りでもよかったかしら、と考えつつも食べる手は止まらない。

 スープに口をつけると、あっさりとした塩の味わいに、ほのかな魚介の風味が心地よい。

 新エリー都では手に入りにくい、新鮮な魚。ジェーンはかつて、これを食べたことがある。忘れられない思い出の1つだ。

 

 「この味、食べたことがあるわ。これはアユね、アユの出汁を使っているのね」

 「よく分かったな。そうだ、ファントム・ラーメンにはアユの出汁が使われている。俺の師匠はアユにこだわっていた。だからこそ俺もアユを使いたくてな」

 「その師匠も喜んでると思うわ。こんな美味しいラーメン初めてだもの」

 

 いつの間にか、食べ終わっている。

 スープまで腹に入ったはずなのに、まるでそう感じさせないほど身体が軽い。

 まるで幻のような味わい、それがファントム・ラーメンだった。

 

 「……」

 「このファントム・ラーメンはいくら食っても太らない」

 「えっ」

 

 まだ食べたいと思ったジェーンの心を読んだかのように、店主はそう言った。

 食べても太らない、世界中を敵に回すか、味方につけるかの究極の答え。

 

 「カロリーへの変換効率が極端に悪いからいくら食っても餓死する危険性はあるが、食った分はほぼ全て汗として揮発する。このホロウを3キロも歩けばすぐ腹が鳴る」

 「……食べても大丈夫だったの?」

 「問題ない。下世話な話になるが、老廃物にすらならない。ただ汗として幻のように消え去るだけのラーメンだ」

 「いえ、そうじゃなくて。素材の話よ。変な物は入れてないわよね?」

 「我が師、日下部丈一郎と芹沢達也に誓って危険物も違法な物も入れていない。これは俺が習得したとある武術をラーメン作りに応用した結果できた、偶然の産物だ。ああ、もちろんレシピは秘密だぞ」

 

 ジェーンは取りあえず納得することにした。

 目の前の店主は、ジェーンから見れば只者ではない。明らかに何らかの武術を習得しており、かなり強い腕前を持つことがうかがえる。

 だが、それと同時にラーメンへの情熱も感じることができたので、ひとまずその言葉を信じることにしたのだ。

 

 「もう一度ファントム・ラーメンを。今度は大盛りでね」

 「はいよっ」

 

 またしても神速のラーメン。

 これが店主1人でも店を運営できる繁盛の秘訣なのかと思いつつ、舌鼓を打つ。

 すると、隣の客が話しかけてきた。

 

 『リカルド、熱々のラーメンはうまいやろ?』

 「リカルド? いえ、人違いよ。アタイは……!?」

 

 ジェーンは目を疑った。

 話しかけてきたのは、人間ではなく。

 屈強な肉体、マネキンのような顔、死人のように生きているクズ同然のエーテリアスであるその正体は……

 

 「ま、マネキン・モブ」

 「マネモブ…待ってるよ」

 

 マネモブだった。

 その超危険エーテリアスであるマネモブは、隣に座るゾウともアザラシともつかない足の無いシリオンと共に、のんきにラーメンをすすっている。

 

 「……へぇ、エーテリアスもラーメンを食べるのね」

 『当たり前のことを抜かすな!!』

 「いや、エーテリアスの当たり前を求められても困るんだけど」

 『気にさわったらあやまります。どうもすみませんでした』

 「いいえ、気にしてないわ。今度会った時も、こうして会話できるといいわね」

 『それやったらワシの知り合いに人間の骨でダシをとってるラーメン屋があるんや! 今度紹介したるわ』

 「それは遠慮しておくわ」

 

 どうせ自分から人を襲った記録の無いエーテリアス。

 返り討ちになった者も五体満足で後遺症もないので、まあまあジェーンは安心してラーメンを食べることにした。

 時折、マネモブが話してくるのを相手にしていると、すっかり時間になってしまった。

 

 「あら、もうこんな時間。帰らなくちゃ。マスター、お代は……」

 「しめて1500ディニーってとこか」

 「どうぞ」

 「まいどあり。また来な」

 

 名残惜しくもあるが、外を出ようとするジェーン。

 しかし、そこでマネモブが待ったをかけた。

 

 『待てよ』

 「何かしら?」

 『お…叔母さんこれあげる。ウサピョンがいると寂しくないよ』

 「おばさっ……これは?」

 

 渡されたのは、何かのスイッチ。

 

 「ピンチになれば押せ。一回こっきりの使い捨てだが、切り札としての効果は保障する」

 「……じゃ、ありがたくもらっておくわ」

 

 今度こそ、ラーメン店を出る。外は木造の温かな部屋とは違い、煌びやかな摩天楼。床も空気もどこか冷たく、温もりが恋しくなる。

 何気なく後ろを振り返ると。

 

 「……何もない?」

 

 ラーメン屋は存在しなかった。

 しかし、手に持ったスイッチに、口の中に広がるラーメンの味わいは本物。

 一体どういうことだろうか――

 

 「……考えるのは後。とにかく帰りましょ」

 

 ジェーンは、その場を後にした。

 後には、わずかなラーメンの匂いが漂う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 おまけ

 

 

 

 ジェーン・ドゥと治安官セスは、山獅子組のボス・レイザーに大ピンチだった。

 その時、ジェーンの脳裏に浮かんだのは、マネモブから渡された謎のスイッチ。

 

 「そのスイッチは?」

 「信じられないかもしれないけど、このホロウにラーメン屋があって、そこで喋るエーテリアスにもらったの……そんな突拍子もない話を、このスイッチの効果と一緒に信じてみない?」

 「な、何だか分からないが……やってみよう!」

 

 ジェーンはマネモブに渡された謎のスイッチを押し込む。

 

 すると、目の前にホロウの裂け目が現れる。

 そこから力強い歩みで現れたのは、まさかの人物。

 

 「命運尽きたな、悪党め」

 「き、貴様は……!?」

 「貴方は!?」

 「誰!?」

 

 頭に巻かれたタオル、白いシャツ、屈強な肉体。

 目は人々を脅かす悪党への怒りに燃え、邪悪を打ち砕かんと鉄拳を握りしめている。

 ラーメンの香ばしい匂いを漂わせるその人物は――

 

 「己の悪因悪果を呪え」

 「店長……!?」

 

 ラーメン・ジョー参戦!?

 

 

 




 『ファントム・ラーメン』850ディニー
 ・回避が極限視界になる。30秒に1回。

 『タフ麺』850ディニー
 ・HP5%上昇、受けるダメージ15%減少
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。