特殊タグを使おうと思ったけど面倒臭すぎて断念したのは…俺なんだ!
キャプテン・マッスル
♥31517
【緊急依頼】ある少女をぶちのめしてほしい
私はキャプテン・マッスル
このスレッドを見てる君は選ばれし者
5000万ディニーを掴むチャンスを与えられた強き者
単刀直入に言おう
郊外にいるある少女をぶちのめして欲しい
名はルーシー
支援炎のファイターで“口の悪いお嬢様属性”を持つ少女だ
もちろんめちゃくちゃ強い
しかもこの闘いには絶対守らなければならない条件がある
ルーシーを倒すには徒手空拳でなくてはならない
銃や刃物などの武器は使用禁止
なぜなら万が一にも“命”を傷つけてはならないからだ
何よりも“命”が大事なんだ
ぶっちゃけこいつと一緒にいるシリオンのガキ3人の命なんてどうでもいいんだ
“命”さえ生きていればなぁ
さぁ腕に自信のある者は今すぐ郊外へ行け
ルーシーを失神KOさせろ
急げっ乗り遅れるな
5000万ディニーを掴むんだ
“カリュドーン・ラッシュ”だ
●5000兆ディニー欲しい
な、なんだあっ
●あたしンちグラグラゲーム
しゃあっキャプテン・マッスル
●大統領の総資産
御来光だぁっ!
●インフレ
ゴングを鳴らせっ戦闘開始だ
●グルメスパイザー
お嬢様をブチのめせえっ5000万ディニーはいただきだあっ
――――――――――
インターノットのスレ上で、筋骨隆々の見事な肉体美を見せつける、ゾンビのようにグロテスクなマスクを被った怪人。
彼こそはインターノットの歴史上で最も有名人の1人にして、最も信頼できると言われる裏の広告塔であるキャプテン・マッスル。
その超有名人がノット上に姿を見せたことで、スレッドは祭りのような盛り上がりを見せている。
「女の子1人にキャプテン・マッスルを使うなんて、相当恨みがあるのかな?」
「でもその割に殺すまではいかないし、5000万ディニーって……どういうことだろう?」
キャプテン・マッスルの知名度はパエトーンや千面相にも匹敵する。
依頼の仲介人ということで、パエトーン兄妹はイアスを介してだが、一度だけキャプテン・マッスルと会ったことがある。
あの間近で見た筋肉は凄かったと記憶している。
「まあ、その分は危険は多いし、こんな依頼を受ける人なんて僕らの周りには――」
「た、大変よっプロキシ! 5000万ディニーを掴むチャンスを与えられたわっ!」
ビデオ屋、Random_Playの扉を乱暴に開けてきたのは、邪兎屋のニコ。
その発言からして、キャプテン・マッスルが提示する報酬の額に目がくらんでいるようだ。
「しかもキャプテン・マッスルよ! 絶対本物だわ!!!」
「ニコ、悪いことは言わないからやめておくんだ。郊外は君でも危険すぎる」
「いや、聞いてほしいのよ。そのためにまず郊外に詳しい人を雇ってから、カリュドーン・ラッシュの報酬でその人の報酬を払えば――」
「(長くなりそうだ……)リン、ここは僕が食い止める。さっきビリーに呼ばれてただろう? そっちに行ってあげて欲しい」
「わかったよ、お兄ちゃん!」
リンは、兄がニコを止めている間に裏口から出ていった。
Now Loading......
リンとビリーは、トラックで郊外を走っていた。
新エリー都では見られないその光景に、リンは圧倒されていた。
「道広っ! 凄い景色!」
「郊外は確かに危険がいっぱいだが、その分バイタリティは切れてるぜ」
煌びやかなネオンの輝き、経済と情報、そして企業や政府の権謀術数に支配された新エリー都。
そんな欺瞞の平和に満ちた人類の希望たる方舟に、ある意味では見捨てられた土地、それが郊外である。
高度に発展したエーテル技術を持たず、エーテル資源を採掘できず、未だに石油資源を頼りにする。それでも人々は生きていた。
「そうだ。郊外といえば、あのキャプテン・マッスルが依頼を出してたよ」
「へえ、最近見なかったが……久しぶりだなキャプマス。で、依頼は郊外が目的なのか?」
「うん。確か、ルーシーって女の子がターゲットらしいよ」
「……ルーシー?」
ハンドルを握りつつ思案するビリー。その様子から、何か心当たりがあるようだ。
「ほらこれ」
キャプテン・マッスルの依頼は非常に分かりやすいことこの上ないが、それでも見てもらった方が早いだろうとインターノットを見せる。
すると、ビリーの目が細められた。真剣な表情だ。
「この支援炎属性ってのはよく分からねえが……口の悪いお嬢様で、シリオンの子供を3人連れたルーシーって女の子なら知ってるぜ」
「へえ、知り合いだったんだ……ならなおさら何とかしないと!?」
「依頼が出されたのは今朝だから時間的にまだ大丈夫っぽいが、伝えるべきだな……ん?」
いつものビリーらしからぬ冷静さだったが、そんな彼は何かに気づく。
前方から何かが迫ってきている。それは……1台のタンクローリーだ。
「な…なんだぁっ」
「ま…前から対向車が迫ってきてるうっ」
避ける気配は微塵もない。
明らかに正気ではないその運転に、リンは咄嗟にビリーへ指示した。
「ビリー! 右に全開! 下のホロウに落ちて!」
「うおおおおっ」
トラックはホロウへと落下する。
時空がめちゃくちゃに歪んでいるホロウならば、落ちても助かる可能性はかなり高い。
――しかし、生き延びたとしてその先がパラダイスなはずはない。
Now Loading......
「大丈夫かぁ? 店長!」
「あたたた……頭が痛い! 痛すぎる、痛さの次元が違う……ビリーったらなんて腕してんの! めちゃくちゃ痛かった!」
「わ、悪ぃ! ほら俺って金属製だから、機械人だから……とにかくマジですまねぇ! 救急キットくらいは常備してっから使ってくれよ」
リンとビリーはホロウで目を覚ました。
幸いにも時間は経っておらず、侵蝕も全くない。
「チィッ、何だってんだあの逆走野郎! 店長のおかげで死なずに済んだしトラックも無事だが……俺達はすっかりホロウん中だ。どうする?」
「何か使える物がないか探してみよう」
「使える物……あっ! これなんかどうだ?」
ビリーがトラックの荷台を開ける。そこには、抗侵蝕薬とホロウ用のデータスタンド。他にもいろいろと物資はあったが、リンはデータスタンドとカリュドーンの子のボンプを利用し、プロキシとしてビリーをサポートすることにしたのだ。
探索は順調に進んでいた。各所にデータスタンドを設置し、データを集める。
手練れのホロウレイダーと伝説のプロキシが手を組めば、苦境でさえも瞬く間にピクニックと化す。
しかし、彼らがホロウに呑み込まれたガソリンスタンド付近へ到達した時だった。
『GURURURURU……GYAOOOO!!!』
白を基調とした非人型のエーテリアス。
各所に生えた刺々しい角、太すぎる腕に尖った副腕は凶悪で、生命体を殺傷することしか考えていない。
わずかに身体に付着した布の切れ端から、元は人間だったものが異化したものと考えられる。
凶悪狂人。
非常に危険で好戦的なエーテリアスが咆哮を上げた。
「うああああデカブツがホロウを練り歩いてる」
「車へ急ごう!」
2人は全速力で走る。凶悪狂人は、歩幅はデカすぎるものの、スピードそのものはそこまで無いようだった。そのため、障害物を駆使すれば、ビリーはともかくリンの足でも逃げることができた。
「もうちょいだ店長!!!」
「私もう限界かも……!」
『GYOOOO!!!』
しかし、トラックまで後もう少しのところで追いつかれ、凶悪な角で突き上げられる。
「店長ぉおああああ~!?」
ビリーもろとも、転がっていく。
幸い怪我はほとんどないものの、この至近距離で凶悪狂人から逃げるのは不可能だ。
「う あ あ あ あ」
その大口が開かれ、牙が剥き出しになる。
もはや2人は嚙み砕かれてしまうのかと思われた時だった。
『ヒィィィィハァァァァ!!!』
岩の上から跳躍するバイク。
薄い前輪が2つ、太い後輪が1つというバランスを取ることに長けたバイクが、ニトロを爆裂させながら、凶悪狂人を踏みつける。
「うおおっ」
凶悪狂人を足場にしながら、リンとビリーの元へドリフトしながら停止。見事なアキラ・スライドだった。
「危なかったな、ビリの字!」
「アネゴォ!」
ビリーがアネゴと仰ぐこの女性。
ジャケットのカリュドーンという文字、そしてKINGという装飾からして、カリュドーンの子のメンバー、それも幹部クラスかトップに他ならないだろう。
『GHOOOO!!!』
「お、やっべ。うん? ん? あ、あった……うぉう!?」
だがバイクで轢かれた程度でくたばる凶悪狂人ではない。すぐに体勢を立て直し、襲いかかろうとする。
それを迎撃しようと、ビリーが取り落とした愛銃に手を伸ばす。しかし、それよりも早く一陣の風が駆け抜ける。
「はぁぁぁぁっ」
『U A A A A』
黄金に輝く爆燃動グローブが炎を噴いた。
加速に次ぐ加速、そして化石燃料と筋力と技術の乗った一撃は、たった一発で凶悪狂人を遠くへと殴り飛ばした。
それを成した青年は、ビリーを見下ろして言った。
「鈍ったっスね、パイセン?」
「ぬぅぅぅぅ……」
悔しそうにビリーが唸る。
鈍ったというか、はなから本気を出してないというか、カリュドーンの子時代のパーツはほとんどないというか……
だが、それでも彼らはそれぞれの得物を構える。とにかく目の前の敵を倒すために。
「行くぜ、目にもの見せてやっからよぉ!!!」
『GHOOOO――』
凶悪狂人は起き上がる。
2つの勢力がぶつかり合おうとした時。
『灘神影流』『仰臥・塊蒐拳』
『GYO――』
「なにっ」
「な……なんだあっ」
その瞬間、凶悪狂人は悶絶しながら絶命した。
エーテルの粒子となって消え去ったのだ。
「この声って……」
「ああ、間違いねぇ……」
粒子をかき分け、人型がやってくる。
筋骨隆々の屈強な、しかし絞られた戦いに特化した肉体。マネキンのような顔。
これこそ猿濃度凝縮体にしてエーテリアス初の武術家。
『“乱入”して名をあげる…プロレス界では伝統的なやり方なんスよ』
「!」
「お、おいライト?」
それを見た瞬間、自然とライトは歩き出していた。
近くまで来た時、確信する。やはりこのエーテリアスは自分と同じ、拳によって戦う者だと。
事実、エーテリアス……マネモブもライトを一目見た時から戦いたくてたまらなかった。ライカン以来の無手のファイターだ。
「来いよ。闘りたくてたまらないんだろ? いいぜ、カリュドーンの子の無敗チャンピオン、『赤いマフラー』のライトが相手だ」
『さあ楽しもうぜっ』『リンゴのように皮をむいて一口サイズに肉をカットしてやるよ』
仲間を置き去りにし、2人の雄同士の決闘が始まる……!