マネモブさんのバイク?
バキッ バキッ
「何ですのこのふざけた筋肉ダルマは!?」
ルーシーは、プロキシ兄妹にあるスレッドを見せられていた。
そう、自分が標的とされている依頼。キャプテン・マッスルの依頼である。
「彼はキャプテン・マッスル。インターノットの伝説的広報だよ」
「そんなことはどうでもいいですわ!!! この筋肉ダルマ……しばきあげてやりますわ!!!」
「あー、それだけど。キャプマスって単なる依頼の仲介人だから彼を倒しても意味ないよ。叩くなら依頼者を叩かなくちゃ」
「こ、こんな依頼する奴なんて……あ、あの父親の風上にも置けない淫売の息子がぁぁぁぁですわぁぁぁぁ!!!」
『いけーっ淫売の息子!!』
「その調子でもっと言ってやるんですわ!!! この私が許しますわ!!!」
『今日からお前は蛆虫だ。悪臭を放つ糞にたかりこの世で最も汚く蔑まれる蛆虫だ』
「その調子ですわぁぁぁぁ!!! ああもうクッソムカつきますわぁぁぁぁ!!!」
口汚く自分の父親を罵るルーシーに、マネモブも乗る。
兄妹は前々から思っていたことだが、マネモブの持つ罵詈雑言のレパートリーは尽きることを知らないようだ。
ちなみにマネモブはすぐ近くのホロウで待機し、イアスとH.D.Dを通して通信している。
「ともかく、野蛮人が来るっていうなら迎え撃つ他ないんじゃないか?」
「どこから来るか分からない以上、それが正解ですわね……」
本当に野生の野蛮人達がどこにいるのか、どこからやってくるのか分からない以上、カリュドーンの子から動くことはできなかった。
彼らは取りあえず、郊外のホロウデータ収集と、ツール・ド・インフェルノに向けてバイクのパーツ集めに向うことにした。
『今…俺は灘神影流の活法を学んでいます』『どうか俺に治療させてもらえませんか?』
「? どういうことですの?」
「……もしかして、手伝わせて欲しいってこと?」
『イエス! イエス!! イエースッ』
「合ってるみたい」
こうして、マネモブがカリュドーンの子に協力する運びとなった。
彼らは出発に向けて準備をしていたが、そこである疑問が浮かび上がった。
軽くバイクを点検していたシーザーが、マネモブに話しかける。
「そういや、オレらはバイクで行くけどよ。マネモブはどうするんだ?」
『いやっ聞いて欲しいんだ』
「……?」
画面から何やらギャーギャーと聞こえるものの、彼らは取りあえず待ち合わせ場所まで行くことにした。
Now Loading......
「よしっ、時間ピッタリだな。マネモブはまだか?」
「もうすぐだと思うよ~」
郊外のホロウのある地点にて、彼らはマネモブを待っていた。
少しでも侵蝕を避けるため、待ち合わせ時間ギリギリでホロウに入る。それはマネモブ側から持ちかけてきた、彼なりの気遣いだった。
『……! ……!』
「ん? 何か声聞こえたな。アレか?」
シーザーが、はるか向こうからやって来る音に気づく。その様子に、他のメンバーも同じ方向を見た。
そこには、四足歩行の動物らしき影。誰もが知るそのフォルムはまさに……
『ワンッ! ワンッ!』
「犬……?」
「……乗り物、って話だよな?」
「わ、私にはハティに見えますわ」
犬、などではなく。
その姿は犬型エーテリアスのハティ。アーマーハティでも、ハティ電離体でもなく単なるハティ。
緑色のエーテルが鈍く輝く、ノーマルなハティだった。
「お、おいこっちに来るぞ!?」
「迎え撃つぞ!」
ハティが凄いスピードで向かってくる。
それを発見した彼らは、各々の得物を構えた。たかがハティ程度ならば、彼らの内の誰か1人でも倒せる。
しかし、この乱入者をブチのめそうとした時。
『ワンッ! ワンッ!』
「犬……?」
ハティは、いわゆる『おすわり』の体勢になり、カリュドーンの子の前に座り込んだ。
これには彼らも困惑する。だが、ハティの背中から降りてきた者によって、その疑問は解決する。
『ヴヘヘヘへ、どうもお久しぶりです。ゴアです』
「いや、マネモブだろ」
謎多き武術の使い手、マネキン・モブことマネモブである。
「そいつはどうしたんだ? 同じエーテリアスだから手懐けたのか?」
『D‐51の一本の歯にかかる力は10トンある。これはティラノサウルスを超える咬合力』『ちなみに人間の歯は70~100キロしかない』『鋼鉄のトダーの首でさえパンをひきちぎるようなもの。ましてや人間の首なんて…』『その脚力はチーターの約2倍。最高速度280キロに達する。地球上でD‐51より速く走る生物は存在しない』『鋼鉄の物体がそのスピードでぶつかったらどれほどの衝撃か君にはわかるだろ。人間なんて機械の前では脆弱すぎる』
「はぁ? 何言ってんだ」
トチ狂った殺戮兵器か何かの説明を聞かされたカリュドーンの子達は、全く意味が分からなかった。
それもそのはず。マネモブは現在の状況に一番近いセリフを発しているにすぎない。つまり、どこかしら状況と乖離しているので、聞く側は意味が分からなくなるのは当然である。
『もしかして、その……』
『デゴイチ』
『デゴイチはハティじゃなくてロボットなんじゃないかな?』
『ご名答。よくわかったね』
大きさも見た目も普通のハティ。
しかし、その実態はロボットなのだという。
ただ、中身がロボットでも、なぜマネモブと行動を共にしているのかは不明だ。
「ロボットぉ?」
「見れば見るほどハティにしか見えませんが……そう言えば、こんな間近でエーテリアスを見ることはなかったですわね」
「すっごーい! あっ、ここ継ぎ目じゃない?」
「ただの模様だと思うぜぇ~」
「……確かに表面的な質感はハティっぽいが、中身は完全に金属だな。どうやらマジっぽいぞ」
彼女らはデゴイチを撫でたり観察した結果、本当にロボットだということが分かった。
「すげぇな! オレらのバイクに勝るとも劣らねぇってことが伝わってくるぜ」
「デザインは完全に勝ってますわね……こっちが」
「ともかくこれで出発できるってことだな。さあ、行こうぜ!」
各々が、バイクにまたがる。
マネモブもデゴイチの背中のトゲにしがみつき、振り落とされないようにする。
バイク達がエンジンという心臓に点火し、ガソリン排気の呼吸を行う。
デゴイチはそれを追って走り出す体勢に入った。
「ホロウん中をドライブと洒落込もうぜ!」
『デゴイチッ』
『ワンッ! ワンッ!』
一斉に走り出すバイクとデゴイチ。
バイカーをハティが追っているという肝が冷えるような光景だが、デゴイチは基本的に勝手に人を襲わないようにプログラムしているので安心だ。
『凄い光景だねぇ。前に見た映画にこんなシーンあったなぁ』
「どんなシーンなんだ?」
『夜の荒野で、バイクと馬が並走するの。騎手はどっちも燃える骸骨なんだよ!』
「そいつはカッケェなぁ! また今度見せてくれよ!」
まず彼女らが目指すのは、ホロウデータ収集のためにデータスタンドを設置すること。
ちなみにデータスタンド、観測装置はマネモブがデゴイチに積み込んで運んでいるので、カリュドーンの子の負担はかなり軽減されていた。
自ら手伝いを買って出たマネモブは、細かいところで役に立っていた。
『サイボーグハティ・D‐51』
・ゴア博士の発明品は何かに駆り立てられたような超高性能を誇ることが多い。このサイボーグハティ・D‐51、通称デゴイチは彼の最高傑作の1つだ。
彼はエーテリアスのハティを捕獲し、ホロウ内でサイボーグ化処置を行った。その結果、エーテルの侵蝕を受けず、さらに特定の人間の命令に従うという地獄の番犬が誕生した。
装甲は据え置きなものの、機械によって強化されて破壊的な攻撃力と、いかなる悪路でも駆け抜ける走破性は、今や多くのエーテリアスやホロウレイダーにとっての恐怖の象徴である。
さらに、知能は人間並であり単独でもある程度の作戦をこなすことができるというこの恐ろしい忠犬は、作戦中に迷子になり反応をロストした。
そんな野犬は、新たな主人のもとへたどり着く。その主人こそが、あの高濃度猿侵蝕体“マネキン・モブ”。このエーテリアスにして人類の味方である異端の狂犬は、ホロウ中にその名を轟かせ続けている。
『落ち着けよ、俺は仲間だろ。裏切ったりしない』――デゴイチの説得を試みるアーマーハティ