高濃度猿侵蝕体“マネキン・モブ”   作:アースゴース

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なめるなっ邪兎屋ァッ

 何でも屋“邪兎屋”はとあるホロウの中を探索していた。

 そのホロウには旧時代の貴重なビデオやコミックが眠っているらしい。それらはもちろんめちゃくちゃ高値で売れる。

 インターノットでそれを聞きつけた邪兎屋の長、ニコはなじみのプロキシである“パエトーン”に協力を仰ぎ、今に至る。

 

 「なんにも無いんだけど!」

 

 だが、目標と思われる地点には、崩壊した家屋があるばかり。

 まともなものなど残ってはいない。せいぜい、壊れた知能機械が時折、不快な雑音じみた意味のない言語を発するだけである。

 

 「ニコの親分、ホントにここであってんのか?」

 「あってる……はずよ! だってインターノットの噂だけじゃなくて、ちゃーんと自分の脚でも聞き込んだんだから! 確かなはずよ! パエトーンの案内も完璧だし!」

 「ニコの言う通りかもしれない。これを」

 

 従業員であるビリーに反論するニコ。

 その傍らで、アンビーは地面に落ちていたある物を拾った。

 

 「何これ?」

 

 映画のDVDのパッケージのようだ。

 揺らめく炎を背景に、屈強な男性が壮絶な表情で対する何者かを睨んでいる。

 

 「何かしら……リ……キ? うぅん、かすれてて読めないわ。映画だとは思うんだけど」

 『映画? ちょっと見せてよ!』

 「パエトーンはビデオ屋だったわね。はい、どうぞ」

 

 映画のパッケージを覗き込む、ウサギのような物体。

 この知能機械はボンプ……なのだが、今はプロキシであるパエトーンが同期している。

 

 『かなり古い映画だ……私も見たことない! 多分お兄ちゃんもないと思うよ』

 「つまり、値打ちものってワケね!」

 

 上機嫌で皮算用を始めるニコに対し、アンビーは真顔で忠告した。

 

 「気を付けて。こうやって宝物を見つけて舞い上がってる時、背後から怪物が――」

 『チィ――ッ、見破られたか』

 「!?!?!?!?!?!?」

 

 ベベ、と何かを引き剥がすように現れた何者か。

 何の気配も感じなかった空間から現れたそれに対し、彼らはパエトーンを庇いつつ、とっさに自分の得物を構えた。

 

 「な、何だコイツ!?」

 

 エーテリアスだった。

 だが、どこを観察してもコアは全く見られず、ただ屈強な肉体があるのみ。

 頭部はエーテリアスらしくなく、まるでマネキンのような生気の無さが印象に残る。

 

 特に大柄なわけでもなく、身長に関しては邪兎屋の面々とそう変わりはない。

 総じて、『あまり強くなさそう』というのが見た目からの印象だった。だが、それだけで警戒を緩める邪兎屋ではない。

 実力者である彼らの警戒をかいくぐり、いきなり出現した異様な化け物を前に、安心などできるわけがなかった。

 

 「エーテリアスなの……?」

 「でも今喋ったぞ!?」

 「聞いたことがある。過去には人語を解す友好的なエーテリアスがホロウで迷った少女を救って――」

 「映画の話でしょそれは!」

 

 それは、その場から動かない。

 動かない、が。また言葉を発した。

 

 『オマエ誰ヤンケ? ココハ私有地ヤンケ。出テイケヤンケシバクヤンケ』

 「あの……エーテリアスが私有地の権利を主張してんだけど……攻撃していいのかこれ?」

 「エーテリアスになったからにはもう死亡扱いよ! それに、ホロウの中で拾った物は見つけた人の物よ!」

 「さすがニコ。法律には詳しい」

 『法律の問題なのかな、これ……』

 

 その通りである。

 エーテリアスになったからには、もう生前の権利は通用しない。ただ活動する化け物でしかない。

 だが、このエーテリアスは一味違った。

 

 『ウ…ウソやろ、こ、こんなことが、こ…こんなことが許されていいのか』

 

 まるで、被害を被ったのに法律を盾にされて泣き寝入りするしかない被害者のようだった。

 先ほどまで微動だにしなかった屈強な身体が震え、心なしか汗すらもかいている気がする。

 

 「お、親分……何か俺、すげぇ罪悪感が……」

 「私も」

 『今回は諦めた方がいいんじゃないかなぁ? ほら、ツケにしといてあげるから』

 「何よ揃いも揃って! お宝は目の前なのよ! 諦めてなるもんですか! これはあたしのものよ!!!」

 

 そう言ってDVDを抱くニコ。

 その姿に、容赦なくエーテリアスの忌憚のない意見が飛ぶ。

 

 『リカルド、ダメだろ勝手に能力解放したら』

 「リカルドって誰よ!? とにかく、せっかく見つけたお宝をみすみすくれてやるわけにはいかないわ。例えそれがエーテリアス相手でもね!」

 『悪魔を超えた悪魔』

 「何とでも言いなさい! これで全部の借金がチャラになるのよ!」

 『あなたは“悪魔王子”ですか?』

 「王子じゃないわよ! 女よお・ん・な!!! 目ぇ見えてるわけ!? 喋れるんだからそれくらい分かりなさいよ!!!」

 『なめるなっメスブタァッ』

 「だぁれがメスブタですってぇ!?!?!?!?!?」

 

 売り言葉に買い言葉。

 奇跡的に会話が成立しているように思われるが、どこかズレている。

 そんな不毛すぎる会話に、ビリーはあえて割り込んだ。

 

 「に、ニコの親分。もしかして、その映画の持ち主とこのエーテリアスは同一人物なんじゃないか?」

 「えっ」

 

 ギギギ、とエーテリアスを見るニコ。そういえばと集めた情報を思い返す。

 

 曰く、そのコレクターは奇妙な言葉遣いをしていた。

 曰く、屈強な身体をしている。

 曰く、死人のように生きているような、生気のないマネキンみたいな顔をしている。

 

 もし、そのコレクターのエーテル適性が高かったら。めちゃくちゃ高かったら。

 言葉を発するエーテリアスなどという荒唐無稽な存在に変異していたとするのなら。

 集めた物品を火事場泥棒されてどう思うのか。

 

 「あ、あのあたし達依頼で来てるのよ。見逃してくれたりしないかしら?」

 『はいっクズ確定。ぶっ殺します』

 

 エーテリアスが構えた。

 見たこともない構えだが、確かに洗練された武術のそれだった。

 

 「やっぱこうなんのかよ!」

 「こうなったからにはやるしかない」

 「あ、あたしのせいじゃないわよ!」

 『皆、気を付けてね!』

 『ふざけんなよボケが』

 

 ◇次回、戦いの行方は…!?

 

 

 

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