高濃度猿侵蝕体“マネキン・モブ”   作:アースゴース

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ルシウスに多分哀しき過去…


ツール・ド・デビルズ・デビル Vol.1

 旧油田エリア、“ツール・ド・インフェルノ”スタート地点。

 そこには異様な熱気と共にざわつく大勢の観客たちがひしめき合っていた。

 

 「テレビの前にラジオの前、それに会場にいる燃料バカたちーッ! みんな大好き、ジョリー・ジョニーだよーッ!」

 『W O O O O O』

 

 荒野に設置された超大画面スクリーンには、今回の司会である女性、ジョリー・ジョニーの姿が大々的に映し出されていた。

 その姿に、まだレースの前座だというのに観客は大いに沸いた。

 

 『こんなに人が多いとは思わなかったよ。マズいなぁ、緊張してきちゃったよ』

 「ハハハ! プロキシは得意なことに集中してくれりゃいい。あとはこっちに任せとけ!」

 

 あまりの観客の多さに緊張するパエトーンに、シーザーは安心するように言った。

 その力強い自信にいくらか緊張は和らいだが、全てではない。パエトーンは、緊張のことを頭から追い出すように、周囲を飛び回るドローンへと意識を向けた。

 

 『その辺を飛び回ってるのは何?』

 「いい質問だねぇ! 目をかっ開いてよーくごらん!」

 

 ジョリー・ジョニー曰く、この中継ドローンはホロウ内とのタイムラグわずか10分で中継できるものなのだという。

 しかし、パエトーンはむしろタイムラグ無しなので、凄いなぁくらいに思っていた。

 

 「前置きが長い? ハイハイそうかい、んじゃ駆け込みで参加陣営のご紹介!」

 

 いよいよ参加陣営が紹介される。

 

 「防衛側“トライアンフ”! ポンペイ、ルシウス、モルス!」

 

 黒い犬かオオカミのシリオンであるモルス、優男に見えるルシウス。

 そして、年老いてなお、服の上からでもわかるほど筋骨隆々の肉体を持った偉丈夫、覇者ポンペイ。

 言っては悪いが、ルシウスとモルスがオマケに見える。

 

 「対する挑戦者側! “カリュドーンの子”! シーザー、ルーシー、ライト!」

 

 王者、お嬢様、格闘家の見慣れたメンバー。安定感すら覚える。

 

 「ルールはシンプル! ホロウへダイブ! 火の湖にダッシュ! 火打石で忌々しいエーテル結晶をクラッシュ! 先に儀式をやり遂げた猛者が、すなわち次の覇者だァ!!!」

 

 本当にシンプルなルール。

 このツール・ド・インフェルノにおいて大事なのはレースよりも、火打石を火の湖に投げ込むこと。

 その目的さえ達成できれば、レース参加者がいくら死んでもいい。

 

 「覇者のオッサン! ようやくだな! これでついに決着をつけられるってもんだぜ!」

 

 覇者を相手に啖呵を切るシーザー。

 見る者を圧倒する覇気を持つポンペイに対し、まるで恐れていない。

 

 「ククク……大した自信だな小娘。俺を退屈させないよう、せいぜい力を尽くせ」

 

 そう答えるポンペイだが、期待していることは丸わかりだ。

 まるで運動会に応援に来た気のいいおじさんである。しかし、今はライバル同士。油断も手加減もしない。

 参加者紹介も終わり、これでレースが始まる――

 

 「――ここでさらに特別ゲストのご紹介!」

 「えっ」

 「なにっ」

 

 ジョリー・ジョニーが特別ゲストを紹介するという。

 この神聖なるツール・ド・インフェルノに特別ゲストもクソもないだろうと訝しむ。しかし、その疑問は驚愕へと変化する。

 

 「今回来てくれたのはこの男! 歴戦の防衛軍一万人をまとめて失神KOし、デッドエンド・ブッチャーを単身で完封、ゴッズサミット・ホロウ登頂および要救助者の救出! さらにさらにあの凶悪なホロウレイダー集団“鬼喪傘”に対しタフ・ホロウ防衛戦にて幹部級10人を討伐する大活躍!!!」

 「誰なんだ」

 

 ポンペイはまるで見当がつかなかった。

 この偉業ともいえる話の数々も、盛っているとも思える。しかし、覇者としての勘が大体は本物であると告げていた。

 

 「こ、これってまさか……」

 「あいつか? あいつなのか?」

 「あいつ、とは?」

 

 知っているような素振りを見せるカリュドーンの子に対し、ポンペイは疑問を投げかけた。

 

 「“M”ですわ、“M”が正体を現しますわ」

 「特別ゲストが“M”?」

 「スタッフの交渉にも快諾してくれたこの益荒男こそは――」

 

 やがて、スクリーンの大画面に姿を現したのは……

 

 『我が名は尊鷹』

 「高濃度猿侵蝕体“マネキン・モブ”&デゴイチだぁぁぁぁっ!!!」

 『W O O O O O O O O O O』

 

 マネモブとデゴイチだった。

 偶然にも大会スタッフと接触した彼らは、交渉の末に特別ゲストとしてレースに参加することになったのだ。

 

 「参加者はマネモブ&デゴイチの妨害を切り抜けつつ火の湖を目指さなくてはならないッ!」

 「えっ」

 「彼らが使う武装はガトリングガン、レーザー兵器、エーテル爆弾に電磁パルスと何でもあり! この無敵のエーテリアスコンビの猛攻を突破し、参加者は火の湖にたどり着けるのか!?」

 「フン、バカバカしい」

 「へっ、どんな妨害でも受けて立つぜ」

 「ちなみにマネモブが優勝すると彼が覇者になります」

 「お前達! 油断は絶対にするなよ!!!」

 「気合入れてくぞ!!!」

 

 善性で意思疎通ができるとはいえエーテリアスを覇者にしてはならない。

 そもそも、ホロウから出てこられない覇者など何の意味があるのだろうか。

 

 「さあ、両者位置について……」 

 

 アクセルが全開まで握られる。

 発車していないのは、まだスタートしていないというだけだ。

 

 「ツール・ド・インフェルノ、レース・スタート!!!」

 『ゴングを鳴らせっ、戦闘開始だっ』

 

 最初から全速力でバイクが発進した。

 両チームは、分岐点で一気に分かれる。これは来るマネモブの妨害の押し付け合いである。

 狙われるのはどちらか。2分の1の賭けだ。

 

 「今からホロウに入るよ、みんな気を付けてね!」

 「行くぜ! 目指すはシンダーグロー・レイクだ!」

 

 

 

 Now Loading......

 

 

 

 数分後……

 

 『俺はバルカン・ボビーだぁっ』『拳銃みたいなもん使ったら俺がバルカン・ボビーで無くなっちまうだろうが!!』

 「あいつ殺す気かよ!?」

 

 マネモブはデゴイチに備え付けられたガトリングガンを放ちながら、カリュドーンの子を追い回していた。

 弾はもちろん実弾であり、人体こそ狙っていないものの、バイクを容赦なく破壊しようと襲っている。

 

 「むちゃくちゃな野郎だ!」

 「あーもう! どうせならポンペイおじさまのところに行けばいいんですわ!!」

 『“四人霞”』

 「あっ……ま、まさか……」

 

 マネモブがデゴイチごと2人に増える。

 四人霞は4人に増える技だが、今は2人。ということは、残り2人はポンペイを襲っていると見て良いだろう。

 

 『一瞬で跡形もなく消滅させてやるよ!!』

 『ここがリカルドの家か…?』『ぶち殺してやるぜっ』

 「チィッ、リカルドが何したってんだよ」

 

 二丁のガトリングガンが火を吹き、レーザー光線が岩の外壁を粉々に砕く。

 サイボーグ・ハティ、デゴイチはゴア博士が作り上げた最高傑作の一つである。どんな武装でも後付けできる拡張性すら備えている。

 これらの兵器は全てマネモブがホロウでかき集め、無理やりデゴイチにくっつけたものだ。

 

 『右からエーテル爆薬がくるよっ!』

 『悪魔ァ悪魔がいるゥ』

 『人生の悲哀を感じますね』

 『なにっ』『う あ あ あ あ』

 『お…おいスヌーカはどうした? 出てこないよ。焼け死んだのか? だとしたらまずいよ、ドローン飛ばしてる場合じゃないよ。お…俺は放火殺人犯になっちゃうよ』

 「何をやってるんですのこのバカ共は?」

 

 マネモブは分身同士で同士討ちし、その役目を終えた。

 それを見届けたシーザー達は、先へ進もうとする。勝手に自滅したマネモブに構っている暇などない。

 

 「さあ、先へ進もうぜ――」

 

 ド ド オ ン

 

 『もろとも爆破…!!!!!』

 

 だがその時、突如として爆発が彼女達を襲った……

 

 

 

 Now Loading......

 

 

 

 “ツール・ド・インフェルノ”のゴール、シンダーグロー・レイクの前。

 ポンペイとルシウスは火の湖を眺めていた。エーテル侵蝕が進み、ところどころにエーテルの結晶が生えている。放置していれば、火の湖をふさいでしまうだろう。

 だが、そうならないようにこのレースは開催されている。そして、今や勝者はポンペイで決まったも同然。

 

 「マネキン・モブか。面妖な相手だった」

 「ヤバかったですね。まさかあんなタイミングで塊蒐拳と破心掌を同時に繰り出してくるとは。明らかに殺す気でしたよ」

 「勝手に自滅してくれて助かったというべきか、全力で闘えなかったことを残念に思うべきか」

 

 ポンペイは火の湖を眺める。

 やはり、例年のレース通り、エーテルの結晶が噴射口を塞いでいる。

 

 「それにしてもカリュドーンの子め。決着をつけると息巻いておきながら……マネモブがいなければ退屈なレースだった」

 「せっかく親分が目をかけてやっていたのに。連中、やる気がないにもほどがありま……いやまさかマネモブにやられたってわけじゃないでしょう?」

 

 ポンペイはカリュドーンの子にかなり期待していたのだが、彼女達と出会うことなく火の湖まで来てしまったことに落胆していた。

 ツール・ド・インフェルノは大切な儀式だが、それはそれとして将来有望な若者としのぎを削って争いたかった。

 

 「流石にあれを突破できないことは無いと思われるが……退屈ならばそれでも結構」

 

 火の湖に、四角い物体が投げ込まれる。

 これこそ炎を活性化させ、エーテルの結晶を破壊し尽くす“火打石”だ。

 

 「少なくとも数年は火の湖を心配しなくてもいい。何よりも大事なのは火の湖なのだからな」

 

 これで結晶は破壊され、火の湖は安泰。

 そう思っていた時だった。

 

 「な……なんだあっ……どういうことだ!? エーテル結晶が大量に!?」

 

 勢いよく炎を噴き上げるはずの湖から、大量のエーテル結晶が生えてきた。

 今投げ込んだのは火打石のはず。何か不備があったのか、未知のエーテリアスでも現れたのか、ホロウが活性化したのか――

 

 「“エーテル重合触媒”……遊離状態にあるエーテル粒子の結晶化を促す代物です」

 「なにっ」

 「都市の企業がエーテルの生産量を増やすために開発した郊外には無用の産物な技術ですよ。まあこの特殊環境下では効果覿面でしょうが」

 

 その答えは、背後の男。

 

 「ルシウス、貴様ーっ」

 

 ルシウスだ。このトライアンフの幹部であるはずのルシウスが裏切ったのだ。

 

 「その通りですよぉ、ポンペイの親分。火打石は事前にすり替えておいたのさ。まもなく火の湖は消滅し、新たなエーテル採掘場になります」

 「都市の企業、採掘……ま、まさか……」

 

 そう、ルシウスは都市の企業と結託し、郊外の要である火の湖を消すつもりなのだ。

 

 「あ、ちなみにこの触媒を使うと付近のエーテル濃度が急激に上昇するらしいよ。特に“エーテル適応体質異常”の人には深刻な結果をもたらすでしょうねぇ」

 「うぐぅ!?」

 

 ポンペイは吐血し、胸を押さえた。

 彼はエーテル適応体質異常ではない。生まれつき心臓は弱かったが、それでも治療で何とかなっていた。

 それが意味するところは、ルシウスがポンペイに変な薬を盛ったということだ。

 

 「本来、あの薬は常人には毒にも薬にもならない。だけど持病とか持っていたら毒になるんですよ。ポンペイの親分は心臓に疾患を抱えてるでしょう? 今はさぞ苦しいはずです。立っているのもやっと――」

 「ルシウス、貴様よくも――」

 

 彼の中にあるのは怒り。

 自分を裏切ったこと、騙していたこと、それを見抜けなかった自身への怒り。

 だが、何よりも強いのは、火の湖を潰そうという邪悪な意志への怒りだった。愛する郊外を、こんなクズに良い様にされたくはなかった。

 

 「断じて許さぬ!!!」

 「う あ あ あ あ」

 

 ポンペイの剛剣が、ルシウスの右頬を斬り裂いた。

 首を刎ねるつもりだったが、常人では昏倒する痛みとめまいなどによって狙いが逸れた。

 

 「ククク……よくも僕の右頬に傷を増やしてくれたなぁ!」

 

 それに逆ギレしたのはルシウスだ。

 ポンペイどころか郊外の住民に凌辱されてブッ殺されても何も文句は言えない立場なはずの彼は、ポンペイをこう呼んだ。

 

 「――“怪物を超えた怪物”め。ここまで侵蝕が進んで、まだこれだけのパワーがあるとは……郊外の伝説気取りか? おとぎ話はベッドでママに読んでもらえっつーの……」

 「き、貴様のような人面獣心のエーテリアスのクソにも劣る輩に期待していた俺の目は、とんだ節穴だったようだ」

 

 自分も老いたかと自嘲するポンペイ。

 

 「一体何が目的だ? エーテル企業共と結託しおって……その先にある結果を知らぬわけではあるまい?」

 「やだなぁ親分。まさか皆が皆、あんたみたくカビの生えた古臭い仁義と自由を信じてるなんて思ってるわけじゃないでしょ?」

 

 若い上にサイコ野郎のルシウスには、郊外における仁義も自由も分からない。

 

 「弱者も能無しも、死人のように生きてるクズ共も! もうとっくに時代から見捨てられてるんだよ蛆虫野郎ーっ!」

 

 彼の原動力は、人には言えない哀しき過去……

 誰にも吐露できず、彼の中で(おり)のように凝り固まったそれは、彼の人格を歪めるのに十分だった。

 

 「エーテルの力さえあれば、僕はリーダーのいない郊外に新たな秩序を打ち立てられる! 僕の指先一つで動く王国をなぁ!」

 「何を言ってるこのバカは?」

 

 そもそも郊外はポンペイでさえあんまり束ねられていないフルコンタクト・試される大地である。

 今更、企業の1つや2つがやってきたといって、どうにかできるような問題ではないのだ。しかも火の湖を潰した時点で郊外の衰退は確定しており、今生えているエーテル結晶を採掘するよりも、他のホロウを狙った方が良い。

 企業にあまり旨味があるとは思えなかった。

 

 BEEP! BEEP!

 その時、ルシウスの携帯が鳴った。若者であるルシウスはもちろんスマホを持っている。

 ちなみに、着信はモルスからである。

 

 「どうした?」

 『ボス、カリュドーンの子の痕跡です。奴らはもうすぐシンダーグロー・レイクに到着します』

 「なにっ? あれほどの爆薬で奴らを葬り去ることができなかったのか?」

 『どうやらマネモブが奴らを庇ったようです』

 「チィッ、あの人間モドキのエーテリアスめ、奴のせいで計画に狂いが生じる。ひとまず撤退しかない……この目で火の湖の消滅を拝みたかったがそうもいかないか。これじゃあいいとこ60点しかないよ。すみませんねぇ、ポンペイの親分」

 

 ルシウスは嗤いながらナイフを取り出した。

 普段のポンペイならこんな玩具で殺すことはできないが、今ならできる。

 彼は地面に這いつくばる、自身が全く敵わないであろう強者を一方的に殺せる状況に、形容しがたい快感を覚えた。

 

 「どうやらお別れしなくちゃいけないみたいなんで、今から楽にしてあげますよぉ」

 「フーッ……フーッ……そ、そんなに悠長にしていて大丈夫なのか?」

 「なにっ?」

 

 侵蝕されながらも、ポンペイが笑った。

 そして、とある方向に顔を向ける。

 

 「み、見ろ……“死神医療チーム”が待機しているぞ。俺も貴様も手負い……連中はすぐにでも殺せる動けない俺より、貴様を優先するのではないか?」

 「えっ」

 

 その方向には、計3体のエーテリアス。

 死神医療チーム。濃厚な死の気配を感じて、火の湖までやってきた。

 奴らは複数のターゲットがいる場合、動けない者よりもある程度手負いの者を優先して襲う習性がある。

 

 「……ククク、いいでしょう。あんたがその気なら、せいぜい心臓を奪われてくださいよぉ。もっとも、疾患のある心臓なんて連中は欲しがらないでしょうけど」

 「抜かせ……」

 

 死神医療チームを恐れたルシウスは、ポンペイを置いて火の湖から去って行った。

 後に残ったのは、動けないポンペイと、死神医療チーム――

 

 

 




ほぼ原作沿いで謝ります。どうもすみませんでした
でも多分次話からが本番ですよね?
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