高濃度猿侵蝕体“マネキン・モブ”   作:アースゴース

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な…なんですかァこの展開はァ
の…脳ミソから変なものが出てきたですゥ(プリッ)
猿展開だ…猿展開が出てるですゥ
あわわっ いっぱい出てきたですゥ(ドボ ドボ)
はひーっ


ツール・ド・デビルズ・デビル Vol.2

 『シーザー、あれって!?』

 『寒い雪の日の朝…!?』

 

 シンダーグロー・レイクの前にて。

 火の湖の異変を感じたシーザー達は大急ぎでやってきた所だった。

 ちなみにマネモブも一緒だ。

 

 「おい、オッサン! しっかりしろ!」

 

 シーザーが、バイクと共に倒れ伏すポンペイに駆け寄り、屈強な体の向きを変える。

 彼らは、その姿を見て絶句した。

 

 『酷い侵蝕反応……!』

 

 顔からは結晶が生え、もうすぐポンペイの命は尽き、エーテリアスとなるだろう。

 横で何やら荷物をひっくり返しているマネモブとは違い、理性も何もない恐ろしい怪物になる。

 

 「シーザー! 火の湖がエーテル結晶まみれですわ!」

 

 ルーシーが火の湖を覗く。

 エーテルの結晶が乱立し、噴射口どころか全てをふさいでいる。

 

 「一体、何が起こってるんですの……!?」

 

 何が起こっているのか分からないカリュドーンの子だが、その答えは他でもないポンペイからもたらされる。

 

 「ル……ルシウスが……裏切ったぁ……」

 「すぐ連れ出してやる! まずはそれから――」

 「時間がない!」

 『たいしたことない!!』

 「なにっ」

 

 マネモブは数秒後にエーテリアスになる直前のポンペイに近づき、無理やり口を開けて何かを飲ませた。

 

 『薬の時間だぜ』

 「もが、もが……」

 「お、おい何を飲ませてるんだ?」

 『こ、これは抗侵蝕剤! でも色が濃いような……』

 

 これは、抗侵蝕剤をさらに濃縮して効果を高めた物。

 ホロウを渡り歩くマネモブが拾った抗侵蝕剤で遊んでいたところ、偶然にも化学反応が起こり、劇的な効果を持つ抗侵蝕剤が完成した。

 

 「す、すげぇ……」

 

 ポンペイの顔からエーテルの結晶が剥がれ落ちる。

 つまり、実質的な死は免れたということ。ポンペイは助かったのだ。

 

 「ぐ、うぅ……エ、エーテリアスに命を救われるとはな……感謝するぞ、マネモブよ……」

 『ククククク、恥ずかしがることはないよ。うぬぼれは若者の特権よ』

 『あの、マネモブがエーテリアスになったと思われる時期的に、孫と祖父くらい歳が離れてるんだけど……いいのかなこれ』

 「いいだろそんなこと! とにかく火の湖に火打石放り込んでさっさとずらかるぞ!」

 『ボクゥ? “カリュドーン”ノ“子”ヤネ?』

 「えっ?」

 

 彼らがその場から撤退しようとした時、何者かから声がかかる。

 

 『チョウオ兄チャン達ニツキオウテヤ』

 「こ、これは……」

 『ドッペルゲンガー!? 特殊な電離体の発生が、どうしてこんなところに……』

 

 多数の人物のドッペルゲンガーが現れた。

 走り屋らしき彼らは、死人のような、しかし燃え上がるような闘志の込められた目でシーザー達を見つめている。

 

 「誰なんだ」

 「や、奴らには見覚えがある……過去のツール・ド・インフェルノで散っていった者達だ」

 「過去のレースで!?」

 「ああ……俺がまだ若い頃にな」

 

 その正体は、若き日のポンペイが参加したレースで死んだ亡霊である。

 彼らは、エーテル濃度の急激な上昇によって現れたドッペルゲンガーに憑依して復活したのだ。

 

 「何が目的なんですの!?」

 「恐らく、俺達と決着をつけることを望んでいるんだろう。レースでつけられなかった決着をな」

 『その怒りはキー坊にぶつけるんだ。キー坊のせいでお前はこんな苦しい思いをしてるんだ』

 「八つ当たりってわけか? さっさとぶちのめしてやるぜ」

 

 どんな形でもいいから、とにかく決着をつけたかった。

 その無念は、カリュドーンの後継組織であるシーザーにもぶつけられようとしていた。

 だが、その時――

 

 『オドレラ手ェ出スナ。多対多(タタイタ)デ勝負ジャ』

 「お、お前は――」

 

 3メートルを優に超す巨体。

 肥満にも見えるものの、確かに筋肉の詰まった恐ろしい肉体。

 絶対的な意志の宿った目を光らせ、その男は現れた。

 

 「“アーマードのシマキン”!?」

 『アナイナハナクソニエエヨウニ()()()()テ。オドレハ覇者ノツラ汚シジャ』

 

 かつてアーマードという走り屋集団があった。

 若き日のポンペイが率いるトライアンフと何度も戦い、戦友となった男がいた。

 それこそが、シマキン。彼はルシウスに翻弄されたポンペイに怒りを抱いていた。お前はこの程度ではないはずだと。

 

 「シマキンだって!? それってまさか……」

 「ビッグダディから聞いていたか。そう、奴は郊外にて無双を誇った益荒男。俺達の友だった男だ」

 

 かつての強敵が敵として立ちはだかる。

 普段なら受けて立つが、今は状況が状況だった。

 

 「どうしてお前が邪魔をする? 火の湖がどうなってもいいというのか?」

 『ホイダラオドレラハアノ世ヘ送ッタロカア――ン?』

 「どうやら話は通じねぇみたいだ。やるしかねぇぞ!」

 『多勢に無勢だいっけぇ』

 

 彼らがシマキンに立ち向かおうとしたその時だった。

 

 『笑ガスナアババタレガア―――ッ』『()()()()デ勝負ジャ』

 「えっ」

 「なにっ」

 『な…なんだあっ』

 

 シマキンの周りにいた走り屋の亡霊達が、シマキンに吸収されていく。

 いや、正確にはその姿形を変え、シマキンにまとわりついていく。ある者は攻殻に、ある者は刃に、またある者はエンジンのような駆動機関に。

 やがてシマキンが立ち上がると、その姿は一変していた。

 

 「装甲化(アーマード)・シマキン……」

 『ウ…ウソやろ、こ、こんなことが、こ…こんなことが許されていいのか』

 

 まるで鎧のような外殻。

 身体を強化し保護するはずの強化外骨格は今や、その全てを攻撃力へと特化させていた。

 その姿はまさに、アーマード・シマキンだった。

 

 『シバキアゲタラアッ』

 「来るぞ!」

 『ゴングを鳴らせっ、戦闘開始だっ』

 

 強敵との戦いが幕を開ける……

 

 

 

 Now Loading......

 

 

 

 『“霞連弾(かれんだん)”!!』

 

 出し惜しみなど一切なし。

 霞のように朧げで速く、剣よりも鋭い貫手の連打が放たれる。

 その全てがシマキンの腹に命中した。

 

 『ナンヤソラアッ』

 『しゃあっ』

 

 だが、一撃一撃が必殺の連打すらも布石でしかない。

 真に打ち込むべきは、防御を無視した必殺の貫通技。

 

 『“不知火”!!』

 

 腹部に波動が叩きつけられる。

 あらゆる防御を無視して内臓をぐちゃぐちゃに崩壊させる一撃。

 しかし、これで終わりではない。

 

 『灘神影流“塊貫拳”』

 

 発勁による衝撃波の軌道を自在に操る技。

 込められた気が、シマキンの脳にまで達する――

 

 『コソバインジャアッ』

 

 だが、シマキンはそんなダメージを気にすることなくパンチを放つ。

 大振りだが速く、そして絶大な威力を秘めた必殺技という名の通常攻撃。

 

 『“象塊”からの…』『灘神影流“飛翔(ひしょう)猛禽返(もうきんがえ)し”』

 

 しかし、マネモブはそれすら見切る。

 腕を取り、空中に跳躍しながら手首を捻りつつ地面に叩きつける。

 

 『笑ガスナアババタレガア―――ッ』

 『なにっ』

 

 自重で地面まで叩きつけようとしたが、体重差を見誤った。

 象塊まで使用したのだが、シマキンの筋力はそれをはるかに上回っていた。

 片腕で象塊を使用したマネモブが持ち上げられているが、その隙を見逃す者はこの戦場にいない。

 

 「そういうことか! そのバカみたいな“残気”を叩きつけてやる!」

 

 ライトが、シマキンの腹にラッシュを加える。

 そして、ライトとシマキンの間にはマネモブの“残気”。

 これは、マネモブが塊貫拳に使用した気の余剰エネルギーのようなもので、不完全な塊貫拳の性質を持っている。

 これが体内に入ると、内部で暴れ狂う。

 

 ライトは残気をシマキンに叩きつけたのだ。

 

 『アガガッ』

 『効いてる…効いてるぞっ』

 

 流石のシマキンも、必殺技の連撃には堪えたようだ。

 

 「今がチャンスだ!」

 「昔からシマキンは斬撃に弱かった! 我々こそが攻めに回らねばならん!」

 

 シーザーとポンペイの剣コンビがシマキンを斬り裂く。

 打撃よりは確実にダメージが通っているようで、シマキンからは時折、苦悶のうめきが聞こえる。

 

 『効いてる…効いてるぞっ』

 「ヘルバ、アルボル、ラテレム! カッ飛んできなさいですわ!!!」

 『いけーっ淫売の息子!!』

 

 ヘルバ、アルボル、ラテレムの親衛隊トリオが炎をまとい飛来する。

 だがその時、シマキンの眼が光る。

 

 『笑ガスナアババタレガア―――ッ』

 『なにっ』『う あ あ あ あ』

 「ヘルバ、アルボル、ラテレム!?」

 

 親衛隊が、まるで野球ボールのように打ち返された。

 バットはマネモブ。片足を掴まれ、振り回されているのだ。

 

 「クソッ、これでは近づけん――」

 「オッサン危ねぇ!」

 「なにっ」

 『あ あ あ あ』

 

 ポンペイが、マネモブ諸共吹き飛ばされた。

 咄嗟に防御行動はしたものの、先ほどまで限界近く侵蝕されていた影響で動きが鈍く、防御が間に合わなかったのだ。

 

 「う、うぐッ……ガハッ」

 『ボリス大丈夫?』

 「ああ、どうということ……は……」

 『えっ』

 

 ポンペイは、それを最後に動かなくなった。

 

 「こいつ斬っても斬ってもどんどん元気になってくぞ!? 斬撃が弱点じゃないのか!?」

 『ちがう! あの身体は単なる“肥満”じゃない! 筋肉の上に脂肪をつけ、その上にまた筋肉をつけた“肉のヨロイ”なんだ』

 「それマジか! プロキシ!?」

 

 まだ戦いは続いている。だが、側には動かなくなったポンペイがいる。

 彼を見捨てて戦闘に参加すべきか、助けるべきか。迷った彼は、何気なく、周囲を見た。

 

 『お……おい、あれを見ろ。“死神医療チーム”が待機してやがる。決着がついたらすぐに“心臓”を抜き取るために』

 

 誰に聞かせるでもなく、そう言葉にした。

 死神医療チームは奪命車から降りて、猛ダッシュでこちらへ向かってくる。

 

 「あ、あいつらは死神医療チーム!?」

 『こんなところにまでくるなんて……!』

 

 絶望的な状況。

 だが、マネモブはあえて彼らを迎えた。

 

 『ISOGEッ』

 『薬の時間だぜ』

 

 すると、意外なことに死神医療チームはポンペイの心臓を奪うでもなく、ある行動に移った。

 

 『SINNZOUMASSAーJI』『HUNN』『HUNN』『HUNN』

 「な……なんだあっ」

 「死神医療チームが……医療行為をしていますわ!?」

 

 彼らは医者である前に死神だが、死神である前に医者でもある。

 そんな彼らは、何故かポンペイを救おうと行動していた。

 

 『なんでやっ呼吸停止から1分以内やったら救急蘇生率は98パーセントと言うてたやないかっ』

 『PONPEINOSINNZOUGABAーSUTOSITANNDAッ』

 

 だが、吐血したポンペイは全く目を覚まさない。

 そう、ポンペイの心臓はすでに破裂していた。負荷に次ぐ負荷に耐えきれなかったのだ。

 

 『…』

 「何を!? まさかオッサンの心臓まで取ろうってのか!?」

 「待ちなさいシーザー! それならマネモブがとっくに止めてるはずですわ!」

 

 それを確認した死神医療チームは、メスを取り出して慎重にポンペイの胸を切り開く。

 以前にハンザイ・ボンプを切り開いた時とは違い、丁寧に、丁寧に切開していた。そして、エーテリアス・奪命車のバックドアが開かれる。

 

 『あ、あれは“ガルシア・ハート”!』

 「どうするつもりなんだ……!?」

 

 死神医療チームはそれをそっと手に取る。

 それを見たマネモブが呟いた。

 

 『やっぱり“ガルシアの心臓”は誰でも超人にするんやな』

 

 ガルシアの心臓が、一気にポンペイへと押し込まれた。

 

 「ガハッ!?」

 「オッサンが生き返ったぁ」

 『アイアン木場が墓から甦る!!』

 『TESSYUUDA』『TESSYUUSIROッ』

 

 ポンペイが死の淵から蘇る。

 それを確認した瞬間、死神医療チームは物凄いスピードで撤収していった。

 

 「お、俺は……そうか……そういうことだったのか」

 『なにっ』

 

 いきなり悟ったような表情をするポンペイに、マネモブは困惑した。

 マネキンのような顔だが、どこか困惑しているとも取れる顔を見て、ポンペイは口を開いた。

 

 「マネモブよ、どうして死神医療チームが俺を助けたのか気になるか?」

 『宮沢熹一の殺し方を教えてくれよ』

 

 実は死神医療チームが何故ポンペイを助けたのかはマネモブも知らない。

 ただ、殺気や敵意が感じられなかったため、殺害が目的ではないと判断しただけのこと。

 ポンペイは、死の淵で何を見たのか。

 

 「実は、俺の父親の名は……“ガルシア”というんだ」

 『な……なんだあっ』

 「ガルシアは死の直前、死神医療チームに心臓を託した。俺のドナーとして」

 

 ポンペイの父、ガルシアは死神医療チームとの意思疎通を果たし、自らの心臓をドナーとしたのだ。

 だが死神医療チームはエーテリアスなので、人々を襲ってその心臓に被害者の心臓をくっつけていた。

 これが、死神医療チームがポンペイを救った真実だった。

 

 「そして……これが、父から受け継いだ心臓の力だッ」

 『なにっ』

 「うおぉぉぉぉ!!!」

 「一体何が起こってるんですの!?」

 『急激なエーテル濃度の上昇を確認』

 『こ、こんなエーテル濃度狂ってるよ! 本来なら今すぐ私達も侵蝕されちゃうくらいの……!』

 

 ポンペイと、彼のバイクが光に包まれる。

 それはエーテルの輝きであり、エンジンの爆炎でもある。

 それらは宙に浮かぶエーテル結晶となり……やがてヒビが入った。

 

 

 

 三ポンペイ   バイク三

 

     ピキィーン

 

 

 

 繭を破るように、むしろ繭自身が自ら破裂するように、それは現れた。

 尖り切った先鋭的で、まるで精錬された鉄よりも鉱物に近い質感と化したバイクが、轟音を響かせながら爆走する。

 法定速度を余裕で超越したバイクのハンドルを、吸い付くように掴み取ったその男は……

 

 「オッサン!? な、なんだその姿!?」

 「エーテリアス、なのか……?」

 「ただでさえシマキンで精いっぱいって時になんてことを!」

 『高危険度エーテリアスの発生を確認。対象、覇者ポンペイ』

 『そ……そんな……』

 

 ポンペイは強力なるエーテリアスとなる。

 マネモブと同等か、それ以上のエーテルを滾らせる怪物の登場は、苦境を絶望に叩き落とす――

 

 『これを食らえシマキンンンン!!!』

 『ア ガ ガ ッ』

 「えっ」

 「なにっ」

 「な……なんだあっ」

 

 ポンペイが、バイクごとシマキンへと突っ込む。

 車ほどの大きさ、それ以上の頑丈さと重量を持つバイクの衝撃は、シマキンを後退させるのに十分だった。

 むしろ、勢い余って自らも火の湖に落ちる寸前だったほどである。

 

 「オッサン!? 意識があるのか!?」

 『ああ、どうやらそのようだ。しかし長くは持たん。速攻で蹴りをつけるぞ!』

 

 様々な要因が重なり、自我のある侵蝕体という世界のバグと化したポンペイがバイクを駆る。

 炎をまとう剣によって斬り裂き、飛び交う無数のファンネルから放たれるレーザーがシマキンを焼き焦がす。

 

 『コソバインジャアッ』

 「変われオッサン!」

 

 シマキンの拳を、シーザーが跳ね返す。

 体重差、体格差を無視した高度な技術によって、シマキンは体勢を崩した。

 

 「ハァァァァッ!」

 「ぶっ飛びなさいですわ!」

 

 そこへライトの渾身のパンチと、ルーシーの親衛隊三連星が直撃する。

 ブレイク状態になった者への総攻撃は、混沌とした属性が入り乱れることによって更なる大ダメージへとつながった。

 だが、サンドバッグに徹するシマキンではない。シマキンはその身を包むアーマーを――車へと変形させた。

 

 『笑ガスナアババタレガア―――ッ』

 「えっ」

 『ぐわああああ――――ッ!?』

 「オッサァァァァン!?」

 

 いきなり車となったシマキンに不意を打たれ、近接戦をしかけていた者……つまり全員が轢かれた。

 

 「な、何なんだあの車は!?」

 

 光沢が輝く漆黒に塗られた、角ばったボディ。

 全身から煌きを放つ見事なスタイル。

 曰く最高の車と称される、新エリー都でも人気の車は……

 

 『『bB 煌』や』

 「チィッ、何だって煌なんかに変形してやがりますの」

 

 “bB 煌”

 シマキンは煌へと変形したのだ。

 そんな車との正面衝突は、彼らに深刻なダメージをもたらした。

 

 『ガハッ……グ……』

 「オッサン! しっかりしろ!」

 『この力は少し……負担が大きいようだ……』

 

 ポンペイは限界、ルーシーとライト、ルーシー親衛隊の3人は傷だらけ、デゴイチはすでにダウンしている。

 ほとんど無傷なのはシーザーと、タフなマネモブだけ。傷を受けてもダメージを負っても、まだまだ元気なシマキンを倒すには難しい。

 このままではタイムオーバー……つまり侵蝕が限界に来てしまうだろう。

 

 『ク…クレイジーッ!!』『ファーック』『いずれ俺たちもああなっちまうのか』

 

 マネモブはシマキンの強さに戦慄していた。

 これほどの強者が集まっても一歩も引かないというのか。

 もう自分が殿を務めつつ、全員をホロウの外へ放り出そうと思っていた時だった。

 

 『この男は一体…!?』

 

 己を見る。次にポンペイ、デゴイチ。シーザー、ルーシー、ライト、シリオン3人、真紅のモックス。そしてバイク達。

 マネモブの脳裏に浮かんだのは、急激なエーテルの上昇によって狂ったとしか言いようのない悪魔のようなアイデア。

 だが、零号ホロウ深部にも引けを取らないほどエーテル濃度が高い今の状況なら、あるいは成功するかもしれない。

 

 『ドクターストップね』

 「な、なんだマネモブ。どうしたんだ?」

 『今からこの龍星を殺しますッ』

 「なんか思いついたのか!?」

 

 マネモブは倒れたポンペイやデゴイチを担ぎつつ、動けるメンバーを集めた。

 だが、マネモブはそれっきり無言を貫いている。マネキンのような顔が黙っているので、かなり不気味だった。

 

 「おい、何か言ったらどうなんだ」

 『これが返事や』

 「えっ」

 

 マネモブが突如として光を放つ。

 

 

 

 三マネモブ デゴイチ三

 三ポンペイ シーザー三

 三ルーシー ライト 三

 三 ヘルバ アルボル三

 三ラテレム モックス三

 

  ピ キ ィ ー ン

 

 

 

 光が収まる。

 夜空には一筋の羅睺星が輝いた。

 ――ロングコートが、風にはためく。

 

 『“怪物を超えた怪物”』

 

 その肉体は人知の及ぶ範疇(はんちゅう)を、超級エーテリアスさえもを凌駕(りょうが)し。

 

 『“悪魔を超えた悪魔”』

 

 その頭脳は神算鬼謀(しんさんきぼう)。新エリー都に蔓延(はびこ)海千山千(うみせんやません)魑魅魍魎(ちみもうりょう)共が組み上げたいかなる企みをも看破し。

 

 『“蓋世不抜(がいせいふばつ)の超人”』

 

 誰にも屈することなく、信じられぬほど肥大化し自我(エゴ)はまさに超人そのもの。

 

 『暗黒拳神』

 

 この世のあらゆる武術を習得し、強者を相手に研鑽(けんさん)を続ける拳魔の邪神。

 

 『“人間の形をした悪魔”』

 

 何故この男が人間の胎から生まれ落ちたのかは神のみぞ知る。あるいは悪魔か。

 

 『この世にある道徳に背反(はいはん)恬然(てんぜん)としている不羈奔放(ふきほんぽう)の武人』

 

 だがその根底に存在するのは“武”。格闘家、拳法家という武人としての側面。

 

 『傲岸不遜(ごうがんふそん)の“(わら)う龍”』

 

 男は誰からも恐れられる“鬼”であり“龍”だった。

 裏社会のフィクサーから表の権力者にまで恐れられるその名こそは……

 

 

 

 『

   鬼

   龍

   !

     』

 

 

 

 まるで鬼とも龍ともつかない頭部。

 天性の肉体を戦いの中で研鑽し続けた、屈強な肉体。

 荒々しく暴力的な見た目とは裏腹に、その気はまるでそこに誰もいないかのように静まっている。

 

 “鬼龍”

 エーテリアスであり、複合体であり、侵蝕体でもあるその怪物が、シンダーグロー・レイクにて顕現した。

 

 『ホイダラオドレハアノ世ヘ送ッタロカア――ン?』

 

 グ ニ ャ ア ッ

 シマキンの空間歪曲が、鬼龍の存在する座標を捻じ曲げた。

 これは直接的に空間を攻撃することによって、対象をあの世へと送る技。この技を受けてこの世に存在する者など誰一人としていない。

 だが、地獄というあの世は悪魔のホームグラウンド。

 

 『悪魔は死なないんだぜ』

 『ナニッ』

 

 空間歪曲を受けても、鬼龍は平然とそこに立っている。

 

 『灘神影流マジックよ。一時的に仮死状態にする技が()()()()ある』

 『笑ガスナアババタレガア―――ッ』

 

 特殊技は効果がないとい判断したシマキンは、渾身の拳をお見舞いする。

 重量、筋力ともに怪物の領域へと突入したその拳は、どんなエーテリアスでさえも粉々になるのだろう。

 ましてや、2メートル弱の鬼龍と3メートルを超えるシマキンでは、勝負が成立するはずがない――

 

 『へっ、下種の拳など掠りもしないわっ』

 

 わずか数ミリ、たったそれだけ首を動かすだけで、拳を避けた。

 鬼龍は拳法の達人、いや、それを超えた怪物。ただ巨大なだけの人間の拳など当たるはずがない。

 

 『笑ガスナアババタレガア―――ッ』

 

 だが、シマキンも諦めない。

 自身を覆う鎧をブーストさせ、加速したラッシュを鬼龍へと放つ。

 

 『いいねぇその一途さ』『よしっブッ倒してやるぞ』

 『ナニッ』

 

 まるで嘲笑うかのような鬼龍は、その拳を全て打ち払うと跳躍する。

 そして、両手を大きく広げ、シマキンの頭部を狙った。

 

 『愚か者めっ』『弱い者は更に弱い者を見つけて闘いを挑めっ』

 

 己が絶対的強者、生殺与奪権は我にありとばかりにその技を繰り出す。

 

 『ハ――ッ灘神影流“鼓爆掌”!!』

 『ア ガ ガ ッ』

 

 シマキンの頭部、その穴という穴から血が噴き出る。

 鼓爆掌。本来は鼓膜を破壊する技だが、鬼龍ほどの使い手ともなれば、範囲は耳だけにとどまらない。

 

 『笑ガスナアババタレガア―――ッ』

 『なにっ』

 

 だが、それすらも耐えきったシマキンはbB煌へ変形し、鬼龍を轢いた。

 シマキンが変形する煌の前方には対象をクラッチするロボティック・アームが備え付けてあり、一度狙った獲物は離さない。

 

 『ホイダラオドレ諸共アノ世ヘ送ッタロカア――ン?』

 『ぐはっ』

 

 シマキンが向かうのは、火の湖。

 そう、鬼龍を殺すにはこれしかないと判断したのだ。

 

 『ああっ、皆がマグマに!?』

 

 2人は火の湖へと堕ちた。

 どこぞに引っかかっていたであろう火打石によって、エーテルの結晶を木端微塵に砕きながら炎が吹きあがる。

 それを見ていることしかできないパエトーンは、己の無力を嘆いた。

 

 『俺ならここにいるぜ』

 『えっ』

 

 どこからか声が聞こえる。

 下を見る。火の中ではない。上を見る。裂け目があった。

 声はその内部から聞こえた。

 

 『ま……まさか』

 『ア ガ ガ ッ』

 『“恐怖”を刷り込むのは俺の専売特許だ』

 

 そう思った瞬間、2人が裂け目から飛び出してきた。

 空中でもみ合いになっており、鬼龍がシマキンをボコボコに殴っている。

 シマキンも反撃しているものの、鬼龍にはあまり効果がないようだ。

 

 『か―――っ』『羽虫に刺された程度だな!』

 『い、生きてたんだね!』

 『悪魔が死ぬわけないだろう』

 

 火の湖付近では、遊離状態にあるエーテルの影響で大昔の裂け目が現存しているのだ。

 この不死身ともいえる運すらも、鬼龍の恐ろしさを引き立てているようだった。

 

 『決着をつけようぜ』

 『シバキアゲタラアッ』

 

 シマキンが、自身を覆う鎧の全てをブーストさせ、驚異的なスピードで鬼龍へと突っ込んだ。

 ただの突進。しかし、シマキンの重量と面積、そしてスピードが合わされば、目の前に存在するものを全て粉砕する文字通りの肉弾戦車の完成だ。

 今までの速度がお遊びに見えるスピードで、巨体が鬼龍へと迫る――

 

 『何言ってやがる』

 

 鬼龍の姿が掻き消えた。

 何のことはない。ただ超スピードで移動し、シマキンを回避しただけである。

 

 『笑ガスナアババタレガア―――ッ』

 『うわあッ』

 『なにっ』

 

 だが、2人が落ちてきた際に、偶然隣り合わせとなったイアスが巻き込まれている。

 戦闘能力のないボンプなど、頑丈なだけの一般人と何ら変わりはない。

 

 『マリアッ』

 

 鬼龍とシマキンの視線が交差する。

 時間にしてわずか数瞬、刹那にも満たない空間を支配する極限の視界。

 黄金よりもなお価値のある時間を、シマキンは全てを粉砕するために。鬼龍は――イアスを救うために使用した。

 

 『マリア』

 

 鬼龍はイアスを片手で抱きかかえる。

 地面に落ちていた、大昔に打ち捨てられたショットガンを器用に蹴り上げた。

 

 『お前の父親はもう死んでるんだ』

 

 その動作とほぼ同時に、自分へと向かってきたショットガンに弾を込める。

 銃に一切触れることも、視線を向けることすらせずに弾を込めるという神業によって、リロードは完了した。

 

 『忘れろ』

 『アガガッ――』

 

 シマキンの頭部は、至近距離からのショットガンを受けて爆散。

 その肉体は、身体を構成するエーテルの霧散によって、消えていった。

 

 『あ、ありがとう……鬼龍?』

 『フンッ』

 

 感謝の言葉にも、鬼龍は鼻を鳴らすだけ。

 だが、パエトーンにはそれが、どこか照れ隠しのように思えた。

 

 『でも……皆いなくなっちゃった。合体してあんたになっちゃった』

 『“奇跡”を信じるほどバカじゃない』

 『え?』

 『だけど…』

 

 イアスを置いた鬼龍の身体が、消えていく。

 いや、光を放ち、複数に分離していくという方が正しい。

 そして光が収まれば……

 

 「な、なんだったんだ一体!?」

 「何か変な気分ですわ!」

 「凄いスピードだ。当面はアレを目標にするとしよう」

 「あれが伝説の……鬼龍か……」

 『フンナ! フンナ!』

 『ワンワン!』

 

 シーザー、ルーシー、ライト、ポンペイ、ヘルバ、アルボル、ラテレム、モックス、デゴイチ。全員が現れた。

 

 『皆ーっ!!!』

 「おうプロキシ! 無事だったか!?」

 『うん! 皆は!?』

 「分からねぇ。鬼龍って奴になってシマキンと闘ってたのは覚えてるが、そんだけなんだ」

 「鬼龍は郊外において伝説の男……郊外を救った伝説の男だ」

 「何にせよ、火の湖は無事だったんだ。良かったじゃないか」

 『でも色々疑問が……ん?』

 

 皆が、郊外を救えたことに喜びを覚える中、パエトーンはこの場にいない者に気づいた。

 

 『あれ? マネモブは?』

 『俺ならここにいるぜ』

 『えっ』

 

 背後からの声に、全員が振り向く。

 そこには、マネモブの姿があった。

 

 『マ……マネモブッッッ』

 「その姿は一体……!?」

 

 しかし、皆は絶句した。

 何故なら……

 

 「何でそんなボロボロなんだよえーっ」

 

 マネキンのような頭部は半壊し、内部から通常のエーテリアス同様のコアが露出している。

 屈強な肉体には無数の傷が刻み込まれ、傷の無い部分の方が少ないほど。

 

 「いやちょっと待てよ。俺達は何で無傷なんだ?」

 「い、言われてみれば。服もどこも破れてないですわ」

 

 さらに、シマキンとの戦いで受けた傷がなくなっている。

 服すらも新品同様……とまではいかないものの、戦闘前くらいには綺麗である。

 ポンペイも、あれほど苦しそうだったのに今はピンピンしている。

 

 「ま……まさか」

 「マネモブ、お前が助けてくれたのか?」

 

 それと反比例するかのように満身創痍のマネモブ。

 

 『は――っ』『限界ギリギリで生きていくから人生が面白いのよ』

 「恩人といえど、エーテリアスに人生を語られたくはないですわね……」

 

 彼は鬼龍から分離した際に全てのダメージを肩代わりしたのだ。

 

 「ありがとな! マネモブ! でも大してダメージ受けてないオレのまで請け負う必要はなかっただろ」

 「万全な状態にしてくれたのには礼を言うぜ。だがな、俺達がそんなヤワに見えるのか? 俺達は仲間じゃないか、水臭いマネはよせよマネモブ」

 「勝手にダメージを肩代わりしてくれたのには感謝いたしますわ。ですけどそれはそれとして何かムカつきますわ!」

 『しかし、俺を恨むのは筋違いだぞ。悪いのはスマイル・ジョーだ』

 「知らねぇ奴に責任転換されても困るぜ」

 

 バツの悪そうなマネモブの背後に裂け目が現れる。

 

 「おい、行っちまうのか? せめて礼くらいさせてくれよ」

 『これも“宿命”よ』

 

 ゆっくりと、裂け目へ姿を消すマネモブ。

 その背中は、傷だらけでも大きく頼りになるものだった。

 

 『ちょっと待ってマネモブ!』

 『俺ならここにいるぜ』

 

 パエトーンがマネモブを呼び止めた。

 その声に、マネモブの足が止まる。

 

 『皆を助けてくれてありがとう!』

 「俺からも礼を言おう。おかげで助かった、お前は命の恩人だ。何となく、運命さえも変えてくれた……ような気がする」

 

 皆からの感謝の言葉。

 それは、マネモブの心に深く、優しく溶けるものだ。

 マネモブの強さの原動力でもある。だからこそ、彼は正直な気持ちを打ち明けた。

 

 『“奇跡”を信じるほどバカじゃない』『だけど…』

 

 空を見上げる。

 火の湖から上る噴煙はなくなり、どこまでも晴れ渡る青空が広がっていた。

 

 『どこかで誰かが生きているという“奇跡”だけは信じたい』

 

 この虚が支配する終末世界にて、マネモブはあえて希望を抱く。

 いつの日か、人々が笑顔で過ごせるような未来がやって来ると。

 自身のような、エーテリアスが消え去る日が来るのだと信じて。

 

 

 





 『アーマード・シマキン』
 ・かつてアーマードというチームを率いる男がいた。身の丈3メートルを優に超す大男、シマキンである。
 彼は未来の覇者、若き日のポンペイとしのぎを削り、時に酒を飲みかわし、共に音楽を聴いて踊る仲だった。
 幾多ものならず者を従え、油田を発掘し、迫りくるエーテリアスを単身で撃破し続ける。郊外において、知らぬ者はいないほどの男だった。
 しかし、シマキンはある日を境にホロウへと消えた。生きているのか、死んでいるかすらも定かではない。一つ分かることは、この日、郊外が誇る益荒男の一人がいなくなった。
 だが、シマキンはツール・ド・インフェルノの日、シンダーグロー・レイクにて復活した。電離体、ドッペルゲンガーとして。さらに、彼の影法師は過去のレースで死んでいった勇者達の魂の依り代となり、超級複合電離体アーマード・シマキンが誕生した。

 『おどれら手ェ出すな。タイイチで勝負じゃ』――若き日のポンペイと決闘するシマキン



 『鬼龍』
 ・郊外には様々な伝説が残されている。そのどれも真偽は定かではないが、数少ない本当の伝説が存在する。鬼龍もその一人だ。
 かつて郊外に猿のような化け物が現れ、ホロウが活性化し油田エリア全域を飲み込み始めた時、その男は羅睺星の輝きと共にふらりと現れた。
 ショットガンで化け物を屠り、奇妙な武術でエーテリアスを消滅させる。極めつけは、共生ホロウと化した油田エリアを支配するエーテリアスを単独で撃破。郊外を救った英雄となった。
 やがて男は姿を消した。その悪魔のような戦いぶり、怪物のような強さを讃え、人々は彼をこう呼んだ。『鬼龍』と。

 そして、かの伝説は再来した。
 若き王者シーザー、信念を持つ少女ルーシー、強き格闘家ライト、擬似侵蝕体覇者ポンペイ、高危険度エーテリアスであるマネキン・モブ、ハティ型サイボーグD‐51。そして彼ら彼女らの愛車達。
 その全てが合体することによって、かの伝説は超級複合体として再び顕現したのだ。守るべきものを守るために――

 『マリア、お前の父親はもう死んでるんだ。忘れろ』――鬼龍


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