高濃度猿侵蝕体“マネキン・モブ”   作:アースゴース

24 / 108
VR世界に猿を放てっ

 対ホロウ六課の面々は、最新のVRシステムのテストをするため、HIAセンターを訪れていた。

 そして、ここはもうバーチャル空間の内部。緑色を基調とした、クソほど殺風景な空間で、雅、柳、悠真、蒼角の4人は戦っていた。

 

 『やめろっ、やめてくれ六課やめろ』

 『ぼうっ』

 『う あ あ あ あ』

 『い や あ あ あ あ』

 『あっ一発で折れたッ』

 

 どんなバーチャル野蛮人達も、六課には敵わない。

 鎧袖一触とばかりにブチのめされ、ポリゴンのデータとなって消えていく。

 

 「何だか変な言葉遣いの人多くない?」

 「そうですか? 一般的なホロウレイダーのようですが……」

 

 多勢に無勢とばかりに突撃してきては切り伏せられる野蛮人達。

 それに疑問を抱いたのは蒼角だが、柳は特に疑問に思わなかったようだ。

 

 「恐らく、そういったデータを中心に収集したと考えられる」

 「ホロウって怖いねぇ~。こんな連中が山ほどいるんだから。だから、あんまり考えすぎるとお腹がすいちゃうぜ、蒼角ちゃん」

 「う~ん、それもそうだね!」

 

 雅も悠真も同様である。

 

 『ふざけんな!! みんな出て来い6課がいるぞ!!』

 『なんだと!!』

 『殺す!!』

 「この特徴的な笠……鬼喪傘(きもがさ)の連中か」

 

 ワ ァ ァ ァ ァ

 

 雅が襲い来る者達に目を向け、カチャ、と刀を抜く。その瞬間に勝負は終わっていた。

 

 オ オ オ オ

 

 「キモ傘ってなんでこんな好戦的なんだ? しかもいっぱいいるし」

 「分からない。一説には奴らの根城であるヒガンジマ・ホロウのどこかにクローン生産プラントがあるという噂だが」

 「私は未知のウイルスが人を吸血鬼に変えた結果、生まれたのが鬼喪傘だと聞きましたね」

 「そもそもそのホロウがどこにあるのかも判明していませんしねぇ」

 

 六課も鬼喪傘には悩まされている。

 だが、このバーチャル空間には強敵も登場する。

 

 「どうやら強敵のご登場のようです。油断せずかかりましょう」

 

 無数のポリゴンが形を成す。

 それは、六課のメンバーとさほど変わりのない身長を持ったほぼ完全な人型のエーテリアス……

 

 『ばあっ』『“超危険生物”鬼塚姫次でぇース』

 「こ、こいつはマネキン・モブ!? こんな奴のデータまであるのか!」

 

 マネキン・モブ。

 ホロウ中を駆けずり回ってはエーテリアスをぶちのめし、ライン越えの悪事を働いたホロウレイダーをぶちのめし、悪徳治安官や反乱軍をぶちのめす毎日。

 ホロウに迷い込んだ一般人を護衛しながら救助に来た治安官のもとまで送ったという話まで聞くほどの、善良なエーテリアスだった。

 

 さらにそのかたわら様々なクソコラや、修行中の映像をインターノットに投稿したりしている。

 特設のホームページまで存在し、門弟はいつでも募集中。エーテル適性の低い者のために、門弟達が町中に道場も作ったという。

 

 そのせいでホワイトスター学会は発狂し、虚狩りもどうしたものかと頭を悩ませている。社会に食い込み、討伐を逃れている狡猾なエーテリアスとして。

 

 「いい機会だ。マネモブと闘ってみたかったんだ」

 『さあ楽しもうぜっ』『リンゴのように皮をむいて一口サイズに肉をカットしてやるよ』

 

 雅とマネモブがぶつかり合う。

 剣と拳。リーチも威力も違うはずのそれは、達人が扱うことによって打ち合いが可能となるのだ。

 

 「速い……目にもとまらぬ拳の連打。達人という噂に偽り無しのようだ」

 『ふ…踏み込めない』『初太刀をかわせば突破口は開けるんやがあまりにも速すぎる…』『しゃあけど…残念ながら破壊力がないわ!』

 「なにっ」

 

 神速で行われる攻防の応酬は音を置き去りにした。

 だが、マネモブは雅の刀、“無尾”の軌道を見切り、迫りくる刃を白羽取りしたのだ。

 

 『“超日本刀(なまくら)”をしっかり素手で捕まえたでっ』

 「なまくらと申したか」

 『えっ』

 

 しかし、雅は無尾から手を離し、格闘戦に移行。

 手首に独特なスナップをきかせ、裏拳のような形でマネモブの顔面を殴打した。

 

 『えっ』『えっ』『なにっ』『な…なんだあっ』

 「狐眼流は無手にても最強」

 『ウ…ウソやろ、こ、こんなことが、こ…こんなことが許されていいのか』

 

 マネキン・モブが恐怖している。

 自分のホームグラウンドである格闘戦で一本取られたことがショックだったのかもしれない。

 

 「何だか動揺しているようですね」

 「やっぱり言葉話せるのおかしいよ。マネモブはどうやって理性を保ってるんだろう?」

 

 誰しもが思っている疑問だが、それは今も解明されていない。

 ホワイトスター学会の研究者達はマネモブに接触してデータを集めているが、謎の究明への道のりは遠いようだ。

 

 「どうした? 武闘家が剣士に無手で後れを取ったのが衝撃だったか?」

 『なんでもええやん! 細かいことは気にすんな』

 「立ち直りが早いな。精神力が強き者……」

 『ありがとうございました』

 

 再び技の応酬が始まる。

 雅の広範囲に及ぶ斬撃の嵐を、超スピードで回避するマネモブ。

 両者一歩も譲らず、すでに数分の時間が経過した。

 

 「これで仕舞いにするとしよう」

 『喰らえっ、我が乾坤一擲の一撃をっ!』

 

 雅とマネモブの全力の攻撃がぶつかり合う――と思われたその時。

 その場にいた全てのエネミー・データが殺気をおさめ、その場で停止した。

 

 『データの収集が完了しました。テストは終了です。執行官の皆様、ご協力に感謝します!』

 『ドクターストップね』『悔しいだろうが仕方ないんだ』

 「ふむ……残念だ」

 

 2人は不完全燃焼、といった様子だった。

 どちらも、それぞれのしがらみに縛られているとはいえ武人。決闘に水を差されて良い気持ではないのだろう。

 決着がつけられなかったことを名残惜しそうにしながら、彼らは分かれた。

 

 『バイバイ』

 「ああ、また会おう。次はホロウで会えるといいな」

 「データでこれだなんて、本物との殺し合いは勘弁してほしいねぇ」

 「バイバーイ! 今度会ったらお菓子あげるね!」

 「また会いましょう。あなたとは敵同士でないことを祈ります」

 

 六課はログアウトした。だが、彼女達は知らない。

 その先は出口のない電脳空間。恨みつらみが生み出した悪意の迷宮。

 絶望的状況の中で足掻く強者に、悪しき千の顔が嗤う。お前達はここで死ねとほくそ笑む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが千の顔を持つ者共は知らない。

 この電脳空間が、マネモブのデータを取り込んだことで、すでに支配権を奪われていることになど。

 暗く冷たい空間で猿が思考する。展開の邪魔になったから消えろと魔の手を伸ばす。

 

 

 

 Now Loading......

 

 

 

 『ここはスピリチュアル・サンクチュアリ』 

 「えっ」

 「なにっ」

 「な……なんだあっ」

 

 六課が次に目にしたのは、ルミナスクエアにも似た都会の風景だった。

 ビルや店が立ち並び、多くの人々が行き交っている。しかし、その人々の顔は、一部を除いてまるでマネキンのように無表情だった。

 

 『執行官の皆様!!! 申し訳ありません!!!』

 「一体どうしたというのだ」

 

 その時、HIAの職員から連絡が入った。

 

 『バーチャル空間の制御権をマネモブのデータに乗っ取られました!!! コード:GENMA、現在総力を挙げて復旧作業中です!!!』

 「ううん、どういうことだ」

 

 わけが分からない事態に、六課は困惑した。

 あくまでデータでしかない存在に乗っ取られるなど、前代未聞だったからだ。

 

 『どうやらマネモブのデータと現実のマネモブが、何らかの手段でリンクしているようです。外部から廃棄されたハムスター・ケージを通してこちらの装置と接続している形跡が見られます。恐らく故意ではなく偶然でしょう』

 「偶然だとしてもそんなことが可能なのですか?」

 『別の電脳空間から、電子の壁を打ち破り無理やり干渉しているようです。向こうも何が何やらさっぱりなはずです。ただ、こうやって街を作るのによさそうな空間を見つけたとしか思っていないでしょう』

 

 そう、マネモブはホロウに廃棄されたハムスター・ケージを改造して遊んでいた結果、偶然にも6課がテストしている電脳空間と接続してしまったのだ。

 ちょうどよさそうな広い空間を見つけたマネモブは、こうして街を作って遊んでいた。

 

 『エネミー・データは全て消し去られているようで危険はないようです。執行官の皆様、我々がこの事態を収束するのに全力を注いでいる間は、この仮初の街で身体をお休めください』

 「どうするの?」

 「まあいいでしょ」

 

 六課は特に不安でもなかった。

 この活気あふれる街が悪意を向けてくるとは思えないし、むしろエーテリアスがここまで人間の街を再現できることに感心すらしていたからだ。

 

 「では、ここは一旦解散しましょうか。私は辺りを散策します」

 「うむ。私はあの木造の建物を見て来よう」

 「じゃあ蒼角、あそこのラーメン屋に行っちゃお!」

 「僕は……お? 武道館? 面白そうじゃないか」

 

 こうして、六課は一旦分かれた。

 

 

 

 Now Loading......

 Side:蒼角

 

 

 

 「わ~、おっきいラーメン屋さんだぁ~」

 

 蒼角がやってきたのはラーメン屋だった。

 

 「ラーメン・ジョー? 聞いたことないお店だけど、現実にもあるのかな?」

 

 木造のラーメン屋。

 かなり清潔感が保たれており、店員のこだわりが見て取れる。

 そして、おすすめのメニューは“タフ麺~漢~”であり、その下には金髪で屈強な肉体の青年が『超極細麺で元気をすすりつくすんや!』と言っている絵が描かれている。

 

 「お邪魔しまーす」

 

 蒼角は意気揚々と中へ入る。

 中は盛況しているようで、客が多くいる。

 多くはマネキンのような生気の無い顔だったが、中にはそうじゃない者もいた。

 

 「ねえ、私もうバッジもチップも音動機キットも集めちゃったんだけど……オススメの模擬実践ってあるかしら」

 「ディニーだな。だが余裕があれば助剤も集めておくといい。ディスク厳選にはいくらあっても足りないからな」

 「いや、それなら定期掃討で十分じゃないか? コアスキル強化のためにエキスパート挑戦も視野に入れるべきだ」

 

 その中でも最初に目についたのは登山家らしき男性2人と、全身真っ白な人外じみた美少女の客。

 彼らはエージェント育成なるものについて談義している。かなりミスマッチな組み合わせだが、蒼角は特に気にしなかった。

 

 「うーん、ここにしようっと」

 

 席はカウンター席しか空いていなかったので、そこに座る。

 するとほどなくしてお冷が出てきた。それにお礼を言った蒼角は、メニューをじっくりと見る。

 

 「(う~ん、このファントム・ラーメンも美味しそうだけど……ちょっとあっさりしすぎな気もする。やっぱりタフ麺にしよっ)店長さん、このタフ麺を大盛りでお願いします」

 「あいよっ」

 「えっ」

 

 数分、ないしは十数分以上は待つ覚悟をしていた蒼角だが、超スピードでラーメンがでてきたことに驚愕した。

 

 「わぁ~……」

 

 だが、その驚愕も食欲をそそる匂いと、かなり大盛りだがバランスの良い盛り付けによってかき消された。

 生卵、生玉ねぎ、ニンニクの風味、チャーシュー、のり……その全てがデカい器にたっぷりと乗っている。

 

 「いただきまーす!」

 

 蒼角は、細い麺にかぶりついた。

 

 「!? 凄いコシだぁ! 噛み応えがある~!」

 

 極細麺だというのに、まるで硬いグミのような触感。それでいてぷりぷりとしており、問題なく噛み切ることができるという奇跡的なバランス。

 他の具材と一緒に食べることで、進める手が止まらない。あっという間に完食してしまった。

 

 「ふぅ~、お腹いっぱ~い。普段ならもっと食べられるのになぁ」

 「このタフ麺はあまり食べ過ぎない方がいい」

 「え~? どうして?」

 

 店主が語りかけてくる。

 この鍛え上げられたラーメン屋みたいな男性も、マネキン顔ではなかった。

 

 「このタフ麺はバーチャル空間で食べることにより、現実の身体さえも満腹にしてしまう。食べ過ぎると現実で破裂して死ぬぞ」

 「怖いなぁ。でもどんな仕組みなの?」

 「簡単に言えば……電脳空間で生成した栄養素を現実に転送しているだけだ。詳しい仕組みは秘伝のレシピにかかわるから言えないがな」

 「良く分かんないけどすごいね!」

 「そうだろう。師匠は客はラーメンではなく情報を食っていると言っていたが、逆に情報側からラーメンを食べさせることも可能なのではないかと考えてな」

 

 蒼角は難しい話はよく分からなかったが、この店長すごいな~と思った。

 

 「だがもっと食べたいだろう?」

 「うん! もっと食べたい!」

 「そんな君にオススメのラーメンはこれ、ファントム・ラーメンだ」

 「ファントム・ラーメン?」

 「ああ。これはタフ麺とは逆でラーメンの情報でな――」

 

 蒼角は、財布がすっからかんになるまで食べたようだった。

 

 

 

 Now Loading......

 Side:悠真

 

 

 

 巨大な武道館。

 その内部では、多くの客でにぎわっていた。

 ただし、そのほとんどはマネキンのような顔だったが。

 

 「プロレスをやってるのか。一体誰が……あ、あれは!?」

 

 観客席からリングを見る悠真。

 彼は驚愕していた。何故なら、そこにいたのは……

 

 「アイアン木場!? もう亡くなったはずだけど……」

 

 屈強な肉体の大男。

 すでに逝去したはずの、プロレスラーの中のプロレスラーであるアイアン木場だった。

 

 「僕、彼のファンだったんだよね」

 

 悠真はアイアン木場のファンだった。

 確かに良くない噂も聞いたが、その活力にあふれた試合は彼を魅了してやまなかった。

 

 「どれどれ、相手は……? あれって……」

 

 アイアン木場の相手を見る。

 そこには、どこかで見覚えのある者達だった。

 

 『反乱軍にジャーマンスープレックスだあっ』

 『ティルヴィングにジャーマンスープレックスだあっ』

 『自律補助ユニット・スイーパーにジャーマンスープレックスだあっ』

 「あ、最後に残ってたエネミー・データじゃん。アイアン木場の相手に流用したのかな?」

 

 それらは戦闘が終わる前に停止した、3体のデータ・エネミーだった。

 マネモブは、それをもったいないからとアイアン木場の相手に流用したのだろう。

 

 「あれ? もう試合終わっちゃった感じ?」

 

 3体のエネミー・データが消滅すると、試合はお開きといったような雰囲気になった。

 恐らく、悠真が入った時点ですでに終盤だったのだろう。悠真は残念に思いながらも、その場を後にしようとする。だが……

 

 『――あなたは生きていますか?』

 「えっ」

 

 突然、アイアン木場に語り掛けられる。

 武道館の巨大スクリーンには、傷だらけのアイアン木場が映っており、悠真を見つめていた。

 

 『本当に生きていると実感が持てますか?』

 

 『事なかれ主義の臆病で、言い訳だけはしっかり用意している狡猾な大人になっていませんか?』

 

 『傷つくことを恐れ、闘うことを拒絶していませんか?』

 

 『理不尽なことにもあきらめの笑顔を振りまいてやり過ごそうとしていませんか?』

 

 『感情を殺すということは自分を殺すということ…あなたは死んだように生きてはいませんか?』

 

 『――対ホロウ六課、浅羽悠真くん』

 

 それは、悠真に突き刺さる問いかけだった。

 まさか電脳世界で、有名人のコピーじみた存在からこんな問いかけをされるとは思っていなかった。

 だが、彼はその問いに対し、信念を持って答える。

 

 「確かに臆病で狡猾かもしれないね。でも……六課の皆や師匠に背くような生き方はしていないさ」

 『――血を流さなければ新しいものは生まれない。地獄を見せる愛情もあるはずです』

 

 アイアン木場が笑った。

 それは、悠真の未来に対する激励だったのかもしれない。

 

 

 

 Now Loading......

 Side:雅

 

 

 

 雅は、謎の木造建築にやってきた。

 彼女の勘が、ここに強者がいると告げていたからだ。

 

 「……失礼する」

 

 勘に従い、襖を開ける。

 そこでは、白髪を短く切った老齢の男性が、筆で文字を描いていたところだった。

 男性は雅の方を見ると言った。

 

 「六課の星見雅。誠実な人格者だと聞いています。“忍辱(にんにく)”の衣を(まと)っていると」

 「……(ニンニクの衣? 私はニンニクの服など持っていただろうか?)」

 

 雅は、自分がニンニクの着ぐるみを着ているところを想像していた。

 それ以外は、その男性と茶を飲んだり武術について語ったりしただけだった。

 

 

 

 Now Loading......

 Side:柳

 

 

 

 「中々綺麗な街並みですね」

 

 柳は町中を散策していた。

 人々に生気がない以外は活気にあふれており、悪い場所ではない。

 ただ一点を除いては……

 

 「あなた達……何をしているのですか!?」

 「何って……レイプやん」

 

 ひとたび路地裏に入ればこの通り。

 レイプに強盗殺人は事欠かない。これで4回目くらいである。

 そう、この街は恐ろしく治安が悪かった。マネモブは街に対してどんなイメージを持っているのか。

 

 「今すぐやめなさい」

 「あーあ、見られたらしゃあないな。お前も痛い目にあってもらうで」

 「しゃあっ」

 「う あ あ あ あ」

 

 柳は鍛えた総合不良が勝てるような相手ではない。

 一瞬で片が付き、不良たちは意識を失った。それから程なくして、治安官がやってくる。

 

 「通報があったのはここか……?」

 「はい。治安官さん、一刻も早く彼らを連行してくださ――」

 「ククククク、ありがたく思いな」

 「なにっ」

 

 治安官が、突如としてズボンのチャックを開けた。

 

 「そのウス汚えプッシーに俺のゴキゲンなコックをぶちこんでやるぜククク」

 「まさか治安官までレイパーなのですか!? どうなってるんですこの街は!?」

 

 息を吸うように、まるで当然の権利かのようにレイプが行われる光景に、柳は頭がおかしくなりそうだった。

 

 「眠らせてさしあげます――」

 「はうっ」

 「えっ」

 

 この変態治安官もぶちのめそうとした時だった。

 治安官と突如として気を失い、その場に倒れ伏した。その背後には……

 

 「大丈夫でしたか?」

 「え、ええ。おかげ様で……」

 

 角刈りで、眼鏡をかけた大男。

 よく見れば強面であり、スーツを着ているのも相まって裏社会の人物にも見える。

 

 「この辺は治安が悪い。すぐにここから離れましょう」

 「わ、分かりました」

 

 大男の先導で、柳は表通りに出た。

 その際、何人かの野蛮人が襲ってきたが、全て男性がノックアウトしてしまった。

 相当な実力者の上、相手を必要以上に傷つけない優しさが見て取れる。そんな人物に好感を持ち、柳は彼に対して素性を明かした。

 

 「助けていただいてありがとうございます。私は対ホロウ六課の月城柳と申します」

 「これはご丁寧に。私は宮沢静虎(せいこ)。しがない銀行員です」

 「銀行員、ですか」

 「武術も(たしな)んでおりますが……」

 

 正直、お前のような銀行員がいるかという気持ちだったが、ここはマネモブが作り出した電脳空間。

 この宮沢静虎という男性も、容赦なく一般人のくくりに入ってしまうのだろう。

 

 「それにしても六課の方でしたか」

 「あら、我々をご存じでしたか?」

 「はい。六課といえば、()が招待した客人ですからね」

 「彼? って、ま……まさか」

 

 静虎の口から出てきた、彼という言葉。

 その正体とは……

 

 「マネキン・モブ……?」

 「その通り。彼はこの空間を作り出した張本人ですよ」

 「やはりそうでしたか……」

 

 マネモブ。

 彼は電脳世界の住民からも、製作者だとバッチリ認識されていた。

 しかし、柳はそれに驚かない。むしろ、住民達がマネモブをどう考えているのか気になった。

 

 「あなたと彼は、どういう関係なんですか?」

 「難しい質問ですね……彼は私達を内包している。息子であり、兄であり、宿敵であり、そして私自身でもある」

 「? マネモブのデータからあなた方が生まれた、ということですか?」

 「いえ、その逆です。我々のデータから彼が生まれたのです。我々無くしては彼は存在できず、彼無くしては我々は()()()()に存在できない。そんな関係です」

 「あなた方が先に存在した、ということですか。マネモブはあなた方のデータを何らかの手段で保存している、と」

 「その考えで概ね間違いは無いでしょう」

 

 何か訳の分からない理論だったものの、柳はひとまず納得することにした。

 そして、彼女は住民にとって残酷な話をする。

 

 「……私達は、元の世界に帰るためにシステムを復旧しています。それが終われば、あなた方は消されてしまうでしょう」

 「そうですか。何となくそんな感じはしていました」

 「……怖くはないのですか? せっかく生まれたのに、勝手に消されるなんて」

 

 柳は、この男が間違いなく自我を持ったAIだということを確信していた。

 恐らく、HIAは復旧が終わればこの世界をリセットするだろう。貴重なデータのために保存されたとしても、二度と日の目を拝めず、無茶苦茶な実験をされるかもしれない。

 だが、静虎は落ち着いた様子で言った。

 

 「私達は死にませんよ、彼が生きている限りね。それに……」

 「それに……?」

 「この空間はもうHIAセンターのサーバーから別の場所へと移転していると思います」

 「えっ」

 

 その瞬間、柳の身体が光に包まれる。

 

 『皆様! 復旧が完了いたしました! 直ちにログアウトいたします!!!』

 「ここまで早いとは。彼らの頑張りのおかげでしょう。後でねぎらってあげてください」

 「それはもちろん」

 

 データの移送が始まった、いよいよログアウトが始まる。

 

 「宮沢さん」

 「どうしました?」

 「また会えますか?」

 「ええ、もちろん。彼に言えばこの空間へのアクセス権を快く渡してくれるでしょう」

 

 柳の身体が離散する。

 

 「お世話になりました! また会いましょう」

 「ええ。またいずれ、会いましょう」

 

 

 

 Now Loading......

 

 

 

 「いい場所だったなぁ……治安以外は」

 「ラーメンも美味しかったし! もうお腹いっぱい!」

 「ニンニクの衣とは一体……?」

 

 六課はHIAセンターの外に出ていた。

 これから帰るのだ。しかし、相変わらずファンでごった返している。

 

 「はぁ、またマネモブ絡みの案件が増えますね……ん?」

 

 そんな中、柳は人込みの中にあるものを目にした。

 

 「あれは……宮沢さん?」

 

 角刈り、眼鏡、スーツの大柄な体格。

 人込みの中を通過する宮沢静虎を見かけた……気がした。

 一瞬で見失ったが、確かに静虎だった。

 

 「案外、再会は早いのかもしれませんね」

 「どうした、柳」

 「何でもありません。さ、帰りましょう」

 

 六課は、帰路についた。

 これからも彼女達は平和を守っていくのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして千面相は絶命した。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。