その結果、何も分からないということが分かった
数学苦手の悲哀を感じますね
流れが原作沿いなのはごめんなぁっ
『ほう、生意気にコイーバの56番を
マネモブは、反乱軍らしき謎の軍隊をぶちのめしていた。
その内の一人から、ケースに入ったタバコが零れ落ちる。コイーバの56番ではないし、なんなら葉巻ですらない単なるタバコだ。
マネモブはそれを反乱軍のポケットに入れ戻そうとしたが、対侵蝕装備のポケットなんか何も分からなかったので適当にズボンとパンツの間に放り込んでおいた。
ちなみにその反乱軍は気絶で失禁しており、タバコが濡れてしまったことをマネモブは知らない。
『えっ』『な…なんだあっ』
ひとしきりホロウの中を歩き回るマネモブ。
辺りは電子制御されたゲートなどがいっぱいあったが、マネモブはその全てを跳躍して飛び越えることで解決していた。
だが、マネモブはしばらく歩いた場所で、見知った顔を目撃した。だが、両者の間では少しピリピリした雰囲気が流れている。
『オーイ落ち着け』『ゆっくり呼吸するんや』
「!? ま、マネモブ!? どうしてこんなところに!?」
「マネモブだと……?」
パエトーンであるリンと、黒い狐のシリオン……雅が手を繋いでいる。握手でもしているようだった。
その握手という行為で何かを思いついたマネモブは、おもむろに雅へと右手を差し出した。
『あ…あの自分ファンなんスよ』『握手してもらっていいスか?』
「……しょうがないな、同じ過ちを三度繰り返さないという時に……」
『あざーす』
ガ シ ッ
マネモブが雅の手を握る。
……3人が手を繋いでいるような構図で、数秒の時が流れた。
『なにっ』『しゃあっ』『プロレスラー和田アキ男屈辱』『大学生に失神KO!』『ネットに動画を晒される』『村中右ヒジ深刻』
「……?」
「ううん、どういうことだ」
2人にはマネモブが何をしたいのかは分からなかった。
しかし、リンと雅の間に流れる雰囲気は、いくらか和らいだ。
これこそがマネモブの狙いだったのかもしれない。
「ともかく私は逃げたりしないから。道も分からないしキャロットもないんじゃ迷うだけだし」
『だからオレたちがいるんだろっ』
「……まあ、マネモブがいたら逃げられそうだけど……マネモブは道知ってるの?」
『知ラナイ』『知ッテテモ言ワナイ』
「そう……」
マネモブは2人の間のバランスを取るため、あえて中立の立場に立った。
「そうか。ならば座れ。ホロウに入った折は、安全な場所で救助を待て。私の仲間は必ず救援に来る。指南書にもそう記されている」
そう、いつもホロウレイダーや反乱軍が練り歩いているせいで分かりづらいが、ホロウとはフルコンタクト・ダンジョンである。
虚狩りとすら謳われる強者ですら、キャロットの力が無ければ迷って死ぬ。
そして、邪兎屋やヴィクトリア家政などにも匹敵する有数の実力がありながらも、ホロウでの侵蝕を無視して活動できるマネモブは実はヤバい存在だった。
「雅さん的にはそれでいいと思ってる?」
「……なんだ? 重要な市政選挙の日にホロウへ閉じ込められ、外で危うげな謎が進行していると知りながら微動だにできず、仲間たちが果敢に敵と刃を交えているさなか、ただ座っている状況を良しとするのか……ということか?」
『そうか』『お前は感情がないんだったな』『人の足を切断することなんて大した事ではなく…たとえ人を殺めても罪悪感に苛まれることなどないんだろうな』『ガルシアお前はなんだ? 人の痛みが分からなくて“人間”といえるのか』
「否、このままでいいなどとは思っていない。だが、他の方法を私は知らないだけだ」
ホロウは超危険地帯。
今この瞬間、雅は自分がエーテリアスになりかけた時は切腹する覚悟をしていた。
流石の彼女も、マネモブのように理性を保ったエーテリアスになる自信はない。というかなりたくない。
「じゃあさ、ここは力を合わせるってのはどうかな? 自慢じゃないけど私プロキシ歴長いし、結構経験あるし、似たようなこと何度かあったし」
『男もいけるしな』『!』『やめろオオ』
「まあ自分の身を守るのはからっきしだからバランスは取れてるんだけどね」
パエトーンは結構昔からプロキシをしているし、知識も経験も豊富だ。
そんなプロキシ兄妹パエトーン・ツインズの片割れである彼女は、雅と協力することにしたのだ。
ちなみにマネモブに対しては絶対自分の味方をしてくれると確信している。
「その点、雅さんとマネモブならめちゃくちゃ強いでしょ?」
『もちろんめちゃくちゃ強い』
「私を逮捕するならそれでもいいけど……まずはここから出られなきゃお話になんないよ」
『ホアァアァ―――ッ』
その言葉を聞いて考える雅。
彼女には、一つ疑問点があった。
「……先ほど、なにやら重要な機能が使えないとこぼしていたのはお前自身だろう。それで案内が務まるのか? まさかそこのマネモブに案内してもうつもりではあるまい」
「――ご名答。よくわかったね」
「なにっ」
「マネモブ、お願い! あの子を呼んで!」
『しょうがねェなァ』『デゴイチッ』
マネモブは中立気取りだが、その目的はリンと雅の仲裁。仲良くできる方法があるなら喜んで力を貸す。
マネモブが声を上げると、もの凄い速度で何かが接近してきた。それは犬型エーテリアス・ハティにしか見えない。
雅は無尾に手をかけたが、ハティがその場に停止すると柄から手を離した。
『ワン! ワン!』
「デゴイチ~! よぉ~しよしよしよし!」
リンがサイボーグ・ハティであるデゴイチを撫でまわす。
デゴイチも尻尾をブンブン振り回して全力で喜んでいる。
「人を襲わないエーテリアス……マネモブ以外にも存在したのか?」
「ちょっと違うかな。デゴイチはハティをサイボーグ化したらしいよ。だから人間の命令も聞けるし……」
リンはデゴイチが背負っている荷物から、端末を取り出す。
それを装着すると、リンとデゴイチが同期した。擬似・パエトーンの誕生である。
「こうやって人間と同期もできるんだ! 流石“
「ううん、どういうことだ」
『D‐51の一本の歯にかかる力は10トンある。これはティラノサウルスを超える咬合力』『ちなみに人間の歯は70~100キロしかない』『鋼鉄のトダーの首でさえパンをひきちぎるようなもの。ましてや人間の首なんて…』『その脚力はチーターの約2倍。最高速度280キロに達する。地球上でD‐51より速く走る生物は存在しない』『鋼鉄の物体がそのスピードでぶつかったらどれほどの衝撃か君にはわかるだろ。人間なんて機械の前では脆弱すぎる』
「ううん、どういうことだ」
恐るべき情報の洪水に巻き込まれ、雅は宇宙猫ならぬ宇宙狐の状態だった。
「デゴイチの中にはデータスタンドが内蔵されてるの。とにかくホロウを歩き回るだけで基本的なデータが割り出せるの」
「基本的なデータを割り出したらどうするのだ?」
「うーん……雅さんは“迷路のアルゴリズム”って知ってる?」
リンは雅にプロキシの技を説明した。
旧文明より研究されている数学の一種。先人が導き出した人類の叡智。
問題は……それがプロキシという犯罪に使われていることだ。
「ふうん、そういうことか」
「ちゃんと訓練を受けたプロキシなら基本中の基本だよ、ちゃんと訓練を受ければね。ま、最近はキャロットとか高性能コンピューターに頼りきりでなおざりにするプロキシも多いんだけどね」
『ククク…ひどい言われようだな』『まあ事実だからしょうがないけど』
「承知した。ここは一時休戦とし、手を結ぶとしよう」
『おっしゃあ』
こうして、パエトーンのリン、対ホロウ六課の雅、死人のように生きてるクズのマネモブが手を組むことになった。ある意味最強だ。
Now Loading......
『しゃあっ』
雅とマネモブを前に、エーテリアスは消え去った。
高濃度侵蝕体と虚狩りに一般エーテリアスは勝てない。これは差別ではなく差異である。
マネモブは残心しながら構えを解いた。
「さっすが!」
リンが道中にあったデータ観測装置からデータを抜き出す。
それを見ながら雅は刀をおさめようとするが――
ピ キ ィ ー ン
「なにっ」
『ウアアア炎ダーッ助ケテクレーッ』
突如として背後に現れた異様な気配に、リンが声を上げた。
振り向けば、雅の刀が青い炎を上げている。マネモブは炎に巻き込まれて炎上した。
『斬れ……』
「くっ……!」
『斬れーっ』
『斬れば楽になると考えられる』
『斬ったらええやん……』
『斬るとはこうっ』
『刀を慰めてくれたら言うことはないんやけどなブへへへ』
『斬るアルヨ!!』
『斬れ……鬼龍のように』
「この声は一体……!?」
雅の脳内に響く声。
抗いがたい斬殺衝動が身体を支配する。
しかし、雅は強靭不屈の精神力によって耐えている。
「!」
だが、間の悪いことに雅の周囲を浮遊する目玉が刀へと吸い込まれるように憑依してしまい、青い炎は禍々しく赤い炎へと変貌する。
『やつらをぶった斬れェッ』
『A・Fは一人残らずみな殺しだあっ』
「これは……!?」
『斬れば楽になるのに……』
『刀を慰めてくれよ』
まるで心を奪われたかのように炎を見上げる雅。
「雅さん!」
そこへ、炎に耐えながらリンが近づいてきた。
その手には、刀の鞘が握られている。
「雅さん!」
『熹一ッ』『火の手が早い逃げるんだ』
マネモブが炎上しながらも制止しようとするが、炎がマネモブを容赦なく蝕む。
雅の前までたどり着いたリンを止めるには距離が開き過ぎていた。
「どうしたらいい!? 鞘で封じれる!? 雅さん!!!」
「ハッ!?」
リンの声に、正気に戻った雅はすぐさま刀を構えた。
それは刀の切っ先を相手に向けた、霞の構えにも似たものだった。
「ううぅぅ……!」
「あと少し――!」
刀が鞘に押し込まれる。
刀も抵抗しているようで、両者にとてつもない負荷がかかっていた。
「う あ あ あ あ」
カ チ ン
刀が鞘におさまった。同時に、周囲を燃やしていた異様な炎も幻だったかのように消え去る。
「はぁ……」
「っ」
地面に倒れそうなリンを雅が受け止めた……が、体勢が悪かったのと服が滑ったせいでやっぱり倒れかけた。
そこへ、炎上から復活したマネモブがやってくる。
『ボリス大丈夫? 拳獣の打撃がモロにヒットしたみたいだけど』
「だ、大丈夫大丈夫。それより雅さんは? 大丈夫なの?」
『ボリス大丈夫? 拳獣の打撃がモロにヒットしたみたいだけど』
「……その質問はもう三度目だな。なんだ?」
『ボリス大丈夫? 拳獣の打撃がモロにヒットしたみたいだけど』
「たった今四度目になった……ああ、心配は無用だ」
「でも毛先が燃えてチリチリになってるよ? このままじゃ天パ待ったなしだよ」
『ボリス大丈夫? 拳獣の打撃がモロにヒットしたみたいだけど』
「……星見家は代々くせっ毛の家系なのだ。一族は皆くせっ毛だった」
リンもマネモブも、先ほどの出来事があったのでかなり心配していた。
だが、雅は強がっているようにも、耐え忍んでいるようにも見えた。
「私の心配は不要だ。この程度、比にもならない修羅場をくぐっている」
「ふーん……うああああ……み、雅さんの刀からなんか火花が出てる」
『ウアアア炎ダーッ助ケテクレーッ』
「な に っ」
雅が急いで刀を確認する。
しかし、火花どころか何も出ていない。すべてはリンの欺瞞だった。
「ごめーん、ウソついちゃった。でもはっきり動揺してたよね?」
『欺瞞だ』『すべてが欺瞞に満ちている』
「……笑えないな、これは至って正常な反応だ!」
「いや、聞いてほしいんだ……私はただ……うああああ雅さんの身体から狐火が出てる」
『ウアアア炎ダーッ助ケテクレーッ』
「な に っ」
禁断の“嘘”二度打ち。
雅はそれにも騙されていた。
「ごめんね、今のも嘘。マネモブ風に言えば欺瞞。でもこんな立て続けに騙されちゃって……やっぱり内心穏やかじゃないんだね?」
「……“貴様”! 私を幾度も“愚弄”して、どういうつもりだ……?」
『貴様ーッ』『先生を愚弄する気かぁっ』
貴様と愚弄というワードに反応し、マネモブは一気に雅の方へと寝返った。
「わーっ! ち、違うの! 私は雅さんの力になりたいだけだから!」
「……」
「星見家の人は同じ間違いを三回しないんでしょ? 今ので三回目だよ。これって結構ヤバい状況なんじゃないの?」
やがて語られるプロキシの矜持、星見家の覚悟。
そして先ほどの現象への考察。それらを話し合った2人は、かなり打ち解けていた。
『はいはいもうええやろ…ったく血の気の多いオッサン達やで』
「ピッチピチの女なんですけどぉ?」
「確かに趣味は枯れている自覚はあるが……その、しかし……」
『申し訳ないことをしたと恥じている』『その苦しみは今も心の奥底で澱のようにたまっている』
「最初から言わなきゃよかったのに」
『ククク…』
3人は、出口を目指してホロウを進む。
そしてリンは絶命した。
次回、どうなる……!?
「……貴様! 私を幾度も愚弄して、どういうつもりだ……?」
ちなみにこれは原作のセリフそのまんまらしいよ
“貴様”と“愚弄”の組み合わせって、ま……まさか