高濃度猿侵蝕体“マネキン・モブ”   作:アースゴース

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なめるなっ邪兎屋ァッ2

 『喰らえっ、我が乾坤一擲の一撃をっ!』

 

 エーテリアスが繰り出したのは、飛び蹴りだった。

 何の変哲もない、邪兎屋のメンバーならば誰もが行えるような技。

 しかし、それは途轍もない速度によって繰り出された。

 

 「あっぶね!?」

 「凄い破壊力……」

 

 ミサイルのような飛び蹴りを、ビリーとアンビーは危なげなく避けて見せた。

 ただ一直線に飛んでくるのなら、実力者である彼らが避けるのは難しいことではない。

 

 「でも隙あり」

 

 わずかに硬直したその隙を見逃さず、アンビーが電磁ナタを振るう。ナタとはあるが、その実体は刀に近い。

 チャージされた電磁エネルギーをまとったその刀身は、並みのエーテリアスならば一撃で屠る。

 だがここにいるのは並みのエーテリアスではない。武術を身に着けた超特殊個体だ。

 

 刀身を迎撃するのは、蹴り。

 超硬質の脚は、雷撃をまとう剣と拮抗した。

 

 「くっ……やっぱり只者じゃない」

 『“蹴るッ”というより“斬るッ”という感覚。人間の骨なんて一太刀で切断する“バルディッシュ”の斬撃』

 「確かにその通りかもしれない。でも、“斬る”とはこうっ」

 『なにっ』

 

 一瞬、刃をエーテリアスから離す。

 エーテリアスはバランスを崩さずすぐに反撃に入ったが、それこそアンビーの狙い。

 アンビーは攻撃をパリィの要領ではじき返し、エーテリアスを後退させた。

 

 「ビリー!」

 「俺の出番だな!」

 

 ビリーの二丁拳銃が火を吹いた。

 縦横無尽に動き回る戦闘機械人ビリーの狙いから逃れる術など存在しない。

 例えその身が安物のパーツで構成されていたとしても、幾度となく繰り返された戦闘経験がそれを可能としている。

 一発一発はアンビーなど近接武器の一撃には及ばないかもしれない。だが、何発も撃ち込まれれば、あるいは急所を撃ち抜かれたら、エーテリアスは消滅する。

 さらに、邪兎屋のボンプであるアミリオンも便乗して機関銃を放っている。普通に悪夢だ。

 

 しかし、命中すれば、の話だが。

 エーテリアスが身体をひねる。それだけではビリーの弾丸から逃れることはできない。

 だが、直後にエーテリアスが見せたのは、驚くべき奥義……技の極致だった。

 

 『灘神影流“弾丸すべり”』

 「えっ、なにっ、な、なんだぁっ」

 「嘘……」

 

 無数の弾丸が命中する直前。

 わずかにエーテリアスが身体をひねると、その弾丸の全てが体表を滑るような軌道を描き、明後日の方向へと飛び去った。

 もちろん、エーテリアスはノーダメージだ。

 

 同時に彼らは分かってしまう。

 その超絶技巧がエーテリアス特有の特殊能力やエーテル操作などではなく、純粋な技のみで行われているということを。

 戦意喪失などありはしない。だが、背筋に冷たい汗が流れるのを感じた。

 

 「どきなさい!」

 

 睨み合う両者にしびれを切らしたのはニコ。

 彼女は特製のアタッシュケースを構えた。

 

 「こんな日のために自費で取り寄せた特製の高級シュガーボムという代物よ!」

 『なんだよこのクソ展開。俺たちはヒャッハーって突っ込んですぐやられるザコキャラかあッ、なめてんじゃねぇぞコラッ』

 

 いつの間にか普通のティルフィングがやや後ろに並んだ状態で、エーテリアスが走ってくる。

 腕を前に構えてはいるものの、急に先ほどまでの洗練された動きは無くなっていた。

 

 「来なさいッ、エーテリアス!」

 『う あ あ あ あ あ あ あ あ』

 

 発射されたエーテルの弾丸は、着弾地点にエーテルの嵐を発生させる。

 それだけではない。発生した特殊な力場が獲物を逃すまいと魔の手を伸ばし、犠牲者を掴んで離さない。

 一般的な低驚異度エーテリアスでしかないティルフィングはなすすべもなく一瞬で消滅し、かの技量を誇るエーテリアスも逃れられなかった。

 

 『……エーテル反応消失。やっつけたみたいだね』

 「ふん、どんなもんよ!」

 「親分、それ高かったんじゃないか?」

 「そ、それは……いえ! さっきの奴の秘蔵のビデオやらコミックスがあれば、おつりが出るわ!」

 『じゃあそのおつりでツケは払ってね!』

 「そ、それはぁ……」

 

 どんどん顔色が悪くなるニコ。

 借金、ツケ、弾代の収支……それらを今回の依頼で返せるのか。手元に残るのはいくらか。ニコは不安になっていた。

 だが、そんな不安すらも吹き飛ばす言葉がかけられた。

 

 『子供に夢のねえこと言うの嫌なんだけど、貧乏ってえのはハンデなんだ』

 「誰が貧乏よ! それに孤児院にはちゃんと寄付してるわよ! た、確かに最近赤字続きだけどね、この依頼が終わったら次の儲け話、が……」

 

 今、会話しているのは誰だ。

 アンビーはこんな声じゃない。ビリーはもっと抑揚があるしこんなに低くはない。今日のプロキシはリンだしアキラはもっと高い声だ。アミリオンに至ってはンナンナというボンプ語しか喋らない。

 なら、こんな声を出すのは1人……いや、1体しかいない!

 

 「ッ!? エーテリアス!?」

 「まだ生きてたのか!?」

 「嘘よ! だってあんな高級品使ったのに!?」

 『悪魔は死なないんだぜ』

 

 だが、現実としてエーテリアスは生きていた。

 その秘密は一体……?

 

 『灘神影流マジックよ。一時的に仮死状態にする技が()()()()ある』

 「エーテルに飲み込まれたら仮死状態になっても死ぬでしょうが、えーっ!?」

 

 なんと、エーテリアスは仮死状態になることでエーテルの爆発から逃れていた。

 仮死状態になることでエーテル反応を低活性状態にし、弾丸すべりを併用してエーテルの嵐を耐えきったのだ。

 先ほどのシュガーボムは3人の中でほぼ最高威力の代物。それを耐えられたという事実に、戦慄が走る。

 

 「やっべぇ奴に喧嘩売っちまったな!」

 「でもこっちもノーダメージ。最悪逃げられる」

 「くぅ~……何十万ディニーしたと思ってんのよ……」

 

 彼らの戦意は衰えない。こんな窮地を脱することができないのなら、今頃死んでいるからだ。

 だが、意外にもエーテリアスは殺気をおさめ、崩壊した家屋を漁った。

 

 「……?」

 

 何をしているのか、疑問に思う頃にはすでにその行動は終わっていた。

 エーテリアスは両腕に抱えた大量の漫画や雑誌を、ニコに押しつけた。

 

 『お…叔母さんこれあげる。ウサピョンがいると寂しくないよ』

 「誰がおばさんよ!? って、これは……!?」

 

 手渡されたのは、目的のコミックや雑誌。中には、DVDまで存在する。

 その全てが旧時代の産物。今となっては値千金の価値を誇るものだった。

 

 「こ、これくれるの!?」

 『キミ、グッドファイターとして認めるネ』

 「な、何だか分からないけど、くれるっていうなら貰っちゃうわよ!? いいの!? 返さないわよ!?」

 『まあそうだろうな』

 

 何でもないように言うエーテリアス。

 それもそのはず、これは彼が誕生する際に吸収したものではなく、布教用の予備。

 全てを取り込んだ今、彼に必要なものではなかった。

 

 「でも一体どうして……」

 『子供を思う気持ちに距離は関係ない』

 「え?」

 

 エーテリアスは去っていく。

 もしかすると、ニコの孤児院を思う気持ちに何か思うところがあったのかもしれない。

 分からない、が。ニコはあえてそれを口にした。

 

 「ありがとう!」

 『お前ならわかってくれると思ったよ。じゃあな』

 「!」

 

 屈強な背中が去っていく。

 果たして、彼が本当に意思を持ったエーテリアスなのか、それとも生前のルーティンに基づいて行動しているだけなのかは分からない。

 ただ1つ言えることは、邪兎屋もエーテリアスも死ななかったということだ。

 

 「……何はともあれ依頼は達成ね! 早いとこ帰りましょ!」

 「そうだな!」

 「今日は疲れた」

 『皆お疲れ様! 今案内するね!』

 

 邪兎屋とプロキシは帰っていった。

 彼らは今日得たものを売り払い、大儲けすることだろう……

 

 「キミ達に100万ディニーをプレゼントするよ。ただし、現金じゃなく100万ディニー分の弾丸でね!」

 「あうっ、い……いきなり始まるのかあっ」

 「100万ディニー分の弾丸か……そんなものニコは欲しがらない」

 「ちょっと欲しいのはあたしなのよね。ま、現金の方がいいからバランスは取れてないんだけどね」

 

 後日、邪兎屋は悪質な依頼者に出会い、戦闘になっていた。

 そして依頼者は絶命した。

 

 

 

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