やる気と時間を失ったジャコブは全てを投げ出し逃走する
それを見たノエルは『自分が続きを書かなくちゃ』と思い執筆を再開した
雅はパールマン逃亡ほう助の罪で連行され、護送車に乗っていた。
彼女を繋ぎとめるのはたった一つの手錠のみ。ガバ警備を超えたガバ警備。ゴリラをタコ糸で繋いで捕まえた気になって安心するバカがどこにいるのだろうか。
あるいは、彼女の理性に期待してヤケクソになっているのかもしれない。
少なくとも、運転手の治安官達はともかく、対面に座っている人面獣心の女サラは手を出されないという確信があった。
「おいコラちゃんと運転しろよ。虚狩りのゴキゲンを損ねたら総局でこってり絞られるんだからな」
「おいおい興奮させてくれんなよ、俺のアソコはすでにビンビンよ。総局じゃナニを絞られるってんだ? あのサラとかいうメスブタが相手してくれんのか?」
「何を言ってるこのバカは? ブリンガー長官に掘られながら絞られるに決まってるだろ」
「別にいいや、男もいけるしな。ま、女の方が好きだからバランスは取れてるんだけどね」
「お前を好きになる女はこの世にいないだろうがな。レイプでもしてろよ……俺は治安官だから見つけ次第射殺してやるがな」
「お前が一言許可してくれればいつでも襲ってやるぜ。なあに、俺のビッグ・マグナムを見たらアソコをグチョグチョに濡らして媚びるさ」
「先にアソコの方が裂け……って、聞かれたらどうするんだ。さっさと運転に集中しろっ」
「あいよ」
運転手の治安官らしからぬ猥談は、雅の耳にはバッチリと聞こえていた。
しかし、サラには聞こえていなかったようで澄ました顔をしている。もし聞こえていればどんな顔をしただろうか。
「下手な猿芝居はやめろ。7つ目の交差点でヤヌス区に入っただろう。総局に向かう気などないのだろう」
「えっ」
「なにっ」
「あら……とっくに気づいてたの?」
「寒い雪の日の朝にな」
「寒い雪の日の朝……!?」
寒い雪の日の朝は、マネモブの発言の引用である。
適当にはぐらかすには使い勝手が良いので、雅も説明が面倒になったり、教える気がない時に使うことにした。
「澄ました顔してされるがままにしてるけど、それでいいのかしら?」
「いいんだ、お前達の企みを探るならそれが許される。どの道……」
雅はサラを睨みつけた。
「お前達ごときでは脅威どころか敵にすらならないんだ、悔しいだろうが仕方ないんだ」
雅にとっては大体の相手はカスも同然のザコキャラとなり果てる。サラもその一人にすぎない。
彼女は、自身の強さには自信を持っていた。
「……徒手空拳でも、かしら?」
「お前、挑む相手を間違えたな。狐眼流は徒手空拳でも戦えるフルコンタクト・虚狩りだ」
「コガンリュウ……?」
かつて雅は、VR空間でとはいえ、格闘のエキスパートであるマネモブに素手で一撃を入れている。
この時点で、大体の相手は素手でクソゴミのごとく叩きのめす強さの証明になっているのだ。
「ま、私達が格落ちを超えた格落ちなのは否めないけど……悪辣さはキレてるわよ」
サラは刀を持った。
それは雅が肩身離さず帯刀している星見家の家宝、妖刀“無尾”である。
「極超級エーテリアス、希代の強者、旧文明が遺した災い、新世代の邪悪、完全無欠の異形人、ゴリラ、闇のフィクサー、黙示録の四騎士の内の三人、手を使わずに金玉を自由自在に操る能力者、宮沢鬼一郎、ファントム・ジョー、コピペ野蛮人、田代さん時空……その全てを斬り伏せてきた妖刀――“無尾”」
「なにっ」
雅は、サラが星見家の家宝、無尾の歴史を知ることに驚愕した。
「なぜ星見家のことをそこまで知っている? 本当になぜ……?」
「千面相は失踪したけど、
「なにっ」
サラはVR空間上での雅のデータを入手することに成功していた――猿に汚染されたデータを。
そんなことは、雅もサラも知る由もない。データは一見して、特に汚染されている様子もないし、表面上は普通に見えるからだ。
「これでようやく、妖刀の真の姿を目の当たりにできる」
サラが妖刀を抜いた。
すると、禍々しいエネルギーが刀身からあふれ出す。
「聞きしに勝る美しさね! この悍ましいエネルギーこそ、私達が本当に欲しかったもの……!」
「なにっ」
雅はその瞬間、サラに向かって猛ダッシュしていた。
時速200キロを出せる雅の脚力がサラに迫るが、一歩遅かった。
「あなたの言う通り、誰もあなたの敵にはなれない。だったらあなた自身が脅威になるのはどうかしら!?」
「それはやめろーっ」
雅の意識は、闇へと呑み込まれた……
Now Loading......
『ここは斬殺・サンクチュアリ』
「な……なんだあっ」
目を開けた雅の前に広がるのは、謎の空間。
水面にも鏡にも見える地面、どこまでも広がり揺らめく煙のような空に覆われたこの空間に雅はいた。
「この感覚、狐火に焼かれているのか? ……む?」
狐火に焼かれる感覚を味わいながら、声のした方向を見る。
そこには、大量のエーテリアスが雄叫びを上げながら向かってきていた。
『HOSHIMI‐MIYABI WO BUTIKOROSEeッ』
『HOLLOW‐HUNTER HA HITORINOKORAZU MINAGOROSHIDAaッ』
『TAZEINIBUZEI DA IッKEe』
「邪魔だ」
『U A A A A』
雅はそれらを一太刀で切り捨てた。
すると、狐火に焼かれた身体、あるいは精神が癒えていくのを感じた。
それからは、幻像のエーテリアスを斬って斬って斬りまくった。
「な……何故だ。狐火は星見家の力のはず。どうしてそれが私を焼く」
『狐は斬れよ』
だが、死なないため、あるいは死よりも恐ろしいことを避けるために、雅は刀を振るう腕を止めない。
やがて何十体も斬ると、突如として空間の色が変わり、怪しげな水晶のようなものが現れた。そして、より強力なエーテリアスも。
「ゴホッ、狐火が激しく……」
『貴様ーっ狐先生を愚弄するかあっ』
だが、多少強いエーテリアスも雅の前では同じ。
鎧袖一触のもとに切り捨てられる。だが、そこに現れたのはあの超級エーテリアス。
『OTOKOMITAINAMONO CHI●PO SURUTAMENO DOUGUJANAI NANIWOMUKININAッTEIRUNO』
「ニネヴェか……」
対ホロウ六課や、幾多もの調査員達が束になっても撃退にとどまる超級の怪物、ニネヴェ。
それが幻となって現れた……のだが、雅が知っているニネヴェよりは大分弱かった。
『無敵こそ我らの価値なんだよね』
『無敗こそ我らの誓いなんだァ』
『無情こそが我らの犠牲なんだよーっ蛆虫野郎ッ!』
『無双こそ我らの象徴だったのは…俺なんだ!』
『因果を断つ力とはこうッ』
『強弱を淘汰する力。相手の方が強いと思っているから徹底的に研究し戦略を練る。きつい練習でその差を埋めようとする』
『正邪を戒める力だと。そのエビデンスは?』
『善悪を分かつ力。しかし俺を恨むの筋違いだぞ、悪いのはスマイル・ジョーだ』
「何を言っているんだ?」
声達が何か余計なことを言うせいで、雅の頭には半分も入ってこなかった。
だが、ニネヴェを撃退するとまた空間の色が変わる。そうして現れたのはエーテリアスではなく、守るべき新エリー都の一般市民である。
「こ、この者達は……市民ではないのか?」
雅は満身創痍の身体で、彼らの間を進む。衝動を抑え、刀を抑えながら。
『殺せ――ッ』
「なにっ」
『ブチ殺せェッ、一人残らずみな殺しだぁッ』
「斬るものか! 決して無辜の民に刀を振るわない……それが私だ」
無数の声達に斬れとか殺せとか言われながらも、雅は突き進んだ。
そして現れたのは、明らかに堅気じゃない連中。邪兎屋、六課、治安官、パエトーン……そしてマネモブ。
『斬れば楽になると考えられる』
「……前々から思っていたのだが、お前達の口調、おかしくないか?」
『……これは奴による影響なんだ、悔しいだろうが仕方ないんだ』
「奴ってまさか」
『言えない……知ってても言わない。我らがその名を口にすれば二度とは戻れないんだ』
「ううん、どういうことだ」
『お前の母親は生贄のクソ強女!』
雅は知った。
無尾の歴史、声達が力に執着する理由、最強の矜持。
だが、それを知った雅はある提案をした。
「お前達、私の刃となれ。私ならお前達を活殺自在にして天下無双の刀にできる」
『そのエビデンスは?』
「数か月ほど前に発生したはずのマネモブはその拳法を人を活かすために使った……何百年という歴史のあるお前達が斬り殺すしか能のない刀だとあざ笑うかのように。お前達は恥ずかしくないのか?」
『――だからオレたちがいるんだろっ』
雅は光に包まれた……
『な…なんや…光の中に身体が吸い込まれていく…』『見事やな…』
マネモブも雅の復活を感じ取り、その場を後にした。
そしてブリンガーは逃走した。