『死ねェッ! 星見雅!』
「いいや、お前が死ぬことになっている」
六課とブリンガーの死闘は熾烈を極めた。
ブリンガーは巨体や手を活かした多彩な攻撃を放ち、六課は電撃と氷結を以てそれを避け、躱し、迎撃する。
時折、興奮したコモドドラゴンが乱入しかけることはあるが……
『ジャマだクソゴミ』
マネモブによってその身をエーテルの粒子へと変えられる。
彼のインチキじみた高速移動と、周囲のエーテリアス達が乱入を防いでいるのだ。
『しゃあっ』『“象塊”』
「まさか他のエーテリアスを操るなんて……」
「いや、あれは操っているのではなく、協力しているようです」
マネモブはエーテリアス達を武力で従わせたのではない。
喋るので忘れそうになるが、マネモブはエーテリアスである。つまり、他のエーテリアスには基本的に襲われることは無い。
マネモブは周囲をうろつき回っているエーテリアス達に呼びかけ、サクリファイス・ブリンガー討伐に誘ったのだ。
フルコンタクト野蛮人であるエーテリアス達はこれを快諾。
強弱問わず大量のエーテリアス達が集まり、サクリファイス・ラッシュが開催されることになったのだ。
報酬はもちろんサクリファイスとしての力。
『えっ』『なにっ』『な…なんだあっ』『ウ…ウソやろ、こ、こんなことが、こ…こんなことが許されていいのか』
「どうしたんだマネモブ!?」
象塊のために跳び上がったマネモブが驚愕の声を発し、高い建造物の上へと着地した。
ただならぬ事態を察知した悠真がマネモブと同じ場所に行くと……
「な……なんだあっ」
『すごい数の信者が集まってきている』
戦場の周りに、すごい数の信者が集まってきていた。
彼らは始まりの主を崇拝する涅槃創生会の信者であり、始まりの主に近い存在であるサクリファイス・ブリンガーの誕生を察知して集まってきたのだ。
「御誕生だぁっ」
「なんて……なんて神々しいんだ」
「あの人はね、神様なのよ」
人々はブリンガーに向かって祈っている。
彼らは信者。自分達の神が降臨したとなれば祈らないはずがない。
『熹一ッ』『火の手が早い逃げるんだ』
「ブリンガーを先に倒せということか」
悠真は一旦信者を無視してブリンガーに専念することにした。
「コモドドラゴンの数が多いな……」
ブリンガーに攻撃するものの、コモドドラゴンは次から次へと湧いてくる。
その勢いは全く衰えず、むしろマネモブが連れてきたエーテリアスを食い殺して数が逆転していた。
ついにマネモブとエーテリアス達による防波堤が決壊し、六課のもとへコモドドラゴンが大挙してきた。
「うああああ……コ、コモドドラゴンが走ってくる」
「くっ、数が多いですね……!」
六課は窮地に立たされた。
前方には強力なブリンガー、後方には大量のコモドドラゴン。
しかし、マネモブやエーテリアス達は諦めていなかった。
『ビッグ・アイをぶち殺せェッ』『
『SHAAッ』
『GORAIKOUDAAッ』
エーテリアス軍団がコモドドラゴンをなぎ倒しながら、ブリンガーへと迫る。
これまでコモドドラゴンがブリンガーと六課の戦いに割って入らなかったので、彼らも空気を読んでブリンガーへの攻撃は自粛していた。
しかし、今やその禁は破られた。コモドドラゴンが六課を邪魔をしたならば、エーテリアスもブリンガーの邪魔をして良いのだ。
『ジャマだクソゴミ共』
『う あ あ あ あ』
『U A A A A』
「ま、マネモブーッ!?」
だが、決死の突撃は虚しくブリンガーの妖刀に斬って捨てられた。
横並びになっていたエーテリアスはほとんど全て斬り裂かれ、残ったのはわずかにデュラハンやトラキアンなどの強力なエーテリアスが数えるほど。
そしてマネモブの姿すらも見えなくなった……
『ハハハハ!!!』
「えっ」
「なにっ」
「な……なんだあっ」
エーテルの粒子と土煙を斬り裂いて現れたのは、一台の異形のバイク。
走ることに特化したそれが、ブリンガーが生み出した巨腕の目へと突き刺さり、一撃で屠り去る。
「ポンペイのオッサン!」
『息災だったか? シーザー。マネモブの招集に応じて来てやったぞ』
それは、ガルシアの心臓を移植されたことでエーテリアス人間と化した“元”覇者ポンペイだった。
“元”というのは、ぶっちゃけエーテリアスが覇者やってるのはダメだろうという考えと、シーザーがシマキン相手にほぼ無傷で立ち回っていたことから、引退という形で覇者を降りたのだ。
ちなみに、シマキン相手に無傷は全盛期のポンペイでも不可能なことだった。
『フン、何やら気色の悪い奴だ』
『貴様は……!? 何だその力は!?』
『今は亡き父親、ガルシアが残してくれた“愛”よ』
『愛だと? ふざけるなぁぁぁぁ!!!』
ブリンガーは、自分達が苦労して得た研究成果とも言えるサクリファイス化。それと同等かそれ以上の完成度を誇る擬似侵蝕体たるポンペイに怒りをあらわにした。
ぽっと出の見知らぬ男が喋るエーテリアスだった。ある意味最悪だ。
『妖刀の一撃を食らえ!!!』
『遅いぞ!!!』
ポンペイは、ブリンガーの妖刀を回避すると妖刀の上に着地。そのままバイクを走らせた。
それはブリンガーのもとへと続く勝利の道。ブリンガーにとっての敗北への道。
『落ちろッ!!!』
もちろん、黙っているブリンガーではない。
赤い雷撃を無数に放ち、妖刀を走るポンペイを妨害する。ポンペイはそれすらも意に介さず突進するが、ブリンガーはこれを避けた。
だが、それこそポンペイの狙いだった。
『殺れッ、マネモブッ』
『“愛”って知ってるかこの野郎―――っ』
バイクの側面に張り付いていたマネモブが、バイクへと足をかけた。
ブリンガーからは完全に死角となっており、まるで気が付けなかったのだ。これはポンペイの運転技術によるものが大きい。
マネモブはバイクを踏み台にすると、一気に踏み込む。
『“象塊”』
マネモブが宙を舞う。
天へ昇る龍のように、地を駆ける虎のように、空を飛ぶ鳳のように――陰陽を合一した玄武のように。
『“幻突”』
マネモブから、不可視のエネルギーが放たれた。
それはエーテルの極致へと触れたポンペイやブリンガーすらも知り得ない、未知の原理。
『ぐ あ あ あ あ』
『効いてる…効いてるぞっ』
単発であるはずの幻突は、ブリンガーに六課の猛攻と同等のダメージを与えていた。
もしかすれば、ポンペイのバイクやエーテルも関係しているのかもしれない。
『こうなれば妖刀で斬り裂いてくれるわ――!』
今までとは段違いの速度で振るわれる妖刀。それを迎え撃つのは、雅。
「――」
当たれば消滅必至の必殺を前にして、思い返すのは母との記憶。
雅が最強である理由。未来永劫、最強であり続けなければならない過去。
これは走馬灯などではなく、人々の未来への希望である。
「ハァッ!」
雅が妖刀を斬り砕き、斬撃が飛ぶ。
廃棄された船も、ブリンガーさえも真っ二つに斬り裂き、ホロウへ夜明けをもたらした。
『う あ あ あ あ』
ブリンガーが、爆発を巻き起こした。
もはや助かる見込みのない致命傷。後にはエーテルの粒子が舞い、幻想的な光景を生み出した。
つまり、これは人類の勝利である。
「ったく、ハデにやるわね――」
「流石“虚狩り”……」
コモドドラゴンも消滅し、戦いに参加した者達は皆、安堵していた――黒幕でさえも。
コンテナの裏に隠れていたサラが、誰かと連絡を取っている。
「実験は完了よ。Elixir P07は有効だった。ブリンガーは使命を全うしたわ……」
サラが満足そうに言った。
「始まりの主が、汝を再創せん――」
『待てよ、物語はここから面白くなるんだぜ』
「えっ」
電話の相手にそう言われたサラは、ふと戦いがあった方向を見る。
――ブリンガーの死体は消滅していなかった。それに、雅が慎重に近づこうとするのをマネモブが止めた。
『“S”だ』『“S”が正体を現すぞ』
「ブリンガーが“S”?」
ブリンガーが起き上がり、その身を抱くように縮こませる。
バキッバキッと硬いものが変形するような異音が鳴り響く様子に、誰もが啞然と見守るしかない。
「目玉が落ちて……」
肥大化した無駄な腕の肉や、巨大な目玉もほぼ全てが地面に落ち、その役割を終える。
かつてブリンガーだったものは、その姿を大きく変えていた。
「あれは……!?」
まるで鷹のような頭部、道着にも似たゆったりとした装い、超然としたつかみどころのない雰囲気。
だが、その立ち振る舞いが、神聖なる気が、にじみ出る“武”の気配が。“それ”を最高峰の実力者であると否応なしに突き付ける。
やがて、高潔なる鷹が口を開く。
『我が名は尊鷹』
『尊鷹・鬼龍・静虎。宮沢三兄弟の長兄ここに現れる…!!』
新たなる戦いへ――!!