高濃度猿侵蝕体“マネキン・モブ”   作:アースゴース

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“S”acrificeだ、“S”acrificeが正体を現すぞ 2

 『多勢に無勢だいっけぇ』

 

 この場に存在する全員が、尊鷹という存在を脅威と認識していた。

 だからこそ、数の利を生かして全員でかからなければならないことも。

 

 「これでも喰らいやがれっ」

 

 ビリーが二丁拳銃を発砲する。

 無数の弾丸が尊鷹に迫り、撃たれた鳥となる――

 

 『弾丸すべり』

 「その技お前も使えんのかよ!? 反則だろ!」

 

 だが、弾丸すべりによって明後日の方向に飛んでいく。

 まるで弾丸が独りでに動き、自ら軌道を変えたそれは、この世ならざる異質な物に見えた。

 

 「私がやる!」

 

 アンビーが電磁マチェーテを振るう。

 電気とは生物にとっての弱点。電撃を受けて無事で済む生物などいないが尊鷹はどうか。

 

 『鷹鎌脚』

 「この技……マネモブに似てる!?」

 

 尊鷹の鷹鎌脚は、鋭い刃物と同等かそれ以上の切れ味を持つ。

 ゆえに、高い技量を持つアンビーのマチェーテとも鍔迫り合いが成立するのだ。

 

 「ハッ! ――えっ、残像!? そんなバカな!?」

 

 背後から猫又が襲い掛かるが、その瞬間に尊鷹が消えた。

 いや、消えたわけではない。その場にとどまっている……残像のみが。

 そして、再び尊鷹が現れた先は。

 

 「ニコ!」

 「親分!」

 「危ない!」

 「えっ」

 

 今にもエーテルグレネードを放とうとしていたニコの背後。

 尊鷹は容赦なく蹴りを放つ。それは人間の頭など真っ二つに切断してなお有り余る。

 

 「うぉぉぉぉ!!!」

 

 だがそこへベンが強引に割り込み、尊鷹の蹴りを受けた。

 彼とRCピラーなら人知を超えた斬撃も受け止めることができる。

 だが、尊鷹は硬い相手への技も持っている。

 

 『塊貫拳』

 「ぐああああ!?」

 「ベン!」

 

 恐るべき貫通技に貫かれ、超大柄のベンが吹っ飛ばされた。

 そこに、アンドーが電気エネルギーを滾らせて割り込んできた。

 

 『弾丸すべり』

 「ドリルを手の中で受け止めてやがんのか!? クソッたれ!」

 

 尊鷹は、ドリルすらも手の中で弾丸すべりによって受け止めた。

 その両手の中では、ドリルが決して尊鷹に到達することなく回転している。

 だが、アンドーはとっさに尊鷹をもう片方の手でつかんだ。

 

 「今だグレース! 俺ごとやれ!」

 「すまない、アンドー!」

 

 グレースの電磁グレネードと、ネイルガンが尊鷹に迫る。

 アンドーの怪力にクラッチされた尊鷹では、弾丸すべりは使えないかもしれない――

 

 『仰臥・塊蒐拳』

 「うおああああ!?」

 「アンドー!?」

 

 だが、尊鷹はアンドーを自分の方へ引き倒し、仰向けの状態から新たなる技を放った。

 それは鬼の五年殺しとも呼ばれる凶悪な技だが尊鷹にかかれば多分数か月くらいで死ぬ。

 

 「うちの社員に何しやがるんだクソ野郎ーっ!」

 

 アンドーを蹴り飛ばし、起き上がろうとする尊鷹にクレタのハンマーが振り下ろされる。

 幼い外見とは裏腹に、脅威の怪力から放たれるそれはスピードを兼ね備えていた。

 

 『鷹鎌脚』

 「チィッ!? そんな体勢から飛ぶのかよ!?」

 

 仰向けの状態から足の力だけで跳躍し、蹴りを放つ。

 ハンマーの衝撃を持ち前の技術と、空中で分散させた。

 

 「ハァァァァ!!!」

 

 エレンが、ハサミで両断しようと迫る。

 彼女の怪力にかかれば、いかに尊鷹でもただでは済まない。

 

 「また残像!? カリン! そっち行った!」

 「は、はい!」

 

 偶然にも――いや、バレエ・ツインズで見た菩薩の導きによって尊鷹の軌道を読むことができたエレンが、カリンを呼ぶ。

 そしてカリンも、残気の軌道を見ることによって尊鷹が出現する位置を割り出すことができた。

 

 「ご、ごめんなさい!」

 『弾丸すべり』

 

 回転するチェーンソーすらも、尊鷹の体表を虚しく回転するだけで届かない。

 だが、カリンが強く押し込むことによって尊鷹を後退させることができた。

 その先で待つのは、リナとドロシア&アナステラである。

 

 「さすがに電気は避けられないでしょう?」

 『お前何が許せなかったのか言ってみろよ!』

 『許セナカッタ! 許セナカッタ!』

 

 彼女達が電撃を放つ。

 まるで雨のように降り注ぐ雷撃に対し、尊鷹はその場から動かなかった。

 

 『弾丸すべり』

 「あらあら? どうなっているのでしょうか」

 『弾丸すべりは万能技じゃねーよバケモノが!』

 『バケモノ! バケモノ!』

 

 雷撃が、尊鷹を避けるように降り注ぐ。

 尊鷹の上にだけ、見えない傘が存在するかのようだ。

 

 「私も蹴り技には一家言あります! しゃあっ“偽・鷹鎌脚”」

 『鷹鎌脚』

 

 ライカンのメカ・フットと鷹鎌脚が激突する。

 だが、ライカンは尊鷹の脚に違和感を覚えた。

 

 「この感覚……あなたもメカ・フットですか!?」

 『“鳳腿”と呼ばれ蹴りの速度と精度には自信はあったが電動アクチュエータと人工筋肉によるパワーアシスト型の“鋼の足”は数倍の威力がある』

 

 尊鷹の左足があらわになる。

 その左足は機械。まさしくメカ・フットそのものだった。

 

 「くっ、余計な性能がない分、破壊力は高いようですね!」

 「しゃあっ」

 

 ライカンが身を退くと、剛速球の何かが飛来する。

 それはイノシシのシリオン。しかも三匹も飛んできた。

 

 『兜浸掌』『兜浸掌』『兜浸掌』

 「ヘルバ!? アルボル!? ラテレム!?」

 

 禁断の兜浸掌三度打ち。

 三匹のシリオン達は、弾滑りではなく兜浸掌によって打ち払われた。

 一応遠距離攻撃っぽいし、これまでの傾向からして弾丸すべりで済むと考えていたが当てが外れた。

 

 「ブッ飛ばしてさしあげますわ!!!」

 『塊貫拳』

 「くっ!」

 

 渾身の力で振るわれたバットが、コツンと当たった拳に弾かれる。

 これは尊鷹よりルーシーのパワーが劣ることを意味しない。ただ、合気道の要領でルーシー自身の力を利用しただけである。

 この世の全ての武術を会得した尊鷹だからこそできる技である。

 

 「おっと、追撃はさせねぇぜぃ~」

 『鷹鎌脚』

 

 ルーシーを庇ったパイパーがその場で回転する。

 尊鷹もそれに合わせて回転し、的確に鷹鎌脚によって弾く。

 

 「中々いい回転だけどこれはどうだ~?」

 「タンドリーチキンになっちゃえ!」

 

 バーニスが火炎放射器によって尊鷹を焼き尽くす。

 今までは途切れ途切れの攻撃だったが、今度は炎という途切れない攻撃。

 だが、尊鷹はこれを常識外の方法で攻略した。

 

 「えぇ~!? 何それ!?」

 

 尊鷹は、気を放つことによって炎を飛散させた。

 そう、尊鷹は気を放つことによって扉の向こうも攻撃できるのだ。

 

 「格闘家なら俺が相手だ!」

 

 郊外のチャンピオンたるライトの高速ラッシュが炸裂する。

 だが、ここにいる尊鷹もバトル・キングというチャンピオン。彼もラッシュによって対抗する。

 

 ボッ  ボッ  パン

 

  パン  ボッ パン

 

  ボッ  パン   パン

 

 空気が破裂するような音が鳴り響く。

 互いの拳を避け、打ち払い、躱し、隙間を縫い、殴る。

 若いながらも無敗のチャンピオンと、老いてなお武術の極致に立つ鷹。

 

 『兜浸掌』

 「ぐっ!?」

 

 拳は掌へと変化し、ライトの頭部を狙った。

 ライトはとっさにガードしたが、今まで経験したことのない衝撃が腕を襲う。

 

 「ライト! 代われ!」

 「もう少し楽しみたかったが、そうもいかないか……!」

 

 再び掌が迫るが、シーザーが割り込んでガードする。しかし、その掌は拳となる。

 

 『塊貫拳』

 「ぐあっ!? 何だこの衝撃は!?」

 

 浸透する気が盾を貫通し、シーザーを襲う。

 シーザーが大したダメージもなく無事なのは、彼女の防御技術と盾の性能によるものだろう。

 

 「だがオレ様は囮だぜ?」

 「助かったよ」

 『弾丸すべり』

 

 悠真の矢が飛来するが、弾丸すべりによって防がれる。

 だが、それはすでに想定済みのこと。尊鷹の周囲に、“電壺”が浮かぶ。

 そして、悠真は全ての電壺を吸収しながら斬りかかった。

 

 「ハァッ!」

 『鷹鎌脚』

 「こっちにも自信あったんだけどねぇ……! 頼んだよ蒼角ちゃん!」

 「行っくよぉ~!」

 

 一当てして離脱した悠真に代わり、蒼角が氷の嵐を巻き起こす。

 極寒の嵐の中で、尊鷹の目がギラリと光った。

 

 『人を殺めてはいけない、人の道に外れてはいけないと思う反面…』『“鬼”になってみたいという衝動に駆られる!』

 「えぇ!? 技でも何でもない力任せのパンチ!?」

 

 刃旗ごと、蒼角を強引に殴り飛ばす。

 尊鷹は戦いに飢えていた。鬼になってみたいと思っていた。だからこそ、鬼族の蒼角が羨ましかったのかもしれない。

 

 「蒼角!? 私が相手です!」

 

 柳は、後天的に鬼族の血が混ざった混血である。

 それゆえに、高い身体能力を有している。薙刀での途切れぬ連撃を繰り出すことができるのだ。

 その上、彼女は精神を研ぎ澄ますこと“ゾーン”に近い状態に入ることができる。

 

 「シッ――」

 

 無数の斬撃が尊鷹を襲う。

 しかし――

 

 『尊鷹が自己催眠によってゾーンの世界に入ったぁ』

 「え!?」

 

 マネモブが叫ぶ。

 加速する精神の中、尊鷹はしっかりと柳を認識していた。

 

 『鷹鎌脚』

 「くっ!?」

 

 尊鷹は連撃の全てを鷹鎌脚によって弾いた。

 だが、柳は努めて冷静にその場から離脱する。今から頼もしい仲間が技を放つのだから。

 

 「お前を斬ると刀に誓おう!」

 『“幻突”』

 

 斬撃と打撃。

 その両方が全く同じタイミングで放たれた。弾丸すべりでも回避しようのない距離。

 マネモブの幻突は不可視ゆえに弾滑りできず、雅の斬撃は連撃にして不可避。だが――来ると分かっていれば、機動さえ読めれば、あらかじめ知っていれば回避は可能だ。

 

 「なにっ」

 『う あ あ あ あ』

 

 尊鷹が消える。

 目標を失った斬撃はマネモブを斬り裂き、打撃は雅を打ち付ける。

 必殺の威力のそれを受けてなお生きているのは、その実力が成せる技か。

 

 「くっ……はっ」

 

 フッ、と消えたはず尊鷹が、膝をつく雅の前に現れた。

 まるで浮いているかのように跳躍している。尊鷹は跳躍で回避したのだ。

 そして、その位置はちょうど足を振るえば雅の頭部を切断できる場所にある。

 

 『鷹鎌脚――』

 『うあああやめろ――っ』『やめてくれ――っ』

 

 マネモブがエーテルの血を流しながらも走る。

 だが、間に合わない――ただ一人を除いては。

 

 ガ シ ッ

 

 『なにっ』

 

 何者かが、尊鷹の脚を掴んだ。

 血の通わない、鋼鉄でできた腕。それが、蹴りを受け止めていた。

 

 『トダーガ相手ヤンケ』

 「トダー!」

 

 トダーの右腕は失われたが、戦闘不能になったわけではない。

 冷徹非情のロボットであるトダーは、いかなるコンディションであろうと戦闘を続行する。

 

 『皆ハトダーガ守ルヤンケ』

 

 トダーが残った左手でノーモーションの音速パンチを放つが、あまりにも単純な軌道が回避を容易にする。

 ただ首を傾けただけで、尊鷹は音速の拳を避けた。だが、戦闘プログラムを組み込まれたトダーにとっては想定内。

 

 『トダーハ“タフ”ヤンケ。完膚ナキマデ壊レテモ戦ウヤンケ』

 

 トダーが失われた腕からコードを伸ばし、尊鷹を拘束する。

 そう、トダーは手足を失っても全身のコードを使って再生したり、戦闘を続行する。

 

 『残念ヤンケ。トダーノコードハ伸縮自在ヤンケ。オマケニ強度モ軍事用ノモノヲ凌駕スルヤンケ』

 

 だが、尊鷹は片足でトダーの胴体を蹴とばす。伸縮自在のコードによってまた元の位置に戻ってくるトダーだが――

 

 シ ャ コ ン

 

 『アウッ』

 「トダー!? もうやめろ! 死んでしまうぞ!」

 

 その瞬間、尊鷹のメカ・フットが刃を展開し、トダーの胴体を真っ二つに斬り裂いた。

 片腕を失い、上半身だけになり、それでも闘志を滾らせていた。

 

 『言ッタハズヤンケ。トダーハ“タフ”ヤンケ』

 

 なおもコードを伸ばし、尊鷹を拘束する。

 今度は全身に絡みつくが、尊鷹が力を籠めるとブチブチとちぎれ始める。

 

 『今シカナイヤンケ! トダーゴトヤレヤンケ』

 「トダー!」

 

 雅はトダーの覚悟を感じ、刀に力を籠める。

 しかし、幻突が命中した腕に力が入らない。

 

 「これでは……」

 『マイ・ペンライ!(大丈夫)』

 「なにっ」

 

 マネモブが、雅の側に立つ。

 エーテルの血が流れるのも無視し、完全に脱力すると……

 

 『灘神影流“空眼の目付け”』

 「な……なんだあっ」

 

 雅には見えた。

 マネモブの肉体から、彼の精神体のみが離脱した。

 精神体が向かう先は……妖刀・無尾。

 

 「こ、これは……!?」

 

 無尾が虹色のオーラを発する。

 継承者の思い、雅の思い、マネモブの思い、この場にいる全員の思いが複雑に混ざり合った虹色の神剣。

 

 「そうか……そういうことだったのか」

 

 特殊な環境が織りなす神秘。究極の力の一端を垣間見た雅は、それに動じることなく、ただ刀を振るう。

 

 「――“幻斬”」

 

 不可視、不可触にして極彩色の実体化したオーラであり、斬撃であり打撃という矛盾塊は尊鷹へと迫る。

 

 『!』

 

 トダーの拘束から抜け出した尊鷹だが、一歩遅かった。

 もう避けることも、防ぐことも叶わない。だからこそ、尊鷹は両手を大きく広げ、その結果を受け入れた。

 ――偉大なる長兄、宮沢尊鷹として。

 

 斬撃は尊鷹を跡形もなく消滅させ、ホロウを斬り裂く。

 ホロウには夜明けがもたらされ、日の光が皆を優しく照らし出した。

 

 「……終わったか」

 

 歓声はなかった。誰しもが疲れていた。

 ただ一度攻撃を受けただけ、防いだだけ、という者がほとんどなのに、精神が疲弊していたのだ。

 マネモブも何も言わず、塊蒐拳を受けたアンドーの治療をしている。

 

 「トダー……」

 

 尊鷹を倒すためとはいえ、斬った者の犠牲は大きかった。

 トダーは六課を献身的にサポートしてくれたというのに、斬ってしまった。その事実が深く雅にのしかかる。

 

 「何が虚狩りだ。ロボットの一人も救えず、何が――」

 『ア、トダーハマダ機能停止シテナイヤンケ』

 「な……なんだあっ」

 

 雅が黙とうを捧げていると、トダーの声が。

 どこからするのかと周囲を見回すが、姿はない。すわ幻聴かと思われた時。

 

 『ココヤンケ』

 「トダー!?」

 

 頭部だけになったトダーが、コードを触手のように動かして雅の足元まで来ていた。

 正直言って、その動きは悍ましいものだったが、雅は素直にトダーの生還を喜んでいた。

 

 「すまなかった、お前ごと斬ってしまって。謝っても許されることではないが……」

 『何言ッテルヤンケ。新エリー都ノ危機ヤンケ。ルール無用ノ輩ニハルール無用ヤンケ』

 「しかし……」

 『トダーノ喜ビハオ前ラガ無事ナコトヤンケ。ソノタメナラトダーハイクラデモ犠牲ニナルヤンケ』

 「そういうものか」

 『ソウイウモノヤンケ』

 

 雅は薄く笑うと、トダーに言った。

 

 「だがな、トダー。お前の無事は私達の喜びでもある。お前が無事でよかった」

 『ソウイウモンヤンケ?』

 「ああ、そういうものだ」

 

 ホロウには朝日が昇っていた。

 

 

 

 

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