高濃度猿侵蝕体“マネキン・モブ”   作:アースゴース

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サクリファイスが死んだぁっ

 『ハァ……ハァ……お、おのれ星見雅! マネキン・モブ! 宮沢尊鷹!』

 

 ホロウにて。

 サクリファイス・ブリンガーはまだ生きていた。

 

 『ここを出たら必ず……!』

 

 復讐してやる、という言葉は続かなかった。

 

 『貴様っ!?』

 

 ブリンガーの目の前、ホロウの裂け目から現れたのは一体のボンプ。そして、男女の兄妹。

 

 「ブリンガー……!」

 『はうっ』

 

 兄妹は怒りをにじませ、ブリンガーを蹴とばした。

 

 「答えて! あんた達は! 先生をどこにやったの!?」

 『“先生”……?』

 「カローレ・アルナ」

 『カローレ・アルナ……?』

 「旧都陥落の日、白い腕が彼女を攫った!」

 『白い腕が攫った……?』

 

 オウム返しのように言葉を反芻するブリンガーには、何やら心当たりがありそうだった。

 もしかすれば、このオウム返しは尊鷹化の後遺症かもしれない。だが、パエトーン兄妹にはそんなこと関係なかった。

 

 『なんだ貴様ら……あれのアシスタント……違う! そうだ、教え子だったか……』

 (大丈夫かこいつ)

 

 本格的に汚染が酷いブリンガーが、くつくつと笑う……いや、嘲笑う。

 

 『ならば……』

 「えっ」

 「なにっ」

 『ンナンナッ(なんだあっ)』

 

 ブリンガーが力をためる。

 そう、これは紛れもなく自爆の前兆。もはや逃げるにも間に合わない!

 

 『始まりの主……再創を!』

 

 ブリンガーを中心に、そこそこの規模の爆発が巻き起こる。

 それは中型から大型エーテリアスを仕留めるには心もとないが、人間を殺すには十二分なものだった。

 三人は爆炎に呑み込まれ、ブリンガーはほくそ笑んだ。

 

 『始まりの主……我が使命は……果たした……えっ、なにっ、な……なんだあっ』

 

 だが、ブリンガーが目を見開く。

 その先には、青く目を光らせた兄妹が無傷で健在な姿があった。

 二人は、ブリンガーを睨みつける。

 

 『まあいい……』

 

 ブリンガーが力尽きる。

 先ほどの自爆で、全エネルギーを使い果たしたのだ。補充しなければ、消滅が待っている。

 

 『そのまま一生日陰に隠れ――』

 『薬の時間だぜ』

 『えっ』

 

 何者かの声と共に、何かが投げられる。

 それは巨大なエーテル容器。それが空中で砕かれ、大量のエーテルがブリンガーへと吸収された。

 つまり、ブリンガーは無理やり延命させられたのだ。

 

 『ジャーン』『ガルシア食事を持ってきたで』

 『き、貴様は……!?』

 「マネモブ!」

 「どうしてここに!?」

 

 胸に刻まれた一文字の切り傷がまだ痛々しい、マネモブが現れた。

 マネモブはおもむろにブリンガーを両手でつかんだ。

 

 『優希はどこにいるッ』『灘神影流“天勘刺突”』

 『あ―――っ』

 

 天勘刺突。

 それは、相手を強制的に自白させる灘の技だった。

 

 『し、知らない……知ってても言わない……』

 

 だが、ブリンガーは始まりの主への忠誠心によって耐えていた。

 口を割らない様子を見た兄妹は、せっかく見つけた手がかりが使えそうにないことを悔やんだ。

 だからと言って、ここで消すのは惜しい。だからこそ、マネモブに頼んだ。

 

 「マネモブ……頼んだよ」

 『そうか……なら死ね!』

 『えっ』

 『“幻魔拳”』

 

 マネモブがアキラの頭部を優しくつかむと、もう片方の腕でブリンガーに幻魔を放った。

 

 『う あ あ あ あ』

 

 ブリンガーの意識は闇に落ちた……

 

 

 

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 『こ、ここは病院か……?』

 

 ブリンガーが目を覚ますと、そこは病院だった。

 物や人には触れられず、ただ腕だけで浮かんでいるような感覚。

 

 『ふぅん……幻覚ではないようだな。記憶の追体験ということか』

 

 ブリンガーは、ここが幻などではなく記憶の世界であると判断した。

 理由は、テレビで人間だった頃のブリンガーが映っていたからである。その番組に出ていたことも、記憶にある。

 

 『あれは……あの兄妹か。ちょうどいい、ついていこう』

 

 先ほどよりも幼いアキラとリンが、青年に連れられて病院を歩いている。

 

 「お前らも田代さんのお世話をするんやで。大丈夫や、いつでもワシがついてるから」

 「はい!」

 「うん!」

 

 幼い兄弟と青年が病室に入る。

 そこでは、一人の恰幅の良い女性が寝ていた。

 

 『ほう、この女は田代というのか』

 

 それから、彼らによる田代さんの世話が始まった。

 兄妹は毎日のように面会し、青年も三日に一度は必ず面会に来た。

 

 それから、数年の時が流れた――

 ブリンガーは、甲斐甲斐しく世話を焼く兄妹や青年、田代さん、看護師や医者などの職員、他の患者にすらも奇妙な思いを抱いていた。

 

 『この空間に囚われてから何年の月日が経っただろうか……田代さん達にもだんだんと愛着が湧いてきているのが自分でも分かる……』

 

 端的に言って、彼は絆されていた。

 何も考える必要はなく、ただ病院内をせわしなく動く人々に一喜一憂していたのだ。

 

 『この生活がいつまでも続けば……』

 

 そう思っていた矢先、悲劇は起こった。

 

 「あ、田代さんが目を覚ました!」

 「田代さん! 僕らです! アキラとリンです!」

 『! 田代さんがようやく目を覚ましたのか!?』

 

 昏睡状態だった田代さんがついに目を覚ました。

 その目がゆらゆらと動き、兄弟と青年を視界にとらえる。

 

 「あ……あ……」

 「田代さん――」

 

 三人が喜んだのもつかの間。

 田代さんは側にあったコップを掴み――

 

 「悪魔ァ、悪魔がいるゥ」

 「えっ」

 『えっ』

 「!」

 

 先ほどまで昏睡状態にあったとは思えない怪力で投げられたコップを、青年が受ける。

 そして、彼は田代さんに向かい、土下座した。

 

 「この悪魔ァ! よくもトオルちゃんを――」

 『こ、こんなことが許されていいのか……!?』

 

 深い悲しみを覚えたブリンガー。

 その日から戦々恐々と彼らを見守っていた。数日後、やがて田代さんが落ち着きを見せる。

 

 「良かったな、田代さんが目を覚まして」

 「うん! お兄さんのおかげだよ!」

 『一時はどうなることかと思ったが……安心したぞ』

 

 三人が廊下を歩くのを見守るブリンガー。

 すっかり毒気を抜かれていたが――禁断の悲劇二度打ち。

 

 「た……大変だあっ」

 「!」

 「なにっ?」

 

 複数の看護師達が、慌ただしく走っている。

 そして、彼らから発せられたのは驚愕の出来事。

 

 「田代さんが……田代さんが死んだあっ」

 「!」

 『う……嘘だろう? 冗談だろう?』

 

 兄妹とブリンガーの顔は、絶望に染まった。

 

 

 

 それからさらに数年。

 ブリンガーの心にはぽっかりと穴が開いてしまったようだった。

 

 『どうしてだろうか……』

 

 まだ田代さんの件は、彼の中で尾を引いている。

 気を紛らわせるためにテレビへ目を向けると、ブリンガーが演説をしていた。

 総監選挙が近い日だろう。

 

 『もうこんなに時間が経ったのか……』

 

 兄妹や青年が来なくなって数年。

 今頃彼らは何をしているのだろうか。

 そう思っていた矢先、来院した者を見てブリンガーは驚愕した。

 

 『あれは……アキラとリン! 何故ここへ……?』

 

 アキラとリンが来院した。

 そして、少し遅れて青年も来院する。兄妹は成長していたが、青年は全く変わっていなかった。

 

 「さあ、今日は田代さんの退院の日やで」

 「ようやくですね」

 「やっと病院から出られるんだね~」

 『えっ』

 

 馬鹿な、聞き間違えか?

 ブリンガーはそう思った。だが、彼が硬直している間にも三人は進んでいく。

 慌てて病室に入ると、そこには――

 

 「まあ、来てくれたのね」

 「田代さん!」

 「退院おめでとうございます!」

 「おめでとうさん!」

 『……? ……!? ……!?!?!?』

 

 あの日、死んだはずの田代さんが生きていた。

 まるで何事もなかったかのように、ベッドの上で笑みを浮かべていた。

 

 『ど、どういうことだ!? 何故田代さんは生きているんだ!? もう葬式も終わって荼毘に付したはずだ!』

 

 ブリンガーは、混乱のさ中で叫んだ。

 

 『これは幻覚だったのか!? 記憶の追体験なのか!? 誰か……誰か教えてくれーッ!!!』

 

 果たして、彼が田代さん時空から抜け出し、真実に到達する日は来るのだろうか……

 

 

 

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