高濃度猿侵蝕体“マネキン・モブ”   作:アースゴース

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クローン・ソルジャーのうた 2

 「まさか、親父なのか!?」

 

 ポンペイが驚きの声を上げる。

 確かに、ポンペイとガルシア28号は顔立ちが似て……いなくもない。

 彼のヒゲと髪を剃って若くしたら、意外と似ているかもしれない。

 

 「えっと……その、オジサマ? そこのガルシアは生まれて数年しか経ってないわよ。どう考えたって年齢が合わないわよ」

 「……すまない、取り乱した。だが、親父の若い頃にそっくりだ。しかも、名前もガルシア――」

 

 ツール・ド・インフェルノでマネモブに明かしたことがあるが、ポンペイの父親はガルシアという。

 だからこそ、ポンペイは父親そっくりのクローンを目撃し、動揺を隠せなかった。肉親の生き写しとも言うべき人物がそこにいるのだから。

 

 しかし、ガルシア28号の希薄に過ぎる殺気を感じ取ったアンビーが、警戒の度合いを最大限に引き上げた。

 冷酷無情の戦闘マシーンと謳われるガルシアシリーズは、眉一つ変えず殺人を行うことができる。アンビーがその無いに等しい殺気を感じ取れたのは、ひとえにその戦いぶりを間近で見ていたからだろう。

 

 「ツイッギー……ガルシアに何をさせるつもり?」

 「決まってるじゃない――やりなさい、ガルシア」

 「……」

 

 ボッ、と空気が破裂する。

 アンビーまでの距離を一瞬で詰めたガルシアの拳が、的確に彼女の弱点――頭部を破壊せんと迫る。

 もちろんそれを読んでいたアンビーは、すでにいつでも迎撃できる状態にある。だが、ここで読めない事態が発生した。

 

 「ふんっ!」

 「……!」

 

 ポンペイが剣の腹で拳を受け止めた。

 ガンッ。おおよそ拳と金属が激突したとは思えない重低音が鳴り響く。

 

 「ポンペイ」

 「ここは俺に相手をさせてくれ。相手は親父、手の内は知り尽くしている……例えクローンであろうともな」

 

 ポンペイは、改めて剣を構えた。

 対するガルシアは、素手。狂ったようなハンデだったが、郊外ではよくあること。

 そして、ポンペイは一切の油断をしていなかった。

 

 「素手では親父に勝てた試しがないんだ。まさか卑怯とは言うまいな?」

 「……」

 

 その返事は拳だった。

 ガルシアは、他者との問答をするつもりはないらしい。同時に、相手が得物を使おうがどうとも思っていないのだろう。

 無関心。あるいは、それこそがガルシアの関心であるのかもしれない。

 

 「……」

 「くっ、この俺が押されるとは」

 

 ポンペイは、ガルシアよりも大柄な体格をしている。

 これは単純に、生まれ、歳月、環境、食性、戦いの経験……つまるところ別人である、という要因が全てだ。ガルシアの血を引いているとしても、それだけの差がある。

 しかし、ガルシアはポンペイの剣を打ち付けると、難なくのけ反らせてしまう膂力を有していた。

 

 頭部を狙って豪快に振られた剣の一撃も、ただ首をずらすだけで回避される。

 返す刃で胴体を狙うが、ガルシアは首を動かした時にはすでにバックステップを終えていた。

 冷静にポンペイの剣の軌道を予測し、的確に反撃する姿はまさしく戦闘マシーンという他ない。

 

 その生身とは、無手とは思えない恐るべき戦闘能力に、ポンペイは徐々に押されていた。

 いわゆるジリ貧。それは若さと老いの差か、残酷なまでの“性能”の差か。

 

 「だが……間違いなく貴様は俺の親父と同類だッ」

 「……!」

 

 バックステップにより開いた距離を瞬時に詰め、反撃を開始したガルシア。

 しかし、ポンペイは超人的な速度で移動するガルシアを捉え、蹴撃を剣で防いだ。

 

 「親父の動きだ。並外れた動体視力と、軍隊式格闘術……」

 「……!」

 「まさか、ガルシアの動きを見切ったというの!?」

 

 先ほどまで良い様に押され気味だったポンペイが、ガルシアの動きを見切って反撃に移った。

 一転攻勢、ガルシアは防戦一方の戦いを強いられたが、反撃の機会を虎視眈々と狙っている。だが、それすらも許さないのはポンペイの猛攻。

 エーテリアスを複数まとめて真っ二つにする筋力が、とてつもない攻撃スピードを生んでいるのだ。そこへ郊外で培われた技術が合わされば、太刀打ちできる者はごく限られるだろう。

 

 アンビーはその戦いを注意深く観察する。その結果、ある違和感を覚えた。

 

 「おかしい」

 

 だからこそ、疑問を口にしたのだろう。

 耳聡くそれを聞いていたツイッギーがアンビーを見て言った。

 

 「何がかしら?」

 「ガルシアは確かに強い。でも、ポンペイに素手で対抗できるほどではなかったはず……」

 

 ガルシアシリーズはシルバー小隊とは違い、徒手空拳の格闘戦による暗殺や特殊作戦に投入された。

 例えば街中ですれ違いざまにターゲットの首をへし折ることも可能で、禿頭で特徴に癖がないために変装も容易である。

 恐れ知らずの戦闘機械達だが、それでもポンペイのような一握りの強者と真っ向から戦い、勝負を成立させるような運用は想定されていない。

 

 つまるところ、28号はアンビーの記憶の中のガルシア達よりも強いのだ。

 

 「決まってるじゃない」

 

 ツイッギーはアンビーの疑問を聞くと、得意げな表情で腕を組んだ。

 機械音声じみた声にも、明らかな喜色が交ざっている。

 

 「ガルシア28号は突然変異を起こしている。特別な“心臓”を持っているの」

 「なにっ」

 

 かつての同僚から聞かされたのは、衝撃の真実。

 

 「だからガルシア・シリーズの弱点であるバースト・ハートはおろか、寿命すらも克服してるの」

 「……そうなのね。あのガルシアは、人と同じように生きられるのね」

 

 アンビーは思う。

 かつて、ゴミのように扱われるガルシア達に何もしてやれなかったことを。そして、彼らの血を継いだ者が、強き者となっていることを。

 後悔と、嬉しさを思う。

 

 「あのオジサマも中々ね。ガルシア、そこまでよ」

 「……」

 

 ツイッギーの声によって、ガルシアは拳を収めた。

 その姿はよく訓練された番犬のようにも、姉に従う弟のようにも見えた。

 

 「男同士の戦いに水を差すとはな」

 「あら、ごめんなさい。でもオジサマとガルシアの戦いにはもっと相応しい時と場所があるの」

 

 ツイッギーが、アンビーとポンペイの前へ雑に何かを放り出す。

 それは、ブルーシートで簀巻きにされた11号だった。ぐったりとした彼女へトリガーが駆け寄る。

 

 「ツイッギー?」

 「お気に入りは返してあげる」

 「どういうつもり?」

 「ガルシアの戦闘データも取れた。もう用済みってことよ」

 

 去って行くツイッギーとガルシア。

 11号を助けるという任務は達成できた。しかし、アンビーとポンペイは彼女の態度に不穏なものを感じ取った。

 

 「ポンペイ」

 「ああ……間違いなく何かがある。近い内に、またここへ来る必要があるな」

 

 それは、シルバー小隊の隊長としての勘。

 それは、ガルシアの息子としての勘。

 

 彼らは一度街へと帰り、再びラボへと戻ってくることとなる。

 

 

 

 

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