高濃度猿侵蝕体“マネキン・モブ”   作:アースゴース

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 「ポンペイさんも、アンビーと一緒に行くんだね」

 Random_Playにて、アキラがそう言った。
 その問いにポンペイは、整えられた髪をガシガシと撫でつけて答えた。

 「ああ……俺もこれまでの人生で、アンビーと同じく色々なものを失ってきた。仲間、形見の品、親友、肉親……」

 彼が自身の胸に手を当てた。
 分厚い筋骨の奥底に脈動する、桁外れの性能を持った心臓の音が聞こえた。

 「郊外は伝説と掟に守られた土地だが、同時に厳しい大地でもある。そんな場所では親の顔も知らずに一生を終えることも珍しくない」

 新エリー都でさえ、孤児は一定数いる。
 ならば、厳しい環境の郊外ではどれほどの数となるのか。
 走り屋達や、地元の人々が助け合っているのだろう。だが、すべてをカバーすることっは不可能だ。

 「せっかく出会えた俺のルーツだ。せめて親孝行くらいはさせて欲しいものだ」

 龍を継ぐ男が一人。
 ただ、親への愛のために――


クローン・ソルジャーのうた 3

 「来たわね、アンビー。それにオジサマ」

 

 ラボにて。

 パエトーンに案内された彼らを待ち構えていたのは、ツイッギーと少女A、そしてガルシアだった。

 彼らの目的はシルバー小隊の復活。

 

 「ツイッギー、シルバー小隊はとっくに壊滅したのよ。悔しいだろうが仕方ないのよ」

 

 まずは、アンビーが言葉での説得を試みている。

 

 「戦場で戦えるレベルの兵士を創り上げる難しさは、私達が一番わかっているはずよ」

 

 クローンから兵士を創り上げるにしても、そのコストは大きい。

 装備、教育費、食費。払うとすれば給料も支払わねばならない。それこそ、ロボットを大量生産して物量作戦を仕掛けた方が安上がりな場合もある。

 結局のところ、目的にもよるが。かつてシルバー小隊は、上層部のニーズに見事に合致したらしい。

 

 「……その必要がないと言ったら?」

 「なにっ」

 

 ツイッギーが不敵に笑う。

 まるで、アンビーの言葉が見当違いだとでも言うように。

 

 「あなたは勘違いしてる。私はもう可能にしたの、私だけのシルバー小隊の復活を!」

 「な……なんだあっ」

 

 ラボから、無数の人影がツイッギーの周りへ集結する。

 彼女達の誰もが同じ顔、同じ体格、同じ服装。不気味なまでに整った集団が現れた。

 

 「すごい数のクローンが集まってきている」

 

 全員が、シルバー小隊のクローンだった。

 だが、それゆえにどこか違和感を覚える。

 

 『おかしい……あのアンビー達、いや、あの人達……戦えるようには見えないんだけど、いいのかなこれ』

 『妙だな、まるで死人のように生きてるモブのようだ。戦えるとは思えないんだ』

 「ツイッギー、あなた――何をしたの?」

 「何って……」

 

 アンビーの静かな怒りとも、困惑とも取れない質問に、ツイッギーは明確な怒り……あるいは憎悪、嫌悪を含ませて答えた。

 

 「何をしたら、私の内臓をかき回すあの両手を止めさせて、TOPSの変態お偉いさんから、私の研究に対する資金援助を引き出せたと思う……?」

 「ま……まさか」

 

 瞬間、あの時ラボで見たものの輪郭が、アンビーの脳内に蘇る。

 

 「

  異

  常

  性

  愛

  者

   」

 「ご名答。よくわかったわね」

 

 そう、ツイッギーはクローンを増産するために、クローンの臓器を異常性愛者に売りつけたのだ。

 美少女であるシルバー小隊の臓器を欲しがったTOPSに存在する異常性愛者は、喜んで資金と物資を援助した。

 

 「それはダメだろ」

 『異常性愛者はルールで禁止だよね?』

 『TOPSはルール無用だろう』

 「……! (クローンの悲哀を感じますね)」

 

 ツイッギーの狂気じみた所業に対し、各方面からツッコミが入る。

 だが、ツイッギーは開き直ったような、諦観したような態度を取った。

 

 「シルバー小隊の復活に必要な資源を彼女達で交換しただけ。私は……家が欲しかった。それだけなの」

 

 そこから語られたのは、彼女の“姉妹”に対する歪んだ愛。シルバー小隊への執着、あるいは妄執とも言うべき計画だった。

 姉妹を量産し、資源をかき集め、姉妹を量産し、金や土地を集め、姉妹を量産……その暁には新エリー都を制圧するという無敵の軍隊を作るという計画である。

 だが。だがしかし、ツイッギーには姉妹を想い、新エリー都に蔓延るあらゆる悪意から姉妹を守ろうという信念があった。アンビーには、それが痛いほど感じ取ることができた。

 

 「私はどうなってもいいわ。私が浪費した……いえ。殺した姉妹達に報いるため、処分されたっていい。好きにして」

 「……」

 

 ツイッギーの片目には、ある種の期待が込められている。

 

 「隊長、一緒に……家に帰ってくれる?」

 

 もはやツイッギーは、このラボと姉妹達を家と認識していた。

 いや、欺瞞であることは分かっているのだろう。だが、すでにどうにもならない段階まで来てしまっていた。

 

 「こんなもの……家じゃない。胸が痛くなるわ」

 

 それでもアンビーが選んだのは拒絶。

 これを認めてしまえば……かつてのシルバー小隊に申し訳が立たなくなる。

 彼女の信念として、認められるはずがなかった。

 

 「ごめんなさい、ツイッギー……あなたは、あのホロウで眠っていた方が良かったのかもしれない」

 

 ツイッギーの行いは、どこまでも理解できてしまう。

 

 「あっははははははは――!!!」

 

 その拒絶を聞いて、ツイッギーは狂ったように笑った。

 分かっていた答え、分かっていた拒絶。それでも、笑わずにはいられなかった。

 

 「そうね、私だって……自分が気持ち悪いって思うもの」

 

 ツイッギーが、薬液の入った注射器を取り出す。

 彼女がそれを自分の体に突き刺そうとした刹那の出来事だった。

 

 「――え?」

 「えっ」

 「なにっ」

 「……!? (な……なんだあっ)」

 

 ツイッギーの、()()()()()()

 困惑の表情を浮かべた首が、胴体と泣き別れする――

 

 「――ッ!? え!? い、生きてる!?」

 

 急いで首を固定するツイッギーだったが、その行動は杞憂に終わった。

 斬れてなどいない。最初から、()()()()()()()()()()()からだ。

 その拍子に、彼女は注射器を落としてしまうが、誰もそれを気にしなかった。

 

 ――否、気にすることができなかった。

 

 「ドンドドドンドン……」

 「……彼女は」

 

 何者かが、ラボへとやってきた。

 濃厚な死の気配と、隠すつもりもない殺気をまとってやってきた。

 真っ白なボンプを一体連れ、二本の刀を携えてやってきた。

 

 「あ、ああ……あ、あなた、は」

 

 黒いリボンの付いたカチューシャをつけた少女。

 その顔立ちは、シルバー小隊のクローンそのものだった。

 

 「奴は――何者なんだ?」

 「彼女は、シルバー小隊……いえ、軍の生み出した負の遺産よ」

 

 かつて――シルバー小隊をさらに量産するため、ゴア博士から盗み出した技術が使われた。

 ツイッギーは『砂糖と空気から軍隊を作る』と立案書を作ったが、それはこの技術を復活、改良するためである。

 今は失われ、ゴア博士の脳内にしか存在しない幻を超えた幻の技術。

 

 それによってクローンの培養は1人100ディニーほどで行えるようになったが、不完全な技術により成功確率は数万分の一にまで減少。

 それを補うため、クローン培養に特化したスーパー・コンピューターの演算によって、成功すると判断された個体だけを培養された数人の内の1人。

 

 それこそが、58946号。

 上官を斬殺し、同じく生まれた姉妹達も斬殺し、追手を斬殺し続けた生まれながらのヒューマン・エラー。

 狂気じみた鍛錬にて技を研鑽し、斬殺死体の山を築き上げ、善悪の概念すら斬り捨て、剣の高みに至らんとする剣鬼の名こそ――

 

 「ヨーム、やっぱり生きていたのね」

 「アンビー隊長。小隊時代はついぞ叶わなかったが、あなたも斬ってみたかった」

 

 兵士ではなく、修羅として。

 一時期は新エリー都を揺るがせた辻斬りこそ、彼女だった。

 

 「同胞、須らく斬るべし」

 

 ホロウにて、斬鬼が嗤う――!

 

 

 




A「……(愛)」
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