高濃度猿侵蝕体“マネキン・モブ”   作:アースゴース

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クローン・ソルジャーのうた 4

 「いざ参る」

 

 58946号、ヨーム……“庭師”の刀がアンビーへと迫る。

 敵を撃破し、作戦を成功させる剣ではない。ただ人を斬るためだけに特化した斬撃。

 

 庭師は、今のアンビーと同じく二刀流。

 剣戟と電撃の嵐が、互いの命を取らんと迫る。

 

 「ヨーム……いや、庭師。あなたは生まれた時からそうだった。斬ることに執着する、理解不能な異常者だった」

 

 庭師は生まれながらの剣鬼である。

 環境でそうなったとか、何かがきっかけで人格が歪んだとか、そんな過去は持っていない。

 フラスコ内で人工授精によって生を受けた時から、剣に狂っていたのだ。

 

 「理解不能か……それすらも、斬れば分かる。斬れば、私を理解することができる」

 「あなたを理解するつもりはない」

 

 庭師の口から語られるのは、異常者の理屈。

 斬る。ただそれのみを目的とした者を、まともな者が斬ったとして理解できるはずがない。

 アンビーは、戯言であるとその言葉を切って捨てた。

 

 「それはそう。私を斬っていない者が、私を理解できるはずがない」

 

 出鱈目な軌道を描いた奇剣に、お手本のように正統派の古流。

 かと思えば軍隊で培われた実践剣術、お次は力に重きを置いた荒々しい剛剣。

 防御度外視の攻めの剣、カウンターでしか攻撃を行わない守りの剣。

 

 手を変え品を変え、どこで学んだのかも知れない剣術をアンビーへとぶつける。

 だが、その刀身に込められているのは斬るという意思のみ。庭師にとっては、剣術など斬るための手段でしかないのだ。

 

 「……」

 

 アンビーは、双剣によってそれをことごとく防いだ。特に庭師は、アンビーの回転切りには手を焼いているようだった。

 隊長であった時、庭師の戦いは嫌というほど見てきた。その脳裏に焼き付いた惨状が、庭師への対処を可能としているのだ。

 苦手を徹底的に押し付け、強みを発揮させない戦い方は老獪な軍人を思わせた。

 

 「隊長。あなたは斬ってみたかった」

 

 鉄と雷の剣戟の合間に、庭師が言った。

 

 「――ハンレイ」

 『……』

 

 庭師の後に付き従う、耳も尻尾も、目もない真っ白なボンプ“ハンレイ”

 その特徴的なシルエットから、かろうじてボンプであると理解できる。

 

 「出番よ」

 『……』

 

 ハンレイの全身から、レーザーにも似た光が放たれる。

 それは新エリー都で実用化されたホログラムだった。

 ハンレイを中心に、徐々に光が収束する。

 

 「えっ」

 「なにっ」

 「……!? (な……なんだあっ)」

 

 光が収まると、そこにいたのは……

 

 「庭師の前に……庭師が現れたぁっ!!」

 

 ハンレイを中心核とする実体を持ったホログラムの生成。

 それにより、庭師が分身したのだ。これは、ハンレイが庭師のデータの全てを持つからこそできる荒業だった。

 

 「二人でウェディング・ケーキみたいに真っ二つにしてやろう」

 「くっ!」

 

 二人の庭師がアンビーの隙を狙う。

 確実に仕留めるためには一撃で殺さなくてはならない。庭師はそう予感していた。

 だが、睨み合っているその時だった。

 

 「しゃあっ」

 「なにっ」

 

 アンビーの背後に、何者かが着地する。

 

 「あなた、どうしてここに?」

 

 背負われた機械越しにアンビーが問う。

 その人物……11号は、ただ兵士として毅然と答えた。

 

 「戦闘の技術まで忘れてはいないわ」

 

 背中合わせの状態で、二人が声を合わせる。

 限定的ながらもシルバー小隊の復活に、ツイッギーは目を輝かせていた。

 

 『シルバー小隊――対斬殺者SM‐S弐式』

 

 上官斬殺事件後、庭師を確実に仕留めるための戦術が日の目を浴びる――

 

 『……!』

 「何? メール?」

 

 だがその時。分身の、わずかに生きた通信機能がメールを受信する。

 ハンレイは自意識に従い、そのメールをホログラムとして外部に出力した。

 現れたのは、不気味なマスクを被った筋骨隆々の怪人物だった。

 

 

 

 私はキャプテン・マッスル

 このメールを見てる君は選ばれし者

 5000万ディニーを掴むチャンスを与えられた強き者

 単刀直入に言おう

 ホロウにいるある青年をぶちのめして欲しい

 名はガルシア

 クローンのソルジャーで“突然変異の心臓”を持つ青年だ

 もちろんめちゃくちゃ強い

 しかもこの闘いには絶対守らなければならない条件がある

 ガルシアを倒すには徒手空拳でなくてはならない

 銃や刃物などの武器は使用禁止

 なぜなら万が一にも“心臓”を傷つけてはならないからだ

 何よりも“心臓”が大事なんだ

 ぶっちゃけこいつの命なんてどうでもいいんだ

 “心臓”さえ生きていればなぁ

 さぁ腕に自信のある者は今すぐホロウへ行け

 ガルシアを失神KOさせろ

 急げっ乗り遅れるな

 5000万ディニーを掴むんだ

 “クローン・ラッシュ”だ

 

 

 

 「これは……キャプテン・マッスル!?」

 

 アンビーが叫んだ瞬間、戦場に複数の影が現れた。

 コンテナに穴が開き、男がやってくる。

 

 「ここがクローン・ラッシュの会場か? おんなじ顔の姉ちゃんがいっぱいいるなぁ」

 

 右腕につけられた赤い義手が、エーテリアスの頭部を砕く。

 

 「誰も彼も哀しき過去背負ってますって顔でムカつくわね」

 

 後に続いてやってきた魚のシリオン……半魚人がエーテリアスを氷像へと変えた。

 

 「……」

 

 全身をマントのように刃物で覆った、殺気立つ怪人物が、氷像を粉々に切り刻んだ。

 

 『軍の離反者か……私と同じだな』

 

 右腕をテューポーン・デストロイヤーのものへと換装した、ボロボロのテューポーン・チャレンジャー。

 

 「何なのこいつら」

 「……(恐らく野蛮人と思われるが……)」

 

 かつて郊外にて集結した野蛮人達が、再び富を求めてやってきた。

 それぞれの事情は違う。金のため、生活のため、目的のため、成り行きで。

 だが、己の中に秘めた暴力性が、まともな暮らしを許さなかった。

 

 「5000万ディニーを俺達で分けても一人1250万ディニーだ!」

 「何が何でも心臓は貰い受けるわよ!」

 

 野蛮人共が、一斉にガルシアへ襲い掛かろうとした時だった。

 前方に、ニヒルに笑うポンペイが立ちはだかる。

 

 「おっと、ガルシアを狙うなら俺を倒してからだ」

 「んだぁ、このオッサン。おいボロボロ。デカブツにはデカブツがお似合いだ、相手してやれ」

 『了解! テューポーン・ボロボロ行きます!』

 

 テューポーン・ボロボロが唸りを上げる。

 オンボロの機体にくっつけられた最新鋭の規格外品――身の丈に合わないデストロイヤーの腕は、容赦なくボロボロ自身を蝕む。

 だが、何もせず朽ちていくよりははるかにマシで、劣化も遅かった。

 

 「アタシの相手は誰かしら? そっちのハゲじゃないってなら、お嬢ちゃん達?」

 『ワンワン!』

 「なにっ」

 

 突如として、半魚人の前にホロウの裂け目が現れる。

 裂け目から姿を現したのは、犬型エーテリアス・ハティ。

 

 『ワンワン!』

 「ただのエーテリアスじゃないみたいね……いいわ。そっちがその気なら、氷像にして木端微塵にしてやるわ、この“激震のアタ・シンチ”様がね!」

 

 アタ・シンチ相手をするのはハティ型サイボーグ・デゴイチ。

 ガルシアの危機、シルバー小隊の危機を察知し、背中に乗っていたマネモブを振り落として現場へと急行したのだ。

 

 「……」

 「あなたは……これも因果、あるいは運命かしらね。あなたの相手は私よ」

 「……!?(なにっ)」

 

 全身刃物の殺し屋、“哀しみのレイベン”を相手取るのは、意外なことにツイッギーだった。

 彼女はシルバー小隊時代の得物……アンビーのそれと同じような刀を構えた。

 

 「で、俺の相手はお前か?」

 「……」

 

 義手の男の相手は、ガルシア28号。

 相も変わらず感情の読めない顔だったが、負ける気などさらさらなさそうだ。

 

 「お前の心臓を一撃で心停止させてやるよ。この“プラゴミのスパイザー”ことスパイザー様がクローンを生ゴミにしてやる」

 

 野蛮人による五番勝負が始まる……!

 

 

 

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