高濃度猿侵蝕体“マネキン・モブ”   作:アースゴース

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クローン・ソルジャーのうた 5

 「機械だろうが有機物だろうが極低温には勝てないのよ!」

 

 アタ・シンチの必殺技は、突然変異によって発生した体内の冷気袋を利用した冷凍光線である。

 その威力は深海においてなお、深海魚を凍らせるほどの威力を持っている。彼女はそれを利用し、ポート・エルピスで漁業を営んでいた。

 旧都陥落の影響による未曾有の不漁が港を襲うまでは、だが。

 

 「んかあっ」

 

 冷凍光線がデゴイチを襲う。

 アタ・シンチはハティなどいくらでも殺してきた。もちろん、その他のエーテリアスも。

 氷属性が効きづらい電離体以外なら、彼女にとってエーテリアスとは容易い相手だったのだ。

 

 『ワンワン!』

 

 デゴイチが可愛らしい鳴き声とは裏腹に、ギャリギャリと爪で地面を削り取りながらドリフトで冷凍光線を回避する。

 サイボーグ・エーテリアスであるデゴイチの強みは、その強化された機動力にある。例えレーザーを持っていようと、人間の反応速度で追うことは不可能なのだ。

 

 「くっ……ちょこまかと!」

 

 アタ・シンチが振り向く。

 しかし、そこには何もいない。

 

 『ワンッ!』

 「そこっ!」

 

 再び前を振り向こうとした時、肩に衝撃が走る。

 デゴイチの攻撃であると即座に判断したアタ・シンチは首をグルンと動かし、デゴイチへ冷凍光線を向けた。

 

 『ギャイン!』

 「えっ」

 

 冷凍光線がデゴイチに命中し、その身体が凍てつく。

 アタ・シンチの首は180度近く曲げることができる。だが、曲げた拍子に見てしまった。

 自身の、食いちぎられた肩口を。

 

 「い や あ あ あ あ」

 

 アタ・シンチの戦意は消失した。

 元は漁師とはいえ、主婦だったのだ。

 失う痛みには、慣れていない。

 

 

 

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 「ようガルシア。テメェのことは防衛軍時代から知ってるぜ」

 

 スパイザーが義手を鳴らす。

 

 「冷徹非情の戦闘マシーン……ガルシア・シリーズをな」

 

 戦闘前のトークというのは彼ら野蛮人にとって挨拶のようなものだが、ガルシアはそれに付き合うつもりはない。

 そんなことは百も承知とばかりに、スパイザーは構えた。オーソドックスな、ボクシング・スタイルだ。

 

 「俺が何故プラゴミって呼ばれてるか知ってるか? 生身の人間より硬く、金属製品より使い勝手がいいってことだよっ」

 「!」

 

 超高速で義手が作動し、空気を割る。

 スパイザーの義手はいかなる状況下でもワンインチ・パンチを放つことができる。その速度は、ガルシアの動体視力をもってしても目で追うことは難しい。

 それもそのはず。この義手は、スパイザーが対ガルシアを想定してカスタマイズしたものなのだから。

 

 「防衛軍の時からお前らのことが気に入らなかったんだ。テメェのすまし顔をグチャグチャにしてやるぜ」

 

 スパイザーはガルシアに恨みがあった。

 いや、単なる逆恨みかもしれない。常人にその思考をはかり知ることはできないが、とにかく恨みがあったのだ。

 

 「おっとぉ、今までのどのガルシアよりも強いなお前は。だが経験は無いみたいだっ」

 「!?」

 

 激しい攻防の中、蹴りによる金的がガルシアへ命中する。

 ただの金的なら避けられただろう。だが、スパイザーの関節がありえない方向に曲がったことに対処できなかった。

 

 「俺は二重関節(ダブル・ジョイント)ってやつでね。関節の可動域が他人より広いのさ」

 「っ……」

 

 予想外の攻撃に、ガルシアは徐々に追い込まれた。

 いかな人間兵器ガルシアとて、金的の痛みを防ぐことはできない。いや、訓練をすれば可能だ。

 だが、このガルシア28号はツイッギーにより生み出されたばかり。まだ専門的な訓練をほとんどしていなかったのだ。

 

 ガルシアは苦し紛れのパンチを放つが、スパイザーの義手によって受け止められる。

 

 「テメェの自慢の拳をプライドと一緒にバキバキにへし折ってやるよっ」

 「……!」

 

 義手の手首が回転し、万力のような力で掴んだガルシアの腕をねじる。

 ガルシアはそれを止めようとするが、スパイザーは生身である左手も鍛えているようでうまくいかない。

 脚での妨害も、驚異的な足さばきによって防がれた。

 

 「このまま肘関節ごと骨を折ってやる」

 

 ガルシアの腕が、あらぬ方向に曲がる――

 

 「……どうなってやがる?」

 

 あらぬ方向に曲がっている。

 だが、折れた手ごたえは感じられなかった。

 

 「ボーン・コントロール……」

 

 ガルシアは、ツイッギーからその特異体質を耳にしたことがあった。

 かつてのガルシアにはどんな関節技も効かず、捉えた相手をまるで竜巻のように破壊したと。

 

 ガ シ ッ

 

 「なにっ」

 

 ガルシアが、スパイザーへタコのように絡みつく。

 関節という関節を極められ、スパイザーは身動きができない。

 

 「ま……まさか……その技はやめろぉーっ」

 「ボーン・トルネード」

 

 人間大に圧縮された竜巻が、哀れな犠牲者を襲う。

 

 「あ あ あ あ」

 

 スパイザーは、絶叫を上げながら破壊し尽くされた。

 もはや無事だったのは、義手のみだった。

 

 「……」

 

 殺しはしていない。

 ガルシアが、スパイザーにかける慈悲など存在しないはずだ。

 だが、何故だろうか。ガルシアはただ全身を破壊するだけにとどめた。

 

 

 

 Now Loading......

 

 

 

 「あなたの相手はこの私よ」

 

 ツイッギーの相手は、謎の殺し屋“哀しみのレイベン”

 その特殊な構造をした、全身に取り付けられた刃で敵を切り刻む。後には烏に食われる死体が残るという。

 だが、ツイッギーを前にしたレイベンは刃を展開させることなく、その場にたたずんでいる。

 

 「怖いかしら!? 当然よ、元シルバー小隊の私に勝てるものですか!」

 

 痺れを切らしたツイッギーが斬りかかる。

 彼女の四肢は一見生身に見えるが、その実全て機械でできている。内臓も機械に置き換えられているのだ。

 だからこそ、急所さえ守れば多少の無茶は効く。

 

 「はぁっ!」

 

 ツイッギーの剣がレイベンへと迫る。

 だが、当たる直前にレイベンの刃が展開する。

 

 「これがレイベンの回転刃ね!」

 

 レイベンのマントのような刃が、高速で回転する。

 この攻防一体の特殊合金ブレードこそが、彼を殺し屋たらしめている凶悪無比の武装だ。

 だが、ツイッギーは全く怯まず、果敢に攻撃を加える。

 

 一見すると、めちゃくちゃに双剣を振り回してレイベンの刃を防いでいるように見える。

 だが、この戦術は超高速で刃を振るう敵に対する、シルバー小隊が生み出した特殊戦術なのである。

 そして、シルバー小隊の中では一番弱かったツイッギーだが、肉体を機械化したことにより、短い間なら小隊時代を超える能力を発揮できるのだ。

 

 「あ……あいつ何者だ」

 「ツイッギー様の“シルバー小隊変則型対人特殊戦術Ru‐nin弐式”を全部受けている」

 

 クローン達が驚愕する。

 新生シルバー小隊のクローン達の認識の中ではだが、はっきり言ってツイッギーはかなり強い部類に入る。ある意味最強だ。

 そんなツイッギーの猛攻を防ぐ相手を、彼女達はガルシア28号以外で初めて見た。

 

 「……小娘、何故邪魔をする」

 「あなた達、筋肉モリモリマッチョマンの変態の依頼でガルシアの心臓を狙ってるんでしょ?」

 「……」

 

 レイベンは否定も肯定もしなかった。

 何を考えているのか分からない。だが、ツイッギーの狙いはわずかな時間稼ぎ。

 

 「そこっ!」

 「……」

 

 刃のマントがめくれ上がる。

 ツイッギーは、高速で回転する刃の弱点を見抜き、見事に対処して見せたのだ。

 

 「おおおお」

 

 そして、刃の内側、すなわちレイベンの胴体へと強引に突撃した。

 命知らずとも言える突貫。内部には、鍛え上げられた屈強な肉体と、特殊合金製の簡易パワードスーツが待ち受ける。

 レイベンの両腕は失われているが、足の筋力とパワードスーツのアシストだけでも脅威だろう。

 

 強引な特攻のため、ツイッギーの眼帯に刃が当たる。

 だがそれでも、ツイッギーには勝算しかなかった。

 

 ツイッギーの眼帯の下。左眼から、何かが発射された。

 

 「行けー! 御目(おめ)()ーッ!」

 「な に っ」

 

 ブ ア ッ

 

 これこそツイッギーの秘密兵器。

 かつて、自身と一緒にブラック・マーケットで売られていた生きた義眼“御目ン子”である。

 性能はめちゃくちゃ良いものの、見た目はともかく名前が最悪だったために大安売りされていた。

 

 御目ン子が、レイベンの皮膚に突き刺さる。

 すると、すぐさまレイベンが膝をついた。

 

 「か……体が動かん……」

 「御目ン子に刺されれば手足が麻痺するのよ」

 

 ツイッギーは、刃の根元の接合部を斬り裂き、回転機構を破壊した。

 動けずに膝をつくレイベンを前に、ツイッギーは――刃を収めた。

 

 「何故殺さない……」

 「あなた……私を覚えているかしら?」

 「何を……」

 「あの闇市で、私はあなたと一緒に売られていたじゃない」

 「……!」

 

 レイベンとツイッギーの脳裏によみがえるのは、闇市で売られていた時の記憶。

 劣悪な環境で商品として売られていたツイッギーの横にいたのは、殺し屋となる前のレイベン。

 

 彼は優秀な治安官だったが、ハンザイ・ボンプによって捕らえられ、闇市へと流されてしまった。

 そしてそこで出会ったのが、手足の無いツイッギー。レイベンは、ツイッギーや商品となってしまった人々へ献身的に世話をした。

 やがて一人、また一人と売られていき、残ったのはついに二人となった。

 

 『何で……オジサマは私に優しくしてくれるの?』

 『娘がいるんだ……ちょうど、君くらいの歳かな』

 

 レイベンは話をした。

 家族のこと、同僚のこと、出会った犯罪者のこと、仕事のこと。

 ツイッギーもまた、同様だった。

 姉妹のこと、ガルシアのこと、小隊のこと、任務のこと。

 

 二人の間には、奇妙な感情が芽生えていた。

 恋愛ではない、友愛にも似ている、家族愛とも少し違う。

 ともかく、お互いに口に出さなかったが、奇妙な念を覚えていたのだ。

 

 だが、出会いがやってくるように、別れも唐突にやってくる。

 やがて、二人は別々の場所に売られることになってしまったのだ。

 

 「……そうか、君が、あの時の……」

 「そうよ……殺せるわけないじゃない……あんなクソみたいなところで優しくしてくれた人を……!」

 

 掃き溜めような場所で、互いに助け合った者。

 ツイッギーは、レイベンに心から感謝していた。

 

 「世界って、なんでこんなに私達に厳しいのかしら……」

 

 別の戦場を見る。

 人斬りと切り結ぶ二人の兵士、新エリー都が誇る兵器へ単身立ち向かう覇者。

 彼ら彼女らは、ツイッギー達を守っているのだ。

 

 「でも……もう少し生きていたいと思っちゃうわ」

 「君は若い。まだやり直しは効くはずだ……少なくとも、君にはその権利がある」

 「……じゃ、やり直しましょうか。レイベンも一緒にね」

 

 ツイッギーは、動けないレイベンに肩を貸し、クローン達の元へと向かった。

 

 

 

 

 

 「ただ……女の子が、その……御目ン子とか言い出すのはどうかと……」

 「………………新しい名前を考える必要があるかしら。いや、でも……」

 

 その言葉を聞くと、御目ン子がしょんぼりしていた。

 

 

 

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