「あった! ブリンガーのノートだよ!」
「やりましたね、プロキシさん」
リン、ビビアン、アンビー、トリガー達は、情報提供者であるシエナの案内のもとにホロウを探索していた。
そして、いくつもの自販機を漁り、ようやく隠されたブリンガーのノートを見つけた時のことだった。
「ん?」
自販機から小さな物音が聞こえる。
ふと、顔を上げるとそこには――
『ばあーッ』
「えっ」
「プロキシさん!?」
自販機をこじ開け、内部から現れたマネモブの姿が。
『“超危険生物”鬼塚姫次でぇース』
『ワシは灘神影流宮沢金時や』
『幻の拳法“暴殺拳”の最後の使い手として』『鬼龍様からお墨付きをいただいている』
『そして死を呼ぶ青の騎士…!!』
他の自販機からも出てくる。
マネモブ、マネモブ、マネモブ、そして死を呼ぶ青の騎士…!!
「何か知らない人いるんだけど!! もう一人のマネモブどこ行ったの!?」
「わ、私にとっては全員知らない人なのです……」
リンにとっては(青の騎士以外は)見知った顔だったが、ビビアンにとっては噂は耳にすれど全く初対面のエーテリアス。
アンビーとトリガーはシエナの遺体を運び出しており、このホロウにはいない。
つまり、ビビアン一人でマネモブ三体と青の騎士の相手をしなければならなかった。
『焦るなよ』『今殺してやっから』
「あわわっ」
全開の殺意。
リンは、それが自身の心臓を止めてエーテル侵蝕から守るための行動であることを理解している。
だが、もう仮死状態にされる必要などないのだ。しかしリンは、マネモブ達の威圧感……とりわけ青の騎士の濃厚な死の気配に気圧されていた。
だが、ただ気配のみというならば、死すら斬り裂く者は存在する。
「はぁっ!」
『なにっ』『う あ あ あ あ』
マネモブが両断され、まるで最初からいなかったかのように霞へと消える。
四人霞は分身技。ダメージの許容範囲を超えた残像は消えてしまうのだ。
『危ねぇ』『残像をひと蹴りで消しやがった』
「蹴り、ではないのだがね」
「ヒューゴ!」
現れたのは、ヒューゴだった。
『消えろ』
『えっ』『逃げるんかいっこの人殺し!』
『待てよ』『物語はこれから面白くなるんだぜ』
『バカバカしい』『勝手にやってろ』
『負けたんスか?』
それを見たマネモブはそそくさと退散した。
これだけ強い者がいれば、リンを安全にホロウの外へ連れ出すことができるだろうからだ。
――マネモブの勘違いはまだ続いていた。
「取りあえず、話はホロウの外でしよう。またマネモブがやってくるとも限らんからな」
「今度会った時は誤解を解かなくちゃ」
彼女達は、ホロウを後にした。
「……」
「……え、青の騎士さんもついてくるの?」
「誰なんだね彼は?」
「多分、マネモブの……知り合い? あ、乗せてくれるんだ」
青の騎士の乗り物に乗せてもらったので、意外と早く外についたという。
ちなみに青の騎士はエーテリアスではないので普通にホロウの外までついてきた。
Now Loading......
リン、アンビー、ライカン、ビビアン、ヒューゴ、青の騎士は再びホロウへと侵入していた。
その目的とは、ブリンガーの遺物であるノートに記された場所へと赴くこと。そこに存在したのは、まさかのサクリファイスだった。
「まさか…ノートに記されていた地点には、すごい数のサクリファイスが眠っているということでは?」
「しかも意外とホロウ外で活動できる」
エーテリアスの力を持ちながらホロウの外で活動できるフルコンタクト危険生物、サクリファイス。
そんな化け物を讃頌会や涅槃創生会の連中に渡すわけにはいかなかった。
正直な話、ここにいる面子が力を合わせれば破壊も可能なので、それも視野に入っている。
「だ、だとしたらマズいよ。讃頌会の手にこれが渡ったら新エリー都は壊滅だよ。どうにかしないと――」
「――サクリファイスを見つけてくれて感謝する。だが悪いな、それがお前らのものになることはないんだ」
「なにっ」
これからどうにかする手段を考えようとした時のことである。
なんと、あのレイヴンロック家の当主、人面獣心のハルトマンがどういうわけかこの場所を嗅ぎつけてやってきた。
「……あの鼻持ちならない蛆虫クソボケジャワティー肛門オスブタを超えたオスブタ野郎なのです! どうしてここに?」
「ビビアン!?」
「お嬢さん、言葉には気を付けた方がいい。いや、本当に気を付けた方がいい」
不意打ちじみたビビアンからの口撃に動揺したハルトマンだったが、どうにか当主としての威厳によって持ち直した。
「あなた様の目的は、最初からこのサクリファイスでしたか。ずっと我々を尾行していたのですね? それも慎重に距離を保って――」
「クークククその通りだ。ここまで上手くいったのは、君の元相棒が、あらかじめ君達の情報をリークしてくれたおかげだ」
「私の……元、相棒?」
「寒い雪の日の朝……!?」
ヒューゴが前に出て、ハルトマンのそばに立つ。それは、間違いなく裏切りを意味していた。
そして彼は、裏切りの理由を饒舌に語りだす。TOPSになりあがること、権力への野心。それこそがヒューゴの目的であると。
「そ、そんな……讃頌会や涅槃創生会のことを調べると約束してくれたのは、モッキンバードができる限り世界に公平をもたらすべく存在するというのは……嘘だったんですか?」
「……」
「本当に裏切ったんですか?」
「お前は他人を信用しすぎる。誰もが皆、真の目的を画すべく、軽率に虚言を弄することに慣れているんだ」
「ヒューゴ! お前……!」
リン、アンビー、ライカン、ビビアン、青の騎士。
誰もが怒り、困惑、哀しみ……様々な感情の入り混じった目でヒューゴを見つめる。
それを心底面白そうに見るのが、蛆虫の集まりと揶揄されるレイヴンロック家においても人面獣心のクソ野郎と揶揄されるハルトマンだ。
「クククク! 鮮やかな裏切りの一幕だな!」
ハルトマンが軽く合図する。
すると、やってきたのは完全武装した部下や傭兵達。
軍隊で訓練を受けた者もいれば、重装歩兵ユニット“グレイ・ライノ”に身を包んだ者もいる。
「俺の部下達は、そこのサクリファイスを取り出すために慎重を期す必要があるんだ。お引き取り願おうか」
「……あなたの思い通りにはさせない」
『だからオレたちがいるんだろっ』
「なにっ」
「な……なんだあっ」
声が響く。しかし、そこには誰もいない。
「この声は紛れもなく……しかし、どこから……」
「あ、あそこです!」
ビビアンが何故あれほどまでに口が悪くなっていたのかには理由がある。
それは、奴が周囲に潜んで隙をうかがっていたためである。
『俺ならここにいるぜ』
「う あ あ あ あ」
ハルトマンの肩をねっとりと撫でつけるように触れる手。
エーテリアス化してなお、武の研鑽を怠らない武人の手。
その手の持ち主こそ……
『俺はアイアン木場だぜ?』
「マネモブ様!」
「どこからどう見てもマネモブだよ!」
「マネモブさん!」
「マネモブ!」
「なぜマネモブがここに……」
「ヒイィィィエエマネモブだああああ!!」
『俺はアイアン木場だぜ?』『俺はアイアン木場だぜ?』『俺はアイアン木場だぜ?』『俺はアイアン木場だぜ?』『俺はアイアン木場だぜ?』『俺はアイアン木場だぜ?』
どうしてもアイアン木場な気分でいたいマネモブだった。
マネモブがどうにも自分達に味方しないだろうと悟ったハルトマン達は、部下に殿を押し付けた。
「お前達! こいつらを足止めしろ!」
『逃げるんかいっこの人殺し!』
「何とでも言えっ! 死人のように生きてるクズめ!」
『ククク…ひどい言われようだな』『まあ事実だからしょうがないけど』
マネモブに罵倒は効かない。全て事実だと受け入れることができる。
しかし社会のルールを守らない者は確実に殺される。
「幸いマネモブは一人だ!」
「多勢に無勢だいっけぇ」
『“
「えっ」
数の利を生かそうとした傭兵達だが、マネモブは分身技が使える。
ただ四人に増えたと思うなかれ。一人でも防衛軍の一部隊を壊滅させられる者が、四人になったのだ。彼らに勝ち目などない。
『解体ですよ』
『頭からサクッと喰ってやりますよ』
「やめろっ、やめてくれマネモブ、やめろっっ」
『ぼうっ』
二体のマネモブが傭兵を撃破し、残る二体のマネモブがグレイ・ライノへと群がり、頑丈な装甲を引き剥がす。
エーテリアスに防具を引き剥がされるというあまりの恐怖に、グレイ・ライノ内部の傭兵は失禁していたが誰も気づかない。
「今のうちです!」
「ふーっ……良かった、マネモブの矛先が私に向かなくて」
『クククク待ってろよ』『すぐに殺してやるから』
「やばい! 逃げよ!」
「私もアイアン木場だぜ?」
『なにっ』『俺はアイアン木場だぜ?』
「私もアイアン木場だぜ?」
『俺はアイアン木場だぜ?』
「私も――」
「ありがとうアンビー! でも行こう!?」
アンビーがマネモブを混乱させたこともあり、彼らは屋上へと向かうことができた。
その先で、人面獣心のハルトマン及び裏切ったヒューゴと対峙することとなる。
そしてヒューゴは絶命した。