高濃度猿侵蝕体“マネキン・モブ”   作:アースゴース

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(讃頌会へのコメント)お、お前ら変なクスリでもやってるのか…
作ってるし使ってるんだよね怖くない?


雲嶽山VS灘・真・神影流 1

 「澄輝坪っていい場所だね~」

 「そうでしょう!」

 

 リンは雲嶽山の門弟である橘福福(チー・フーフー)に案内され、衛非地区の澄輝坪を散策していた。

 彼女の装いは普段とは違い、市長からの依頼でラマニアンホロウの異常を調査するため、雲嶽山の門下生に扮している。まさに道場の門下生という服装だった。

 だからだろうか、初めて訪れる衛非地区の、違和感に気づけたのは。

 

 「あれ? あの人達も雲嶽山の門下生?」

 

 シンプルな道着に身を包んだ強面の人物たちが、何かの機材を運んでいる。

 その光景に対し、福福が複雑そうな表情で答えた。

 

 「違います。彼らは、あたし達がわけあって澄輝坪を離れている間にやってきた、灘・真・神影流の方々なのです」

 「ナダ・シン・シンカゲリュウ!? ここにも来てたんだ!?」

 「お弟子さんも知ってましたか?」

 「う、うん。あそこの宗主の人……人? と仲が良くてね。色々お世話になったりお世話したりしてるよ」

 「そうなんですか!? あの、灘・真・神影流の宗主が武術の達人でエーテリアスって本当なんですか!?」

 「マジだよ。ちょっと自慢なんだけど、そのエーテリアス、マネモブとのファースト・コンタクトが私達なんだよね。だからかなり長い付き合いだなぁ」

 

 思えば長い付き合いだ。

 邪兎屋などとは違い、ビデオ屋には来られない。しかし、ホロウでは頼りになる存在だった。

 人間や機械のように侵蝕を恐れる必要がなく、高危険度エーテリアスを単騎で撃破できるほどの実力を持つ。

 

 その癖に決まった定型文しか喋らず、罵倒のバリエーションばかりが豊富。

 はっきり言って人を愚弄するために生まれてきたんじゃないかと思ったこともあったが、エーテリアスだろうと大切な仲間の一人だ。

 

 「本当だったんですね……じゃあ、修行がとっても厳しいというのも?」

 「うん。あれを見た時は血の気が引いたよ。巻き藁を巻いたバットで顔面を殴打するとか、沸騰したお湯に入った石を火傷するより早く取るとか、気絶するまで組手をするとか」

 「う、噂に違わない熾烈さ……うーん、雲嶽山での普段の修業がエクササイズに思えてきました」

 「流石に全員がそんなことしてるわけじゃないよ! ナダ・シン・シンカゲリュウはエクササイズやフィットネスジムだって運営してるし。ボディー・ガードととかもやってるし」

 「えぇ!? 灘・真・神影流ってそんな手広く事業を展開してたんですか!?」

 「むしろエクササイズとかでお金をいっぱい持ってるから、どこでも展開できるのかもしれないね」

 

 衛非地区には最近やってきたばかりなので知名度はあまりないが、灘・真・神影流が様々な事業を展開しているというのは、有識者の間では噂になっている話だ。

 混乱を避けるために、今はホワイトスター学会やTOPSがそれとなく情報を規制しているものの、有名になるのは時間の問題である。

 

 福福は少しだけ羨ましくなった。

 雲嶽山の総本山はともかく、適当観の運営は非常に厳しく、ゴミも溜まっているからだ。

 だが、歴史や実力、高潔な精神力では全く負けていないと福福は確信していた。

 

 「あ、あっちで何か騒ぎがあるよ」

 「行ってみましょう!」

 

 雑談しながら街を歩いていると、何やら騒ぎがあった。

 二人がそちらへ向かうと、肉体労働者とビジネスマンが言い争っていた。

 

 「だからさあ、何で賠償金の一覧にイチゴ味のプロテインがあるんだよ」

 「その情報については私にも知らされていない。それに、ダミアン様は今回の事故による賠償を全額支払うおつもりでいる。あと二日ほど待ってもらおうか」

 

 どうやら、労災について揉めているようだ。

 しかし、ビジネスマン風の男の言葉に怯んだのか、労働者達は解散していった。

 

 「何だったんだろう」

 

 一触即発の雰囲気だったが、すぐに解散したせいで何があったのかもよく分からなかった。

 その後、二人は澄輝坪の各所を回り、適当観へと帰還した。

 

 

 

 Now Loading......

 

 

 

 適当観で、ポーセルメックスのトップ、ダミアン・ブラックウッドの来訪から数十分。

 彼の口から語られた、採掘現場での非常に怪しげな労災について調べるために、リンは労働者達へ聞き込みをしていた。

 リンは先ほど揉めていた労働者に声をかけようとしたのだが、すぐ側にいたガラの悪そうなシリオンの青年に止められてしまった。

 

 「アンタよぉ……さっきからうろちょろしやがって、何が狙いだ? ああ?」

 「き、きっとポーセルメックスの刺客ですよ! ほら、何か陰湿な技ばかりある暗殺拳の使い手みたいな格好だし! ポーセルメックスがナダ・シン・シンカゲリュウと手を組んだのは本当だったんですよ!」

 「ちょっと黙っとけパロ……今メンチ切ってる最中だろうが」

 

 彼らは勘違いをしていた。リンは灘・真・神影流ではなく雲嶽山である。

 シリオンの青年は、リンが殴って来れば正当防衛になると主張している。そもそも、平気で他者を殴る野蛮人がポーセルメックスなんて大企業に入社できるはずがないのだが。

 

 「まあ落ち着いてよ。私はポーセルメックスの人間じゃなくて、適当観から派遣されてきたんだ。ちょっと知りたいことがあって」

 「えっ適当観!? え、えーっと……何が知りたいんスか?」

 「急に口調変わったね……」

 

 先ほどの威圧感は消え、急に三下っぽい口調になった彼は、狛野真斗(こまのまなと)というらしい。どうやら彼も、労災関係でポーセルメックスを調査しているようだった。

 リンが労災を調査することを伝えると、真斗もパロと呼ばれた労働者も露骨に安心した様子を見せた。

 

 話を聞くと、どうやら労働の際に飲んでいる侵蝕緩和剤に不備があり、飲んだ労働者達が侵蝕症状に苦しんでいるようだ。

 ポーセルメックスはそれに対して緘口令を敷き、事態のもみ消しを図ったという。

 

 「酷い話だね」

 「ええ。しかもポーセルメックスは、ボディーガードとしてナダ・シン・シンカゲリュウを雇ったって噂なんです」

 「ボディーガード?」

 「労働者が武装蜂起した時、武力で鎮圧するためって噂があるんス。やっぱ怖いスねナダ・シン・シンカゲリュウは」

 

 確かに灘・真・神影流は恐ろしく見えるだろう。

 筋肉の厚みがとんでもなかったり、強面の門下生が多くいる。

 だが、彼らはマネモブの教えによって基本的に礼儀正しい……一皮むけば、荒々しい罵詈雑言が飛び出すが。

 

 「武力鎮圧かぁ……でも、ナダ・シン・シンカゲリュウなら私が何とかできるかもしれないよ」

 「えっ、アンタ、もしかして武術の達人とか……スか?」

 「いやいやまさか、私はこっちはからっきしだよ。でもね、ナダ・シン・シンカゲリュウの宗主とコネがあるんだ。だから争いにはならないと思うよ」

 「適当観の門下生ってだけじゃなくてナダ・シン・シンカゲリュウとの関わりも!? 武術界隈の関係……すげぇ」

 

 それから話はまとまり、改めてラマニアンホロウの調査をすることになった。

 翌日、彼らはパロの手引きによってホロウ行きのロープウェイに乗り込む。

 

 

 

 Now Loading......

 

 

 

 「僕たち不当に搾取されてる労働者解放団体」

 「一緒にデモらない!?」

 「あ、はいもう結構です」

 

 変な労働者に絡まれもしたが、リン達は労働者互助会の責任者であるエリック、彼らが信頼する医者ロアと共に、ラマニアンホロウの調査を開始した。

 

 「ミアズマがいっぱいだね」

 「ですねぇ。でも、この燃え殻みたいなのは何でしょうか?」

 

 ホロウにはミアズマがいたるところに群生していたが、それ以上に気になるのは燃えカスのような物体だった。

 それらがある場所にはミアズマが存在せず、まるで燃え尽きたかのようである。

 

 「誰かがミアズマを焼いている? だが一体何のために……」

 「! あっちから煙が見えます! 行ってみましょう!」

 

 一行が煙の出所に行くと、そこでは大勢の人物がミアズマを火炎放射器で焼き尽くしていた。

 

 「な、何をやってるんだろう」

 「ん? おーい、ここは危ない。離れていてください……って、リンさん?」

 「その声は……清丸君!?」

 「知り合いか?」

 

 近づいてきた人物が対浸食装備のヘルメットを外す。すると出てきたのは、精悍な美青年だった。

 彼は我龍院清丸。灘・真・神影流に統合された一派、灘心陽流の若き期待の新星である。

 清丸はビデオ屋を何度か訪れており、リンともアキラとも仲がいい。

 

 「どうしてこんなところに?」

 「それが、宗主からの指令なんです。黒田さんからも、これを機にホロウでの活動に慣れておけと言われまして」

 「そっか、清丸君はホロウに入ったことなかったんだっけ」

 「はい。なので比較的安全な業務でホロウの空気を知ることができて嬉しいです」

 

 事の発端は、マネモブがラマニアンホロウを訪れた際に大量のミアズマを目撃。

 門下生に対し『クスリを反対から読むとリスク…』『過剰投薬は危険です』『私はよほどのことがない限り薬は飲まない主義です』と発言した。

 その後の『宮沢熹一の殺し方を教えてくれよ』という発言をどうにか翻訳した結果、ラマニアンホロウのミアズマを駆除することになったのだ。

 

 「でもどうして宮沢熹一なんでしょう?」

 「宮沢……ミヤザワ……ミアズマ?」

 「そんなバカな」

 

 だがマネモブの持つ語録データベースにミアズマを表す言葉など存在しない。

 だからこそ、語感が近い言葉で代用するしかないのだ。

 

 「そうだ、労災があった現場って知ってる? まだそっちは焼いてないよね? ここらへんなんだけど」

 

 リンはキャロットのデータを見せる。

 

 「そこはまだですね。労災の現場ですか……分かりました。他の方々には僕から言っておきます。こっちでも何かを見つけたら報告しますよ」

 「ありがとう!」

 

 こうして、彼らは改めて証拠集めを開始した。

 

 

 




狛野真斗
「マジかよ」
「あざーっス。パイソンさんのおかげでショートレンジからの打撃の練習になったっス」
「負けたんスか?」
「そんな訳ないっス! 俺が負ける訳ないっス!」
「ルールで禁止スよね?」
「やっぱし怖いスねヤクザは」
「忌憚のない意見ってやつっス。それでも文句あるなら喧嘩上等っスよ」



『っす』や『ッス』じゃなくてガチで『っス』だったから幻魔を打ち込まれたのは…俺なんだ!
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