高濃度猿侵蝕体“マネキン・モブ”   作:アースゴース

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この澄輝坪では4つのグループが勢力争いをしているんだ 3

 「厳正なるくじ引きの結果、先鋒は僕、我龍院清丸と藩引壺さんに決まりました」

 

 集まった選手たちはその場でくじ引きを行い、先鋒を決める。それによって戦法に選ばれたのは、清丸と藩だった。

 物々しい雰囲気をまとった者達が紙に自分の名前を書いて箱に入れる光景はシュールなものだったが、彼らのほとんどは見た目とは裏腹に心優しいのだ。

 

 「よろしくお願いします、藩さん」

 「こちらこそよろしくな、清丸君」

 

 藩と清丸が一歩前に出た。そして、軽く頭を下げる……これは試合前の作法、お辞儀に他ならない。

 二人の間に闘気があふれる。会場となっている広場はいつでも試合を開始できる状態にある。会場スタッフは本気だ。

 

 「それでは試合開――」

 「ゴングを鳴らせっ戦闘開始だっ」

 「なにっ」

 

 カァン!

 儀玄が試合開始のゴングを鳴らすよりも早く、待ちきれなかったリーチが勝手に鳴らした。

 

 「あうっ、い、いきなり始まるのかあっ」

 「あのう、やり直しましょうか?」

 「いえ、僕も藩さんも待ちきれなかったところです。このまま続けましょう」

 

 武人が相手との闘いを待てるはずがない。闘いの日にちまで待つならともかく、開始してからお預けなど論外だ。

 まず二人が取った行動は、相手の動きを観察することだった。互いに未知の相手……様子見から始めるというのは、堅実な武闘家らしかった。

 

 (パンダのシリオン……クマのシリオンと闘ったことはあるけどパンダは初めてだな。でも膂力は警戒するべきだ。脚は短いが、フットワークにも注意しよう)

 (良く鍛えられたしなかやかな身体だ。筋肉の付き方からして恐らく立ち技系統の、スピードを得意とするストライカー……初手は足か? 手か?)

 

 じりじりと間合いまで距離を詰める二人。

 だが、先手を取ったのは体格が大きい分リーチの長い藩だった。

 

 「ハッ!」

 「っ!」

 

 藩から繰り出されたのは、流れるような拳の連打。

 まるで流水のように動き、蜂のように鋭いそれは、咄嗟にガードを行った清丸を打ち付けた。

 

 「まだまだぁっ!」

 

 藩は清丸の周りを円を描くように動いており、反撃を防ぐと同時に攻撃への対処を難しくしている。

 清丸もヒット・ポイントはずらしているが、ガードの上からでも着実にダメージが溜まっているようだ。

 

 「清丸君、防戦一方だね」

 「リンさんもそう思いますか。やっぱり清丸はディフェンスが甘い。あいつにガードの技術は不向きなんです」

 

 黒田の言う通り、清丸はガードよりも攻撃を良しとするファイターだ。

 そもそも、気質からして防御が性に合わないのかもしれない。粘り強く戦う灘心陽流とは相性が悪いと思われがちだが……しかし、灘心陽流の本質は鉄壁の防御と超高速の攻撃、その両立なのである。

 

 「ふんっ!」

 

 これ以上なく堅実に攻める藩。

 だが、その連撃に慣れつつある清丸が、防戦一方の状況を許すはずもなく。

 

 「しゃあっ」

 「うっ……いい蹴りだが、軽いな」

 

 清丸のミドルキックが藩の腹に命中する。

 しかし藩はパンダのシリオン。腹は脂肪と筋肉が詰まった、最も防御に長けた部位である。

 そんなことは、清丸も百も承知である。

 

 「ええ、藩さんにとってはそうでしょうね。でも足が止まりましたよっ」

 「おおっと!?」

 

 清丸から繰り出されたのは、超高速の掌底の連打である。

 藩のものは“柔”なのに対し、清丸のものは“剛”に近い。

 “柔よく剛を制す”とも“剛よく柔を断つ”ともいうが、使い手一つで変わるものだ。

 

 「腕が痺れてきた……そうか、灘心陽流ってのは掌底によって衝撃を浸透させることに長けた流派なのか」

 「今の攻撃でそこまで見抜くとは、お見事です」

 

 灘心陽流は、掌底で攻撃することによってより衝撃を浸透させやすくする。

 頭部に当たれば一撃で昏倒し、胸部に当たれば心停止する危険性も孕んでいる。

 

 (ガードが堅い……崩れない。やはり藩さんは防御が得意なのか。クマのシリオンってそんな人ばっかりなのか。だが、ガードしていても衝撃は殺し切れない!)

 

 防御をしていても、衝撃というのはその上から浸透するものなのだ。

 藩がいくら防御に長けたファイターだからといって、衝撃そのものを防ぐことはできない。

 技術の差、経験の差、体格差などでカバーできているが、藩と灘心陽流の相性は最悪だった。

 

 (弟子である清丸君ですらこの威力……だったら師匠の黒田さんは? 正直考えたくもないな。このままじゃジリ貧。一つ賭けに出るとするか!)

 

 藩が一歩踏み出す。

 繰り出したのは左のアッパーカット。

 

 「アッパー? 今更そんなものが――!?」

 

 アッパーの勢いのまま、クルリと一回転する藩。

 清丸は気づいた。その左手には、()()()()()()()()()

 

 (まずい……暗器か!? 藩さんはホロウでも活動しているんだ、サブウェポンくらい予測してしかるべきだった!)

 

 この試合では武器の使用は認められている。

 なので藩がその左手に何かを隠し持っており、今まさに投げようとしていると考えたのだが――

 

 (何も……ない!)

 

 開かれた手には何もなかった。

 これがエーテリアス戦やホロウレイダーを相手にするなら、藩は爆竹を使っていた。

 しかし、これは雲嶽山と灘の公式試合。藩はあえて爆竹など使わず、武術のみでの勝負に頼った。

 

 「ハッ!」

 

 藩が太い人差し指を立て、突きを繰り出す。

 “断脈破穴手”相手の経穴を突き、気の流れを狂わす技である。

 

 「断脈破穴手を使うか。藩は本気だな」

 「藩さんのあれ、とっても痛いですからね!」

 

 断脈破穴手の威力は、雲嶽山の中でもお墨付きの威力を誇る。

 しかし、黒田は弟子がそんな技を受けるかもしれないというのに、落ち着いた様子だった。

 

 「経穴ですか、確かに一撃必殺にも逆転の一手にもなりうる。しかし、相手が悪いですね」

 「えっ」

 「そこがツボだな!」

 

 藩の指が、ツボを連続で突く。

 肋骨の下あたりと、へそあたりである。並の相手ならツボを突かなくても悶絶するその突きを受けた清丸――

 

 「相手が悪いって、どういうことなんですか?」

 「灘は元々、活殺自在の暗殺拳……経穴、経脈に関する技術も深く関わっている。つまり、その対処法も」

 

 ダメージを受けた清丸だったが、しかし戦闘続行に支障はない。

 

 「……やれやれ、まさか防がれるとはな。結構本気だったんだが」

 「章門(しょうもん)神闕(しんけつ)ですか、そこは避けましたよ。まさか経穴を突いてくるとは。やはり雲嶽山と灘、どこかでルーツは同じところがあるのかもしれませんね」

 

 黒田を通してツボについてを学んでいた清丸は、突かれる場所をわずかにずらすことで回避に成功した。

 藩の背に、冷たい汗が流れる。

 

 「食らったら一発アウトですからね、こちらからもやらていただきますよっ」

 

 再び清丸の掌底が藩を襲う。

 しかし、藩もコツを覚えたのか、先ほどよりダメージは少ないようだ。

 

 「なあ黒田、清丸の奴は何を企んでんだ?」

 「流石にリーチちゃんにも分かるか。私にも分からんが……奥の手はありそうやな」

 

 数発、数十発か。

 掌底が炸裂すると、ある瞬間に突然、清丸の目の色が変わった。

 

 「しゃあっ」

 

 繰り出されたのは、何の変哲もない拳。

 

 (今更パンチ? いや、絶対に何かがある! ここは防御を――!?)

 

 藩が防御を固めたその瞬間。

 

 パァン!

 

 「ブッ……!」

 「なにっ」

 「な……なんだあっ」

 

 いきなり、藩が鼻血を噴出した。

 突然の光景に、ギャラリーに動揺が走る、

 

 「黒田さん、見えました?」

 「ああ……清丸の腕が、藩のガードをすり抜けたあっ」

 

 その仕組みは単純。

 あまりにも速い拳が、藩のガードをすり抜けただけである。

 

 「は、速すぎる……今のは一体……」

 「黒田さんに頼みこんで灘の秘伝書を見せてもらったんです。その中にあったのがこの“霞打(かすみう)ち”ですよ」

 

 霞打ち。

 霞のごとく消える打撃。ただそれだけだが、極めれば奥義となる。

 清丸は黒田に秘伝書を見せてもらった後、ほぼ独学でこの技を身に着けた。

 

 「僕って天才じゃないかもしれません。奥義だってこの霞打ち一つ覚えるのが精いっぱいなんですよ」

 「……俺はそうは思わないがね。少なくとも君は天才だ」

 

 この若さで、雲嶽山でも強い方である自分の防御を抜く打撃を身に着けるなど、まさに天才という他ない。

 だが、藩は清丸が才能だけの人間だとは思わない。その身体には、とてつもない努力の後が見えるのだから。

 

 「僕はまだ若輩なので(たぎ)る血気を抑えることができません。本気で勝ちに行きます」

 「来い!」

 

 霞打ちを連続で放つ……“連弾霞打ち”

 スピード、筋力、拳の硬度、技術が合わされば必殺の連打となる。

 ガードを抜かれ、顔に連撃を受けながらも藩は……冷静だった。

 

 (何か来る! だがその前にこれで終わらせる!)

 

 霞打ちが藩の顔面にクリーンヒットし、藩が後ろへのけ反る。

 清丸は勝利を確信した。

 

 (やったか……!?)

 

 だが、勝利の確信は驚愕へと変わる。

 

 「そこだ!」

 「しまっ――」

 

 藩は、のけ反った状態から姿勢を整え、技に繋げたのだ。

 “貼山震脈靠”言うなれば、超強い鉄山靠である。

 

 「はうっ」

 

 それをまともに受けた清丸は、後方へと吹き飛ばされ、ダウンした。

 

 「清丸くーん! 大丈夫ー!?」

 「な、何とか大丈夫です。藩さん、参りましたよ。今回は僕の負けです」

 

 やけに素直に負けを認めた清丸は、藩の手を取って立ち上がった。

 

 「それにしちゃあ、まだ元気なようだが」

 「ええ、正直言ってまだ戦えます。ですが、自分の改善点もかなり見えました。僕は今回の反省点を活かしてもっと強くなりたい……そして、強くなってもう一度あなたと闘いたい」

 「……嬉しいねぇ! いいぞ、この藩引壺はいつでも勝負を受け付ける! 待ってるぞ、清丸君!」

 「はい!」

 

 二人は硬い握手を結んだ。

 勝ち負けではない、闘いを通した男同士の友情だった。

 

 「二人とも、見事だな……」

 「藩さん凄かったです!」

 「清丸も惜しかったな。さっきの霞打ちの練習は一人じゃ難しいやろ? 俺がまたサンドバッグになったる」

 「あ、ありがとうございます。ありがたいことこの上ないんですけど黒田さんってMなんですか?」

 「? 俺のイニシャルはM(光秀)やが……」

 

 和気あいあいとした雰囲気が流れる。

 しかし、出場者は気を引き締めなければならない。

 すぐに第二試合が控えているのだから。

 

 「むぅ……負けたー」

 「元気出して……」

 

 しょっぱなから負けたことに不貞腐れるリーチと、それを慰めるリンだった。

 

 

 




清丸のセリフを考えると妙に猿い感じになる、それが僕です
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