もしかして盛り上がる試合を描ける猿先生は凄いを超えた凄いんじゃないスか?(再確認)
「次鋒が決まりました。灘、黒田光秀さん! 雲嶽山、ライトさん!」
「出番か」
「やれやれ、チャンピオンが次鋒とはな」
くじ引きの結果は黒田とライトだった。
清丸はくじの結果に作為を疑わざるを得なかった。
なぜなら、黒田もライトもライダースジャケットを着た美形の拳士という共通点があるからだ。
その共通点から互いに興味を持った彼らは、試合開始まで会話をしていた。
内容はもっぱらバイク関係の話であり、専門的なワードも飛び交っていたのでバイクを知らない者からすれば何の話をしているのかさっぱりだっただろう。
そして、彼らがもう一つの共通点である闘いの話題を避けたのは――こうなる予感があったからかもしれない。
「ライトさん、良い闘いにしましょう」
「あぁ……望むところだ」
二人は固い握手を結ぶ。
ライトの右手には彼の武器“爆燃動力グローブ K.O.”が装着されている。
だが黒田はそれを卑怯と思わない。黒田も、鉄板入りのエンジニアブーツを履いているのだから。
握手を終えると、二人は少し離れた場所に立つ。
そこはお互いの間合いであり、いつでも必殺の一撃を叩き込める“魔合い”でもある。
ライトはサングラスを外し、黒田は呼吸を整えた。
「それでは試合開――」
「ゴングを鳴らせっ戦闘開始だっ」
「しゃあっ」
「はぁぁっ」
カァン!
儀玄がゴングを鳴らすよりも早く、待ちきれなかったリーチが勝手に鳴らすと同時に、二人の男がぶつかった。
ボッ
ボッ
パン
パン
風を切り、爆発させるほどのラッシュ。それらを捌き切り、打ち払う掌底。
間違いなく新エリー都でも最高峰……それこそ、TOPSが大金を払っても見られない闘い。
それこそ、二柱の阿修羅が鎬を削っているような闘いだった。
「やばっ、黒田さんとライトさんの拳の残像が見えるっ」
「あ、あの……適当観もナダもどこでこんなヤバい人達見つけてきたんスか?」
真斗はともかく、リンとアキラはライトの戦闘を見たことがある。
ライトの恐ろしく速いラッシュに対処するのは、並の格闘家では不可能だ。
だからこそ、清丸の師匠である黒田の技量に戦慄を覚えた。
「このラッシュ……成瀬と同等か、それ以上や」
「俺に匹敵する奴だって? 是非会ってみたいな」
激しい攻防の中でさえ、二人は不敵に笑う。
気軽で……まるで友人にでも話すような調子とは裏腹に、その手は見る者を圧倒する技の応酬だった。
拳が飛ぶ。
打ち払う。
拳が飛ぶ。
受け流す。
拳が飛ぶ。
弾き返す。
拳が飛ぶ。
差し込む。
全てを打ち砕く拳を、あらゆる手段で防御する。
ライトは、これほどまでに自分のラッシュを防ぐ相手に会ったことはない。
黒田は、剛を極めたようなストライカーに会ったことがない。
互いに未知の相手だ。
郊外の、荒々しくも洗練された技の持ち主はいた。
街には、力自慢が技を身に着けた野蛮人達はいた。
だが、彼らは敵対者の全てを下し、勝利してきた。
だからこそ出会ったのかもしれない。この真逆とも言えるファイター達は。
速度を是とし、片や力。片や技。
ライトも、黒田も。自身の極まったものを出し尽くせる相手に出会えたのだ。
「まさかこんな場所で強者に出会えるとはな。所詮は俺も井の中の蛙だったか?」
「何が
「俺はそのバケモノすら一撃でKOするぜ。はぁぁ!」
「!」
グローブのジェットが火を噴き、狂った加速力が拳に乗る。
殴り屋を超えた殴り屋、郊外において無敗のチャンピオンの拳は、高危険度エーテリアスを失神KOしてなお有り余る威力を持つ。つまり、人や並のエーテリアスが受けたとすれば、死は免れない。
だが黒田は違う。この男は灘心陽流の当主なのだから。
「しゃあっ」
「なにっ」
豪速の拳が命中する直前、黒田が取った行動は跳躍だった。
「はぁっ!」
「なにっ」
だが、それを見るや否やライトはグローブのジェットを吹かし、アッパーを繰り出した。
アッパーそのものは避けられたが、それで終わりではない。瞬きする間もなく黒田と同じ高度まで跳躍したライトは、空中でラッシュを仕掛けた。
「しゃあっ」
だが、自由落下に任せて何もしない黒田ではなかった。
黒田は現在ライトに勝っている、高度の差を活かし、パンチによるラッシュを蹴りで迎撃する。
「実力は拮抗しているみたいだな」
「待て……状況が動くぞ」
「ぐうっ!?」
「ようやく届いた」
ギャラリーの言う通り、彼の実力は互角。しかし――ライトはラッシュを脚で捌かれた経験は皆無。
空中戦というならなおさらである。速度や身軽さに特化した灘の技を使う人間と、幾度となく組手を行ってきた黒田に天秤が傾いた。
「しゃあっ」
「がっ……」
わずかな、本当にわずかな差。
ラッシュをかいくぐった黒田の蹴りが、ライトの顔面に突き刺さる。
その勢いのまま両者は落下し、ライトが黒田の下敷きになる形で地面に激突した。
「勝負あったか?」
「顔面に蹴りを喰らいながら落下したんだ、命の保証はないと思った方がいい」
これが活殺自在の暗殺拳なのかと戦慄するギャラリー達。これで勝負はついたのではないか。
しかし、闘いの中にある二人は違った。まだ何も終わってはいない。
「まだだ……“赤いマフラー”はこれしきのことじゃ倒せないぜ」
「お前もタフやな……俺もそういう奴を知っとるわっ」
ライトは、踏みつけられた状態から、黒田の脚へと拳を繰り出す。
不利な体勢からでも高い威力を持つ拳を警戒した黒田は飛びのく。
すぐさま立ち上がったライトは、垂れる鼻血を拭うと再び構えた。
「第二ラウンドを始めようか」
「望むところや」
再びラッシュの応酬が始まる……と思いきや、ライトの様子は先ほどとは打って変わった。
ラッシュは行っている。しかし、回し蹴りや跳躍をも多用し始めたのだ。
「……!」
「俺をパンチ一辺倒の殴り屋だと思ったか?」
「抜かせ……パンチだけで十分の間違いやろ」
ライトの蹴りは鋭いものだった。
黒田は防いでいるが、脚の筋力は腕の筋力の約3倍ともいわれている。
荒野によって鍛え抜かれたライトの脚力は、黒田の想定を上回った。
「はあっ!」
「……!」
蹴りを防いでも、拳が飛んでくる。その逆もまた然り。
しかもライトのそれは異様に速い。しかも、一撃とはいえ、命に届きうる危機的状況に陥ったことにより、分泌された多量の脳内物質がライトを強化する。
そしてついに……拳が黒田に届いた。
「う――」
「ぐ――」
ゴッ、という重い音。
パァン、という鋭い音。
結果はまるでクロスカウンター。
ライトの拳は黒田の顔面に突き刺さり、黒田の掌底がライトの顔面に叩き込まれた。
渾身の一撃、意地のカウンター。そのダメージは、当事者ならぬ人間に計り知ることはできない。
鼻骨が折れ、鼻血が噴き出る。たった一撃、されど一撃。互いにダメージは甚大。
だがしかし、荒れ狂う血気が、嵐の如き闘気が、拳士としての意地が、戦闘を続行させるのだ。
「最終ラウンドを……」
「始めようか」
互いに体勢を整える。
余力は十分。身体の芯にまで響くダメージはあるが、戦闘続行どころか日常生活にも問題はない。
その力を全て一撃に込め、全身全霊を叩きつける。
それが、二人が考えていることだった。
「……」
「……」
二人の呼吸音が会場に響く。
観客たちは固唾を飲んで見守る。
そして、ついに二人が動く。
「はぁっ!」
「しゃあっ」
グローブの最大出力による、モンスタートラックとの正面衝突が如き拳。
二つの拳が激突せず、すれ違い、互いの顔面へと向かう――
「――」
――だが、真剣勝負の中において、黒田はためらった。ためらってしまった。
ライトの顔面に、中高一本拳を叩き込むことをためらった。
「――はぁぁぁぁっ!」
それは致命的な隙となり、中高一本拳が届くよりも速く、ライトの拳が黒田を捉えた。
ろくな受け身もできないまま顔面を殴り飛ばされた黒田は、広い会場を数十メートルも吹き飛ばされ……ようやく停止した。
「ふ、普通の医療チーム!」
「急げッ」
勝負は決した。
リーチの呼びかけにより、灘・真・神影流から送り込まれた普通の医療チームが黒田へ駆け寄る。
だが、黒田を介抱しようとした瞬間、信じられないことが起こった。
「黒田さんが……」
「立ったあっ」
まるで生まれたての小鹿のように震える脚を、自ら殴りつけることで強引に矯正する。
だが、明らかに戦える状態ではない。気力だけで立っているに等しい状態だ。普通の医療チームが何もできず見守るしかない中、黒田はライトへと歩みを進める。
そして、ゆっくりとライトの前までやってくると、拳を差し出した。
「どうや、楽しかったか?」
「ああ……あんた、最高だ」
「ふふ、そうか……それは、良かっ……た……」
黒田が、倒れた。
勝負は決し、またもや雲嶽山の勝利となった。
「しゃあっ! 勝利!」
「これで二勝目! やりましたね!」
普通の医療チームに黒田が運ばれていく。
適当観のメンバーは喜びをあらわにし――灘のメンバーは更なる闘気を滾らせた。
「道場長、後がありませんよ」
「……黒田はよくやってくれた。文句はない。だが次負けると困る」
黒田の闘いについては認めるものの、勝敗に関してはやや不満なリーチだった。
次の勝負の行方は……!?