高濃度猿侵蝕体“マネキン・モブ”   作:アースゴース

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この澄輝坪では4つのグループが勢力争いをしているんだ 7

 「これより、大将戦となります。灘、ポンペイさん!」

 「元とはいえ、覇者の力を見せてやる」

 

 ポンペイが剣を構える。

 大柄な体格に見合う剣だ。事実、ポンペイは老いてなおエーテリアスを一撃で両断する怪力を持つ。

 覇者は伊達ではない。郊外で最も勇敢で、強いからこそ覇者なのだ。

 

 「雲嶽山、橘福福さん!」

 「どんな人が相手でも負けませんよぉ!」

 

 ガオーッと可愛らしい声を上げる福福。

 しかし、その声量は可愛らしさとは程遠い。遠く離れたギャラリーの鼓膜すら、ビリビリと揺らすのだ。

 そして、側には彼女のパートナーでもある機械の虎“虎威(フーウェイ)”が。もちろん、虎威も出場を認められている。

 

 「実質2対1か。懐かしいな、変則的な決闘を思い出す」

 「むぅー、もしかしてズルいと思ってます? 虎威、あなたは待機を――」

 「いいや、むしろそいつも一緒にいることをおすすめする」

 「えっ?」

 

 ブルルと、ポンペイのバイクが独りでに動き、彼の側で停止する。

 だが、それだけでは終わらない。そのバイクに乗っていた小さな影が、ちょこんと飛び降りた。

 

 「あ! あなたは」

 「どうも! 私は讃頌会の司教から善の心だけ分離した、光の司祭です!!」

 

 本物の司教と同じ格好はそのまま、まるで幼児のような大きさになった光の司祭。

 ミアズマを操る術に長けた、マネモブにとってはポンペイと並ぶ新たなエーテリアス仲間である。

 

 「え、まさかほんとにタッグマッチですか?」

 「半分はそうかもしれませんね。でも私は直接的に手を出しません。ただポンペイさんが全力を出せるようにするだけですよ!」

 「“ポンペイさん”の“全力”!?」

 

 そんな光の司祭は、持っていた剣をかざした。

 剣の大きさは司教時代からの据え置きなので、ちょっとよろめいていたが。

 すると、その剣からミアズマが放たれる。

 

 「えぇぇぇぇ!?」

 『ウアアアア侵蝕ダーッ助ケテクレーッ』

 

 突然の蛮行に最大限の警戒をあらわにする選手たち。

 しかし、一度でもミアズマを見たことがある人物なら分かるはずだ。

 このミアズマは、あまり禍々しくないし邪悪でもないと。

 

 「何ですかこのミアズマ!?」

 「これは私がミアズマで遊んでいる時に、偶然にも編み出した秘技、その名も“ある程度の空間なら一時的にホロウと同じにするゾーン”です」

 

 この“ある程度の空間なら一時的にホロウと同じにするゾーン”は、清浄なるミアズマによって空間を侵蝕し、一時的にホロウ的な空間を作り出す技である。

 これによって、会場はホロウと化した。

 

 「やはりお前は危険すぎる。せめて人里離れた場所で暮らすべきだ」

 

 人工的にホロウを作り出すというあまりにも危険すぎる技を見た儀玄は、厳しい顔で光の司祭を睨む。

 TOPSも讃頌会の連中も度肝を抜かれる事態だろう。しかし、光の司祭は仮面越しでも分かるほどの困り顔で言った。

 

 「あ、今のでほとんどの力を使い果たしたから……しばらくはホロウで皆さんにミアズマシールドを提供するしかできないです」

 「えぇ……」

 「光の司祭何やってんだよえーっ」

 

 もちろん、これほどの技を何の代償も無しに使える訳がない。

 光の司祭は、分離してからしばらくコツコツと溜めたミアズマエネルギーのほとんどを使い果たしていた。

 

 「と、とにかく危険性はないんですね?」

 「はい。エーテリアスが活動できるレベルですよ。ということでポンペイさん!」

 「膳立てご苦労。後で好きなものを何でも買ってやろう」

 「やったー!」

 

 ポンペイが前に出る。

 

 「小娘、橘福福と言ったな」

 「はい、そうですけど?」

 「俺は確かに灘・真・神影流の助っ人として来ている……だが本当は違う!」

 

 ギュッ、と手を握り締める。

 

 「本当は違う!?」

 「そう、その目的とは――」

 

 ポンペイの心臓が激しく脈動をする。

 そこから作り出されるのは、高濃度の烈性エーテル。

 ガソリンよりもなお可燃性が高く、ニトロよりも爆発力の高いエーテルがポンペイを包む。

 

 「おおおお!!」

 「うああああポンペイさんが侵蝕されてます!」

 

 ポンペイの身体とバイクが、結晶へ包まれる。

 まごうことなき異化の前兆、すでに手遅れの状態である。

 そして、エーテルが臨界点まで達すると――

 

 「ハァッ!」

 

 結晶を打ち砕き、内部から現れたのは侵蝕体。

 前方へ突き出た勇ましい角、バイクのパーツと融合し、激しいエンジン音を鳴らす肉体。

 郊外で最も恐れられた覇者は、究極の侵蝕体となる。

 

 『これが俺の全力だ』

 「わあぁ……」

 「ポンペイがエーテリアスになっちまったあっ」

 「この力……そうか。異様な気配もこれが原因だったのか」

 

 雲嶽山は驚愕をあらわにし。

 

 「ポンペイさんがエーテリアスに!?」

 「……そうやったな。灘・真・神影流の宗主はエーテリアスや」

 

 灘・真・神影流は納得を持ち。

 

 「すげぇな、あんなカッコいい奴見たことねぇぜ!」

 『トダーホドジャナイケドカッコイイノハ認メルヤンケ』

 

 その他の選手たちは楽しみを。

 

 「……」

 

 そして死を呼ぶ青の騎士……!

 

 「ポンペイさんはエーテリアスだったんですか?」

 『ああ。俺は灘・真・神影流の協力者でもあり、マネモブと光の司祭……“エーテリアス陣営”からの刺客でもある』

 「エーテリアス陣営!?」

 『そうとも。ここで自我を持ち、なおかつ人を襲わないエーテリアスの地位向上のため、力を示すために来たのだ』

 

 ポンペイの目的は、自我を持つエーテリアスの地位向上のためである。

 ちなみに自我などと呼べるものを持っているのはマネモブ、ポンペイ、光の司祭くらいである。

 死神医療チームは怪しいが……どのみち人類の敵なのでノーカンだ。

 

 『誰も彼もが胸に誇りを抱いて戦っている。俺も、マネモブも例外ではない』

 「そうですね、その気持ち分かります」

 『俺は、心までエーテリアスになったつもりはないが、自分が人間ではないことくらい理解できるし受け入れている。だがな、それによって愚弄されることを許すつもりはない』

 

 ポンペイから感じられるのは、激しい怒り……のみではなく、もっと複雑な想いだった。

 

 『俺、マネモブ、光の司祭。自我を持つエーテリアスが続々と現れたのだ。俺達以外が出てこないとは限らん。そんな奴らが迫害を受け、命を落とさぬよう……俺が力を示し、地位を盤石なものとするのだ!!』

 

 そのために、ポンペイは来た。

 見も知らぬ、出会うかも分からない者を助けるほどじゃなければ覇者ではないのだ。

 

 「もっと平和な道があるのでは!? デモとか……」

 『活動家になるつもりはない。それはマネモブに任せる。俺はどこまで行っても郊外の男、力こそ全ての掟よ!!』

 

 裏工作はマネモブの得意とするところ。

 様々な人脈を頼れば、エーテリアスの人権活動を行うこともできる。

 しかし、それはしない。徹底的に力を示さなければ、プライドが許さない。

 

 『……少々、長くなったな』

 「いえ! あなたの想いは伝わりましたよ! あたしも全身全霊でお相手します!」

 『ありがたい。素晴らしき、誇りある決闘にしよう』

 

 手段はともかく、その想いに共感した福福は俄然やる気を出した。

 彼女もメリケンサックから爪を出し、構えを取った。

 

 「うむ。今だ、鳴らせ」

 「よしっ、ゴングを鳴ら――」

 「ゴングを鳴らせっ戦闘開始だっ」

 「えっ、なにっ、な……なんだあっ」

 

 カァン!

 リーチがゴングを鳴らすよりも早く、儀玄がゴングを鳴らした。

 

 『受けてみよッ! 覇者の一撃をッ!』

 

 ポンペイが元々持っていた剣が変化した“背牙の剣”、バイクが変形した“轟旋の鉄槌”の変則二刀流。

 大型エーテリアスでさえ真っ二つになり、粉々に粉砕される威力を秘めたそれが、容赦なく福福へと振るわれる。

 

 「ひゃーすっごいですねえ! 負けてられませんよ!」

 

 そんな破壊の嵐を恐れることなく、福福が果敢に剣戟の中へ飛び込んだ。

 

 「攻撃も何もかも全部ブッ飛ばしちゃいますよー!」

 『ぬぅ! 何たる技巧!』

 

 福福は連続で引っかきを繰り出しつつ、ポンペイの攻撃を弾いている。

 これは雲嶽山で鍛え上げた技と肉体、虎のシリオン特有の怪力がなせる技である。

 

 『ならばこれはどうだ!』

 「うああああ」

 

 ポンペイが、轟旋の鉄槌を地面へと叩きつける。

 すると、エーテルが活性化し、地面から吹き上がる。

 離脱が間に合わなかった福福が巻き込まれた。

 

 『まだだ!』

 「うーっ……しゃあっ」

 『なにっ』

 

 ダウンし倒れ伏したかと思われた福福だが、すぐさま立ち上がり、虎威の上に乗った。

 

 「虎威、GO!」

 『ぐ は っ』

 

 高速回転した虎威が、そのままポンペイへと突っ込む。

 硬い物体と正面衝突したポンペイは、思わず片膝をついた。

 

 「まだまだですよ!」

 『やるな福福!』

 

 福福はジャンプしてポンペイへと飛び乗り、そこから追撃を加えた。

 掴みやすい角を掴み、頭部を引っかき続ける。もちろんそれを看過するポンペイではなく、あえて武器を捨て捕らえようと魔の手を伸ばす。

 しかし、すばしっこくポンペイの身体を這いまわる福福は中々捕まらない。

 

 「角取ったり!」

 『覇者に角など不要っ、圧倒的な強ささえあればいい!』

 

 ついに猛攻に耐えきれず、とどめに蹴られたことでポンペイの角が折れる。

 それを見ていたギャラリーの内、ポンペイを知る者は違和感を抱いた。

 

 「……何か弱くない?」

 「そうだね、前見た時よりも一回り小さいし」

 

 そう、弱いのだ。

 ではなぜ弱体化しているのか。その問に答えたのは光の司祭だった。

 

 「恐らく、エーテル濃度が関係していますね」

 「エーテル濃度が?」

 「はい。ポンペイさんは見ての通り超高危険度エーテリアスです。ですが、そんなエーテリアスってどんなところにいますか?」

 「……ホロウの奥地、か」

 「はい。つまるところ、エーテル濃度が足りなくて弱体化してるんです。今のポンペイさんは本気ではあるけれど、全力が出せていないんです」

 

 ポンペイは全力ではない。

 だからといって、それと互角の福福が弱いということを意味しない。

 なぜなら福福もハンデを背負っているからだ。

 

 (やばっ、ラーメン食べ過ぎちゃいました……吐きそうです!)

 

 福福は試合前にラーメンを大量に食べてしまい、食べ過ぎ状態に陥っていた。

 そのため、本来のパフォーマンスを出せていないのだ。その満腹度……普段の5倍。

 

 「でも諦めませんよ!」

 『その意気や良し!』

 

 これ以上は本当に吐きそうだと、福福が勝負に出る。

 ポンペイも口にはしていないが、周囲のエーテル濃度は急激に下がりつつあり、これ以上は侵蝕体としての形態を保てなくなる。

 ここが勝負どころだ。

 

 「しゃあっ」

 『なにっ』

 

 ポンペイから跳躍し、離脱する福福。

 その際に、福福はへし折った角を投げつけた。

 

 ポンペイの角は、弱体化した状態でもそれなりに頑丈だ。

 そんなものが、シリオンの強肩に物を言わせて投擲される。

 つまり、警戒すべき即席の武器である。

 

 「隙ありっ!」

 

 ポンペイはそれを素早く打ち払うが、戦闘の中では大きな隙になった。

 その隙を逃す福福ではない。彼女は虎威の尻尾を掴み、流星錘として、ポンペイの頭部に振り下ろした。

 

 『窮地とは急地! これを食らえ!』

 

 ポンペイはすぐに鉄槌を投擲した。

 弱体化しつつあり、全力を込められたものとは到底言えないが、それでも人間の意識を刈り取るには十分な威力を秘めている。

 

 「はうっ」

 『はぐっ』

 

 果たして、二つの鈍器が互いにぶつかるのは同時であった。

 ポンペイは頭部に流星錐を受け、福福は鉄槌が命中。両者が崩れ落ちる中、命運を分けたのは――

 

 『覇者に……判定勝ちはないッ!』

 

 地面を踏み込み、何とか耐えたポンペイだった。

 剣を杖代わりに、息を切らしている。やがて周囲のミアズマ・エーテルが消滅し、ポンペイも元の姿へと戻る。

 しかし、その姿はボロボロで血も流れているような満身創痍。

 

 対して福福は、ほとんど無傷で目を回しているようだった。

 

 「俺の、勝ちだ」

 「勝者、ポンペイ!」

 「う お お お お」

 

 灘・真・神影流の勝利に、リーチが湧きたつ。

 復帰した黒田や清丸、助っ人のガルシアとアンビーもどことなく嬉しそうだ。

 

 「つまり、この試合……」

 「試合の結果、引き分けとなります!」

 「えっ」

 

 引き分けという言葉に、リーチの顔が固まる。

 

 「え? だって……」

 「いや、道場長。結果はこっち視点じゃ負け、負け、勝ち、引き分け、勝ちですよ。完璧なまでに引き分けですよ」

 「そっかぁ……」

 

 しょんぼりとするリーチ。

 だが、黒田がその方を叩く。

 

 「ええやないかリーチちゃん。ここにいる全員、全力で闘った結果や」

 「黒田……」

 「俺達はこの試合のおかげで戦友になれたんやで。これも適当観との試合を提案したリーチちゃんのおかげや」

 

 黒田の言葉に、ファイター達が頷いた。

 この試合のおかげで芽生えた絆もある。勝敗のみが結果ではなかったのだ。

 

 「それに、引き分けなら禍根を残すこともないでしょうし」

 「ちょっとずっこいぞその考え」

 

 何はともあれ、これにて試合は結果だけ見れば最高の状態で終了した。

 ファイター達の和気あいあいとした雰囲気に、勝敗などどうでも良くなったリーチは声を張り上げた。

 

 「よっしゃあ! 打ち上げ行く奴集合だーっ! もちろん灘・真・神影流の奢りで」

 「よし行こう!」

 

 こうして、打ち上げが開催されることになった。

 

 「そうだ、澄輝坪では近々“伏汐祭”があるんだ。皆で飛箋を飛ばさないか?」

 「伏汐祭? 飛箋?」

 

 試合は終わったが、まだまだ楽しいイベントはある。

 新エリー都は今日も平和だ。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 『は―――っ限界ギリギリで生きていくから人生が面白いのよ』

 

 ミアズマキイチとの戦いで重症を負ったマネモブは、ラマニアンホロウで身を休めていた。

 周囲には複数のエーテリアスも座っており、酒瓶が転がっている。どうやらホロウに遺棄された酒を飲んでいるらしい。

 

 『Mannequin=Mob DAIJOUBU? JUUSHOU WO KOETA JUUSYOU DAKEDO』

 『ああ』『どうということはない』

 

 グビッ、とエーテル溶液を飲み干すマネモブ。

 マネモブは、極力回復に努めながらミアズマを刈っているのだ。

 

 『NAA Mannequin=Mob MUKASHIHA KONOJIKI NI NARUTO HISEN GA TONNDEKITANNADAZE』

 『もうすでに大怪我してますよね』

 『Eッ』

 

 酒を飲んでいたエーテリアスの上から、何かが降ってくる。

 それは、人々の願いを乗せた飛箋だった。それも大量に。

 

 『UAAAA HISENDAーッ TASUKETEKUREーッ』

 『ウアアア炎ダーッ助ケテクレーッ』

 

 突然の飛箋に混乱するエーテリアス達であった。

 新エリー都は今日も平和である。

 

 

 




光の司祭がエーテリアス!?

全身ほぼミアズマでできてるからエーテリアスだろ
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