高濃度猿侵蝕体“マネキン・モブ”   作:アースゴース

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波の花たちが遅れてきた~っ戦闘開始だ――GO――っ 1

 試合や伏汐祭から数日が経ったある日のこと。

 適当観に、ポーセルメックス主催の食事会の招待状が送られてきた。

 しかし、藩とアキラとリン以外は用事があって出席できず、この三人で向かうこととなった。

 

 「うわ~これ全部食べ放題なの!?」

 「腹いっぱい食っていくか!」

 

 会場となる飲茶仙で、食べ放題飲み放題。

 彼らはポーセルメックスにそこまで良い感情を抱いてはいなかったが、この時は素直に感謝して料理を楽しむことにした。

 

 「お兄ちゃん、私ちょっと他の所見てくるね」

 「ああ、気を付けて」

 

 来客は、誰も彼もが仕立ての良い服装の上品な者ばかり。

 人によってははビジネスの話をしていたりもするが、険悪な雰囲気はなく、純粋に楽しんでもいるようだった。

 だが、そんな上品な客の中に、異彩を放つ者が。

 

 「あれ? ガルシア?」

 「……」

 

 スーツではなく、黒いシャツにカーゴパンツの大男。

 半袖のシャツからのぞく腕は、はち切れんばかりの筋骨隆々。

 彼は灘・真・神影流の賓客としてきた、エドガード・C・ガルシア28号である。

 

 「何か意外だね。ガルシアがこんなパーティーに来るなんて。それにスーツとかじゃないし……」

 「……」

 

 ガルシアは相変わらず無表情だが、どことなくバツが悪そうだ。

 ガルシアは思い返す。こんな日のためにツイッギーが注文してくれたスーツがあったのだが、姉妹達によって木端微塵に破壊されてしまったことを。

 姉妹達はめちゃくちゃ怒られていたので、ガルシアは気にしていないと言ったのだが。

 

 「じ、事情があるんだね」

 「……」

 

 ガルシアは目を伏せた。

 

 「そうだ、ガルシア。あっちにお兄ちゃんもいるんだ! 一緒に食べよ!」

 「……」

 

 リンに無抵抗で手を引かれるガルシアの姿は、滑稽に見えただろう。

 リンは、大きな弟ができたみたいだと密かに思っていた。友人であるアンビーの妹であるツイッギーの弟……つまり、自分にとっても弟ではないか? リンはそう思った。

 

 「お兄ちゃん、ガルシアを連れてきたよ」

 「ガルシア? 珍しいね……その、なんというか、君がこういった場所に来るイメージがない」

 「……」

 

 自分もそう思っている。ガルシアは頷いた。

 

 「ねぇ、早く食べようよ~!」

 「そうだね。ガルシアも、何にする?」

 「スキ……ヤキ……」

 「えっとぉ、すき焼きは無いかなぁ……」

 

 知ってた。ダメ元で言っただけのガルシアだった。

 1パーセントでも成功確率があれば諦めないガルシアだったが、どうやらすき焼きがパーティー会場にある確率はゼロのようだ。

 そんな彼の目は、会場を歩く人が身分証を落としたのを発見した。

 

 「あ、身分証だ。あの人が落としたんだね」

 「……」

 「すみません! 落としましたよ!」

 「あら……!?」

 

 落とし主は、ウサギのシリオンらしき少女。

 少女は、リンの声がした方を見たのに大柄なガルシアがいたことに面食らったようだが、何とか持ち直して身分証を受け取った。

 

 「あ、ありがとうなのだわ」

 「……」

 「ガルシア、ほら、何か言ってあげて」

 「オキ……ナワ……」

 「お、オキナワ?」

 「お気になさらずって言いたかったんだと思うよ」

 「そ、そう」

 「うわぁ~調査監督の人? 同い年くらいなのに専門家だなんて!」

 「……! 失礼、その……用事があって……」

 

 何の悪気もない、何気ないリンの言葉。

 しかし、少女にとっては思うところがあったようで、足早に去ってしまった。

 リンはしょんぼりとしてしまった。

 

 「ちょっと馴れ馴れしかったかな……」

 「リン……」

 「オキ……ナワ……」

 

 リンを慰めるアキラとガルシア。

 ちょうどその時、ガルシアは何者かが近づいてくることを察知した。

 かなり訓練された、軍人……しかし、殺気も何もなかったので、ガルシアは振り向くだけにとどめた。

 

 「本当に分からないかな?」

 「あなたは確か、軍の研究顧問の……」

 「イゾルデだ」

 

 イゾルデと名乗った、緑髪の女性。

 防衛軍で研究顧問をしている研究者らしい。

 

 「あの子も私も……体のいいお飾りに過ぎない」

 「それは、どういうことです?」

 

 イゾルデが語ったのは、調査監督チームの何人かは、市政や防衛軍にたいする対外的なアピールのために集められたそれなりの地位や知名度を持つだけの人間である……ということ。

 ウサギの少女も、イゾルデもその一人なのであると。

 

 「ふーん、そういうことかぁ」

 「ふうん、そういうことか」

 「オキ……ナワ……」

 「そういうことだ……こちらからも質問、よろしいかな?」

 「あ、はいどうぞ」

 

 イゾルデが見たのは、ガルシア。

 

 「彼は……ガルシアというのか?」

 「はい、ガルシア……エドガード・C・ガルシアですけど」

 

 わざと28号は言わなかった。

 

 「! やはりか、では()()は!?」

 「か、型番!?」

 

 二人はドキッとした。

 こんなところにいるので今更だが、ガルシア・シリーズが防衛軍にバレるのはまずいのではないか。

 バーコードも隠していないので、本当に今更だが。

 

 「……」

 「ガルシア……」

 

 ガルシアはそっとシャツを捲り、型番を見せた。

 左胸に刻印されているのは、変わらず28という数字。

 

 「28号だと……生きて……いや、まさか、そんなバカな……」

 「……あの、ガルシアに何かするつもりなら、覚悟した方がいいですよ」

 

 驚愕した表情で何かを呟くイゾルデ。

 アキラは、ガルシアとリンを庇うようにそっと前へ出た。

 すると、イゾルデは気づいたようで、まさか、といった表情を浮かべた。

 

 「誓って言うが、彼に何かをするつもりはない……君達は、()()が何者か知っているか?」

 「ガルシアはかつて防衛軍にて、()()()()()()()()、ということは」

 「全て知っているようだ。内密にして欲しい話だが、ガルシアを生む技術が漏洩したという話があってな……もしや、彼はそれなんじゃないかと」

 「……」

 「だとしたら、そこのガルシアは防衛軍とは何の関係もないということ。仮に防衛軍が、一般市民である彼に何かしたとあれば、罪もない一般人を狙ったということ。普通に醜聞だ」

 

 ガルシアはすでに身分証を得ており、灘・真・神影流道場で暮らしている。

 つまり、普通に一般市民であるということ。

 

 「何もしないし、させない。お飾りとは言ったがこれでも顔だけは広くてね、色々なところに顔が利く。それに……」

 「それに?」

 「ナダ・シン・シンカゲリュウを敵に回したくはない、というのが防衛軍の総意になるだろうね」

 「確かに……」

 

 灘・真・神影流は、様々なところに根を張っている。

 今や多くの人がエクササイズを学び、防衛軍の中にも門弟がいるほどである。

 TOPSの中には灘・真・神影流の高弟達によって不利な証拠を掴まれている企業もある……という噂も存在するほどだ。

 

 「分かりました、信じますよ」

 「助かる。それともう一つ、これは個人的なアドバイスだが……バーコードくらいは隠した方がいい」

 「……ありがとうございます。隠しておきますよ」

 「それがいい。では、私は行こう。良いパーティーを」

 

 イゾルデは去っていった。

 アキラとリンは、胸をなでおろした。

 

 「はぁーっ、心臓止まるかと思った」

 「ガルシアのことを知ってる人がいるとは」

 「オキ……ナワ……」

 「あ、ありがとうガルシア」

 

 ガルシアは二人を慰めた。

 何があろうと二人は守るし、防衛軍が相手でもなりふり構わず戦ってやる。そんな覚悟がガルシアにあった。

 もっとも、イゾルデが何かをしてくることは無いだろうとも思っていたが。

 

 そんな時、またもや歩み寄る人物が。

 

 「おやおやこれは、適当観のアキラ先生とリン先生、それにナダ・シン・シンカゲリュウのガルシア先生ではありませんか」

 「ダミアンさん」

 

 常に眉間にシワを寄せた、イケてる青年……ダミアン・ブラックウッドである。

 

 「まさか来ていただけるとは」

 「期待してなかったような言い方だね」

 「いえいえそのような! ですが、我々が適当観の皆様から良く思われていないと言うのは、理解しております。来ていただけただけでも心から感謝しておりますとも」

 「ふーん……」

 

 超胡散臭いが、彼が抗侵蝕薬をほぼタダで配布したのも事実だ。

 リンの疑いの眼も何のその。しかし、問題はガルシアの方だった。

 

 「試合、拝見したしましたよ、ガルシア先生。まさかあの“冷徹無情の戦闘機械”、“比類なき殺人マシーン”の触れ込みで治安局に配属されたトダーに、それも無手で勝ってしまわれるとは」

 「……」

 

 仮にも治安局のロボットにその異名はどうなんだと思うガルシア。

 しかし、表情には出さないものの褒められて悪い気はしない……絆されるかどうかというのは別として。

 微動だにせず、無表情なガルシアに対し、ダミアンは少し困惑した表情を見せた。

 

 「あ、あの……私が何か粗相をいたしましたでしょうか? もし私めのせいでご不快な思いをさせてしまったというのであれば謝罪いたしますが……」

 「あー、大丈夫だよダミアンさん。ガルシアは無口で無表情なだけなんだ。ね、ガルシア?」

 「……」

 

 ガルシアがそっと目を伏せた。

 彼なりの、『誤解させてしまい申し訳ない』である。

 

 「そうでしたか。それならば安心いたしました。では、引き続きお楽しみください……」

 「……?」

 

 話は終わったものの、少しソワソワした様子のダミアン。

 

 「どうしたの? まだ何か?」

 「え、ええ……コホン。その、私、格闘技の鑑賞が趣味でして……ガルシア様のサインをくださいませんか? すでに我龍院様、黒田様からはいただいておりまして……」

 「……」

 

 こくりと頷いたガルシアは手渡された紙とペンに、サラサラとサインを書いた。 

 

 「感謝いたします」

 

 ガ シ ッ

 二人は固い握手を結んだ。

 ダミアンは上機嫌な様子で帰って行った。

 

 「何か意外だね、お兄ちゃん。ダミアンさんが格闘技好きだなんて」

 「そうだね。もっと優雅な趣味をしてるかと」

 「……」

 

 闇のフィクサーは得てして闇の格闘試合が好きなものなのだが……ガルシアは黙っていた。

 

 「――お集まりの皆様、この度は衛非地区の安全調査にご参加いただくため――」

 

 そうこうしている内に、ステージ上ではポーセルメックスの共同CEOであるルクローとフェロクスが話をしていた。

 ガルシアは全くの初見だが、二人はテレビで見たことがあるようであれこれ話している。ダミアンも、二人のCEOに板挟みにされている苦労を語っていた。

 

 そんな時だった。

 明らかに話の流れが変わったのは。

 

 「では、ここで本日のためにお呼びした特別ゲストをご紹介したします」

 「えっ」

 「なにっ」

 「な……なんだあっ」

 

 ステージからヌッと現れた大柄な黒人男性。

 シミ一つない真っ白なエプロンと帽子を被ったその男性は――

 

 「紹介いたします。“お菓子屋スミス”です」

 「お、お菓子屋スミスだ!?」

 「まさかお菓子屋スミスのスイーツを食べられるなんて……!」

 

 新エリー都を代表するパティシエの登場に、会場は大いに盛り上がった。

 そして賓客の胃袋と血糖値とコレステロールと体重は絶命した。

 

 

 




ガルシア28号は二人存在する!

防衛軍時代に作られて、既に死んだ28号
ツイッギーによって新たに作られた28号



 【お菓子屋スミス】
 ・新エリー都で最も優れたパティシエを挙げるなら、必ず候補に挙がる。
 スミスは金や名誉のためにお菓子を作るんじゃない。多くの人々が『おいしい』と感じることに喜びを感じるんだ。
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