「エーテル爆薬!?」
アリスを襲った男を尋問した結果得られたのは、驚愕の事実だった。
ホロウに運び込まれたやたら重い断熱材も、かまちーがアリスを驚かせた件で調査をしてた時に見たクレーンも、全てエーテル爆薬の密輸のためだ。
「つまりはあの人、アリスにエーテル爆薬を知られたと勘違いして口封じをしようとしたってことなの?」
「でも私は箱の中身なんて見ていないのだわ。罪を重ねるためにさらなる罪を重ねるなんて……人生の悲哀を感じるのだわ」
端的に言うと、男は『かまちーに驚かされたアリスの悲鳴を、エーテル爆薬を見た時の悲鳴であると勘違いした』ということである。
罪を重ねる時、人は冷静ではいられない。発覚するかもしれないという懐疑心と焦りが、杜撰なミスを生むのだ。
だが、そこで現れたのは新たなる疑問だ。
リンはその答えを知るべく藩に疑問を投げかけた。
「で、あの人は誰の指示で爆薬なんて運んでたの? まさか愉快犯ってわけじゃでしょ?」
「奴に指示していたのは、ポーセルメックスにいる上司だ。だが奴は下っ端、爆薬の使い道は教えられていないらしい」
男は使い捨てであるという残酷な事実。しかし、アリスを襲おうとしたという事実と爆薬を搬入していたという事実は消えない。
「ただホロウへの搬入は二週間くらい続いているそうでな。搬入された爆薬の量を計算してみたんだよ。その結果、適当観と灘・真・神影流道場をまとめて百棟吹っ飛ばしてもおつりがくることが分かった」
だが、ポーセルメックスは今までバレずに大量の爆薬の搬入に成功していた。
その現時点での総重量……500億キロトン。
「もしかしてポーセルメックスにはその爆薬で“跡形もなく消したい何か”があるんじゃない? やってたとしても違法行為とか横領とか単純な犯罪くらいだと思ってたけど……話がデカくなりすぎでしょ」
「流石は大企業の闇ってところだな」
ポーセルメックスはTOPSの内のP担当……などということはめちゃくちゃ無い。あくまでTOPS傘下の大企業だ。
とはいえ、一般人が想像を働かせたとて、その闇ははかり知ることができないだろう。
「ああ、そうだ。奴から聞いたいい知らせと悪い知らせがあるんだが……どっちから聞きたい?」
藩は男からある事実を聞き出していた。
一方はこちらに都合が悪く、もう一方は都合が良い。
「んじゃあ悪い知らせから。いい知らせで相殺できて気持ち的にはハッピーハッピーだし」
「あい分かった。悪い知らせは、明日で搬入は終わりってことだ。いい知らせは、あの坊主がIDとパスワードを吐いたことだ。これで、お前さん達の言っていたエレベーターに入れるだろう」
リン達にとっては幸運なことに、男はエレベーターのパスワードなどを知っていたのだ。
末端にそれを教えるとは。必要なこととは言え杜撰というべきか、堅実に人材と設備を管理しているからこその判断なのか。あるいは、発覚してもトカゲの尻尾切りにして、全てを爆破してしまえばいいという余裕だろうか。
搬入は明日で止まってしまうものの、それまでに入り込めば問題は無い。ポーセルメックスにどのような思惑があるにせよ、これで必要なものはそろった。
「ふうん、タイムリミットは明日ということか。どんなことを企てているにせよ、僕らに時間は残されていないようだ。皆はどうする?」
一歩引いた立場で話を聞いていたアキラが言った。
尋問に参加した藩、真斗、ガルシア、パヴェル。そして様々な場所を奔走しホロウ帰りのリン、アリス、柚葉。
どちらにも参加しておらず、冷静な立場であるアキラはまとめ役にピッタリだった。
「タイムフィールド家を継ぐ者からすれば、権力を使い悪事を働く輩は許せないのだわ」
これからどうするかという話に、いち早く反応を見せたのは、意外なことにアリスだった。
「……」
「な、何か?」
柚葉がアリスを真剣な表情で見ている。
「ビビリで優柔不断、しかも意外と頑固……な~んて思ってたけど、意外と熱血キャラなタイプ?」
「熱血キャラ!?」
「あー、柚葉が何を言いてぇかっつうとだな……タイムフィールド家のお嬢様が、何の義理も無いしむしろイタズラの被害者なのに手ぇ貸してくれてマジ感謝してるってことだ。当然オレも感謝してる」
「真斗、勝手に代弁するのはやめてくれる」
真斗も柚葉もアリスに感謝している。
腕の立つ剣術の使い手であり、ホロウの知識も豊富。良家のお嬢様で物腰は丁寧、仲間を見捨てない誇り高きシリオン……はっきり言って人間としては最高峰の部類に入る。
「結論は出たみたいだね。じゃあ明日の早朝にもっかいホロウへ行こう!」
適当観、パエトーンのアキラとリン、怪啖屋がホロウ探索を支える……ある意味最強だ。
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「ニトロフューエルと申します」
「ありがとう、パヴェルさん」
アキラと真斗は、女子の部屋から帰ってきていた。
そして、改めて女子が
「……」
「……」
男連中は静かな夜を過ごしていた。それも、ガルシアは無口であり、真斗は少し緊張していて、パヴェルも初対面の相手に距離を測りかねているからである。
ここでもアキラのコミュ力が爆発、強烈な閃光を発する。
「ガルシア、今日はリン達といろんな場所に行って……楽しかったかい?」
「……」
楽しい、のだろうか。
感情そのものが薄いガルシアにはよく分からない。だが、少なくとも彼自身は、悪い気はしていないことは確かだった。
ガルシアが小さく頷いたのを見ると、アキラも笑みを浮かべて頷いた。
「真斗君、今日はありがとう。リンが迷惑をかけなかったかい?」
「いやぁ、迷惑だなんてとんでもない! むしろめちゃくちゃ助かったっスね。忌憚のない意見ってやつっス」
真斗は、リンのホロウをナビゲーションする技術をシンプルに凄いと思っていた。
自分と柚葉だけではこうも上手くは行かなかっただろうし、真相に気づくこともできなかっただろう。
「パヴェルさんも、ありがとうございました。アリスを助けてくれて」
「いえ、私は彼らの作戦に便乗したに過ぎないのです。私がいなくとも、彼らなら上手くやったでしょう」
パヴェルは偶然あの場に居合わせただけだ。
自分がいなくても何とかなったことは、彼自身が一番よく理解している。
「それでも感謝は受け取ってほしい」
「オレからも礼を言わせてください。ありがとうございました!」
「恐縮であルと申します」
それでも真斗はもちろん、アキラも感謝している。
知り合いが襲われようとした時に大人が力を貸してくれたという状況は、心強いものだったからだ。
正面きっての戦闘を得意とするより、まるで暗殺者のようなパヴェルはあの場面にうってつけの存在だった。
「それにしても、パヴェルさんはどうしてヴィクトリア家政に?」
「ヴィクトリア家政? ってのは、金持ち専属のスゲーハウスキーパーっスよね?」
「……そうですね。吹聴することでは決してありませんが、聞かれて隠すようなことでもありません。老いぼれのつまらない身の上話でよろしければ、いくらでもお話ししましょう」
椅子に腰かけたパヴェルが語りだす。
「私はかつて……タイムフィールド家にお仕えしておりました」
「あー、さっきお嬢様が話してたっスね。なんでもアーノルドさんって人と並んで凄腕の執事だったとか」
「おや、ご存じでしたか。なら話は早い。私はアリスお嬢様の父君、ライオネル様の執事でした。あの時は、アーノルドの奴と執事長の地位をかけてしのぎを削っていましたよ」
パヴェルはかつて、タイムフィールド家で執事として働いていた。
「でも、やめてしまったんですよね」
「はい。切っかけはライオネル様の死でした。私はあの時、ライオネル様をお守りすることができず、アリスお嬢様に、辛い思いを……っ」
「交通事故か……」
辞職の切っかけとなったのは、雇い主であるライオネルの死。
パヴェルの腕が震えていた。その現場に居合わせた彼は、己の無力に誰よりも怒りを抱いていた。
「交通事故……ええ、
「その……辛いことを思い出させてしまい、申し訳ない」
「いえ、この気持ちは私の問題です。一生付き合っていかねばならないものなのです」
震えは止まっていた。
年齢を重ねた賜物だろうか、感情のコントロールに長けているのかもしれない。
「だからお嬢様とちょっと気まずそうにしてたんスか」
「あの事件の後、私は全ての業務の引き継ぎを行い、タイムフィールド家を後にしました」
「そして、ヴィクトリア家政と出会ったということか」
「はい。タイムフィールド家を去った私は、新エリー都中を転々としながら、飲食店などで接客業をしておりました」
執事を退職したパヴェルは、様々な場所で働いていたようだ。
郊外の酒場、衛非地区の飲食店、ルミナスクエアのカラオケなど……職を転々としていた。
「そこで出会ったのが……カリン・ウィクスさんでした。偶然にも彼女の仕事現場に居合わせた私は、執事としての経験を買われ、ヴィクトリア家政の一員となったのです」
「へぇ、カリンが……」
ある日、彼が出会ったのがカリン・ウィクス。
カリンの仕事を目撃したパヴェルは、彼女がある問題をチェーンソーによる力技で解決しようとしてたのを見て居られず、つい手助けをした。
その際に見せた執事としての高い技能を見たカリンが即座にライカンへ連絡したことで、彼はヴィクトリア家政の一員となった。
「以上が私の人生です。どうです、聞いて面白いものではなかったでしょう」
「今の話を聞いて面白いと笑える人間がいたら、その人とは友達になれそうにないな」
それぞれ、感じ入るものはあった。
だが、パヴェル
「私からも、質問をよろしいでしょうか?」
「質問? 何でもいいですよ」
パヴェルが手元の茶を一口飲み、また口を開いた。
「この世の中に、“奇跡”ってあると思いますか?」
「“奇跡”? また難しい質問だ。僕の答えは、そうだな――」
アキラの、奇跡への答えとは――
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「パスワードが“110011”!? 杜撰にもほどがあるでしょ」
「恐らく担当者が面倒に思ったのだと考えられるのだわ」
翌日。再びホロウを訪れたリン、アリス、柚葉、真斗、ガルシアの一行は、エレベーターにパスワードを打ち込む。
そのパスワードは、まるでセキュリティ意識の存在しない総当たりで解けそうなものだった。
「まあいくらポーセルメックスの連中がガバガバでもいいでしょ。ほら、早く乗ろ!」
一行は、エレベーターに乗り、新たなエリアへと向かった――
彼らがエレベーターの奥へ侵入した後。
しばらくして、その人影はやってきた。
『いやーついに来たのォR国』『ですねぇ』
その人影はエレベーターを操作し、乗り込んだ。
『クククク待ってろよ』『“生まれてきてすいません”って思いをさせてやるよ』
何の気配に誘われたのか、男は迷いなくホロウを進んだ。
この男の正体は……!?
ヴィクトリア家政がホラー映画モチーフなら、ここのパヴェルは恐らく洋画の殺人鬼がモチーフになると考えられる
何でワシはパヴェルの過去を掘り下げてるのか教えてくれよ