高濃度猿侵蝕体“マネキン・モブ”   作:アースゴース

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本当は怖いマネモブ


穏やかな夜を良しとしろ……鬼龍のように 2

 作戦中にマネモブと出会い、色々あって駐屯地へ戻ってきたリン。

 そこでもロレンツ少将に挨拶したり、Fairyの力で機密情報をちょろまかしたり、理不尽にも外出制限がなされたりした後。

 駐屯地はざわめきに包まれていた。

 

 「何があったんだろう?」

 

 皆の視線の先を見ると、一体の軍用ボンプがピクピクと痙攣していた。

 生きてはいるようだが、故障しているらしい。このボンプを囲み、オルペウスと鬼火、シードが話していた。

 

 『ホロウから連れて帰ってきたのか?』

 「うん。このボンプちゃんがいた小隊が壊滅的被害を受けたみたい。僕はこの子の救難信号を受けて、急いで現場に行ったんだ」

 「その小隊の兵士達って、ま……まさか」

 「何かうーうー唸ってたり、叫んだりしてたよ。全員連れ帰ったけどすぐ救護室行きになったよ」

 「ううん、どういうことでありますか?」

 

 シードの話によると、被害を受けた小隊は全員が戦闘どころか再起不能な状態であるものの、全員生存しているらしい。

 一体何があったと言うのか。事故にしては奇妙で、エーテリアスや讃頌会に負けたというのなら生きているはずがない。

 

 『何があったのかは分からんが、このボンプを修理すれば分かることだ』

 「でも嬉しいであります、死者が一人もいないなんて。で、技術スタッフはどこでありますか?」

 「私が技術スタッフです」

 

 許可を得たリンは、手際よくボンプの修理を始めた。

 外傷も、内部の損傷も見当たらないが、とにかくバグが激しい。

 

 「うーん、コード:GENMA? 複雑すぎるバグだね」

 『直せないのか?』

 「いや、もう直ったよ」

 

 ボンプの痙攣は止まり、穏やかに目を閉じている。

 

 「この子には悪いけど、記録映像だけ見ちゃおうか」

 『そうだな』

 

 この場にいる誰もが、何があったのか気になっていた……

 

 

 

 Now Loading......

 

 

 

 瓦礫、ミアズマ、侵蝕。

 エーテリアスがいないことがせめてもの救いだろうか。

 作戦行動中の兵士達はラマニアンホロウを慎重に進んでいた。

 

 「各部隊、警戒を強化しろ……」

 

 隊長らしき兵士が、部下達に警戒を促す。

 何故なら、前方に大量のミアズマの塊を確認したからだ。

 中からエーテリアスが出て来てもおかしくない。最大限の警戒はネズミ一匹たりとも逃さない……だが、奴らは堂々とやってくる。

 

 「なんだあ、ミアズマの中から人間か?」

 「エーテリアスだろ」

 

 ミアズマから、人間と見紛うほどのエーテリアスがはい出てきたのだ。

 その見た目は完全に人型であり……彼ら、防衛軍がよく知る姿をしていた。

 

 「オイ……何で……防衛軍の制服を……着てる」

 

 それは防衛軍の制服を着ていた。

 兵士達の着ているものより旧式の……まさに旧都陥落の日の装備であることに気づいた者はいるのだろうか。

 いたかもしれない。しかし、武装する謎の兵士達によって大量の弾幕が張られたことで、誰もそれを気にする余裕などなくなった。

 

 「何なんだあいつらは!? 武装してるぞ、撃ってくる!」

 「敵襲ー! 敵襲でーす!」

 「新エリー都魂を見せてやる!」

 

 状況は非常に悪い。

 目の前だけではなく、他の方向からも囲まれている。だが彼らは士気高く……生き残るために決死の抵抗に打って出た。

 しかし、死を恐れず弾切れもないミアズマの兵士と人間では分が悪いなどという話ではなかった。彼らは徐々に追い込まれていく。

 

 「うああああ……」

 「な……なんだあっ」

 「ミアズマだっ、奴らはミアズマの弾丸を撃ち込んできているっ」

 

 撃たれた者にも酷い侵蝕症状が出る。

 今のところまだ死者はいない。だが一秒後には隣にいる者が死んでいるかもしれない極限状態。

 

 「ぬおおおお讃頌会の腐れチンカス共がっ」

 「殺される前に殺してやるよっ讃頌会ッ」

 

 混乱状態に陥る兵士達。

 このままでは死者が出る。頭数が減れば弾幕に押し負けて死ぬだろう。

 

 「うああああ誰でもいいから助けてくれーッ」

 

 戦う兵士達の想い全てを体現した悲痛な叫びは、ホロウに虚しく木霊する――

 

 『灘神影流“弾丸(たま)すべり”』

 

 ことはなく。

 兵士の一人に向かっていた不浄の弾丸は、明後日の方向へと消え去った。

 

 「あ、あいつはまさか……」

 「どうしてこんなところに……」

 

 それが一歩踏み出すと霞のように消え去り、ミアズマ兵士達の前へと現れる。

 武術を嗜み、タナトスの瞬間移動を見た者なら分かってしまうだろう。それが純粋な身体能力と磨き抜かれた技によってなされたものであると。

 

 『命がけで武術を追求する者からしたら』『武術や格闘技を悪用し冒涜する輩は許せないです』

 「ま、マネモブだ! マネキン・モブが来た!」

 

 兵士達を背に戦うのは、マネモブだった。

 

 『何が目的でこんな真似をした?』

 

 パァンという音が鳴り響く度、ミアズマ兵士が崩れ落ち消滅する。

 拳が振るわれ、蹴りが放たれる。その一発一発でが命中するだけでミアズマ兵士達が宙を舞う。

 手刀は装備を斬り裂き内部を抉り、掌底は内部から爆散させる。

 

 銃口がマネモブを狙うが、それよりも速くマネモブの姿が掻き消え、ミアズマ兵士の後ろに回る。

 ミアズマ兵士は一人、また一人と数を減らしていき、やがて数えるほどとなった。

 

 ワンパンチ・ワンキル。まさしく格闘家として理想的な大立ち回りであり、銃と素手の差を埋めた達人だった。

 かのエーテリアスの武術家は、装備に身を包んだ屈強な兵士達を蹂躙する――それこそ、旧都陥落の日と同様に。

 

 「あ、ああ……」

 

 兵士達――ロレンツ少将の子飼いの兵士達の中にも、旧都陥落を生き延びた者がいたのかもしれない。

 生き延びた彼らが今見せられているのは、あの日の再現。まさにエーテリアスが防衛軍の兵士を皆殺しにしていく地獄の再現に他ならなかった。

 やがて最後のミアズマ兵士が消え去ると、マネモブは兵士達に近づいた。

 

 『熹一さんあきらめないで』『い…今ひきあげますから…』

 「よ、寄るな化け物ォッ」

 「おいっ、よせっ」

 

 バンッ

 トラウマに駆られた兵士の一人が引き金を引く。

 

 『はうっ』『なぜ…?』

 

 放たれた弾丸はマネモブに命中。

 マネモブは、訳も分からないと言った様子で倒れ伏し――消滅した。

 

 「ま、マネモブを仕留めてやったぜ」

 「お、おい」

 「別にいいだろうが、どうせコイツもターゲット……殺すしかないだろうが」

 

 実を言うと、彼ら兵士達はロレンツ少将の命によりマネモブを仕留めることも任務としていた。

 その目的が何なのかは分からない。何故なら、これから彼らは口も聞けない酷い状態になるのだから。

 

 『危ねぇ』『残像をひと蹴りで消しやがった』

 「えっ」

 『幻魔拳ッ』

 

 兵士が崩れ落ちる。

 

 『幻魔拳ッ』

 「はうっ」

 

 兵士が崩れ落ちる。

 

 「な、なんだ!? 何なんだ一体!?」

 『幻魔拳ッ』

 「あっ」

 

 兵士が崩れ落ちる。

 

 「た、助けてくれ――」

 『幻魔拳ッ』

 「う あ あ あ あ」

 

 瞬く間に気を失い、倒れ伏していく兵士達。

 やがて動いている者がボンプだけになると、まるで何もない空間から現れるようにマネモブが姿を現した。

 

 『焦るなよ』『今殺してやっから』

 「ンナッ!?」

 

 まさにマネキンそのもの……一切の表情を排した顔が迫る。

 そして、恐怖に怯えるボンプに、文字通りの魔の手が伸ばされた。

 

 『幻魔拳ッ』

 「ン ナ ア ア ア ア」

 

 ボンプが倒れ、痙攣する。

 意識がないのを確認したマネモブは、しばらくその場にとどまった。

 

 『待て』『面白い奴が現れた』『“ビッグ・ハンド”だ』

 

 空からビッグ・シードがやってくると、マネモブは姿を消し――映像はそこで切れた。

 

 

 

 Now Loading......

 

 

 

 「えぇ……」

 「まさかマネモブによってやられていたとは驚きであります」

 

 部隊は、マネモブによって壊滅したというのだ。

 だが、それならば死者がいなかったことにも納得できる。

 彼女達は、この映像をイゾルデ大佐にも見せることにした。したのだが――

 

 「――」

 

 イゾルデ大佐はその顔を凄まじい形相に歪め、記録映像を見ていた。

 未だかつて……オボルス小隊の誰もがこのような顔を見たことが無かった……隊長である鬼火を除いては。

 

 『イゾルデ』

 「……ああ、すまない。私としたことが」

 

 鬼火の声により、イゾルデは眉間を揉みながら映像から目を離した。

 

 「マネモブを刺激したのがまずかったな。相手は怪物を超えた怪物、エーテリアス界きってのナチュラル・ボーン・ファイターだ。この際マネモブに全滅させられたという点には目を瞑ろう。しかし、それより気になるのはあのミアズマの兵士だ」

 『映像の最後の最後……本当にチラっとだが、讃頌会らしき者達の姿も映っている』

 

 まさかオボルス小隊の作戦がどこかから漏れているのではないか。

 イゾルデの指揮下を離れ、勝手に動いた部隊がいたのではないか。それをできるのはイゾルデの上官であるロレンツ少将だけではないか。

 しかし、何が真実でも関係ない。

 

 「すぐに攻勢に出よう」

 『プロキシ君、オルペウス、シード、トリガー、11号、そして私だ。強襲をしかけるぞ』

 

 かくしてオボルス小隊とリンは、讃頌会の重要拠点に強襲をしかけることになった。

 

 

 

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