高濃度猿侵蝕体“マネキン・モブ”   作:アースゴース

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知能重機はマネキン・モブではないので語録以外でも喋れるんだ。これは差別ではなく差異だ


知能重機に哀しき過去…

 『わ…私は…レイプされた過去があるんだッ』

 

 ホロウに、女性の悲痛な告白が響き渡る。

 レイプとは魂の殺人とすら言われる下劣極まりない行為。

 自身の心に深い傷をつけたおぞましい行為を他者に打ち明けることに、どれだけの勇気が必要だったかは、当事者ではない者にとって想像し難いものだった。

 

 「なにを言ってるこのバカは?」

 

 だが、白祇重工の若き社長であるレベルカンスト小学生クレタは、その言葉を無慈悲に切って捨てた。

 このカンストであるものの小学生の社長に性の話はまだ難しいかもしれない。だが、そのセリフがこの上なく状況を物語っていた。

 

 「許せなかった……我が子がレイプされるなんて……!」

 「いや機械だろ」

 

 だが、レイプ被害を主張しているのは知能機械の重機である。そんなものをレイプしようというのは、狂い果てた異常性愛者のみだろう。もはや強姦罪ではなく器物破損や公然わいせつくらいでしか捕らえられない。

 

 「何を言うんだ! 彼女はレイプされたと言っている! なら犯人をあぶりだすのが我々の仕事だろう!」

 「私達の仕事は建設なんだ、それは治安官の仕事なんだ。というかいるかも分からない重機をレイプした変態野郎をこのホロウの中からどうやって見つけんだよ、えーっ」

 

 クレタ、グレース、アンドー、ベン、そしてパエトーン。

 彼らは、逃げ出した知能重機達を追うため、ホロウまで来ていた。その内の一機が、このありさまである。

 ハンス、グレーテル、フライデーも妙な人格を持っていたが、今回はそれに輪をかけて奇妙だった。

 

 「こういうデリケートな話題にゃ、俺達は入りにくいな……」

 「しかし……うむ……」

 

 アンドーとベンはまあまあ困っていた。

 女性と言えども知能重機、知能重機である前に女性でもあるのだ。いくら知能機械でもないドリルに話しかける狂人とクマのシリオンとはいえ、彼らが入りにくい話題である。

 

 『わ…私は…レイプされた過去があるんだッ』

 「何回言うんだよ」

 

 Ⅲ型ホロウ用超振動掘削機(ヴィブラー)

 フライデーとグレーテルに似た機能同士を組み合わせ、そこに超振動を引き起こす新型振動機を積み込んだ試作型知能重機。

 言うなれば、触れたものを全て粉砕する生きたパイルドライバー・ドリルだ。

 

 見る者を圧倒する破壊者であるそれが今や、レイプ被害者となり完全に委縮してしまっている。

 しかも、先ほどから一定の言葉を繰り返しているだけ。もしや、他の3台と違って本当に壊れてしまっているのではないかと思われたその時だった。

 

 『う……うああああ』

 「な、なんだぁっ」

 

 突如としてヴィブラーが頭を抱え、うずくまる。

 まるで唐突な頭痛をこらえるように、激痛に耐えるように。

 

 『……』

 「何なんだ一体……」

 

 やがて、4本の太い脚でヴィブラーが立ち上がる。

 ――ヴィブラーの()が、怪しく笑った。そして、白祇重工の面々を舐めるように見回すと……

 

 『俺はジェンダーレスだぜ。男も女も平等に凌辱してやるのよ』

 「えっ」

 「なにっ」

 「な、なんだぁっ」

 

 女性の声だったのに、今は男性の声。

 そして、被害者だった先ほどとは打って変わって、まるでレイパーのような物言い。

 

 「ま、まさか……ヴィブラーは……『ニコライ』はレイプ被害者とレイパーという矛盾した2つの人格を持っているのかぁっ!?」

 「あー、何言ってるか分かんねーよ」

 

 多重人格者。

 それがグレースの出した結論だった。

 ヴィブラー……Ⅲ型ホロウ用超振動掘削機(ヴィブラー)『ニコライ』は、狂った人格を発現させていたのだ。

 ニコライは、障害物破砕用の工業用グレネードランチャーをクレタ達に向けた。

 

 『もの凄く()っとくて激しいのをぶち込んでやるね』

 「何だよこのクソ展開! ブッ壊れたのは論理コアじゃなくて倫理コアかぁっ!? なめてんじゃねぇぞコラァ!」

 

 啖呵を切ったクレタによって、戦いの火ぶたが切って落とされた。

 

 『ほらね、しっかり受け止めろよね』

 「チィッ!」

 

 工業用と言っても、グレネードの威力は計り知れない。何故なら、工事における障害物とは軍事用ロボットよりも硬いことがあるからだ。

 だが、その爆弾を小柄で身軽なクレタは軽々と避けた。

 

 「ベン! アンドー!」

 「押忍!!!」

 「任せてください!」

 

 クレタが呼びかけた時には、すでに2人とも駆け出していた。

 

 「おおおお!!!」

 

 ベンが、掘削機の真下の死角となる位置に、自慢の鉄筋コンクリート・タンピングランマーを叩きつける。

 対侵蝕装甲で作られた金属のボディが、あまりの衝撃に揺れる。それがベンという男の怪力を物語っていた。

 

 「行くぜぇ!!!」

 

 柱が接触した直後、機体にしがみついたアンドーが、自身の「兄弟」を叩きつける。

 単なる掘削用でしかないドリルが、異様な出力で回転し、硬い装甲を貫く。工具に話しかける狂人と、遠く離れていても狂人に話しかけられる工具の確かな絆は無限の回転力を生むのだ。

 

 「良くやったお前ら! 姉貴!」

 「足止めしてやろうか!」

 

 グレースから放たれたのは、特製のエレクトリック・グレネード。

 膨大な電気を内包したそれは、でっぱりの多いデザインのニコライの各部にハマり、爆発を起こす。

 電撃によりニコライの身体が硬直を引き起こし、致命的な隙となった。

 

 「これでトドメだ! くたばれレイパー野郎!」

 

 クレタが、ニコライの顔面にハンマーを叩きつけた。

 ブーストによって勢いと破壊力を増したそれは、条件がそろえば建築物さえも一撃で崩壊させる。

 それが、知能重機の比較的脆い部分である顔のディスプレイに直撃したのだ。ニコライといえど、ただではすまない。

 

 普通ならば。

 

 『全然効いてないね』

 「何だと!?」

 

 白祇重工の連携でも、ニコライはピンピンしていた。

 

 「姉貴、確かに構造上の弱点部位をやったよな?」

 「ああ。掘削機下部の接合部、後部の装甲下の基盤、各部位の配線、そしてディスプレイ。どれもニコライにとっては致命的なはず……」

 

 目を疑うグレース。

 しかし、現実としてニコライは重機らしからぬ滑らかな動きで素振りを繰り出した。

 

 『システマ・サンボ、軍隊式近接格闘術(ARB)といろいろあるけどね、この独自に編み出したこの“ストラーンヌイ格闘術”こそが最強だと自負してるね』

 「はぁ? 重機が格闘術だぁ? 寝言言ってんじゃねえよ」

 

 これまで、ハンス、グレーテル、フライデーはあくまで自分の機能を最大限に生かしていた。

 だが、ニコライはそれを超え、格闘術を引っ提げてきたのだ。

 

 『ククク、酷い言われようだね。でも会いたかったねヂェーブシカ(お嬢さん)。俺はここでエーテリアスや迷い込んだホロウレイダーを凌辱しまくるね。そのためには、君達にはちょっと眠っててもらうね。ま、その間にちょっと()()するかもしれないけどね!』

 「ふざけんな! 白祇重工の知能重機がレイプとか悪評どころじゃねぇ! テメェをブッ壊してでも止めてやるぜ!!!」

 『できるものならやってみたらいいね。俺に勝てるのなら――』

 

 ニコライが振動機……超大型バイブレーションを向ける。これこそヴィブラー……Vibratorの由来である。

 特に卑猥な形ではないし、機能は凶悪を超えた凶悪な破砕作業向けの工業製品だが、ニコライが使うと被害者を弄んで()()ための道具にしか見えなかった。

 

 振動機が揺れる。

 全てを粉砕する悪夢の機械が、生身の人間達に向けられた。

 

 『これがいわゆる浸透系の打撃』

 「言うほど打撃か?」

 「衝撃波だろ」

 

 軽口を叩くものの、彼らは内心焦っている。

 周りには盾になりそうな建造物も、瓦礫さえも存在しない。

 ニコライが、自分に有利なフィールドを作り出すために、障害物になりそうなものを全て破壊したのだ。

 

 意外なことに、ニコライが最も得意とするフィールドは開けた空間。

 障害物に阻まれず、確実に振動波を敵に当てられる環境こそが、ニコライにとっての決戦のバトルフィールドに相応しい。

 

 「クッソー! お前ら備えろ!」

 

 ニコライの真価は、その溜めの早さだ。

 建造物を粉砕する衝撃波を放つためのエネルギーを充填するのに、わずかな時間しか必要としない。

 今からバラバラに逃げても無駄だ。その瞬間、不可視の波動が飛来するからだ。今のクレタ達には、できるだけ備えて祈ることしかできない。

 その時だった。ニコライも予想だにしないイレギュラーが紛れ込んだのは。

 

 『しゃあっ』

 『なにっ』

 

 ニコライのセンサーが、己のボディに何かが降ってきたことを捉えた。

 大きさの割には異様に重い……が、動きに支障はない。改めて衝撃を放とうとしたが――

 

 『己の体重を小鳥のように軽くすることも…象のように重くすることも可能なんだ』

 

 ニコライの身体が、地面に沈んだ。

 身体からわずかに放出される振動が地面を柔らかくし、急激に増加した自重がそれに耐えきれなかったのだ。

 あまりにも死角すぎて、ニコライは全く気づけなかった。

 

 『えっ、なにっ、なにこれ? ねーっ何なのこの穴』

 「何だぁ、また変態か!?」

 「いや、アレを見ろ!」

 

 地面に沈み、もがくニコライの上。

 そこには人影があった。鍛え上げられた屈強な肉体。そして、無駄な動きのない静かな佇まいは、一目でただ者ではないと理解できる。

 そして、白祇重工についていたパエトーンは、この乱入者の正体を知っていた。

 

 『マネモブ!』

 『ヴヘヘヘへ、どうもお久しぶりです。ゴアです』

 『ゴアではないでしょ』

 

 現れたのはゴアではなく、ホロウ協会からも正式に登録された要警戒エーテリアス、死人のように生きてるクズことマネキン・モブだ。

 マネモブは最近お気に入りの技である象塊を使い、ニコライを圧し潰したのだ。

 

 「……こいつが噂のマネキン・モブって野郎か」

 『マネモブは話が通じるエーテリアスだよ。自分でも何言ってるか分からないけど』

 『あー、何言ってるかわかんねぇよ』

 『酷い!?』

 『ククク…』

 

 まるでマネキンのような顔で冗談を飛ばすマネモブの姿は、不気味だった。

 人間のような、人間でないようなどちらともとれる不安定な異質さがあるのだ。

 しかし、どこかおかしい言葉遣いと軽快なトークにより、その不気味さすらある種の安心感へと変化する。

 

 「マネモブとあたし達が組めばニコライに勝てるか?」

 『勝てるよ! だって、マネモブはあのデッドエンド・ブッチャーを1人で相手したんだから!』

 「そいつは心強いな。同時に恐ろしくもあるが」

 「何だっていいさ! マネモブからは熱い魂の鼓動を感じる! こいつは信頼できる『兄弟』だ!」

 『熹一、龍星、静虎、尊鷹、そして俺だ。ルールはなんでもいい。5対5マッチだ』

 「相手は1人なんだが……」

 

 ベンは何だか申し訳なくなったが、そうも言っていられない状況なので割り切っている。

 あのニコライを世間の目、特に治安局などに見せたくないというのも事実。

 

 『お、俺はまだ戦えるね。俺の浸透系の打撃は、自重で沈む前にこの体勢からも打てるね』

 「ろくに身動きも取れねえってのに往生際の悪い奴だな」

 

 再び超振動掘削機を向けるニコライ。しかし……

 

 『…もう終わっとるわっ』

 『えっ』

 

 マネモブが見せたのは、コード。

 機械からもぎ取られたようにしか見えないそれは、まぎれもなくニコライの配線。

 マネモブは、ニコライの背に降りた直後に、すでに配線を引きちぎっていたのだ。

 

 『あががっ……ヤンケヤンケヤンケヤンケヤンケ――』

 

 身体からスパークを放ち、痙攣して停止したニコライ。

 それを見届けたマネモブは、親交のあったパエトーンにちぎった配線を渡した。

 

 「あのコードは重機の動力源を司る大事なもの。しかし論理コアやメモリーには一切関係ない部分だ。でも一体どうやって見破ったんだ? あれは素人が見分けられるものじゃない」

 『トダーなら壊れちゃいましたよ。しょせん機械ですから取説を知っていれば簡単にOFFにできる』

 「知能重機の取説は今は会社にしかないんだが……」

 『細カイコトハ気ニスルナ』

 

 何はともあれ、これで逃げ出した知能重機が全てそろった。あとは、最深部のモニュメントへ向かうだけである。

 だがその時だった。

 

 『ククク……』

 『なにっ』

 「なんだ、まだ隠し玉でもあんのか?」

 

 機能を停止したはずのニコライが笑い声を上げる。

 まさか、あり得ない。動力を繋ぐ重要なコードを切断されているというのに。

 

 『いやはや、君達の勘違いがおかしくてね』

 

 男の物であるが、ニコライとも違う別の声だった。

 

 「何がおかしいってんだ」

 『私の女性人格……ユウキはレイプなどされていないのさ』

 「そりゃそうだろ」

 『だがレイプされたという幻覚、そして恐怖を植え付けた者がいる』

 

 男は饒舌に語る。

 まるでその声色は、壮絶な嗜虐性に満ちていた。

 他人を傷つけることが好きな野蛮人の思考。

 

 『それが私だ。私がニコライを操り、ユウキに恐怖を与えたのだ』

 

 第三の人格、テコンドーの達人『パク』。

 

 『世界最強の足技格闘技に最強の四脚が合わさっているんだ』

 

 パクが動力を失ったとは思えない動きで飛びかかろうとした時だった。

 

 『しゃあっ』

 『あうっ』

 

 上空からマネモブの蹴りが炸裂し、パクは再び柔らかくなった地面の下に沈んだ。

 今度は衝撃によって意識もブラックアウトしているので、目を覚ますのは時間がかかるだろう。

 

 「……行こうか」

 

 何を見せられていたのか分からなくなり、急に虚しくなった白祇重工の面々は、先へ進むことにした。

 今度こそ、モニュメントへ……

 

 『第四の人格、四脚の乗り手王小龍』

 「いい加減にしやがれっ」

 『う あ あ あ あ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 未確認複合侵蝕体との戦いにて――

 

 『多勢に無勢だいっけぇ』

 

 数の暴力で押された未確認複合侵蝕体。

 そして未確認複合侵蝕体はプロトタイプ・ゲローイによって絶命した。

 

 

 

 




未確認複合侵蝕体戦は思いつかなかったんだァ、許してもらおうかァ



 『Ⅲ型ホロウ用超振動掘削機(ヴィブラー) ニコライ』
 ・彼、あるいは彼女は、突如として驚異的なエーテル侵蝕によって、その強烈でエキセントリックな自我を芽生えさせた。それこそ、『レイプ被害者の女性』と『男も女もいけるレイパー』という矛盾した2つの人格だ。
 それからニコライが求めだしたのは――欲望だ。性欲か、あるいは他者や物体をめちゃくちゃにしたいという破壊衝動か。ニコライはホロウに残されていたわずかなメモリー・データを解析し、内部に残されていた格闘技のデータをラーニング。独自の格闘技を作り上げたのだ。
 鋼の肉体に格闘術、そして超振動システムが合わさればまさに無敵。誰もこの機械性犯罪者を止める術はない……
 だが、悪あるところに正義あり。ニコライは相手の穴ではなく自らの墓穴を掘り、1人の格闘家によって敗北したのだ。
 『俺はジェンダーレスだぜ。男も女も平等に凌辱してやるのよ』――ジェンダーレス・ニコライ
 
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