高濃度猿侵蝕体“マネキン・モブ”   作:アースゴース

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EXTRA STAGE OTON

 『唾つーけた』『そのベルトもうワシのもんや』

 「うわぁ、見つかっちゃった」

 「もうちょいマシな言い方なかったんスか?」

 

 町改め異ドリィ町から、さらに奥へと進んで行った先。

 一行はその道中に残された痕跡を辿り、ランタンベアラー……つまり、ワンダリングハンターの夢縋りへとたどりついた。

 発見の決め手はマネモブの手を使わずに金玉を動かす芸。磨き抜かれた純金製の玉に()()()()映った影が、リュシアちゃんだったのだ。

 

 「お兄さん、おとうをいじめる嫌な人だと思ってたけど、かくれんぼ得意なんだね」

 『えっ』

 「ほらマネモブ、ワンダリングハンターを撃退してるんでしょ? ワンダリングハンターはこの子のお父さんなんだよ」

 『あなたを必要以上に傷つけてしまいました』『どうか許してください』『この通りです』

 

 あまりにも綺麗なお辞儀だった。

 

 「いいよ、おとうも気にしてないって」

 『ハイデース』『あざーす』

 「まるで反省の色が見えないスね、忌憚のない意見ってやつっス」

 

 マネモブの変わり身は銃弾の速度を超えることは評判である。

 そんなやり取りをしていると、リュシアがランタンベアラーの前まで来た。

 

 「ねぇ、リュシアちゃん。提案があるんだけど、あたし達……お友達になろうよ! もちろんワンダリングハンターも一緒にね」

 「うん、いいよ。じゃあ、おとうも一緒に遊ぼうよ」

 「いいよ!」

 『ウォォォォ……』

 

 ミアズマの霧からワンダリングハンターことおとうが現れる。

 その全身に滾らせるのは、敵意ではなく闘志。“死合”ではなく“試合”が始まる。

 爽やかな心で強力無比なエーテリアスとの戦闘に入る――そう思った時だった。

 

 『いやちょっと待てよ』

 「むっ!? 皆の者、下がれ!」

 「え、ど、どうしたのマネモブ、盤岳さん?」

 「おぬしらには感じられぬか!? この闘気が!!」

 「闘気……?」

 

 マネモブと盤岳が、異様な緊張状態に入る。

 その直後に異様なプレッシャーが周囲を支配すると、真斗とベンジャミンも構えた。

 

 「ぜ、全身から嫌な汗が出たぜ」

 「冗談じゃねぇぞ、どんなバケモンが出てくんだ……」

 『エーテルエネルギーの異常な収束を確認。マスター達の位置に目標到達まで、5、4、3、2、1――』

 

 それは、音もなくやってきた。

 スーツの上からでも分かるほど筋骨隆々の肉体。大きさなら盤岳に勝るとも劣らないだろう。

 しかし、鋼のような肉体はまるで大型猫科動物のようなしなやかさも感じられる。その顔はまるで――

 

 「虎?」

 

 メガネをかけた虎だった。

 静かな佇まいとは裏腹に、凶悪な眼光が一行を睨む。

 

 『お…親父(おとん)…』

 「な……なんだあっ」

 「マネモブの……親父!?」

 「おとうの前に……おとんが現れたあっ」

 

 マネモブは、その大男をオトンと呼んだ。

 しかしマネモブはエーテリアス。まさか、それ以前の人間時代の父親だとでも言うのか。

 

 「え? 本当にマネモブのお父さんなの?」

 『いいや』

 「あ、オトンって呼ばれてるだけの人?」

 『ハイデース』

 

 だがマネモブは血縁関係をあっさり否定。

 では何者だと言うのか。

 

 「この人は一体……!?」

 『闘いを治めることを信条とする“静かなる虎”宮沢静虎!』

 「また宮沢!?」

 「宮沢……静虎!」

 

 静虎と呼ばれた虎が、眼鏡をはずしジャケットを脱いだ。

 闘気はより一層増し、暴力的なエーテルの波動が荒れ狂う。

 

 「な、何てエーテル濃度……!」

 

 静虎の眼光が一行を見据える。もはや戦いは避けられないようだ。

 

 『本気やッ!! 親父の本気の目やッ!!』

 「やるしかねぇみたいだな。だがこっちの戦力はオレ、リュシア、イドリー、ベンジャミンさん、盤岳先生、マネモブ……」

 「ウォォォォ……」

 「おとうも戦うってさ」

 「やべぇな、七対一だぜ」

 

 一行が七人に対して静虎一人、ある意味“タイイチ”だ。

 

 「でも退いてはくれないみたいだね」

 『多勢に無勢だいっけぇ』

 

 こうして、大いなる戦いが始まった。

 

 

 

 Now Loading......

 

 

 

 『焦んなよ今殺してやっから』

 

 七人の中で最も早く接敵したのはマネモブだった。

 技術と身体能力が合わさったスピードファイターでもあるマネモブが静虎と打ち合う。

 

 お互いが攻撃を一手(はじ)く度、凄まじい音が響き渡る。

 硬質の物体同士が打ち合う音。それが生身から出ているのだから驚きだ。

 

 『塊蒐拳!!』

 「!」

 

 相手があの宮沢静虎となれば手加減などしない。

 出し惜しみすらなく、選んだのはデバフを与えられる()()()技、通称“鬼の五年殺し”塊蒐拳。

 マネモブのそれは、両手ではなく片手で放つ簡易版。しかし効果は劇的で、かすりでもすればすぐに不調が出始める。

 

 当たりさえすればだが。

 

 「……」

 『まあそうだろうな』

 

 静虎は塊蒐拳を警戒し、即座にマネモブから離れた。

 だがマネモブは深追いはしない。よほどでなければ深層追猟はしない主義なのだ。

 なぜなら、この戦いは七対一であるからだ。

 

 「しゃあっ」

 「!」

 

 静虎の背後にいるのは、今まさに全力で大剣を振り下ろさんとする真斗。

 片手で大剣を振り回す怪力。肉厚な鉄塊が猛スピードで静虎の頭部に迫る。

 

 「鷹鎌脚ッ」

 

 ガ キ ィ ン

 

 「はぁっ!?」

 

 その状況にあたって静虎が繰り出したのは、あの宮沢尊鷹の技、鷹鎌脚。

 威力、精度共に尊鷹のそれには及ばないだろうが、大剣の軌道を変えるには十二分だった。

 

 「蹴りでオレの剣を逸らすなんて……力量差を見せつけられてるみたいでムカつくんスけどッ」

 

 攻撃を逸らされた程度で諦める真斗ではない。

 力量差に腹が立つと言いながらも、逸らされた中でも強引に軌道修正する凄まじい筋力を見せつけているのはいかがなものか。

 

 「……」

 「! 張り手……?」

 

 無茶苦茶に振り回される大剣を紙一重で避けていた静虎が、不意に掌底を繰り出した。

 拳でもない、掌底。衝撃はあるだろうが、自分のタフネスなら耐えられるかもしれないと一瞬考えた真斗だが……直後に考えを改めることとなる。

 

 「防いで真斗君!!」

 「ッ!?」

 

 胸を狙った掌底を、強引に腕を差し込んで防ぐ。

 腕を襲ったのは凄まじい衝撃。当たったのは腕だというのに、身体の芯がぐわんぐわんと揺れているとすら錯覚する一撃だった。

 

 「あ、ありがとうっス! リンちゃん!」

 「今のは“破心掌”って言うの!! 当たったら心臓が破裂して死ぬ技だよ!」

 「えっ」

 

 真斗の背筋に冷たい汗が流れた。

 冗談ではない。そんな軽い感覚で、即死の技を放ってくるなんて。

 

 「下がれ! 集中が乱れておる。今一度、体勢を立て直すのだ」

 「あ、ありがとよ盤岳先生」

 

 盤岳の言葉に、真斗が下がった。

 腕が回復するまでは足手まとい……とまではいかないが、戦闘能力は落ちる。

 なら、仲間に任せて回復に努めればいいからだ。

 

 「宮沢静虎! この盤岳がお相手致す!」

 「……!」

 

 比喩でなく鋼鉄の剛腕が振るわれる。

 機械人……その中でもミアズマの殲滅を目的として製造された“パージユニット・ゼロ”の本気の攻撃だ。

 しかし、静虎はその超攻撃的とも言える連打を冷静に防御していた。

 

 「何と言う守りの技!」

 「……」

 

 盤岳はこれほど守りに長けた武術家を未だかつて見たことがない。

 できることならば、敵としてではなく交流試合として闘いたかった。

 

 高速のラッシュがぶつかり合う。人間とは違う硬さを持つ盤岳は、致命的な急所への攻撃を除いて受けていた。

 だが、その中に掌底での攻撃が織り交ぜられていた。盤岳が知るのは後になるが、灘神影流は内部から破壊する攻撃手段が多数ある。

 その浸透系の打撃の数々が、徐々に盤岳を蝕んでいた。

 

 「ぬぅ……この掌底……確かに我輩は機械人。衝撃を効率よく浸透させるなら拳よりも効果的だ」

 

 盤岳は、決して無策で攻撃を受けていたわけではない。

 他の機械人と比較しても凄まじい防御性能を持つ盤岳のボディならば、並大抵の攻撃を受けられるはずだった。

 事実、多数の孔隙は受けたが戦闘に影響はない。

 

 だが、不思議だ。

 窮地に追い込まれれば攻撃性能を増すはずの盤岳が、全くその力を引き出せない。

 ゆっくりとだが確実に、命を奪いに来ている。

 

 これはまさに、命を破る攻撃だ。

 

 「みんな避けて! おとうの鉄砲がくるよ!」

 「なにっ」

 「散開ッ!」

 

 ランタンベアラーの言葉が響いた直後、男達が闘っていた場所を光弾が爆撃した。

 それはワンダリングハンターの右腕から放たれたミアズマの光弾が、まるでバルカンの銃撃のように静虎を襲ったのだ。

 

 「ウォォォォ……」

 「さっすがおとう!」

 「危ねぇ、巻き込まれるとこだったぜ」

 「何たるミアズマ濃度か……恐ろしいエーテリアスよ」

 『4000発の弾丸をぶっ放したんだぜ』『そりゃあ一発ぐらい当たるだろ』

 「確かに4000発の弾丸に当たったなんてエグイなんてものじゃないけど……」

 

 静虎がいた場所はミアズマの煙で覆われている。

 しかし、その煙が晴れる前に――ワンダリングハンターの前に、ヌッと無傷の静虎が現れた。

 

 「えっ」

 「なにっ」

 「な……なんだあっ」

 

 反射的にワンダリングハンターが全員を庇うように前に出た。

 それは元防衛軍の兵士だった頃の名残か……だが、縦一列になってしまったのが不味かった。

 

 「秘技“徹貫掌”」

 「ハウッ」

 「ぐあっ!?」

 「ぬぉっ!?」

 「おとう!?」

 「真斗君!? 盤岳先生!?」

 

 またもや掌底。

 しかし、その衝撃はワンダリングハンターをも貫通し、背後の真斗と盤岳にも命中した。

 完全なる不意打ちを喰らった三人は戦闘不能に追い込まれる……

 

 「い、一体どうして……」

 「ミアズマの煙のおかげで姿を消すことができた」

 

 静虎が重々しい声で言った。

 

 「何より灘神影流には短距離走のスピードで匍匐前進する技がある」

 『あいつすげぇな…』

 

 静虎はミアズマの煙が蔓延する中、恐ろしいスピードで匍匐前進をすることで、無傷で突破してきたのだ。

 それをこの場の誰にも気づかれずに行ったことに、マネモブは感心していた。

 

 「感心してる場合じゃねぇだろっ、こっちは一気に戦力がいなくなったんだっ」

 「!」

 

 無傷だったベンジャミンが、静虎に躍りかかる。

 マネモブ、真斗、盤岳との戦いを観察したおかげで、拳の軌道は大体読めるようになった。

 しかし、浸透する打撃は耐えて反撃するベンジャミンとの相性は悪い。ベンジャミンは攻撃を避けつつ反撃の機会をうかがうしかなかった。

 

 「何でお前が現れたかはしらねぇけどなぁ、曲がりなりにも親子の再開に水を差すことはねぇだろうがっ」

 

 肉親を失った痛みはベンジャミンには痛いほどわかる。今まで受けてきたどんな攻撃よりも痛いものだ。

 だからこそ、ベンジャミンは再開を邪魔する静虎に怒りを抱いていた。その怒りが彼を強くした。

 

 「薄皮一枚……傷つけてやったぜ」

 「……」

 『やるな熹一…』

 

 薄皮一枚、されど一枚。

 ベンジャミンは静虎を傷つけることに成功した。

 

 「このまま押し切ってやる」

 「……」

 

 ――しかし、その攻撃が静虎を本気にさせた。

 

 「跳んだ!」

 

 静虎がベンジャミンの貫手を回避するように跳んだ。

 見事な跳躍であり、ベンジャミンの孔隙が届くことは無かった。

 そこから繰り出されたのは……

 

 「蹴り……? 遅――」

 

 パ ァ ン

 

 「えっ」

 「に、兄さん!?」

 

 強烈な蹴り。

 それがベンジャミンの頭部に命中した。

 

 「な、何が起こったの!?」

 「蹴られた……のかな?」

 

 外野からは何が起こったのか分からなかった。

 しかし、マネモブにはそれが分かった。

 

 『“虎腿(タイガー・フット)”を持つ者だけが放つことができる蹴り技がある…』

 「えっ」

 『おお恐ろしや!! その蹴りの軌道は肉眼では見えぬ』

 

 その蹴り技の名は――

 

 『防御不能の蹴り技!!』『“虎腿蹴(タイガー・シュート)”』『来ると分かっていてもかわせないから至極の技よ!!』

 

 ベンジャミンが硬い床に沈む。

 彼の視点では動きがゆっくりと見えていたが、しかし避けることは叶わなかった。

 来るとわかっていても避けられない。武術の神髄を体現した技だった。

 

 「兄さん!」

 「だ、大丈夫だ……俺初めて受けたんだよね、こんな強烈な蹴り技。で、でも効いてないんだよね……」

 

 明らかな強がりだ。

 たった一撃で満身創痍である。

 だが静虎はさらなる追い打ちをかける。

 

 「破心掌」

 「え――」

 

 ――ボン、と。くぐもった音が響いた。

 まるで、体内で何かが破裂するような音だ。

 

 「が……がふっ……」

 

 その瞬間、ベンジャミンは血を吐いて倒れた。

 

 「い、今の音は……」

 『龍星の心臓がバーストしたんだッ』

 「え、そ、それって……」

 『…』

 

 マネモブは無言で首を振った。

 それはすなわち、ベンジャミンが死んだということを意味している。

 

 「に、兄さん……よくも兄さんをッ!!」

 「イドリー! 行っちゃダメ!」

 

 兄の死に怒るイドリーがハンマーを振りかざし、静虎へと迫る。

 ブースターのついた金属の塊による重い打撃は、大型エーテリアスでさえ打ち砕くだろう。

 しかし……イドリーの怪力を加味しても大振りな攻撃は、静虎にとって避けやすかった。

 

 「くっ!」

 「……」

 

 背後に回り込まれたが、イドリーにはタコの脚がある。

 それぞれが筋肉の塊のようなもので、吸盤までついている。絡め取られれば、静虎とて抜け出せるものではない。

 だが、静虎はあえて触手の中に突っ込んだ。

 

 「えっ」

 『その技はやめろ――っ』

 

 静虎がイドリーの触手を掴んだ。

 そして放ったのは……

 

 「巨蛸固(きょしょうがた)()() 獣人追猟(シリオン・ハント)

 「!? きゃあ!?」

 

 静虎の腕が、脚が、全身がイドリーの触手を絡め取る。

 巨蛸であるはずのイドリーが、さらなる巨蛸に拘束されている。

 

 「な、何なのあの技!? タコのシリオンに対する複合関節技!?」

 

 リンが驚愕する間にも、イドリーが地面に叩きつけられようとしている。

 身動きのできない状態。受け身もできず顔面を潰されようとしているのだ。

 

 「きゃあ――?」

 『年をとると何でも大袈裟に言いやがる』

 

 だが、マネモブは顔面から叩きつけられようとするイドリーを優しくキャッチ。

 そのまま身体をひねり、静虎の腕を脚で強引にクラッチしようとする。しかし、それを察知した静虎は素早く逃げ出した。

 

 「あ、ありがとう……助かったわ」

 『何でもいいですよ』『なぜ…?』

 

 仲間を助けるのはマネモブとしても当たり前だ。

 それよりも、彼には疑問だった。何故あの宮沢静虎が人を殺すような真似をするのか……

 それを見誤ったせいで、ベンジャミンが殺されてしまった。

 

 「どういうこと?」

 『灘の宮沢静虎』『誠実な人格者だと聞いています』『女の人とは闘えません』『なぜ…?』

 「ええと、女の人とは戦わないんだねあの人?」

 『そうですけど何か?』『!』

 

 静虎は女性に手を出さない。

 しかし、今まさに無情にイドリーを倒そうとした理由に思い至った。

 

 『宮沢静虎の正体みたり!! 人格者として知られる宮沢静虎の本性は血も涙もない鬼畜のような男だったのかあっ!!』

 「な、何だってー!?」

 

 目の前の静虎はもはや人格者宮沢静虎ではない。

 静寂の中で無慈悲に人を狩る“静かなる虎”静虎なのだ。

 

 『ボケ――ッ』『ペラ(私語)まわしてんじゃねえ―――ッ』

 

 そうと分かればマネモブの行動は早かった。

 一瞬にして静虎に肉薄する……単なる移動ではない。

 見えないタックルにより、静虎の軸足を奪い取る。

 

 「マネモブが脚を取った!」

 「いや、見て。静虎がもう反撃に入ってる」

 

 静虎はあえて倒れながら、マネモブの頭部に拳を振り下ろした。

 しかし、マネモブはそれを後ろに回り込みなが技をかける。毒蛭かと思われたが、それすらもブラフのようで、一瞬気を取られた静虎も抵抗していたが、やがて技をかけられた。

 

 『きたあっ』『悪霊に足関節やっ』『灘神影流“蟹鋏固(かにばさみがた)め”』

 「マネモブの技が決まった。あの技ならふくらはぎが潰されて耐えがたい痛みになる」

 

 これで足を破壊されたかと思われた時だった。

 

 『なにっ』

 「そんなっ、足関節の状態から強引に腕の力で!?」

 

 静虎は腕の力だけで逆立ちのような状態となり、逆にマネモブを地面に叩きつけようとした。

 

 『チィッ』

 

 マネモブはすぐに技を解除し離脱しようとする。

 しかし、静虎はすでにマネモブの腕を掴んでいた。

 

 「灘神影流……」

 『なにっ』

 

 まるで、蛇が絡むように腕と脚を拘束される。

 マネモブ自身の脚が、マネモブの腕をロックしているのだ。

 

 「“(たすき)固め”」

 『う が あ あ あ あ』

 「マネモブが自分の脚で腕を極められてる!」

 「こ、これが灘神影流の複合関節……!」

 

 地獄の関節技から抜け出す方法は……

 

 『“象塊”』

 「ぐっ……」

 

 マネモブの体重が増した。

 いきなり増した体重に、わずかロックが緩んだ。

 その隙にマネモブは抜け出した。ちゃっかりと脚を掴んで。

 

 『これならどやっ』『“膝十字”やっ』

 「!」

 

 単なる膝十字。

 これも難なく身体をひねって静虎は抜け出す。

 お互いに離れた状態。そこで繰り出されたのは……

 

 「風当身」

 『えっ』『う あ あ あ あ』

 

 風当身。

 それは攻撃を目的にしたものではなく、吹き飛ばしを目的にしたもの。

 マネモブはあえなく場外へと吹き飛ばさた。しばらくは戻ってこれないだろう。

 

 「……」

 「リュシア! こ、こっちに来るよ!」

 「ウォォォォ……」

 「おとうが復活したよ!」

 「頑張っておとう!」

 

 リュシア二人の治療の甲斐もあり、ワンダリングハンターが戦線復帰した。

 

 「ウォォォォ!!」

 「……」

 

 ワンダリングハンターが肥大化した右腕から光弾を乱射し、静虎へと迫る。

 しかし静虎は冷静に光弾に対処した。

 

 「弾丸すべり」

 「ウォォッ!!」

 

 光弾が静虎の体表を滑り去っていくのにも構わず、ワンダリングハンターは右腕を振りかざし、静虎へ叩きつけた。

 並の人間なら挽肉だろうが、静虎は並ではない。

 

 懐に入った静虎は、片腕で右腕の根本を抑え込んで威力を完全に殺した。

 そしてそのまま空いた片手で――

 

 「破心掌」

 「ウォ……」

 「「おとう!!」」

 

 リュシアの悲鳴が木霊する。

 ――ワンダリングハンターはエーテリアスだ。もう元には戻らない。

 だが、娘の悲鳴を聞いて立ち上がらない父親などいない。

 

 「ウォォォォッ!!」

 「――!?」

 

 全くのノーマークだった左腕でのパンチ。

 全ては愛娘、リュシアのために――

 

 「……!!」

 

 技も何もないパンチだったが、静虎を数メートル以上も吹き飛ばした。

 しかし、あまり効いていない。すぐさま反撃に入ろうとする静虎だったが――その腹部を

 

 「がっ……!?」

 

 手が貫いた。

 

 「えっ」

 「そ、そんな……」

 

 イドリーの悲鳴じみた声は、驚愕だった。

 ゆっくりと引き抜かれた手と共に、静虎が崩れ落ちる。

 その背後にいた人物があらわになった。

 

 「俺こう見えてれっきとしたタコのシリオンなんだよね。心臓三つと脳ミソを九つ持ってるんだよね。あんたが潰したのはその内の一つってわけ。はっきり言うけど生命活動になんの支障もないよ」

 

 ベンジャミン・マーフィーはタコのシリオンである。

 まるでシリオンには見えなかったが、それが外見の話。

 体内はまさにタコそのものだったのだ。

 

 「に、兄さん!」

 「おっとぉ……心配かけたな、ドリィ……」

 

 兄妹が抱き合う。

 

 「良かった……ベンジャミンさんが無事……無事? で」

 『美しい兄弟愛に感動しております』

 「うわっ、マネモブ戻ってきてたの?」

 

 いつの間にかマネモブが戻ってきており、真斗や盤岳を介抱していた。

 

 「す、すまねぇ。無様さらしたぜ」

 「かたじけない……」

 『ボケ――ッ』『ペラ(私語)まわしてんじゃねえ―――ッ』

 「そ、そんな危険な状態なんスか……?」

 『ククク…』

 「いや、冗談やめなよマネモブ。怖がってるじゃん」

 『申し訳ありませんでした』

 

 治療でひと悶着あったりもしたが、一件落着だ。

 

 「ウォォォォ……」

 「おとう……」

 

 だが、徹貫掌と破心掌を受けたワンダリングハンターは重症だった。

 

 「君達、帰っちゃうの?」

 「うん」

 「そっか……」

 

 リュシアは何かを悟っていた。

 リュシア同士、感じる者があったのだろう。

 

 「悲しいの?」

 「うん……せっかくお友達になれたのに」

 「そっかぁ。でも大丈夫だよ、エーテリアスは死なないんだ。エーテルになって、“エーテルの海”に帰るんだ」

 「そうだね……夢を通してエーテルの海に繋がり、大切な人ともまた会える……」

 

 それが“夜守り人”一族の伝承だ。

 だが……ああ。若い彼女には納得できなかった。

 せっかく出会えた友、そして父親との別れは。

 

 「……こ、こんなの納得できない。マネモブお願い、おとうを治療してあげて」

 『ほらよ』

 「えっ」

 「ウォ?」

 

 治療はあまりにも早かった。

 マネモブがワンダリングハンターのツボらしき場所をいくつか突き、最後に気を送り込んだことで治療は完了。

 ワンダリングハンターは消滅せず、その場に残った。

 

 「オオ」

 「何がおおだよ」

 「これはおおでしょ」

 

 驚いたように自身の身体を確認するワンダリングハンターも、まるで人間に戻ったかのような反応だ。

 

 「そっか。お別れは辛いもんね」

 「勝手なことしてごめんね……」

 「いいよ。でも、これからどうしよう」

 

 ランタンベアラー、ワンダリングハンターの名の通り、無限にホロウの荒野を彷徨い歩くのか。

 そんな時、イドリーが声を上げた。

 

 「だったら二人とも、あの町に住まない?」

 「えっ」

 「いいの? おとうもリュシアも、町の人にいっぱい迷惑かけちゃったよ」

 「大丈夫よ。私が言えば、受け入れてくれるわ」

 

 そのそも、被害を受けた夢縋り達はまだ実体がなかった頃なので不死身だ。

 なので、被害もほぼゼロである。

 

 「ありがとう」

 「ウォ」

 「まあなんにせよこれで一件落着だね! さあ町に戻って宴会の続きだあっ」

 

 こうしてまた一つ、絆が守られたのである。

 

 新エリー都は今日も平和だ。

 

 

 




何でゼンゼロで関節技の応酬をしているこのバカは?

 【リュシアちゃん&おとう】
 ・最近、賑わいを見せている『異ドリィ町』。
 そこでは人を襲わなければエーテリアスさえも受け入れると言う。この親子は、最初のテストケースと言っても過言ではない。
 ホロウを彷徨い歩く親子は、温かな絆と居場所を見つけたのだ。

 『やっほ、遊びに来たよ!』
 『あ、お姉ちゃんだ』――血のつながっていない時間差で生まれた生き別れの双子の姉妹(同一人物)の会話



 【“静かなる虎”宮沢静虎】
 ・虎はなぜ強いのか? それは最初から強いからである。
 この宮沢静虎という男も例にもれず『虎』だった。

 しかし、何の因果か彼は敵対者を冷徹非情に叩きのめす鬼畜のような男として現れた。
 掌底は心臓を破壊し、衝撃は貫通し、関節技は身体をバラバラに破壊し尽くす。守りの静虎と呼ばれた男の姿はどこにもなく、ただ静かに得物を狩る虎だけがそこにいた。
 彼は本物だったのか、それとも誰かの夢縋りだったのか。それは今でも定かではない。

 『データの調整、これでいいですか?』
 『ウオオオオ親父をバカにすなあっ』――戦闘データの調整をミスした際の会話より抜粋

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