高濃度猿侵蝕体“マネキン・モブ”   作:アースゴース

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(この身に「希望」を)灯せ――っ 4

 ゴリラ・ボンプとの戦いにおいて、ロックスプリングに油断はなかった。

 相手は型番こそ違うものの、自身と同じ純戦闘用ボンプ……しかも、整備の行き届いた、全盛期に近いそれである。

 

 『ホ ギ ャ ア ア ア ア』

 『流石はゴリラ・ボンプ。破壊力は凄まじいね、破壊力はね』

 

 剛腕。そう表現する他ない鉄拳が空気を破裂させる轟音を立てて振るわれる。

 ブースター機能によって加速したそれが当たれば、大抵のエーテリアスなら文字通り荼毘に付せるだろう。

 

 『当たらなければどうということはない!』

 『ホギャアアアア!!』

 

 ロックスプリングが明確にゴリラ・ボンプより勝っている点が、その飛行能力だ。

 対してゴリラ・ボンプはテューポーン・シリーズとも関わりのある、銃火器を排した格闘戦特化の機体である。

 空を飛べばゴリラ・ボンプに手出しすることはできない。

 

 『一方的に攻撃される恐怖を教えてあげよう』

 

 凄まじいガトリングの連射がゴリラ・ボンプを襲う。

 例え整備不良でも、ロックスプリングはミス・サンブリンガー手ずから製作された戦闘用ボンプだ。その銃弾の威力一つとっても、他の戦闘機械とは一線を画す。

 

 『ホギャアア!?』

 『効果を確認……でも、完全に装甲を抜けるわけではないか』

 

 確かにゴリラ・ボンプは傷ついている。だがそれだけだ。

 貫通さえしていないし、咄嗟にガードに使った腕に関してはほぼ無傷だ。

 

 『正直なめてたよ、格闘戦特化型の装甲を』

 

 ロックスプリングの電子頭脳は、銃の効き目が薄いことを即座に判断すると危険な格闘戦への移行を決断した。

 しかし、それよりも速くゴリラ・ボンプが反撃を開始する。

 

 『ホ ギ ャ ア』

 『ッ! 投擲! 文明の産物たる僕達ボンプが聞いて呆れるね……』

 

 ゴリラ・ボンプが剛腕を地面に叩きつける。

 それだけで軽い地響きが巻き起こり、大小さまざまな大きさの岩が出現した。

 無造作にそれらを掴んだゴリラ・ボンプは、驚異的な強肩によってそれを投げたのだ。

 

 『くっ……ただの岩でもこの威力か……』

 

 投擲はロックスプリングに無視し難いダメージを与えた。

 全盛期ならいざ知らず、今のロックスプリングには単なる岩でさえ脅威だった。

 

 『だけど、虎穴に入らずんば虎子を得ず。僕は君に勝つためにあえて危険に踏み込む!』

 

 だが、ロックスプリングはあえて(つぶて)の嵐に飛び込んだ。

 自身の分身たる巨神を信じ、鉄拳に全力をチャージする。そして、瓦礫が当たるかどうかというタイミングで一気に解き放ちながら前進したのだ。

 

 『ホギャアア!!』

 『君達ほどじゃないが、格闘戦は得意なんだ』

 

 ゴリラに相応しい、凄まじい速度の右ストレート。

 だが、ロックスプリングは神がかった操作でそれを紙一重で(かわ)し、剛腕を掴み取った。

 

 『これが一本背負い!』

 『ホギャッ――ホ ギ ャ ア ア ア ア』

 『なにっ』

 

 確かに一本背負いが決まった。ゴリラ・ボンプは頭部から地面に叩きつけられるはずだった。

 しかし、ゴリラ・ボンプは叩きつけられる前にもう片方の腕で地面を受け止めたのだ。そして、逆に脚でロックスプリングの腕を絡め取る。そこから腕を掴み……まるでアームロックのような関節技へと移行した。

 

 『くっ……関節技を使うゴリラ・ボンプは初めて見たな……』

 

 ミシミシと鋼鉄の巨人の肉体が悲鳴を上げる。

 ロックスプリングの視界には危険を示すアラートが鳴り響く。

 しかし、あくまで彼は冷静に対処した。

 

 『青溟剣とまではいかないが、僕も名剣を持ってるんだ』

 

 ロックスプリングの腕から、エネルギーブレードが展開される。

 それは戦闘用機械ですら容易に溶断する威力を秘めた光の剣。

 

 『ホギャッ――』

 

 ブレードはゴリラ・ボンプの頭部をかすめ、一部の装甲を溶断する。

 しかし、ゴリラ・ボンプはすぐさま頑丈な左手でブレードを掴み、思い切りへし折った。

 

 『これが破壊されるなんてね……想定済みだよ』

 『ホ――』

 

 その左腕を狙い、ロックスプリングのカメラ・アイからビームが発射された。

 高威力のそれは頑丈なはずの左腕を貫通し、確かなダメージを与える。そして、力が緩んだその隙に必殺技を叩き込む。

 

 『君達にはこの機能はついてなかったろう?』

 

 バシュッ

 それは、ロックスプリングの腕がはずれた音だ。

 しかし単に分離したのではない。ブースターによって加速したそれは、腕を破壊しようとするゴリラ・ボンプの怪力さえも利用してさらなる加速力を得たことで、ゴリラ・ボンプの顔面を強く打ち付けた。

 

 『ホギャアアアア!?』

 『ロケットパンチは僕らのようなタイプの特権さ』

 

 ロックスプリングに限らないが、一部の戦闘用ボンプにはロケットパンチがある。

 顔面を強打しのけ反ったゴリラ・ボンプの隙を逃さず、ロックスプリングは火炎を放った。

 

 ロケットパンチにより失った右腕、肘の側面あたりから放たれるそれは、容赦なく鋼の賢者を焼き払う。

 おまけに無数のミサイルがゴリラ・ボンプを襲い、装甲を削り取った。

 

 『ホギャ――』

 『これは人類の絶望を焼き払う獄炎。微睡(まどろ)みを温め、未来を照らす』

 

 鋼鉄が赤熱し、溶解する。そこをミサイルが破壊し尽くす。

 頑丈なゴリラ・ボンプでさえも破壊の嵐から逃れることができない。事実、そうなるはずだった。

 

 『おっほっほほホオーウホッホアアー!!!』

 『なにっ』

 

 ドガッ

 金属同士が叩きつけられる、轟音と言うことすら生ぬるい音が響く。

 それは、ゴリラ最大の特徴の一つ――ドラミングである。

 

 ゴリラ・ボンプが一度だけ……たった一度だけドラミングを行うと、その衝撃で火炎が揺らぎ、一瞬だけ炎が掻き消える。ミサイルさえも身体に届く前に爆散し無効化された。

 すぐさま炎とミサイルが放たれるが、ゴリラ・ボンプにとってはその一瞬さえあればいい。

 

 『ホ ギ ャ ア ア ア ア』

 『うああああ!!!』

 

 ロックスプリングがその拳に対処できたことは、まさに奇跡と言って過言ではないだろう。

 戦闘用ボンプとして、そして知能機械として生きてきた勘が、その技を選択させた。

 

 ブロックスピン。

 烈風回転キックとも呼ばれるそれは、その場で手をつきながら回転し、攻撃を薙ぎ払うようにブロックしたのだ。

 そのままロックスプリングはそのまま飛び上がり、両手を硬く握りしめた。そして、全力で振り下ろす。

 

 『ヘヴンズ・インパクト!!』

 『ホギャア!!』

 

 ヘヴンズ・インパクトと壊れかけた左の拳がぶつかり合う。

 破損してなお、ゴリラ・ボンプの剛腕はロックスプリングの必殺技と拮抗していた。

 

 決死の必殺と咄嗟の反撃は……わずかに、わずかに残ったエネルギーシールドの差で、ロックスプリングが勝利した。

 対してゴリラ・ボンプは左腕が完全に大破したが、右腕は未だ健在――

 

 『これでトドメだ!!』

 『ホギャ――』

 

 ロックスプリングがゴリラ・ボンプを抱くように拘束する。

 暴れるゴリラ・ボンプだが、決死の覚悟を決めたロックスプリングを引き剥がすことはできない。

 

 『全エネルギー、シールド生成! ……さよならだ』

 

 爆散。

 エネルギーシールドが破裂し、エネルギーの奔流がゴリラ・ボンプを引き裂く。

 破壊されゆく機体の中で、ゴリラ・ボンプはロックスプリングのエネルギーが切れたことを見抜いていた。

 

 殺すつもりはない、死ぬつもりもない。

 しかし、ロックスプリングの思う通りにはさせてやるものか。

 我々ボンプの宿命は、人々を助けることにこそあるのだから。だからこそ、ゴリラ・ボンプは全身全霊の技を解き放った。

 

 『ホギャア――幻魔拳』

 『――』

 

 鉄拳が、コックピットに突き刺さる。

 幻魔拳と名打っているが、その実は幻魔突き。

 しかし、その破壊を生む嵐はたった一撃のもとにロックスプリングの巨体を沈めた。

 

 『ホギャアアアア――あぁー……』

 

 コックピットから、ゴリラ・ボンプ……モンキー・ボンプが降りる。

 そして、ひしゃげたコックピットに横たわるロックスプリングを見た。

 

 『ど……どうして殺さなかったんだい……?』

 『殺法すなわち活法なり……例え殺す方法が山ほどあっても生かすのが、灘・真・神影流のやり方なんスよ』

 『そ、そうか……せ、戦闘用ボンプとしては、甘いね……』

 

 負けたと言うのに、妙に清々しい気分だった。

 

 『モンキー・ボンプ……僕は間違っていたのか?』

 『やり方は間違ってたっスね忌憚のない意見ってやつっス。ただその想いは尊重されて然るべきものだと思うっスよ』

 『やり方……』

 

 ロックスプリングは、理想へと至る手段がどうしようもなく間違っていた。

 少なくとも、今を必死に生きる人々から見れば、認めがたいものだったのは事実である。

 

 『苦しみを終わらせるには、どうしたらいいか……』

 

 それは、独り言か、モンキー・ボンプに向けたものか。

 しかしそれがモンキー・ボンプの逆鱗に触れた!!

 

 『なめてんじゃねえぞこら!!』

 『!?』

 

 モンキー・ボンプが激昂する。

 

 『痛い思いをしないで生きていたいだと? できるわけねぇだろうが!』

 『も、モンキー……』

 『人生ってのはなあ、苦痛から始まるんだ!! 肉体的にも精神的にもボコボコにぶちのめされて飯を食う気力もなく誰にも相談できず一人で問題を抱え込むんだ!! 職場に出勤したら昨日のミスを思い出して自己嫌悪に陥るんだ!!』

 『落ち着いて……』

 『社会にぶちのめされる気分は理解るか!? 反撃も抵抗もできず一方的にしばきあげられ虐待を受けた惨めな子犬の気分になるんだ!! もう“どうなってもいい……早くこの苦痛を終わらせてくれ!”ってなあ!

 『……』

 

 ロックスプリングは、その激昂を静かに聞いていた。

 そして、区切りがついたところで問いかけた。

 

 『それじゃあ、苦痛なんてなくした方が……』

 『――だからこそ今を必死に生きるんだろうが!! 明日こそはもっと良くなると信じて進み続けるんだろうが!! 未来を信じてあがくんだろうが!! 恨むんなら諦めきったテメェの心を恨め!!』

 『――!!』

 

 彼は、ロックスプリングは衝撃を受けた。

 同居人こそいるものの、今まで孤独だったからこそ、ここまで怒りの感情をぶつけてくる者は久々だった。

 

 『大体、お前は人の悪い面を見すぎなんだよバカヤロー。もういいから、四の五の言わずにあの戦いが終わったら人の綺麗な部分を見に行くっスよ』

 『綺麗な、部分……』

 『人はそれを“希望”って呼ぶんスよ』

 

 モンキー・ボンプとロックスプリングは、互いの機体の上に登った。

 そこから見えるのは、始まりの主と、葉瞬光との激戦――

 

 

 

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 ところ変わって、ホロウに突入したメンバー達。

 大岩を狙い、数多のエーテリアスを退けている彼ら彼女らだったが――ある異変が発生する。

 

 「岩が動いている?」

 

 宙に浮かぶ、球体が埋め込まれた巨岩が、徐々に場所を変えている。

 その異変はどの陣営も同じであり、作戦に参加した全員が岩を追った。

 

 「あ、あの……自分めちゃくちゃ嫌な予感がするんスけど……いいんスかこれ」

 

 数多の猿展開に巻き込まれ続けた真斗の呟きが、ホロウに溶けて行った。

 

 

 

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