高濃度猿侵蝕体“マネキン・モブ”   作:アースゴース

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(この身に「希望」を)灯せ――っ 5

 大岩が動く、エージェント達が追いかける。

 どれほどの時間が経ったのだろうか、ほどなくして大岩はある地点に集まり停止した。

 

 「ここは……」

 「あ! 異ドリィ町じゃん!!」

 

 真斗とリュシア、イドリー、ベンジャミン、盤岳には見覚えがあった。

 ここはイドリーによって守られ、イドリーによって完成した夢縋りとイドリーの町、異ドリィ町。

 ホロウに似つかわしくない綺麗な町の上空で、大岩が停止していた。

 

 「なんだぁ、こんなところで映画の撮影か?」

 「始まりの主案件だろ」

 

 物々しい雰囲気のエージェント達と、不可解な大岩に危機感を抱いた住民達が避難を開始した。

 ここはホロウの中なので、ホロウ災害の危険性は新エリー都と比較にならないほど高い。なので、住民達はいつでも避難できるようになっているのだ。

 

 「これは一体どういうことです?」

 「モス! あの岩はヤバい、お前も逃げろ!」

 

 岩に埋め込まれた球体からミアズマが溢れ出し、無数のエーテリアスが湧き出る。

 無秩序に町を破壊するエーテリアス達だが、そこに住民はいない。

 

 「町が……!」

 「いや、町はいい! 皆さん、町のことは気にせず戦ってください!」

 「すまない!」

 

 極論、住む場所などどうでもいい。

 夢縋りさえいれば、そこが町となるのだから。

 

 「せいッ!」

 「ふんッ!!」

 

 雅の刀が、盤岳の拳が、オボルス小隊の爆撃が町ごとエーテリアスを破壊する。

 彼らと敵対しなくて良かった。モスは心底そう感じた。そして、彼も彼自身にしかできないサポートを選択する。

 

 「イドリーとベンジャミンさんがいる……そしてこのエネルギー反応は盤岳さんから? なら、アレが使える!!」

 「モス! 何する気だ!?」

 

 嫌な、非常に嫌な予感を感じ取った真斗が言った。

 

 「あの岩を砕けばいいんだろう? この町には最終兵器がある!!」

 「さ、最終兵器……? あ、待て!」

 

 モスは例の講堂方面へ走って行った。

 

 「クソッ、行っちまった……」

 「助けてくれるでしょ? 行かせてあげなよ」

 

 柚葉がエーテリアスを爆破しながら言った。

 彼女は知らない。この町の異常性、というかカオスさを知らない。

 

 「どうなっても知らねぇぞ……」

 「あ! 見てください、岩が!」

 

 福福が声を上げる。

 すると、岩からひと際多い大量のミアズマが流れ出る。

 それと同時に、重厚な足音が響く。やがて、家々を破壊しながら現れたのはデッドエンドブッチャーだった。

 

 『ヴォオオオオ!!』

 「こ、こんなところにデッドエンドブッチャー!?」

 「闘争と破壊の気配を感じ、ここまでやってきたと見える」

 

 多量のエーテルと戦いを感じ取り、はるばるやってきたデッドエンドブッチャー。

 

 「に、兄さん……!」

 「いや、あいつじゃない。あいつは別の……」

 

 マーフィー兄妹は、デッドエンドブッチャーに母親を殺害されている。

 特にベンジャミンは、母親が挽肉になる光景を目にしてしまった。だからこそ、彼のデッドエンドブッチャーへの憎悪は深い。

 

 「クソ、こんな状況じゃなきゃ、一人で挑んだんだが……」

 

 悔しみを感じるベンジャミン。

 しかし、それすらもかき消す事態が発生した。

 

 「あ! ミアズマが!」

 「なんだ……? 人の形を……」

 「あの、私達ちょっとあれに嫌な思い出あるなーって……」

 「あのシンメトリー……見覚えがありすぎるのだわ」

 

 ミアズマはどんどん人型を形成する。

 それは巨大であり、町にある学校の校舎ほどもある巨体となった。

 校舎に手をかけ、ゆっくりと立ち上がる。その威容に、エーテリアスでさえ停止してしまうほどだった。

 

 それは、手袋をはめながら言った。

 

 『言い訳は聞きたくない。始まりの主の命により“ミアズマ青年オーエン・スミス”がゴミ処理してやる』

 「ミアズマ青年になってる!!」

 

 すぐにエージェント達が攻撃を開始する。

 しかし、それよりも速くオーエン・スミスが動いた。

 

 「なにっ」

 

 オーエン・スミスは近くに浮いていた、球体の埋め込まれた大岩をガシッと抱え込むと、エージェント達に背を向けた。

 まさかその巨体で守るのか。そう思った瞬間だった。

 

 『背信者共に一発目の始まりの主を投下だあっ、間違えて殺しちゃったらゴメンなあっ』

 「お前の方が背信者じゃねぇかよえーっ」

 

 ブリッジを効かせた、深い反り投げ。

 強烈なバックドロップと共に、始まりの主と呼ばれた大岩が叩きつけられる。

 

 「ウッソだろお前!? 自分の主を武器にする奴がいるかよ!!」

 

 単なる叩きつけで、驚異的な破壊の嵐が巻き起こる。

 それだけで家々が破壊され、エージェント達も踏ん張って耐えるしかなかった。

 

 『背信者共に二発目の始まりの主を投下だあっ、間違えて殺しちゃったらゴメンなあっ』

 「二発目が来るぞ! 気をつけろ!」

 

 禁断の始まりの主二度打ち。

 再び凄まじい衝撃が町を襲う。離れたエージェント達は無事だったが、しかし衝撃をもろに受けたのはデッドエンドブッチャー。そう、加減の効かないオーエン・スミスによる同士討ちである。

 

 「仲間ではないのか……」

 『背信者共に三発目の始まりの主を投下だあっ』

 「クソッ! 来るぞーっ!!」

 

 二発目は運よく耐えたが、三発目は分からない。

 瓦礫が、砂塵が、エーテリアスの残骸が高速で吹き飛んでくるのだから、当たれば大怪我は必至。

 

 しかし、巨大な首刈り職人は無慈悲に主を振り下ろす。

 

 『間違えて殺しちゃったら――』

 

 ゴメンなあっ、という言葉は続かなかった。

 

 ――黄金の、光り輝く黄金の鉄槌が、大岩を迎撃する。

 

 『う あ あ あ あ』

 「えっ」

 「なにっ」

 「な……なんだあっ」

 

 球体ごと大岩を打ち砕かれ、オーエン・スミスが轟沈する。

 たった一撃でそれを成したのは、異ドリィ町のシンボルたる女神……

 

 「イドリー……」

 「の黄金象!?」

 

 イドリーの黄金象が、そこにあった。

 大きさにして実にデッドエンドブッチャーと同格。

 冷気ブースターを備えたゴールデンハンマーを抱えた黄金の女神が、人々を救うために現れた。

 

 「皆! 無事か!?」

 「モス!? こりゃあ一体どういうことだ! 説明しろ!」

 「これがこの町の最終兵器!! 名付けて――」

 

 いつの間にか真斗の横にやってきたモスが大きく両手を広げた。

 

 「“黄金女神ゴルドリィ”!!」

 「ふざけんなっ、黄金魔神のパクリじゃねぇかっ」

 

 誇らしげなモスと、ツッコむ真斗に反してゴルドリィは沈黙していた。

 

 「おい、うんともすんとも言わねぇぞ」

 「エネルギーとパイロット不足だ! 急げッ、イドリーとベンジャミンさん!! ゴルドリィのコックピットに乗るんだ!!」

 「え、わ、私達?」

 「い、一体何が起こってるってんだ……」

 

 言われるがままにコックピットに乗るマーフィー兄妹。

 内部は意外とシンプルな作りであり、ロボット操縦に関して門外漢であるマーフィー兄妹にも操作できそうである。

 

 「お、おい。動かねぇぞ」

 「エネルギー不足だ!」

 「あ! 見てください! オーエン・スミスさんが!」

 「なにっ」

 

 外では、オーエン・スミスがその身をミアズマへと溶かしている。

 多量のミアズマが蠢き、地面を這うように動く。その先は……デッドエンドブッチャーだ。

 ミアズマとしてデッドエンドブッチャーを強化し、ミアズミック・ブッチャーとなるのだ。

 

 『ヴォオオオオ!!!』

 「エネルギーはねぇのか!?」

 「ある! 盤岳さん! あなたが持っているはずだ!?」

 「なにっ、我輩」

 

 急に話を振られた盤岳だが、彼に心当たりなど無い。

 無いのだが……彼の胸にあるコアが、輝きを発していた。

 

 「ぬぅ! これはマネモブ殿から譲り受けた金の玉!!」

 「それをゴルドリィへ!!」

 「承知!!」

 

 手にした金の玉をぶん投げる。

 すると、どういうわけか金の玉はコアとしてゴルドリィの丹田へとハマり――機体に光が宿った。

 

 「こ、これは……」

 「動いたわ!」

 

 コックピットに光がもたらされる。

 モニターが二人を祝福するように文字を映し出す。

 

 『CAST IN THE NAME OF GOD, YE NOT GUILTY.』

 『ヴォオオオオ!!』

 

 祝福などどうでもいいと言わんばかりに、無粋にも迫りくるブッチャー。

 エーテリアスに神の祝福も、始まりの主も関係ない。目の前の全てをブッ壊すだけだ。

 

 「兄さん!」

 「おう!」

 『ヴォオオオオ!?』

 

 しかし、兄妹の息の合ったコンビネーションにより撃退された。

 ブッチャーの手にするエーテル合金で作られた鉄骨と、黄金のハンマーがぶつかり合う。競り勝ったのはゴルドリィ。

 

 『ヴォオオオオ!!』

 「すげぇ……すげぇけど……アレ何なんだよ」

 「真斗! ボサッとしてないであの岩を砕くよ!!」

 「お、おう」

 

 ブッチャーはゴルドリィに任せ、エージェント達は岩砕きと細かいエーテリアスの対処に専念する。

 

 「混沌を断ち切――なにっ」

 「い、岩が動いた!?」

 

 大岩を切断するまであと一歩。

 いや、その飛ぶ斬撃が岩まで迫ったというのに、大岩は機敏な動きでそれを避けた。

 異ドリィ町上空までやってきた動きとは違う、非常に素早い動きだった。

 

 「見ろ、二つの岩からミアズマが……」

 

 二つの岩から同時に、今までよりも深く濃いミアズマが流れ出る。

 それらは地面に落ちると絡み合い、人型を形作る。オーエン・スミスではない。普通の人間サイズである。

 やがて、エージェントが動き出すより早く、岩が砕け散る。そして、内部の球体が惑星のように回転した。

 

 「は、速い!」

 

 まるでエージェントを威嚇するように宙を舞う。

 そして、球体が停止すると同時に、人型が完全に姿を現した。

 

 『俺なんて手を使わずに始まりの主を動かす芸を見せてやるよ』

 「何者か……!!」

 

 新たなる強敵の気配。

 エージェント達に緊張が走る!!

 

 

 

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