大岩が動く、エージェント達が追いかける。
どれほどの時間が経ったのだろうか、ほどなくして大岩はある地点に集まり停止した。
「ここは……」
「あ! 異ドリィ町じゃん!!」
真斗とリュシア、イドリー、ベンジャミン、盤岳には見覚えがあった。
ここはイドリーによって守られ、イドリーによって完成した夢縋りとイドリーの町、異ドリィ町。
ホロウに似つかわしくない綺麗な町の上空で、大岩が停止していた。
「なんだぁ、こんなところで映画の撮影か?」
「始まりの主案件だろ」
物々しい雰囲気のエージェント達と、不可解な大岩に危機感を抱いた住民達が避難を開始した。
ここはホロウの中なので、ホロウ災害の危険性は新エリー都と比較にならないほど高い。なので、住民達はいつでも避難できるようになっているのだ。
「これは一体どういうことです?」
「モス! あの岩はヤバい、お前も逃げろ!」
岩に埋め込まれた球体からミアズマが溢れ出し、無数のエーテリアスが湧き出る。
無秩序に町を破壊するエーテリアス達だが、そこに住民はいない。
「町が……!」
「いや、町はいい! 皆さん、町のことは気にせず戦ってください!」
「すまない!」
極論、住む場所などどうでもいい。
夢縋りさえいれば、そこが町となるのだから。
「せいッ!」
「ふんッ!!」
雅の刀が、盤岳の拳が、オボルス小隊の爆撃が町ごとエーテリアスを破壊する。
彼らと敵対しなくて良かった。モスは心底そう感じた。そして、彼も彼自身にしかできないサポートを選択する。
「イドリーとベンジャミンさんがいる……そしてこのエネルギー反応は盤岳さんから? なら、アレが使える!!」
「モス! 何する気だ!?」
嫌な、非常に嫌な予感を感じ取った真斗が言った。
「あの岩を砕けばいいんだろう? この町には最終兵器がある!!」
「さ、最終兵器……? あ、待て!」
モスは例の講堂方面へ走って行った。
「クソッ、行っちまった……」
「助けてくれるでしょ? 行かせてあげなよ」
柚葉がエーテリアスを爆破しながら言った。
彼女は知らない。この町の異常性、というかカオスさを知らない。
「どうなっても知らねぇぞ……」
「あ! 見てください、岩が!」
福福が声を上げる。
すると、岩からひと際多い大量のミアズマが流れ出る。
それと同時に、重厚な足音が響く。やがて、家々を破壊しながら現れたのはデッドエンドブッチャーだった。
『ヴォオオオオ!!』
「こ、こんなところにデッドエンドブッチャー!?」
「闘争と破壊の気配を感じ、ここまでやってきたと見える」
多量のエーテルと戦いを感じ取り、はるばるやってきたデッドエンドブッチャー。
「に、兄さん……!」
「いや、あいつじゃない。あいつは別の……」
マーフィー兄妹は、デッドエンドブッチャーに母親を殺害されている。
特にベンジャミンは、母親が挽肉になる光景を目にしてしまった。だからこそ、彼のデッドエンドブッチャーへの憎悪は深い。
「クソ、こんな状況じゃなきゃ、一人で挑んだんだが……」
悔しみを感じるベンジャミン。
しかし、それすらもかき消す事態が発生した。
「あ! ミアズマが!」
「なんだ……? 人の形を……」
「あの、私達ちょっとあれに嫌な思い出あるなーって……」
「あのシンメトリー……見覚えがありすぎるのだわ」
ミアズマはどんどん人型を形成する。
それは巨大であり、町にある学校の校舎ほどもある巨体となった。
校舎に手をかけ、ゆっくりと立ち上がる。その威容に、エーテリアスでさえ停止してしまうほどだった。
それは、手袋をはめながら言った。
『言い訳は聞きたくない。始まりの主の命により“ミアズマ青年オーエン・スミス”がゴミ処理してやる』
「ミアズマ青年になってる!!」
すぐにエージェント達が攻撃を開始する。
しかし、それよりも速くオーエン・スミスが動いた。
「なにっ」
オーエン・スミスは近くに浮いていた、球体の埋め込まれた大岩をガシッと抱え込むと、エージェント達に背を向けた。
まさかその巨体で守るのか。そう思った瞬間だった。
『背信者共に一発目の始まりの主を投下だあっ、間違えて殺しちゃったらゴメンなあっ』
「お前の方が背信者じゃねぇかよえーっ」
ブリッジを効かせた、深い反り投げ。
強烈なバックドロップと共に、始まりの主と呼ばれた大岩が叩きつけられる。
「ウッソだろお前!? 自分の主を武器にする奴がいるかよ!!」
単なる叩きつけで、驚異的な破壊の嵐が巻き起こる。
それだけで家々が破壊され、エージェント達も踏ん張って耐えるしかなかった。
『背信者共に二発目の始まりの主を投下だあっ、間違えて殺しちゃったらゴメンなあっ』
「二発目が来るぞ! 気をつけろ!」
禁断の始まりの主二度打ち。
再び凄まじい衝撃が町を襲う。離れたエージェント達は無事だったが、しかし衝撃をもろに受けたのはデッドエンドブッチャー。そう、加減の効かないオーエン・スミスによる同士討ちである。
「仲間ではないのか……」
『背信者共に三発目の始まりの主を投下だあっ』
「クソッ! 来るぞーっ!!」
二発目は運よく耐えたが、三発目は分からない。
瓦礫が、砂塵が、エーテリアスの残骸が高速で吹き飛んでくるのだから、当たれば大怪我は必至。
しかし、巨大な首刈り職人は無慈悲に主を振り下ろす。
『間違えて殺しちゃったら――』
ゴメンなあっ、という言葉は続かなかった。
――黄金の、光り輝く黄金の鉄槌が、大岩を迎撃する。
『う あ あ あ あ』
「えっ」
「なにっ」
「な……なんだあっ」
球体ごと大岩を打ち砕かれ、オーエン・スミスが轟沈する。
たった一撃でそれを成したのは、異ドリィ町のシンボルたる女神……
「イドリー……」
「の黄金象!?」
イドリーの黄金象が、そこにあった。
大きさにして実にデッドエンドブッチャーと同格。
冷気ブースターを備えたゴールデンハンマーを抱えた黄金の女神が、人々を救うために現れた。
「皆! 無事か!?」
「モス!? こりゃあ一体どういうことだ! 説明しろ!」
「これがこの町の最終兵器!! 名付けて――」
いつの間にか真斗の横にやってきたモスが大きく両手を広げた。
「“黄金女神ゴルドリィ”!!」
「ふざけんなっ、黄金魔神のパクリじゃねぇかっ」
誇らしげなモスと、ツッコむ真斗に反してゴルドリィは沈黙していた。
「おい、うんともすんとも言わねぇぞ」
「エネルギーとパイロット不足だ! 急げッ、イドリーとベンジャミンさん!! ゴルドリィのコックピットに乗るんだ!!」
「え、わ、私達?」
「い、一体何が起こってるってんだ……」
言われるがままにコックピットに乗るマーフィー兄妹。
内部は意外とシンプルな作りであり、ロボット操縦に関して門外漢であるマーフィー兄妹にも操作できそうである。
「お、おい。動かねぇぞ」
「エネルギー不足だ!」
「あ! 見てください! オーエン・スミスさんが!」
「なにっ」
外では、オーエン・スミスがその身をミアズマへと溶かしている。
多量のミアズマが蠢き、地面を這うように動く。その先は……デッドエンドブッチャーだ。
ミアズマとしてデッドエンドブッチャーを強化し、ミアズミック・ブッチャーとなるのだ。
『ヴォオオオオ!!!』
「エネルギーはねぇのか!?」
「ある! 盤岳さん! あなたが持っているはずだ!?」
「なにっ、我輩」
急に話を振られた盤岳だが、彼に心当たりなど無い。
無いのだが……彼の胸にあるコアが、輝きを発していた。
「ぬぅ! これはマネモブ殿から譲り受けた金の玉!!」
「それをゴルドリィへ!!」
「承知!!」
手にした金の玉をぶん投げる。
すると、どういうわけか金の玉はコアとしてゴルドリィの丹田へとハマり――機体に光が宿った。
「こ、これは……」
「動いたわ!」
コックピットに光がもたらされる。
モニターが二人を祝福するように文字を映し出す。
『CAST IN THE NAME OF GOD, YE NOT GUILTY.』
『ヴォオオオオ!!』
祝福などどうでもいいと言わんばかりに、無粋にも迫りくるブッチャー。
エーテリアスに神の祝福も、始まりの主も関係ない。目の前の全てをブッ壊すだけだ。
「兄さん!」
「おう!」
『ヴォオオオオ!?』
しかし、兄妹の息の合ったコンビネーションにより撃退された。
ブッチャーの手にするエーテル合金で作られた鉄骨と、黄金のハンマーがぶつかり合う。競り勝ったのはゴルドリィ。
『ヴォオオオオ!!』
「すげぇ……すげぇけど……アレ何なんだよ」
「真斗! ボサッとしてないであの岩を砕くよ!!」
「お、おう」
ブッチャーはゴルドリィに任せ、エージェント達は岩砕きと細かいエーテリアスの対処に専念する。
「混沌を断ち切――なにっ」
「い、岩が動いた!?」
大岩を切断するまであと一歩。
いや、その飛ぶ斬撃が岩まで迫ったというのに、大岩は機敏な動きでそれを避けた。
異ドリィ町上空までやってきた動きとは違う、非常に素早い動きだった。
「見ろ、二つの岩からミアズマが……」
二つの岩から同時に、今までよりも深く濃いミアズマが流れ出る。
それらは地面に落ちると絡み合い、人型を形作る。オーエン・スミスではない。普通の人間サイズである。
やがて、エージェントが動き出すより早く、岩が砕け散る。そして、内部の球体が惑星のように回転した。
「は、速い!」
まるでエージェントを威嚇するように宙を舞う。
そして、球体が停止すると同時に、人型が完全に姿を現した。
『俺なんて手を使わずに始まりの主を動かす芸を見せてやるよ』
「何者か……!!」
新たなる強敵の気配。
エージェント達に緊張が走る!!