『俺なんて手を使わずに始まりの主を動かす芸を見せてやるよ』
自らの主をぞんざいに扱い、あまつさえそれを芸と言い切った始まりの主不良……いや、
しかし、手を使わず巨大な球体を操る様を芸と言わずして何と言おうか。
それはまるで、熟練した大道芸人が、慣れた手つきでジャグリングを行うかのようだった。
これがサーカスであれば必ずや人々を笑顔にするだろう達人芸は、今やミアズマという不浄に侵され殺人芸と化していた。
「チィッ、なんだって始まりの主を武器にする自称信者が二人もいるんだよ」
ミアズマ濃度など問題にならない大質量の暴力に、エージェント達は窮地に陥っていた。
硬い素材でできた巨大な球体が、高速で迫りくる。質量と速度という純粋な暴力こそが、彼らを追い詰めているのだ。
この大質量を真っ向からパリィできるのは、雅、盤岳、ビッグ・シードのみだった。黄金女神ゴルドリィも可能なのだが、今はミアズミック・ブッチャーの相手をしている。
三人が球体を防ぎ、残りのエージェント全員で始主不良を叩く。
エージェント達の戦術は、必然的にそうなっていた。
『俺なんて手を使わずに始まりの主を動かす芸を見せてやるよ』
「その前にお前を殺してやるよっ、不良ッ」
真斗の炎をまとった大剣が、始主不良に迫る。
同じ不良同士だが、古き良き不良である真斗と、暴力に酔いしれる始主不良が相容れることはない。その結果起こるのが、不良同士の抗争だった。
「チィッ、硬ぇな」
嫌な手ごたえ。間違いなくミアズマ・シールドだ。
始主不良は常にミアズマ・シールドを張り、身を守っているのだ。攻撃は球体で事足りる。
その鍛えられた身体に見合わない臆病な戦法だ。
しかし、真斗と激突した隙は大きい。
電撃の弾丸が、始主不良を貫く。エーテリアスをも殺害せしめる高圧電流の弾丸は、確かに始主不良の体勢を崩した。
「今です!」
『よくやったトリガー!!』
トリガーの狙撃が始主不良に命中した。
ミアズマ・シールドのせいで命を奪うまでには至らなかったが、それでも十分だ。
「しゃあっ」
福福の威虎が、流星錘として始主不良に叩きつけられる。
ただでさえ人間でなくとも致命的なそれが、鍛え抜かれた虎のシリオンの膂力で振り回される……ある意味最悪だ。
始主不良は持ち前の総合格闘技の技術によってダメージを軽減するが、撃的な破壊力は容赦なく体幹のブレイクを加速させる。
『俺なんて手を使わずに始まりの主を動かす芸を見せてやるよ』
「なにっ」
自分を守るように球体を動かす始主不良。
圧倒的な質量で自分ごと福福を吹っ飛ばす勢いである。
しかし……
「シードが守るよ~」
「感謝します!」
ビッグ・シードに搭乗したシードが球体を受け止める。
鋼の巨躯が軋みを上げるが、純戦闘機械人たるビッグ・シードの肉体を破壊するには至らない。
『今だ11号!!』
「排除する!!」
「……」
11号のマチェーテが、ガルシアの連打が始主不良へ襲いかかる。
明らかなオーバーキルに等しいそれらだが、始主不良は何とかミアズマ・シールドで耐えたようだ。
だが、そのシールドすらも残りわずか。盾の破損と共に大きなダメージを受け、そのままなぶり殺しにされるだろう。
始まりの主のルールは無視する。ただし人類に仇なした者は確実に殺される。
『俺なんて手を使わずに始まりの主を動かす芸を見せてやるよ』
「何かが来るぞ!!」
始主不良が球体を盾に下がる。すると、球体からは多量のミアズマが流れ出た。
それらは徐々に形を創り上げ、敵対者達を歓迎する。そしてついに現れたのは、ミアズマの造物達。
「おいおい、マジか……」
ムクロサソリ、ハイヨト、ヘレティックジェスター、アヴァルス、ミアズミック・トラキアン、ソベク(単品)……あらゆるミアズマ製エーテリアス、サクリファイスが姿を現したのだ。
エーテリアス達は球体と始主不良を守るように立ちはだかり、目の前の敵を滅ぼさんと闘志をむき出しにした。
「クソッ、ただでさえ玉がジャマって時にこんな……」
「絶体絶命ってやつだなぁ」
脅威は何も強力なエーテリアスだけではない。
無尽蔵に湧き出る小型エーテリアス達も、エージェントをほぼノーコストで消耗させる出し得な肉壁なのだ。
『ギシャアアアアッ!!』
『ヌ~ッ』
『ヒャハハハハハ!!』
『VOOOO!!』
『SHAAッ』
「お前らそいつ守ってんじゃねぇのかよえーっ」
「来るぞ!!」
状況がどちらかというと自分達にとって有利なことを見抜いたエーテリアス共は即座に守りを捨て、エージェントに躍りかかった。
血に飢えたエーテリアス共に我慢の二文字は存在しない。例え始まりの主相手でも護衛任務を放棄し敵の排除へ移行する。
『ヒャハハハハ!!』
「チィッ!? コイツ強いぞ!」
エージェント達に襲いかかるのは、いずれも並のエーテリアスではない。
そこらのエーテリアスを皆殺しにして有り余る怪物が数体。虚狩りである雅や、パージユニット・ゼロである盤岳が球体の相手をしている今、残る人員を結集しなければ死の危険性が高い相手達だ。
『ヒャッハーッ!!』
「ぬぉっ!?」
「真斗!?」
ヘレティック・ジェスターの狂笑と共に、ナイフが真斗の首を狙う。
曲芸じみて不規則な動きのそれは、生ある者をあざ笑うかのように真斗の首を狩る――ことはなく、巨大な剣によって防がれた。
「な、何が……」
『ヒャハハ……?』
瞬間、響き渡るけたたましいホイールの駆動音。そして現れた鋭角的なバイク。
走ること、破壊することに特化した二輪車は、無数に湧き出るエーテリアスを轢殺する。
すると、その後部座席から何者かが跳んだ。
「観客ヲ沸カセズピエロ自身ガ嗤ッテドウスル、ヘレティック・ジェスター……」
「あ、あんたは……」
『ヒャハ!?』
「消エロ」
ミアズマ・フィーンド。
彼女は対なる巨剣を振るい、ヘレティック・ジェスターを斬り裂いた。
「ふん、同じ巨漢でこうも違うか……肉のヨロイが足りんなぁ!!」
『VOOOO!?』
巨体で見るからに重量級のアヴァルスを、一撃で吹っ飛ばしたエーテリアス、ポンペイ。
他のエーテリアスと比べてもビジュアルだけでも格が違うが、実力ですら次元が違う。彼はその剣と、バイクが変化した鉄槌を振り回し、エーテリアスを粉砕する。
「ウォォォォ!!」
『U A A A A』
激しい銃撃。
ミアズマの弾丸によって撃ち抜かれたエーテリアス共が倒れ、消滅する。
ワンダリングハンターのガトリング・ミアズマが、無数のエーテリアスをハチの巣へと変えたのだ。
「ランタンベアラーとワンダリングハンター。来てくれたのか……ということは……」
『俺なんて手を使わずに始まりの主を動かす芸を見せてやるよ』
次々に現れる強大なエーテリアスに、状況が悪いと判断した始主不良は球体から放つミアズマの濃度を上げた。
その濃度と言えば、通常なら瞬く間に人間を侵蝕して有り余るものだったが……それは新たに現れた謎のミアズマによってかき消された。
嫌な予感を感じるイゾルデの隣に、小さな人影がやってきた。
煌びやかなローブ、に、怪しげな仮面。まるでどこかの宗教の教祖のようだ。
「最強都市侵蝕エーテルバトル! エーテリアスとかストレス症状でゼンレス限界まで活性した、自慢のエーテル、ミアズマをぶつけ合って、どっちの侵蝕が優れてるか勝負しましょう! エーテルぶつけ合い、一つのホロウに二体の超級エーテリアスぶち込んで一つの巨大ホロウにしたり、侵蝕しあいなんかもいいですよ。負けませんので。私、攻撃力%、攻撃力%、エネルギー自動回復、元讃頌会司教、現マスコット、顔出しNG。エーテルの知識、技術自信あります。侵蝕も洗脳も両方自信ある最強のエーテリアスからの勝負受けて立ちます! 始まりの主かかってこいや! ホロウでの勝負希望」
「何を言ってるんだ?」
光と闇の司祭。
彼女はかつての主へ牙を剥き、不浄なミアズマを逆に侵蝕し、自分達に有利なフィールドを作り出したのだ。
「こうして肩を並べて戦うのは初めてですね、もう一人の私……」
「そうだな……」
イゾルデはもう一人の私という言葉にやや不服だが、こと対ミアズマにおいてこれほど頼りになる存在はいないだろう。
始まりの主製のミアズマによる侵蝕が緩和された今、敵エーテリアス達の動きや増殖スピードは目に見えて減っていた。
『俺なんて手を使わずに始まりの主を動かす芸を見せてやるよ』
「う あ あ あ あ……た、玉がさらに高速移動してる」
光と闇の司祭がジャマ過ぎる。そう判断した始主不良は、かの背信者を圧殺せんと始まりの主の器を転がす。
噴き出るミアズマを推進剤代わりに、驚異的なスピードを得た玉は止まることを知らない。
「うああああこのままじゃ出オチだーっ助けてくださいーっ」
「間に合わない!!」
イゾルデが咄嗟に光と闇の司祭を掴んで飛びのくが、しかし巨大な球体の範囲外に出ることは叶わなかった。
『イゾルデ!!』
「大佐ァ!!」
最初の死者が出る。
誰もがそれを予期しつつも、しかし振り払い、わずかな希望を持って抵抗しようとした時だった。
―球体が、逸れた。
「なにっ」
「な……なんだあっ」
球体は明後日の方向へ転がり、また始主不良の元へ帰って行った。
「あ、あなたは……」
ミアズマの煙が晴れる。
そこにいたのは――
『灘神影流“弾丸すべり”』
「マ……マネモブッッッ」
やたら全身ボコボコで傷だらけのマネモブだった。
次回、最終決戦。
ワニ弟子←これ
なんなんだよ。腹筋崩壊しただろバカヤロー