高濃度猿侵蝕体“マネキン・モブ”   作:アースゴース

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(この身に「希望」を)灯せ――っ 7

 始主不良と戦闘に入る数刻前。

 マネモブは各地に存在する黒い花を刈り取っていた。

 だがその時、何者かの気配を感じ取る。

 

 『俺ナンテ手ヲ使ワズニ金玉ヲ自由ニ動カス芸ヲ見セテヤルヨ』

 『なにっ』

 

 まるで黒い花を守るように現れたのは、ガタイの良い不良。

 それは、特殊な電離体であるドッペルゲンガー……不良を模したドッペルゲンガーだった。

 

 果たして、この不良が現れた理由が、始まりの主の影響なのか。それは分からない。

 ただ分かっていることは、この不良が黒い花を守ろうとしているように見えることである。

 つまり、マネモブの“敵”だった。

 

 『ほいだらおどれはあの世へ送ったろかあ――ん?』

 『俺ナンテ手ヲ使ワズニ金玉ヲ自由ニ動カス芸ヲ見セテヤルヨ』

 

 金玉不良がマネモブに襲いかかる。

 その動きはオードソックスな総合格闘技……はっきり言ってマネモブにとってはカモがネギを背負ってやってきたと言わざるを得ない。

 

 『しばきあげたらあっ』

 『ヒャンッ』

 

 マネモブにとっては軽いジャブ程度の一撃でも、金玉不良にとっては顎を打ち砕く威力を秘めていた。

 対して金玉不良はマネモブに触れたが、それだけだ。ダメージでもなんでもない……しかし、金玉不良にとってはそれで問題なかった。

 

 『俺ナンテ手ヲ使ワズニ金玉ヲ自由ニ動カス芸ヲ見セテヤルヨ』

 

 金玉不良はある能力を持っている。

 その特殊能力とは、触れた相手の睾丸……つまり精巣の遠隔操作。文字通り男を掌握する悪夢の存在だったのだ。

 

 『…』

 『……?』

 

 しかし、マネモブに生殖器は存在しない。

 マネモブは、エーテリアスゆえに格闘家でありながら目潰しや金的が効かないチート的な存在だったのだ。

 

 『俺なんて手を使わずに金玉を自由に動かす芸を見せてやるよ』

 

 金玉がない相手に効かないなんて欺瞞を超えた欺瞞。

 お前に本物の芸を見せてやろうと言わんばかりに取り出したのは、いつもの純金の玉。

 これを動かすことで“格”の違いを分からせてやろう。マネモブはそう考えた。

 

 『俺なんて手を使わずに金玉を自由に動かす芸を――』『いやちょっと待てよ』

 

 いつもと玉の感触が違う。そう思い、玉を良く見る。

 

 『えっ』

 

 マネモブが純金の玉と思い取り出したのは……盤岳のエネルギー・コアだったのだ。

 ヤバいと思えば時すでに遅し。純金の玉を操るエネルギーがそのままコアへ流れ込んだところだった。

 

 『う あ あ あ あ』

 

 純戦闘用機械人の超エネルギーを支えるコアからの、膨大なエネルギーの奔流が爆発として出力され……マネモブを金玉不良もろとも吹き飛ばした。

 

 

 

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 「自業自得じゃねぇかよえーっ」

 『ククク…』

 

 以上が、マネモブが満身創痍だった理由である。

 

 「ふざけんなよボケが」

 『まあ小さな間違いは気にしないで』『どっちみちバカだったってことですから』

 「それより盤岳先生にコアを返したらどうですか!?」

 

 エーテリアスをボコボコに殴りながらダイアリンが叫んだ。

 盤岳がクランプスの黒枝に加入してからと言うもの、何とかコアの紛失を隠し通すことはできていたが限界が近い。

 それに、盤岳自身もいつまで経っても純金の玉では持たない。むしろ今まで動けていたことが奇跡だろう。

 

 『ほらよ』『しっかり受け止めろよッ』

 「ぬぅ! これは紛れもなく我輩のコア!! マネモブ殿、感謝する!」

 「しばらく持ち逃げされてたのにお礼を言う必要ないですよね」

 

 マネモブも気づかなかったので仕方がない。

 そして、そんなことを言い争っている場合でもない。

 

 『俺なんて手を使わずに始まりの主を動かす芸を見せてやるよ』

 『その前にお前を殺してやるよっゴアッ』

 

 人型相手のエキスパートであるマネモブが、始主不良に勝負をしかけた。

 他のメンバーはエーテリアスと球体に専念し、少しでも力を削り取る。その間にマネモブが始主不良を仕留めるのだ。

 マネモブと始主不良が睨み合う。その間にも、味方エーテリアスの参戦によって戦況は大きく動いていた。

 

 「アヴァルスか。筋肉の上に脂肪をつけ、その上から筋肉をつけた肉のヨロイをまとっている……だが俺達の敵ではないな」

 「これが年上の甥との初めての共同作業ね」

 『ううん、どういうことだ』

 「甥ってなんでありますか!?」

 

 事情を知っているトリガーは嬉しそうに頷いていた。

 巨体のポンペイが転がるアヴァルスを真っ向から受け止める。その怪力により、アヴァルスの腹に存在する口を強引にこじ開ける。

 それどころか、ポンペイの肩に連なったマフラーが火を噴き上げ、アヴァルスを押し返した。

 

 「弱点であります!」

 『外すなよオルペウスゥ!』

 

 オルペウスのナイフと、鬼火のレーザーがコアを狙う。

 しかし、本能からかアヴァルスは長い舌でそれを防御した……

 

 「……悪手ですね」

 

 パァン、と舌が弾け飛ぶ。

 トリガーの狙撃が、ダメージを受けた舌を完全に破壊したのだ。

 

 「決めろ!」

 「これで終わりだ!」

 

 11号がマチェーテを突き刺す。

 エーテリアスにとって大切なコアを斬り裂かれたアヴァルスは、巨体を収縮させて消滅した。

 

 「見事な連携だ、流石防衛軍と言ったところか」

 『そっちもな……それで、お前は誰なんだ?』

 「私の甥」

 『それが分からんと言ってるだろうがっ』

 

 アヴァルスはポンペイとオボルス小隊によって倒された。

 

 「ウォォォォ!!」

 『ヌ~ッ』

 

 ハイヨト。かつて讃頌会が作り上げた狂気の産物。

 しかし、その美しく高貴な身には凄まじいミアズマ・ガトリングの銃撃が絶え間なく浴びせ続けられている。

 

 「さすがおとう!」

 「いっけー!」

 

 二人の娘の応援を背に受け、ワンダリングハンターの銃撃がさらに加速する。

 子を持つ親は強い。例えくたびれた犬のような人間でも、凶暴な巨狼へと変貌させるのだ。

 

 『ヌゥ~ッ』

 

 あまりの手数の差に危機感を抱いたハイヨトは、虎の子であるミアズマ・シールドを展開し、さらに自身の巨大な幻を作り上げた。

 なお、もちろんその分身の弱点はリュシアに知られている。

 

 「おとう! パリィだよ!」

 「ウオオオオッ!!」

 『ヌ~!?』

 

 気合と共に、ハイヨトの幻による攻撃が弾かれる。

 ハイヨトよりもなお強力極まりないエーテリアスの膂力によって弾かれ、あろうことかハイヨトは一発で体勢を崩し、ミアズマ・シールドが剥がされた。

 

 「今だ! 多勢に無勢だいっけぇ」

 

 その間にリュシアが用意していた多数のエーテリアスの幻が、ハイヨトをボコボコに殴る。

 さらにワンダリングハンターの銃撃まで浴びせられたハイヨトは、ほとんど何もできずに消滅した。

 

 「やったね、おとう!」

 「かっこよかったよ~」

 「オオ」

 

 娘二人に褒められ、ワンダリングハンターは嬉しそうだった。

 

 『ホウ、子ヲ持ツ親ハ強イナ』

 

 ミアズマ・フィーンドには、ヘレティック・ジェスターとの高機動戦闘の中でなお、よそ見をする余裕さえあった。それだけ、実力差が開いていたのである。

 

 『ヒャハハハハ!!』

 『マダ立ツカ』

 

 遠くへ逃げ出したヘレティック・ジェスターは連続でナイフを投擲する。

 しかし、フィーンドは巨大な双剣でナイフをはじき返し、逆にジェスターにダメージを与えた。

 

 「行くよ真斗、アリス!」

 

 柚葉の爆撃がジェスターを襲う。

 特製の爆弾はやはり、強力なサクリファイスにも効果を発揮した。

 

 「タイムフィールドの強撃を受けてみるのだわ!」

 

 目にもとまらぬ斬撃で切り刻まれる。

 アリスの極性強撃が、ヘレティック・ジェスターを完膚なきまでに打ちのめす。

 

 「最後の一発くれてやるよオラ!」

 

 真斗の渾身の刃がヘレティック・ジェスターの頭部に叩き込まれる。

 巨大な鉄塊を何度も頭部に食らったジェスターは、やがて生命活動を停止……死んだのだ。

 

 『ヤルナ、オ前タチ……私ガイナクトモ、必ズ勝テテイタダロウ』

 「しょ、称賛がむず痒いのだわ」

 「またまたぁ、うちの真斗を助けてくれたじゃん」

 「ありがとうございます!」

 

 こうして、ヘレティック・ジェスターのステージは幕を閉じた。

 ちなみにムクロサソリは、ダイアリンに足止めされたところを、球体を対処している雅と盤岳によって片手間に処理されていた。

 残るソベク(単品)はというと……

 

 『ワニ~』

 「あいつどこ行くんだ?」

 

 宙を泳ぐようにどこかへ去って行った。

 

 ――そんな中。マネモブと始主不良の戦いが始まっていた。

 

 『俺なんて手を使わずに始まりの主を動かす芸を見せてやるよ』

 

 始主不良が繰り出したのは、シンプルなタックル。

 しかし、ミアズマによって強化されたそれは、常人に捉えられる威力、スピードとは言い難い。

 ただ、マネモブにとっては読みやすいものだったが。

 

 『タックルなんていくらでもきれるんだよ』

 『なにっ』

 

 マネモブが、迫りくる始主不良の両肩を押さえてタックルを切る。

 そして、開いている両足で技を繰り出した。

 

 『“コブラ・ソード”(変則テン・カウ)』

 

 変則テン・カウであるコブラ・ソードのさらに変則系。

 真横から頭をかちあげるのではなく、顎をかちあげる変則コブラ・ソードが大きな隙を作る。

 

 『お楽しみはこれからやっ!!』

 

 マネモブが始主不良の首を無理やりクラッチした。

 

 『関節を極めたままのスープレックスやっ!!』

 

 そのまま始主不良を持ち上げ……

 

 『うりゃあっ灘神影流』『竜斬首落!!』

 

 叩きつける。

 まるで龍の首が落ちるかのようなそれは、始主不良を追い詰めた。

 だが、まだ攻撃は終わらない。叩きつけた体勢を維持したまま、マネモブは両足をもクラッチする。そして――

 

 『鉄槌車輪(ハンマーホイール)!!』『ゴツゴツとコンクリートに骨がぶつかる異様な打突音とともに肉が割れる!! 血が舞う!!』

 

 転がった。その勢いは周りのエーテリアスを巻き込み、轢き殺して行く。

 やがて、マネモブはボロ雑巾となった始主不良を解放する。すでに虫の息であり、放っておいても死ぬだろう。

 しかし、始主不良は最期の力を振り絞った。

 

 『お……俺なんて……手を、使わず、に始まりの主を……う、動かす芸を、見せてや……る……よ……』

 

 そう言い残し、始主不良は消滅した。

 すると、始まりの主の器である球体が急加速する。このまま暴走し、全員を轢き殺すつもりだ。

 

 「ここで勝負を決めるとしよう。マネモブ!」

 『はいなっ』

 

 暴走する球体に対し、雅とマネモブが立ち上がる。

 

 「ここは虚狩りに任せるとしよう」

 「ボウリング玉の軌道を変えちゃうよ~」

 

 盤岳とビッグ・シードが玉の軌道を強引に変える。

 その先には雅とマネモブである。

 

 『喰らえっ』『我が乾坤一擲の一撃をっ!』『灘神影流“塊貫拳”』

 

 マネモブが球体を殴ると、マネモブの悪しき気が送り込まれ、内部で暴れ狂う。

 その気は内部で膨張し、強固な金属で出来た器を破裂寸前まで追い込んだ。しかし、なおも球体は止まらない。

 

 「悪・直・斬!」

 

 最年少とはいえ虚狩り。埒外の膂力から繰り出される狂った威力の斬撃が飛び、球体を斬り裂かんと迫る。

 しかし――球体も黙ってやられるほど愚かではなかった。

 

 「なにっ」

 『な…なんだあっ』

 

 突如として塊貫拳を受けた球体が軌道を変え、斬撃を受ける寸前の球体を庇った。

 斬撃と塊貫拳のコンボを喰らった球体はすぐさま爆発四散するが、ミアズマの煙を切り裂き、無事な球体が姿を現す。

 

 『うあああやめろ――っ』『やめてくれ――っ』

 「間に合うか……!?」

 

 その向かう先は、雅やマネモブはおろか、盤岳とビッグ・シードとも別方向。

 つまり、未だ無数に湧き出るエーテリアスと戦闘を繰り広げる仲間達の方だった。回避しようがない速度と距離。もはや、彼らに迎撃以外の選択肢は残されていなかった。

 

 「クソォッ、全員で受け止めるぞォッ!!」

 

 ガタイのいい男メンバーが最前線に立ち、それぞれの得物を構える。

 失敗すれば終わり、成功しても重症は免れないだろう。

 

 「来やがれェ、クソッたれ!!」

 

 瞬く間に距離が縮み、エージェント達と衝突する……その直前だった。

 

 「はぁっ!!」

 

 凄まじい――重金属同士がぶつかり合い、片方が砕け散る轟音。

 大型エーテリアスの咆哮さえも、小型犬の遠吠えにしか思えなくなるほどのそれが、ホロウに鳴り響いた。

 

 「これは……」

 

 器が砕け、破片が舞う。

 それを成したのは、黄金に輝く女神……

 

 「皆、大丈夫!?」

 「怪我はないか!?」

 「イドリー! ベンジャミンさん! 助かった!」

 

 ミアズミック・ブッチャーを打ちのめした黄金女神ゴルドリィが、始まりの主を打ち砕いたのだ。

 その瞬間、ミアズマ濃度は急速に薄まっていき、湧き出ていたエーテリアス達も姿を消していった。

 

 「おぉ、我らを導く尊き黄金の女神!」

 「夢縋り達の女王!」

 「イドリー様万歳! イドリー様万歳!」

 

 隠れていた夢縋り達が歓声を上げた。

 その狂信的でありながらもどこか平和で呑気な雰囲気は、戦いが終わったことを示していた。

 

 エージェント達も警戒は緩めなかったものの、一応の作戦成功を喜んだ。

 

 「後は、瞬光達がやってくれるかだな……」

 『マイ・ペンライ!(大丈夫)』

 

 彼らは瞬光達を信じている。

 始まりの主の邪崇を滅殺すると信じて。

 

 「何とか作戦終了でありますね……」

 『ああ……だが、あのワニはどこにいったんだ?』

 

 ただ、気になることもあったが……この後、始まりの主は無事に撃退された。

 

 

 

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 「このワニは一体……」

 

 旅に出た釈淵。

 ホロウにいる彼の側には、ソベク。

 このワニはもはや単品ではなく、釈淵の相棒と化したのだ。

 

 『マイ・ペンライ!(大丈夫)』

 「まあ、マネモブさんがそう言うなら……」

 

 マネモブのお墨付きももらったので、釈淵はソベクと一緒に旅をすることにした。

 旅は道連れ世は情け。新エリー都は今日も平和だ。

 

 

 




 【金玉不良/始まりの主不良】
 ・彼がその能力を得たのは、果たしていかなる理由だったのかは定かではない。
 しかし、彼が触れた相手の精巣を支配する能力を持っていたことは事実だ。そのせいで、多くの迫害を受けたことも。
 長らく不気味かつ凶悪な能力ゆえに、周りから忌避されていた彼は、ある日、始まりの主の啓示を受けた。

 『私は手を使わずにお前を操ってみせよう』

 彼はその邪悪な甘言に乗ってしまったのだ。
 それから彼は始まりの主のために、邪魔者に対して自身の“芸”を見せ、地獄を味わわせてきた。
 だが、始まりの主の寵愛を受けながらも彼の心は晴れない。長年にわたる迫害の傷を、始まりの主は癒してはくれなかった。

 だが、始まりの主が降臨せんとする日のことである。
 一匹のエーテリアスが彼の前に現れた。

 『俺なんて手を使わずに金玉を自由に動かす芸を見せてやるよ』

 彼は、衝撃を受けた。
 能力が効かなかったこともそうだが、何よりエーテリアスも金の玉を操ることができた。
 最終的に彼は敗北を喫した。だが、内心を推し量ることはできないが、それでも彼の心は晴れやかだった。
 まるで、黄金に輝くかのように。

 『俺なんて手を使わずに金玉を自由に動かす芸を見せてやるよ』――在りし日の不良



 【黄金女神ゴルドリィ】
 ・異ドリィ町には、町のシンボルたる女神像がある。
 ポールダンスを披露するような女性の像は、昼夜問わず多くの住民を魅了し続けていた。
 しかし、その正体は町の最終兵器にして守護神、黄金女神ゴルドリィなのである!

 超出力冷気ブースター搭載のゴールデンハンマーは立ちふさがる者を全て打ち砕き、純金メッキに彩られた新開発超エーテル重合金製の身体は人々を傷一つなく守り、艶やかなデザインは全てを魅了する。

 まさに人工の黄金女神。
 まさに夢縋りの守護神。
 まさに究極無敵の機神

 異ドリィ町はいつも平和だ。
 何故なら、この女神が町を見守っているのだから!

 (なお、建造に際してイドリーとベンジャミンの許可は得ていない)

 『これがこの町の最終兵器!! 名付けて――“黄金女神ゴルドリィ”!!』
 『ふざけんなっ、黄金魔神のパクリじゃねぇかっ』――テンション爆上がりのモスと、それにツッコミを入れる真斗


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